離婚しない場合の不倫慰謝料と求償権

弁護士への不倫慰謝料に関する相談において、離婚はせずに、不倫慰謝料のみが問題となるというケースも少なくありません。

この場合に、求償権がどうなるのかについて見ていきたいと思います。

 

具体的に考えた方がわかりやすいので、場面設定として、A夫・A妻(A夫・A妻は夫婦)、B男の登場人物がいて、A妻とB男が不倫した場合について考えます。

 

この場合、A夫の立場からすると、不倫慰謝料請求の相手方は、法的には、A妻とB男ですが、(特にA妻と離婚しないような場合には)B男に対してのみ請求するということがよくあります。

仮に、慰謝料の金額が200万円であるとすると、A夫はB男に対し、200万円を請求し、B男はこれを払うことになります。

もっとも、不倫はA妻・B男の二人でなされたものであり、仮に責任が半々(実際には具体的な事情によって判断されます。)だとすると、本来、A妻も200万円の半分の100万円は責任を負うものですので、後から、B男はA妻に対し、100万円を求償することができます。

つまり、B男としては、一旦はA夫に200万円支払うけれども、後で、A妻から100万円は支払ってもらうということです。

A夫とA妻が離婚しない場合、家計単位でみると、A家としては、200万円入ってきて、100万円出ていくことになります。

差し引きすると、結局、B男からA家に100万円動いていることになります。

そうであれば、初めから、B男がA夫に支払う慰謝料の金額を100万円にしておけばよいのではないかということで、「求償権の放棄」が行われる場合があります。

これは、B男が求償権を放棄する代わりに、B男がA夫に支払う金額において求償権分を初めから差し引いておくというものです。

このようにすれば、2つの手続き(A夫からB男への慰謝料請求とB男からA妻への求償権の請求)を1つにまとめることができます。

相手が既婚者と知らずに不倫してしまった場合の慰謝料の問題

相手が既婚者だと知らずに交際していたところ、突然、その配偶者が現れて不倫だと言われてしまった場合、慰謝料を支払う義務があるのでしょうか?

不倫慰謝料請求は、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)であり、「故意又は過失」がある場合に損害賠償義務が生じます。
つまり、相手が既婚者であることについて、「知らなかったが、知ることはできたはずだ」と言う場合には、過失があるとして損害賠償義務を負う可能性があります。

では、相手から「自分は独身だ」と聞き、それを信じていた場合でも過失ありと判断されてしまうことがあるのでしょうか?

これについては、状況等によっては、過失ありと判断されることがあります。
具体的な状況によりますので、一概にはいえませんが、例えば、
・交際相手が職場の同僚であった
・夜は電話しないでほしいと言われていた
・土日は会えないと言われていた
・家に行くことを拒否されていた
・相手が指輪をしていた
などというのは、相手が既婚者であると知ることができた(つまり過失がある)と判断されやすい要素です。

また、交際し始めた当初は知りえなかったとしても、途中から相手が既婚者であると疑わせるようなことがあった場合には、それ以降も関係を続けると責任が生じる可能性がありますので、注意が必要です。

相手が独身であると思っていたのに実は既婚者で、その配偶者から損害賠償を請求されてしまったという場合には、まずは弁護士に相談されるのがよいかと思います。

在留資格の取消し

1 在留資格の取消制度

外国人が日本に滞在するためには、在留資格が必要です。
在留資格を取得してしまえば、次の更新までは資格が維持されるかというと、必ずしもそうではありません。
それは、在留資格取消制度があるからです。
入管法22条の4第1項は、「法務大臣は、・・・在留資格をもつて本邦に在留する外国人・・・について、次の各号に掲げる事実のいずれかが判明したときは、法務省令で定める手続により、当該外国人が現に有する在留資格を取り消すことができる。」としています。

2 在留資格取消件数・具体例

2023年の在留資格取消件数は、1240件でした。
「特定技能」の在留資格の取消が983件と特に多く、「留学」が183件と次に多くなっています。
この2つの在留資格で、全体の約94.1%を構成しています。
在留資格取消事由として最も多いのが、入管法22条の4第1項第6号で、技能実習生が失踪し在留資格に応じた活動を行わずに3か月以上日本に在留していたケースなどがこれに該当します。
同号による取消しは、1049件と多く、また、2019年の431件から2倍以上になっており、大きな問題であるといえます。
また、入管法22条の4第1項第5号による取消しも128件と比較的多く、留学生が学校を除籍されアルバイトを行って在留していたケースなどがこれに該当します。
参考リンク:出入国在留管理庁・令和5年の「在留資格取消件数」について

