離婚しない場合の不倫慰謝料と求償権

弁護士への不倫慰謝料に関する相談において、離婚はせずに、不倫慰謝料のみが問題となるというケースも少なくありません。

この場合に、求償権がどうなるのかについて見ていきたいと思います。

 

具体的に考えた方がわかりやすいので、場面設定として、A夫・A妻(A夫・A妻は夫婦)、B男の登場人物がいて、A妻とB男が不倫した場合について考えます。

 

この場合、A夫の立場からすると、不倫慰謝料請求の相手方は、法的には、A妻とB男ですが、(特にA妻と離婚しないような場合には)B男に対してのみ請求するということがよくあります。

仮に、慰謝料の金額が200万円であるとすると、A夫はB男に対し、200万円を請求し、B男はこれを払うことになります。

もっとも、不倫はA妻・B男の二人でなされたものであり、仮に責任が半々(実際には具体的な事情によって判断されます。)だとすると、本来、A妻も200万円の半分の100万円は責任を負うものですので、後から、B男はA妻に対し、100万円を求償することができます。

つまり、B男としては、一旦はA夫に200万円支払うけれども、後で、A妻から100万円は支払ってもらうということです。

A夫とA妻が離婚しない場合、家計単位でみると、A家としては、200万円入ってきて、100万円出ていくことになります。

差し引きすると、結局、B男からA家に100万円動いていることになります。

そうであれば、初めから、B男がA夫に支払う慰謝料の金額を100万円にしておけばよいのではないかということで、「求償権の放棄」が行われる場合があります。

これは、B男が求償権を放棄する代わりに、B男がA夫に支払う金額において求償権分を初めから差し引いておくというものです。

このようにすれば、2つの手続き(A夫からB男への慰謝料請求とB男からA妻への求償権の請求)を1つにまとめることができます。

相手が既婚者と知らずに不倫してしまった場合の慰謝料の問題

相手が既婚者だと知らずに交際していたところ、突然、その配偶者が現れて不倫だと言われてしまった場合、慰謝料を支払う義務があるのでしょうか?

不倫慰謝料請求は、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)であり、「故意又は過失」がある場合に損害賠償義務が生じます。
つまり、相手が既婚者であることについて、「知らなかったが、知ることはできたはずだ」と言う場合には、過失があるとして損害賠償義務を負う可能性があります。

では、相手から「自分は独身だ」と聞き、それを信じていた場合でも過失ありと判断されてしまうことがあるのでしょうか?

これについては、状況等によっては、過失ありと判断されることがあります。
具体的な状況によりますので、一概にはいえませんが、例えば、
・交際相手が職場の同僚であった
・夜は電話しないでほしいと言われていた
・土日は会えないと言われていた
・家に行くことを拒否されていた
・相手が指輪をしていた
などというのは、相手が既婚者であると知ることができた(つまり過失がある)と判断されやすい要素です。

また、交際し始めた当初は知りえなかったとしても、途中から相手が既婚者であると疑わせるようなことがあった場合には、それ以降も関係を続けると責任が生じる可能性がありますので、注意が必要です。

相手が独身であると思っていたのに実は既婚者で、その配偶者から損害賠償を請求されてしまったという場合には、まずは弁護士に相談されるのがよいかと思います。

旧優生保護法違憲判決における改正前民法724条後段の解釈

旧優生保護法の手術規定について最高裁の違憲判決が出たことが大きく報道されていますが、この判決には、時効と除斥期間に関する重要な論点が含まれていますので、その点について見ていきたいと思います。

1 問題の所在

本件では、原告が手術を受けた時点から訴訟提起までに20年以上が経過していることから、改正前民法724条後段によって、請求権が消滅しているのではないかが問題となりました。

改正前民法724条
「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。」

これについて、高等裁判所の判断が分かれていたところ、今回、最高裁判所による判断がなされました。

2 論点の整理

改正前民法724条後段によって請求権が消滅しているかについては、以下の3つ論点になると考えられます。
①改正前民法724条後段が、除斥期間を定めたものか、消滅時効を定めたものか?
②除斥期間を定めたものである場合、裁判所が除斥期間の経過により請求権が消滅したと判断するためには当事者の主張が必要か?
③除斥期間の主張が必要である場合、本件では、それが信義則違反又は権利濫用となるのか?

