1 問題となる事例
契約の相手方が債務の履行をしてくれないという場合、損害賠償請求をすることが考えられます。
その際、どこまでが損害として賠償を受けることができるのかが問題になることがあります。
例えば、以下の事例において、XのYに対する損害賠償請求は、いくら認められるのかについて、考えてみたいと思います。
Xが、Yとの間で、不動産を2000万円で買うという契約をしていたのに、Yが債務を履行してくれなかった。
Xは、Yから不動産を買うことができれば、それをAに2500万円で転売することを予定していたが、Yの債務不履行によりこれができなくなってしまった。
Xは、Yに対して、不動産を転売していたら得られたはずの500万円の利益を損害として請求することができるのでしょうか?
2 民法416条のルール
債務不履行があった場合の損害賠償請求の範囲について、民法416条は、以下のとおり定めています。
1項:債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2項:特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
3 検討
今回の事例では、XがAに転売して得られたはずの500万円が得られなかったというのは、民法416条1項の「通常生ずべき損害」にはあたらず、同2項の「特別の事情によって生じた損害」であると判断される可能性が高いといえます。
そうすると、「当事者がその事情を予見すべきであった」といえるかどうかが問題となります。
ここで、民法416条2項の「当事者」については、債務者であると解釈するのが一般的で、ここでは、Yになります。
また、「予見すべきであった」といえるか否かについては、債務不履行時を基準にして考えるのが一般的です。
そうすると、Xが、Yに対して、Aに2500万円で転売することを予定していると話していたにもかかわらず、Yが債務不履行をしたというような場合においては、Yは、「その事情を予見すべきであった」といえ、XのYに対する500万円の損害賠償請求は認められるものと考えられます。
どこまで損害賠償請求が認められるかは、具体的な事情によって変わってきますので、お困りの際は、弁護士にご相談されるとよいかと思います。