3 技能実習生の失踪に関連する最近の動向

現時点では、技能実習生は原則として3年間は転籍できないことから、劣悪な職場環境に置かれた技能実習生が失踪するケースが増加しており、社会問題化しています。
対策として、転籍が認められる場合の要件の明確化がなされるとの報道がされています。
在留資格の取消しの前の段階で、適切に対応できる制度設計が望まれます。
また、お困りの方は、在留資格に詳しい弁護士にご相談ください。

ビザ(査証)と在留資格との違い

1 それぞれの意味と注意点
ビザ(査証)は、入国許可(上陸許可)を受ける際に必要なものです。
在留資格は、外国人が、日本に滞在するために必要な資格です。
ここで、注意すべきなのが、日常用語で、「ビザ」が後者の在留資格の意味で頻繁に使われているということです。
そのため、「ビザ」と言われた際に、本来のビザの意味である「査証」を意味しているのか、それとも、「在留資格」を意味しているのかは人によって異なります。
弁護士でも在留資格のことを「ビザ」という人は少なくありません。
この認識がずれていると会話が嚙み合わず、間違った手続き等をしてしまう恐れがありますので、注意が必要です。

2 本来の意味の「ビザ」(査証)とは
冒頭で記載したとおり、本来の意味のビザ(査証)は、日本に入国する際に必要となるもので、事前に、自国の日本大使館または領事館で発給を受けます。
英語では「VISA」と表記されます。

3 在留資格とは
こちらも冒頭で記載したとおり、在留資格は、外国人が日本に滞在するために必要な資格で、入国(厳密には上陸)の際に、法務省(出入国在留管理庁)から付与されます。
英語では「Status of Residence」と表記されます。
在留資格は、在留の目的に応じて多くの種類があり、例えば、日本で働くための在留資格であれば、「技術・人文知識・国際業務」「特定技能」「経営・管理」などがあります。
なお、よく「就労ビザ」などの言葉を聞くことがありますが、これは、厳密には、本来の意味のビザ(査証)ではなく、就労可能な「在留資格」を意味しているものと考えられます。

旧優生保護法違憲判決における改正前民法724条後段の解釈

旧優生保護法の手術規定について最高裁の違憲判決が出たことが大きく報道されていますが、この判決には、時効と除斥期間に関する重要な論点が含まれていますので、その点について見ていきたいと思います。

1 問題の所在

本件では、原告が手術を受けた時点から訴訟提起までに20年以上が経過していることから、改正前民法724条後段によって、請求権が消滅しているのではないかが問題となりました。

改正前民法724条
「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。」

これについて、高等裁判所の判断が分かれていたところ、今回、最高裁判所による判断がなされました。

2 論点の整理

改正前民法724条後段によって請求権が消滅しているかについては、以下の3つ論点になると考えられます。
①改正前民法724条後段が、除斥期間を定めたものか、消滅時効を定めたものか?
②除斥期間を定めたものである場合、裁判所が除斥期間の経過により請求権が消滅したと判断するためには当事者の主張が必要か?
③除斥期間の主張が必要である場合、本件では、それが信義則違反又は権利濫用となるのか?

①について、消滅時効であると考えると、被告による時効の援用が信義則違反又は権利濫用であるという理屈で、請求を認める余地ができます。
一方、除斥期間であると考えると、②の論点が生じます。

②について、除斥期間の主張が不要であると考えると、被告による主張がない以上、信義則違反又は権利濫用として排斥することが難しいものと考えられます。
実際、平成元年判決(平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2209頁)は、「本件請求権が除斥期間の経過により消滅した旨の主張がなくても、右期間の経過により本件請求権が消滅したものと判断すべきであり、したがって、被上告人ら主張に係る信義則違反又は権利濫用の主張は、主張自体失当」としています。
なお、後述しますが、この平成元年判決の判断については、今回判例変更がなされました。
一方、除斥期間の主張が必要であると考えると、除斥期間の主張が、信義則違反又は権利濫用であるという理屈で、請求を認める余地ができます。

③については、本件の具体的事情において、信義則違反又は権利濫用となるのかという点が問題となります。

3 最高裁判所の判断

①について
多数意見では、改正前民法724条後段は除斥期間であるという判断がなされました。
これは、これまでの最高裁判例と同様の判断で、この点について判例変更はありません。
なお、宇賀克也裁判官は、改正前民法724条後段は消滅時効であるという見解を示しています。

②について
ここが今回判例変更がなされた重要な点で、これまでの当事者の主張が不要という見解を改め、当事者の主張が必要であると判断しました。
本件において、
・法的安定性の確保、証拠の散逸による立証活動の困難という事態を免れるという改正前民法724条後段の趣旨が妥当しないこと
・立法後の国による積極的な施策実施と被害の重大さから、国の責任が極めて重大であること
・被害者側が期間内に請求権を行使することが極めて困難な事情があったこと
などを指摘し、「本件のような事案において、著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することのできない結果をもたらすことになりかねない」とし、当事者の除斥期間の主張が必要であるとしたうえで、「同請求権が同条後段の除斥期間の経過により消滅したものとすることが著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない場合には、裁判所は、除斥期間の主張が信義則に反し又は権利の濫用として許されないと判断することができると解するのが相当である」と判断しました。