①について、消滅時効であると考えると、被告による時効の援用が信義則違反又は権利濫用であるという理屈で、請求を認める余地ができます。
一方、除斥期間であると考えると、②の論点が生じます。

②について、除斥期間の主張が不要であると考えると、被告による主張がない以上、信義則違反又は権利濫用として排斥することが難しいものと考えられます。
実際、平成元年判決(平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2209頁)は、「本件請求権が除斥期間の経過により消滅した旨の主張がなくても、右期間の経過により本件請求権が消滅したものと判断すべきであり、したがって、被上告人ら主張に係る信義則違反又は権利濫用の主張は、主張自体失当」としています。
なお、後述しますが、この平成元年判決の判断については、今回判例変更がなされました。
一方、除斥期間の主張が必要であると考えると、除斥期間の主張が、信義則違反又は権利濫用であるという理屈で、請求を認める余地ができます。

③については、本件の具体的事情において、信義則違反又は権利濫用となるのかという点が問題となります。

3 最高裁判所の判断

①について
多数意見では、改正前民法724条後段は除斥期間であるという判断がなされました。
これは、これまでの最高裁判例と同様の判断で、この点について判例変更はありません。
なお、宇賀克也裁判官は、改正前民法724条後段は消滅時効であるという見解を示しています。

②について
ここが今回判例変更がなされた重要な点で、これまでの当事者の主張が不要という見解を改め、当事者の主張が必要であると判断しました。
本件において、
・法的安定性の確保、証拠の散逸による立証活動の困難という事態を免れるという改正前民法724条後段の趣旨が妥当しないこと
・立法後の国による積極的な施策実施と被害の重大さから、国の責任が極めて重大であること
・被害者側が期間内に請求権を行使することが極めて困難な事情があったこと
などを指摘し、「本件のような事案において、著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することのできない結果をもたらすことになりかねない」とし、当事者の除斥期間の主張が必要であるとしたうえで、「同請求権が同条後段の除斥期間の経過により消滅したものとすることが著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない場合には、裁判所は、除斥期間の主張が信義則に反し又は権利の濫用として許されないと判断することができると解するのが相当である」と判断しました。

③について
②に記載した事情をもとに、「第1審原告らの本件請求権の行使に対して上告人が除斥期間の主張をすることは、信義則に反し、権利の濫用として許されない」と判断しました。
この結論を導くための②の判断であったので、最高裁としては当然の結論といえます。

参考リンク:裁判所・令和5年(受)第1319号 国家賠償請求事件 令和6年7月3日 大法廷判決

4 本判例の射程

弁護士としては、この判例が今後のケースにどのような影響を及ぼすかが関心事ですが、本判例の射程はあまり広くない、少なくとも、国家賠償請求訴訟ではない一般の民事訴訟には及ばないのではないかと思います。
というのも、本件は、立法という国権行為によって被害者の憲法上の権利が侵害され、立法後も国が人権侵害行為を積極的に推進し、被害者が特定の疾病や障害を有する期間内の権利行使が難しい立場の人であったという極めて特殊な事情があり、それをもとに上記②、③の判断がなされているので、あくまでも「国家賠償法に適用される改正前民法724条」の解釈として、除斥期間の主張が信義則違反・権利濫用として許されない場合があることを示したに過ぎないと考えられます。

自転車の交通事故にご注意

交通事故というと「自動車」による事故をイメージされる方も多いかと思いますが、近年、自転車による事故が増加しています。
弁護士への交通事故のご相談でも自転車事故がたくさんあります。

警察庁によると、令和5年は、7万2339件の自転車の交通事故があり、全交通事故に占める自転車の事故の割合は23.5%にもなるようです。
参考リンク:警察庁・自転車は車のなかま~自転車はルールを守って安全運転~

そのようなこともあり、自転車の交通違反に取り締まりが厳しくなっています。
令和元年には2万2859件であった検挙件数が、令和5年には4万4207件まで増加しています。
参考リンク:警察庁・自転車の交通指導取締り状況

先月、道路交通法が改正され、自転車の交通違反についても「青切符」制度が導入されることになりました。
青切符を交付された場合、反則金の支払いは「任意」とされていますが、反則金を払わないと、刑事訴追される可能性があります。
これまでは、自転車の交通違反は注意されるだけで済んでいたものも多かったのではないかと思われますが、今後は、注意を受けるだけでは済まなくなりそうです。

今回の改正法は、公布から2年以内に施行されるようです。

損害賠償請求が認められる範囲

1 問題となる事例
契約の相手方が債務の履行をしてくれないという場合、損害賠償請求をすることが考えられます。
その際、どこまでが損害として賠償を受けることができるのかが問題になることがあります。
例えば、以下の事例において、XのYに対する損害賠償請求は、いくら認められるのかについて、考えてみたいと思います。
Xが、Yとの間で、不動産を2000万円で買うという契約をしていたのに、Yが債務を履行してくれなかった。
Xは、Yから不動産を買うことができれば、それをAに2500万円で転売することを予定していたが、Yの債務不履行によりこれができなくなってしまった。
Xは、Yに対して、不動産を転売していたら得られたはずの500万円の利益を損害として請求することができるのでしょうか?

