1 エスカレーターでの歩行禁止の条例制定の背景
2023年10月1日から、「名古屋市エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」が施行され、名古屋市内ではエスカレーター上で歩くことが条例上禁止されることになります。
⑴ 全国のエスカレーター事故の状況
エスカレーター事故に関しては、一般社団法人日本エレベーター協会が、5年ごとにエスカレーターの事故等について調査をしており、直近に行われた2018年1月~2019年12月の2年間において、全国で発生した1,550件のエスカレーター事故のうち805件が乗り方不良によるものとされています。
乗り方不良には、「手すりを持たずに転倒する」、「踏段の黄色の線から足をはみ出し挟まれる」、「踏段上を歩行しつまずき転倒する」、「手すりから体をはみ出し挟まれる」、「逆走して転倒する」といったものがあります。
参考リンク:一般社団法人日本エレベーター協会・エスカレーターにおける利用者災害の調査報告(第9回)
⑵ 名古屋市のエスカレーター事故の状況等
名古屋市では、2021年には、エスカレーター関係での救急隊出動事案が133件発生しています。
また、名古屋市が実施した市内10か所における実態把握調査によると、エスカレーターを歩いて又は走って利用している割合は21.3%であったとのことで、エスカレーターで立ち止まることが十分には根付いていないものと考えられます。
一方で、市民等から、「歩行をやめさせてほしい」、「歩いてきた人がぶつかり転落しそうになった」などの意見等が名古屋市に寄せられていることもあり、エスカレーターの安全利用に関する意識向上や、関係者一丸となった取り組みの促進などのために、条例制定に至ったものと考えられます。
参考リンク:名古屋市・エスカレーターの安全な利用の促進について(答申)
2 条例の概要
条例の条文について見てみますと、第8条で「利用者は、右側か左側かを問わず、エスカレーターの踏段(人を乗せて昇降する部分をいう。)上に立ち止まらなければならない。」として利用者の義務が定められ、第9条で「管理者等は、利用者に対し、前条に規定する方法によりエスカレーターを利用するよう周知しなければならない。」として管理者の周知義務が定められ、第10条で「市長は、エスカレーターの安全な利用の促進のため必要があると認めるときは、管理者等に対し、必要な指導又は助言を行うことができる。」として市長による指導・助言が定められています。
参考リンク:名古屋市エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例
この条例には、罰則がないことから、どこまで実効性があるのかが難しいところですが、これを機に市などによる啓発活動が行われ、それが報道等されることにより、エスカレーターでの歩行の危険性の認識が広がっていくことが期待できるのではないかと思います。