③について
②に記載した事情をもとに、「第1審原告らの本件請求権の行使に対して上告人が除斥期間の主張をすることは、信義則に反し、権利の濫用として許されない」と判断しました。
この結論を導くための②の判断であったので、最高裁としては当然の結論といえます。

参考リンク:裁判所・令和5年(受)第1319号 国家賠償請求事件 令和6年7月3日 大法廷判決

4 本判例の射程

弁護士としては、この判例が今後のケースにどのような影響を及ぼすかが関心事ですが、本判例の射程はあまり広くない、少なくとも、国家賠償請求訴訟ではない一般の民事訴訟には及ばないのではないかと思います。
というのも、本件は、立法という国権行為によって被害者の憲法上の権利が侵害され、立法後も国が人権侵害行為を積極的に推進し、被害者が特定の疾病や障害を有する期間内の権利行使が難しい立場の人であったという極めて特殊な事情があり、それをもとに上記②、③の判断がなされているので、あくまでも「国家賠償法に適用される改正前民法724条」の解釈として、除斥期間の主張が信義則違反・権利濫用として許されない場合があることを示したに過ぎないと考えられます。

自転車の交通事故にご注意

交通事故というと「自動車」による事故をイメージされる方も多いかと思いますが、近年、自転車による事故が増加しています。
弁護士への交通事故のご相談でも自転車事故がたくさんあります。

警察庁によると、令和5年は、7万2339件の自転車の交通事故があり、全交通事故に占める自転車の事故の割合は23.5%にもなるようです。
参考リンク:警察庁・自転車は車のなかま~自転車はルールを守って安全運転~

そのようなこともあり、自転車の交通違反に取り締まりが厳しくなっています。
令和元年には2万2859件であった検挙件数が、令和5年には4万4207件まで増加しています。
参考リンク:警察庁・自転車の交通指導取締り状況

先月、道路交通法が改正され、自転車の交通違反についても「青切符」制度が導入されることになりました。
青切符を交付された場合、反則金の支払いは「任意」とされていますが、反則金を払わないと、刑事訴追される可能性があります。
これまでは、自転車の交通違反は注意されるだけで済んでいたものも多かったのではないかと思われますが、今後は、注意を受けるだけでは済まなくなりそうです。

今回の改正法は、公布から2年以内に施行されるようです。

円安進行と倒産増加

2020年には概ね1米ドルが100円台であったのに対して、最近は1米ドルが150円超が通常になりつつあり、5年以内で、米ドルの価値が対円で約1.5倍になっています。
円安が国家にとってプラスかマイナスかについては議論のあるところですが、企業倒産件数との関係では、増加に繋がりやすいように思います。
円安により従来よりも商品や原材料の仕入価格が上がると、その分、販売価格やサービス提供価格が上げられればよいのですが、それが難しい企業が少なくありません。
既に、輸入品を日本国内で販売している事業者から弁護士に倒産の相談があったりするなど、円安による影響が出ているように感じます。
近年の円安トレンドは、すぐには解消が困難な構造的な要因によるものだと思いますので、今後も継続するか、更なる円安進行の可能性も高く、より一層の倒産増加が懸念されます。

企業倒産が増える要因

企業の倒産件数が増加していることがよく報道されていますが、実際、弁護士への相談も増加しているように思います。
倒産が増える要因としては、①コロナ前と比べて売上が伸びていない(企業が多い)、②コストが増加した、③コロナ融資を返済しなければならないという3点が大きいのではないかと思います。
まず、①コロナ前と比べて売上が伸びていない(企業が多い)という点については、例えば飲食業においては、「コロナ禍で常連さんが離れてしまい戻って来ない」「忘年会などの飲み会が以前よりも減った」など、コロナによる影響が残っているケースも少なくありません。
次に、②コストが増加したという点についてですが、円安や戦争、燃料価格の高騰等により物価が上がっていることに加えて、最近は人件費も上がっており、商品・サービス価格に転嫁ができていない企業にとっては、大きな負担になっています。
最後に、③コロナ融資を返済しなければならないという点については、上記のように、売上が伸びていない一方で、コストが増加している企業も多く、返済が厳しい状況です。
今年4月にコロナ融資の返済が始まるという企業も多く、倒産の更なる増加が懸念されます。

相続登記の義務化について

2024年4月から相続登記が義務化されますので、以下にまとめました。
やや複雑な制度になっていますので、ご不明な点等がありましたら、弁護士等の専門家にお尋ねください。

