最終更新日:2022年5月5日
1 定型約款とは
⑴ 約款とは
スマートフォンでアプリを入れようとすると,利用規約が出てきて,同意するにチェックを付けると,申し込みボタンが押せるようになり,次に進めるといった経験をしたことのある方も多いかと思います。
このような約款(利用規約も約款の一種)を利用して契約を締結するというのが最近非常に多くなっています。
⑵ 改正民法で新たに規定された定型約款
世の中で多く使われている約款ですが,これまで民法には直接的な規定がなく,ルールが不明確でした。
そこで,ルールを明確にするために,民法改正で,「定型約款」について規定されることになりました。
⑶ 改正民法の「定型約款」とは
例えば,スマートフォンアプリの利用規約,保険約款,電気の供給約款など,①不特定多数を相手とするもので,②画一的な内容にすることが当事者双方にとって合理的で,③特定の者(当事者の一方)によって準備されたものが定型約款にあたります。
改正民法548条の2第1項において,定型約款とは,「定型取引において,契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」とされており,この定型取引とは「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって,その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」とされているので,上記①,②,③を満たすものが定型約款となるわけです。
従来型の契約のように,当事者が交渉して,個別に契約の内容を決めるというようなものではありません。
2 定型約款はどのように活用されるのか?
冒頭の例のように,アプリの利用規約に同意するにチェックを入れて,申し込みボタンを押すと,当事者(ここでは,アプリを提供する事業者とアプリのユーザー)が定型約款(ここでは利用規約)の各条項について,合意したものとみなされます。
これを「みなし合意」といい,ユーザーは,原則として,利用規約を読んでいなかったのだから知らないとは言えなくなります。
3 不利益条項について
もし,ユーザーにとってすごく不利益な条項が利用規約にこっそりと入っていたとしても,それに気づかずに同意してしまったら,「みなし合意」として,契約内容に含まれてしまうとするととても怖いですよね。
いくら利用規約に書いてあるからといっても,利用規約を最初から最後まですべて読むという方は少ないかと思います。
そこで,改正民法では,相手の利益を一方的に害するような不当な条項については,合意をしなかったものとみなすとしています(改正民法548条の2第2項)。
例えば,ユーザーからの解約が一切できないような条項が入っていた場合には,それについては,合意しなかったものとみなされると考えられます。
4 定型約款の変更
⑴ 事後的な変更に関するルール
通常,契約締結後に契約内容を変更するのであれば,改めて当事者間で合意をする必要がありますが,先ほどのアプリの例のように,事業者が不特定多数のユーザーと契約しているような場合には,個々のユーザーと変更内容について合意するというのは,現実的でありません。
そこで,改正民法では,一定の要件を満たす場合には,定型約款を変更すれば既存の契約についても契約内容が変更されるようになりました。
改正民法は,「定型約款の変更が,相手方の一般の利益に適合するとき」または,「定型約款の変更が,契約をした目的に反せず,かつ,変更の必要性,変更後の内容の相当性,この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき」には定型約款を変更すれば,既存の契約についても契約内容が変更されるものとしています(改正民法548条の4第1項)。
問題になるのは,ユーザーにとって不利な変更が後からなされた場合に,それが有効かどうかです。
例えば,アプリの利用料が,合理的な理由が無く,いきなり10倍になるといった場合には,上記要件を満たさない可能性が高いと考えられます。
⑵ 定型約款の変更手続き
定型約款を変更に際しては,①定型約款を変更する旨,②変更内容,③効力発生時期をインターネット等で周知しなければ,効力が生じません(改正民法548条の4第2項,同第3項)。
5 最後に
定型約款については,改正民法で新たに導入されたものですので,弁護士から見てもまだまだ不明確な点があるように感じます。
今後,事例が蓄積され,使い勝手が良くなっていくことを期待したいです。