1 2つの登記

⑴ 登記①

「自己のために相続の開始があったこと」かつ「当該所有権を取得したこと」を知った日から3年以内に、所有権移転の登記の申請(登記①)が必要とされています(改正不動産登記法76条の2第1項)。

⑵ 登記②

遺産分割があったときは、遺産分割の日から3年以内に登記の申請(登記②)が必要とされています(同条第2項)。

⑶ 小括

相続から3年以内に遺産分割ができる場合には、遺産分割後に登記をすれば、1つの登記で登記①、登記②を兼ねられます。
他方で、相続から3年以内に遺産分割ができない場合には、まず、法定相続分で登記①をした上で、その後、遺産分割が完了してから更に登記②をすることになりそうですが、この場合には、登記①の申請義務を免れることができる申出制度があります。

2 申出制度について

登記①の申請に代えて、登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ることで、登記①の申請義務を履行したものとみなされます(同法76条の3第1項、2項)。
この申出は、共同相続人がいる場合でも単独で行うことが可能です。
また、法定相続人の範囲及び法定相続分の割合の確定が不要です。
なお、申出後に、遺産分割がなされたら、遺産分割の日から3年以内に登記の申請(登記②)が必要です(同法76条の3第4項)。

3 相続登記を怠った場合の過料

相続登記に関して、「正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する」とされています(同法164条)。
もっとも、法務局から登記申請義務違反者に対して「催告」がなされ、催告に従って登記申請をすれば、過料は科されないという運用がなされるようです(改正不動産登記規則187条(不動産登記規則等の一部を改正する省令(令和5年法務省令第33号)より改正))。
※上記はあくまでも当記事執筆時点での規則で、変更がなされる可能性がありますので、ご注意ください。

4 正当な理由

また、「正当な理由」の有無については、認められる類型として以下の場合が想定されていますが、これらに限られるものではありません(法務省民二第927号令和5年9月12日)。
・相続登記等の申請義務に係る相続について、相続人が極めて多数に上り、かつ、戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合
・相続登記等の申請義務に係る相続について、遺言の有効性や遺産の範囲等が相続人等の間で争われているために相続不動産の帰属主体が明らかにならない場合
・相続登記等の申請義務を負う者自身に重病その他これに準ずる事情がある場合
・相続登記等の申請義務を負う者が配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成13年法律第31号)第1条第2項に規定する被害者その他これに準ずる者であり、その生命・心身に危害が及ぶおそれがある状態にあって避難を余儀なくされている場合
・相続登記等の申請義務を負う者が経済的に困窮しているために、登記の申請を行うために要する費用を負担する能力がない場合

「大麻」に関する「麻薬及び向精神薬取締法」の改正

これまで、大麻の所持等については、大麻取締法で規制されていましたが、昨年12月の法改正により、今後は、「麻薬及び向精神薬取締法」で規制されることになりました(施行時期は2024年中のようです。)。

改正された「麻薬及び向精神薬取締法」では、2条1号の麻薬の定義として「麻薬 別表第一に掲げる物及び大麻をいう。」と「大麻」が追加され、また、2条1号の2に「大麻 大麻草の栽培の規制に関する法律(昭和二十三年法律第百二十四号)第二条第二項に規定する大麻をいう。」と大麻の定義も追加されました。
麻薬及び向精神薬取締法66条1項は、「ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬を、みだりに、製剤し、小分けし、譲り渡し、譲り受け、又は所持した者(第六十九条第四号若しくは第五号又は第七十条第五号に規定する違反行為をした者を除く。)は、七年以下の懲役に処する。」とされており、この「麻薬」に、上記のとおり、「大麻」が含まれることになりましたので、今後は、大麻の所持等もこの条文が適用されることになります。
これまで、営利目的でない大麻の単純所持は、大麻取締法24条の2で「大麻を、みだりに、所持し、譲り受け、又は譲り渡した者は、五年以下の懲役に処する。」とされており、5年以下の懲役でしたが、改正された麻薬及び向精神薬取締法の施行後は、7年以下の懲役に厳罰化されることになります。

また、大麻の使用については、麻薬及び向精神薬取締法27条1項本文で「麻薬施用者でなければ、麻薬を施用し、若しくは施用のため交付し、又は麻薬を記載した処方箋を交付してはならない。」とされ、同法66条の2において、「第二十七条第一項(中略)に違反した者は、七年以下の懲役に処する。」とされていることから、単純所持と同じく7年以下の懲役になります。

大麻規制の背景については、「大麻使用罪の創設と若者の大麻蔓延」をご覧ください。

薬物関係の刑事事件については、刑事弁護に詳しい弁護士にご相談ください。

大麻使用罪の創設と若者の大麻蔓延

1 大麻使用罪の創設
2023年12月6日に、大麻取締法が改正され、「大麻使用罪」が創設されました。
これまで、大麻取締法では、「大麻を、みだりに、所持し、譲り受け、又は譲り渡した者は、五年以下の懲役に処する。」(大麻取締法24条の2第1項)とされ、「使用」自体は犯罪になっていませんでした。
もっとも、これまでも、大麻をみだりに、「所持」することが犯罪となっていましたので、使用するために所持した時点で犯罪となったのですが、今回の改正で、より直接的に、「使用」が犯罪となりました。
なお、施行は、2024年になるようです。

2 大麻取締法改正の背景
今回の法改正の背景には、大麻の広がり、特に若者の間での蔓延があります。
犯罪白書によると、大麻取締法違反で警察が検挙した人数は、2000年は1224人であったのに対し、2010年には2367人、2020年には5260人、2021年には5783人と増加傾向にあります(もう少し厳密にみると、2009年に3087人と一旦当時のピークを迎えてから、2013年に1616人まで減少しますが、その後再び増加に転じ、2017年には3218人と以前のピークを越え、その後も増加し続けています。)。
大麻取締法違反で警察が検挙した人数を年代別にみると、以下のとおり、20代以下の若者の間で、大麻が蔓延していることが窺えます。
20歳未満:81人(2011年)→ 994人(2021年)約12.3倍
20代:805人(2011年)→ 2823人(2021年)約3.5倍
30代:510人(2011年)→ 984人(2021年)約1.93倍
40代:185人(2011年)→ 507人(2021年)約2.74倍
50歳以上: 67人(2011年)→ 174人(2021年)約2.6倍
参考リンク:法務省・令和4年版犯罪白書

このように、若者を中心に大麻が広がっている中で、大麻所持で検挙された人の7~8割が、大麻の使用罪が無いことを認識していたという調査結果もあり、大麻の使用罪が無いことが「大麻を使用してもよい」というメッセージになっているという懸念があり、大麻使用罪が創設されたものと考えられます。
参考リンク:第210回国会厚生労働委員会第7号

3 大麻取締法改正による影響
まず、大麻使用罪の創設によって、大麻の使用が犯罪であるという明確なメッセージが出されたことで、大麻使用への心理的なハードルが上がり、大麻を使用する人が減るものと考えられます。
また、刑事実務上も、例えば、尿検査の結果から大麻の「使用」が明らかとなった場合、「所持」について明確な証拠がなくても、立件される可能性が高くなるなど、大麻に関して従来よりも広く処罰されるようになるものと考えられます。
さらに、法改正で、大麻について厳しく対処していくという国の姿勢が明確になったことにより、起訴・不起訴の判断、起訴された場合の執行猶予の有無、量刑などが従来よりも厳しくなると思われますので、弁護士としても対応に注意が必要です。

時効の完成後に支払督促や裁判上の請求を受けたが放置し、仮執行宣言付支払督促や判決が確定した場合

1 時効の完成猶予・更新
時効完成前に、債権者から「裁判上の請求」や「支払督促」などを受けた場合には、その事由が終了するまでの間は、時効は完成せず(民法147条1項)、これを「時効の完成猶予」といいます。
また、上記の場合において、「確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したとき」は、上記事由が終了した時から新たに時効が進行することになり(同条2項)、これを「時効の更新」といいます。
また、債務者が、債務の存在を認めたり、一部の弁済をしたような場合にも、「権利の承認があった」として、時効が更新されます(同法152条1項)。
ここでのポイントは、これらの条文は、時効の完成前であることを前提としているという点で、時効の完成後には、これらの条文は適用されません。
それでは、時効の完成後に、①債務を承認した場合、②債権者から支払督促がなされ、放置していたところ、仮執行宣言付支払督促が確定してしまった場合、③債権者から裁判上の請求を受けたものの対応せず、判決が確定してしまった場合は、それぞれどうなるのでしょうか。
以下、順に考えていきます。

2 ①時効の完成後に、債務を承認した場合
この場合は、 最判昭和41年4月20日民集第20巻4号702頁において、「その債務についてその完成した消滅時効の援用をすることは許されない」とされており、その理由として、「時効の完成後、債務者が債務の承認をすることは、時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり、相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろうから、その後においては債務者に時効の援用を認めないものと解するのが、信義則に照らし、相当であるからである」とされています。

3 ②時効完成後に、債権者から支払督促がなされ、放置していたところ、仮執行宣言付支払督促が確定してしまった場合
このような場合には、債務者としては、請求異議の訴えにおいて、時効の援用をすることが考えられます。
これが信義則に反して許されないのではないかという点が問題となり得ますが、宮崎地判令和2年10月21日では、支払督促の手続きの中で時効の援用をしなかったことについて、「そのような消極的対応は、時効による債務消滅の主張と相容れないものとまではいえず、それゆえ、本件貸金債権の消滅時効の援用は、信義則に反するとはいえない」として、消滅時効の主張を認めています。

4 ③時効完成後に、債権者から裁判上の請求を受けたものの対応せず、判決が確定してしまった場合
この場合には、債務者としては、債務不存在確認訴訟や請求異議の訴えにおいて、時効の援用をすることが考えられます。
しかし、この場合は、支払督促の場合とは異なり、債務者の主張は認められません。
なぜなら、確定判決には「既判力」(民事訴訟法114条1項)があり、前訴の訴訟物である権利義務関係についてはもはや争うことができないからです。
なお、支払督促について、民事訴訟法396条は、仮執行宣言付支払督促が確定したときは、「確定判決と同一の効力を有する」としているのですが、ここでいう効力に「既判力」は含まれないと解釈されますので、支払督促の場合には既判力による遮断が生じず、時効の主張ができるという結論を導き出すことが可能です。

5 消滅時効に関するご相談
消滅時効に関しては、制度を理解するのが必ずしも容易ではなく、判断を誤った場合の不利益も多いですので、具体的な問題でお悩みの際は、弁護士にご相談されるのがよいかと思います。

孤独死と相続放棄

近年、一人暮らしの高齢者が増加していることもあってか、「孤独死」の問題がメディア等でよく取り上げられています。
孤独死について、弁護士が関わることが多いものとして、「相続放棄」があります。
孤独死であっても、法律上、相続人がいれば相続がなされますが、相続人が相続をしたくないというケースがあります。
例えば、亡くなった方が財産よりも負債の方を多く抱えていたというケースや、また、亡くなった方が賃貸アパート等に住んでいて、孤独死のため発見が遅れてしまい、高額な特殊清掃費用を請求されるというケースなどがあります。
相続人は、遺産を処分等してしまうと、相続を「単純承認」したとして、もはや相続放棄ができなくなってしまう恐れがありますので、相続放棄をしようとする場合には要注意です。
参考リンク:相続放棄が認められないケース
孤独死の場合、警察や賃貸アパートの大家さん等から相続人に突然連絡が来ることがありますが、相続放棄をする可能性がある場合には、早めに弁護士に相談するなど慎重な対応をすることをおすすめいたします。

消滅時効に関する注意点

「時効」というと、「窃盗罪は7年で時効になる」というように、刑事上の時効を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、民事上も時効の制度があり、その一つが「消滅時効」です。
消滅時効というのは、一定期間、権利を行使していないと、権利が消滅するというものです。
借金をしている方からすると、借金を返さずに一定期間経過すれば、借金を返さなくてもよくなることがあるということです。
ただ、気を付けなければならないのは、消滅時効については、「更新」(以前は「中断」といわれていました。)があり、例えば、債権者から裁判上の請求を受けた場合には、消滅時効は更新され、また、時効期間のカウントがゼロからスタートすることになります。
また、時効の「完成猶予」というのもあり、例えば、債権者から催告を受けると、そこから6か月間は時効の完成が猶予されます。
さらに、時効の利益の放棄というのもあり、一定期間が経過し、時効が完成したとしても、返済等をしてしまうと、時効の利益を放棄したとして、もはや時効を主張することが認められなくなってしまう可能性があります。
債務者側が、時効を主張する際には、慎重に検討する必要がありますので、弁護士にご相談されることをおすすめいたします。

「及び」と「並びに」の違い

法律の条文には、「及び」と「並びに」が頻繁に登場するため、弁護士としてはよく目にする単語です。
今回は、その意味の違いについて見ていきたいと思います。
ポイントは、「並びに」が大きい括りで、「及び」が小さい括りという点です。

「A及びB並びにC」という場合、大きい括りとして「A及びB」と「C」が並列関係にあり、小さい括りとして「A」と「B」が並列関係にあります。

具体例として、使用貸借の解除に関する民法598条について考えます。
「当事者が使用貸借の期間並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも契約の解除をすることができる。」
これは、まず、大きい括りとして、「使用貸借の期間」と「使用及び収益の目的」が「並びに」で並列に括られています。
そして、後者の「使用及び収益の目的」は、小さい括りとして、「使用」と「収益」が「及び」で並列に括られています。

次に、もう少し複雑な構造になっている憲法7条5号について考えます。
憲法7条5号は、天皇の国事行為として、以下の事項を定めています。
「国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。」
まず、大きな括りとして、「国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免」「全権委任状及び大使及び公使の信任状」があり、これら2つが「認証すること」に係っています。
そして、「国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免」には、小さな括りとして、「国務大臣」「法律の定めるその他の官吏の任免」があり、また、「全権委任状及び大使及び公使の信任状」には、「全権委任状」「大使及び公使の信任状」があります。
さらに、「大使及び公使の信任状」は、「大使」「公使」が及びで括られており、これらが「信任状」にかかります。

ちなみに、英訳を見ると、
Attestation of the appointment and dismissal of Ministers of State and other officials as provided for by law, and of full powers and credentials of Ambassadors and Ministers.
となっており、「及び」「並びに」の計4つがすべて”and”になり、さらに「任免」も”appointment and dismissal”と”and”が用いられることから、合計5つの”and”が登場して、難解です。

エスカレーターでの歩行禁止【名古屋市エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例】

1 エスカレーターでの歩行禁止の条例制定の背景

2023年10月1日から、「名古屋市エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」が施行され、名古屋市内ではエスカレーター上で歩くことが条例上禁止されることになります。

⑴ 全国のエスカレーター事故の状況

エスカレーター事故に関しては、一般社団法人日本エレベーター協会が、5年ごとにエスカレーターの事故等について調査をしており、直近に行われた2018年1月~2019年12月の2年間において、全国で発生した1,550件のエスカレーター事故のうち805件が乗り方不良によるものとされています。

乗り方不良には、「手すりを持たずに転倒する」、「踏段の黄色の線から足をはみ出し挟まれる」、「踏段上を歩行しつまずき転倒する」、「手すりから体をはみ出し挟まれる」、「逆走して転倒する」といったものがあります。

参考リンク:一般社団法人日本エレベーター協会・エスカレーターにおける利用者災害の調査報告(第9回)

⑵ 名古屋市のエスカレーター事故の状況等

名古屋市では、2021年には、エスカレーター関係での救急隊出動事案が133件発生しています。

また、名古屋市が実施した市内10か所における実態把握調査によると、エスカレーターを歩いて又は走って利用している割合は21.3%であったとのことで、エスカレーターで立ち止まることが十分には根付いていないものと考えられます。

一方で、市民等から、「歩行をやめさせてほしい」、「歩いてきた人がぶつかり転落しそうになった」などの意見等が名古屋市に寄せられていることもあり、エスカレーターの安全利用に関する意識向上や、関係者一丸となった取り組みの促進などのために、条例制定に至ったものと考えられます。

参考リンク:名古屋市・エスカレーターの安全な利用の促進について(答申)

2 条例の概要

条例の条文について見てみますと、第8条で「利用者は、右側か左側かを問わず、エスカレーターの踏段(人を乗せて昇降する部分をいう。)上に立ち止まらなければならない。」として利用者の義務が定められ、第9条で「管理者等は、利用者に対し、前条に規定する方法によりエスカレーターを利用するよう周知しなければならない。」として管理者の周知義務が定められ、第10条で「市長は、エスカレーターの安全な利用の促進のため必要があると認めるときは、管理者等に対し、必要な指導又は助言を行うことができる。」として市長による指導・助言が定められています。

参考リンク:名古屋市エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例

この条例には、罰則がないことから、どこまで実効性があるのかが難しいところですが、これを機に市などによる啓発活動が行われ、それが報道等されることにより、エスカレーターでの歩行の危険性の認識が広がっていくことが期待できるのではないかと思います。

刑事事件における自首について

1 自首とは
犯罪に該当する行為をしてしまった方から、弁護士に、自首を考えているというご相談が時々あります。
「自首」というのは、日常でも使われる言葉ですが、刑法の条文でも用いられている法律用語でもあり、刑法上の「自首」は、日常用語として用いられる場合よりも狭いのではないかと思います。
刑法上の「自首」といえるためは、「犯罪事実」か「犯人」が捜査機関に発覚する前に行う必要があります。
犯罪事実が発覚する前というのは、例えば、他人の現金を盗むという窃盗事件をしてしまったとして、そのことが捜査機関に発覚していないような場合です。
犯人が発覚する前というのは、同じ事件の例で、誰かにお金が盗まれたということ自体は発覚しているが、それを誰がやったのかはわからないというような場合です。
つまり、犯罪事実も犯人も発覚しているが、逃走中であるため、まだ捕まっていないという場合には、捜査機関に出向いて自らが犯人である旨を申告しても、刑法上の「自首」にはなりません。

2 自首した場合の効果
刑法42条は、「罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる。」とされており、自首すると刑を「減軽」することが「できる」とされます。
その意味ですが、まず、「減軽」については、刑法68条に刑の種類ごとに規定されていますが、例えば、有期の懲役刑の場合には、「その長期及び短期の2分の1を減ずる」とされています。
また、減軽することが「できる」というのは、裁判官の判断で「できる」というものであり、法律上、必ず減軽されるというものではありません。

遺言作成の件数

1 遺言を作成する人は増えているのか?
近年、「相続対策」や「終活」に関する意識が高まっており、弁護士としては遺言を作成する人は増加しているように感じられますが、実際にはどうなのかを入手可能なデータをもとに考えてみます。
まず、遺言には、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3種類があるのですが、③秘密証書遺言は件数が少ないため除外して、ここでは、①自筆証書遺言、②公正証書遺言の件数についてみていきます。

2 ①自筆証書遺言について
自筆証書遺言は、自分で作成できるものですので、作成しただけの段階では、すぐには件数として把握できません。
もっとも、自筆証書遺言について、法務局による保管制度ができましたので、その保管件数については把握できます。
また、自筆証書遺言のうち、法務局で保管していなかったものについては、遺言者が死亡した後に、遺言の保管者又は遺言を発見した相続人が、家庭裁判所において遺言の検認をしなければならないため、その検認の件数についても把握することができます。
そこで、以下、法務局での保管件数と検認の件数についてみていきます。

⑴ 法務局での保管件数
法務局における自筆証書遺言保管制度は、2020年7月に開始されたものですので、それ以前の統計はありませんが、2022年に保管された件数は、1万6954件でした。
参考リンク:法務省民事局・遺言書保管制度の利用状況

⑵ 検認の件数
遺言の件数は、裁判所が公表している司法統計によると、2012年には1万4996件であったのに対し、2021年には1万9576件と約30.5%増加しています(2022年の数値は現時点では公表されていないため、2021年の数値を記載しています。)。
注意点としては、検認は、死亡後の手続きですので、遺言作成からタイムラグがあるということと、死者数が増加すれば検認の件数も増加しやすいということです。
後者について、2012年と2021年の死者数の増加率についてみてみると、厚生労働省の人口動態統計月報年計(概数)の概況によると、2012年は125万6254人であるのに対し、2021年は143万9809人であり、その増加率は約14.6%で、検認の増加率の方が倍以上であることがわかります。
参考リンク:平成24年人口動態統計月報年計(概数)の概況令和3年人口動態統計月報年計(概数)の概況

3 ②公正証書遺言について
公正証書遺言については、日本公証人連合会が統計を出しており、遺言公正証書の作成件数が、2012年には8万8156件であったのに対し、2022年には11万1977件と約27%増加しています。
参考リンク:令和3年の遺言公正証書作成件数について令和4年の遺言公正証書の作成件数について

4 まとめ
以上からすると、遺言を作成する人は増加している可能性が高そうです。
ただ、検認については、上記のとおりタイムラグがあることに加えて、法律に違反して検認がなされないケースや、そもそも作成した遺言が発見されずに検認に至らないケースもあると思いますし、また、公正証書遺言については、同一の人が何度も作成しているケースもあると思いますので、完全に上記数字のとおりに遺言を作成する人の数が推移しているとは限らない点に注意が必要です。

伊藤塾「明日の法律家講座」

今日は、弁護士法人心代表の西尾有司弁護士が、司法試験予備校「伊藤塾」の「明日の法律家講座」で講演し、私も参加しました。
伊藤塾では、資格試験に合格するだけではなく、「合格後を考える」というのを大切にされており、定期的に、法律実務家や政治家などを講師とした「明日の法律家講座」を開催されています。
私も学生時代に、伊藤塾で勉強していましたので、かなり久しぶりに伊藤塾の校舎に行くことができ、懐かしく感じました。
今回の講演は、「法律実務家として活躍するために大切な考え方」というテーマで、参加者の方からはたくさん質問を頂くなど、とても熱心に聞いていただきました。
試験勉強をしている時は、どうしても早く合格することに意識が行きがちですが(私自身そうでした)、実際は、実務に出てから活躍できることが大切ですので、このような取り組みはとても素晴らしいと思います。
明日の法律家講座は、伊藤塾生だけでなく、一般の方も参加できるようですので、ご興味のある方は、ぜひ、参加してみてはいかがでしょうか。
また、本日の講演は、録画されたものが後日配信されるようで、こちらは、伊藤塾生限定になりますが、ぜひ、多くの方に聞いていただければと思います。
明日の法律家講座についてのホームページはこちら

刑法における「違法性」とは?

刑法上、明文の規定はありませんが、「違法性」がない場合には、犯罪が成立しないと考えられています。

例えば、相手を殴って怪我をさせてしまった場合、傷害罪が成立しそうですが、「相手が急に襲い掛かってきて、自分自身を守るために、やむを得ずに反撃した結果、相手を怪我させてしまった」という場合であれば、「正当防衛」となり、犯罪が成立しない可能性があります。

正当防衛については、こちらをご覧ください。

このような正当防衛など違法性がなくなる事由を法律用語では「違法性阻却事由」といいます。

他にも、例えば、名誉毀損について、違法性が阻却される場合があります。

「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」場合には、名誉棄損罪が成立しそうですが、刑法230条の2は、名誉棄損行為が「公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない」としており、これは、違法性が阻却されるからであると考えられます。

刑法の分野に関しては、難解な概念も多くありますので、お困りの際は、弁護士にご相談ください。