2 民法416条のルール
債務不履行があった場合の損害賠償請求の範囲について、民法416条は、以下のとおり定めています。
1項:債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2項:特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

3 検討
今回の事例では、XがAに転売して得られたはずの500万円が得られなかったというのは、民法416条1項の「通常生ずべき損害」にはあたらず、同2項の「特別の事情によって生じた損害」であると判断される可能性が高いといえます。
そうすると、「当事者がその事情を予見すべきであった」といえるかどうかが問題となります。
ここで、民法416条2項の「当事者」については、債務者であると解釈するのが一般的で、ここでは、Yになります。
また、「予見すべきであった」といえるか否かについては、債務不履行時を基準にして考えるのが一般的です。
そうすると、Xが、Yに対して、Aに2500万円で転売することを予定していると話していたにもかかわらず、Yが債務不履行をしたというような場合においては、Yは、「その事情を予見すべきであった」といえ、XのYに対する500万円の損害賠償請求は認められるものと考えられます。
どこまで損害賠償請求が認められるかは、具体的な事情によって変わってきますので、お困りの際は、弁護士にご相談されるとよいかと思います。

刑事上の「故意」とは?

犯罪が成立するためには、「故意」が必要です(例外的に、過失致死罪など故意がなくても過失があれば成立する犯罪もあります。)。
このことは、刑法38条1項に、「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。」と規定されています。
故意というと、「わざとやった」「知っていてやった」などというイメージかと思いますが、厳密には、犯罪が成立するための要件(構成要件)に該当する事実の認識・認容があることをいいます。
ここで、「認容」が必要とされているというのがポイントです。
つまり、認識はしているけれども、認容していないという場合には、故意はなかったということになるのです。
一体どのような場合かというと、例えば、医師がリスクの高い手術をする際に、医師は、自分が手術をすることによって患者を死なせてしまうかもしれないと思っていれば殺人罪の「認識」はありますが、そうなってもよいとは思っていないので「認容」はなく、故意がないことになります。

弁護士法人心では、刑事事件も取り扱っておりますので、お困りの際は、ご相談ください。
刑事事件に関する弁護士法人心のサイトはこちらをご覧ください。

消滅時効(民法改正後のルール)

1 消滅時効とは

消滅時効制度というのは、一定期間、権利を行使しないと、権利自体が消滅してしまうという制度です。

例えば、お金を貸していて、返済時期を過ぎても返済をしてもらわず、そのまま一定期間放置しておくと、時効になって、お金を返してもらう権利が消滅してしまいます。

なお、以前に、このブログで、犯罪の時効について書きましたが、そちらは刑事上の制度で、こちらは民事上の制度ですので、別物です。

参考:犯罪の時効

 

2 民法改正によって時効の期間が変わった

2020年に施行された改正民法では、時効も従来のルールから変更されています。

重要な変更点の1つとして、消滅時効の期間の変更があります。

⑴ 一般債権の消滅時効

従来、契約関係がある場合の権利については、原則として、権利を行使することができる時から10年で消滅するとされていました。

これについて、改正民法では、原則として、行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年で時効消滅すると変更されました(民法166条)。

また、改正民法では、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効については、行使できることを知った時から5年、行使できる時から20年とされました(民法167条)。

⑵ 不法行為債権の消滅時効

当事者間に契約関係のない不法行為(交通事故などが典型です)に基づく損害賠償請求権の時効については、従来は、損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年とされていました。

これに対し、改正民法では、人の生命又は身体を害する不法行為については、損害及び加害者を知った時から5年、行使できる時から20年とされ(民法724条の2)、債権の場合と同じになりました。

なお、改正民法でも、人の生命又は身体を害さない不法行為の消滅時効期間については、従来と同じく、損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年となっています。

3 時効に関するご相談

弁護士法人心では、時効の援用(時効の完成を債権者に主張すること)などのご相談を承っておりますので、お気軽にご相談ください。

弁護士法人心の債務整理サイトはこちら

侮辱罪に関する刑法改正

1 そもそも侮辱罪とは?名誉毀損罪と何が違うのか?

刑法231条(侮辱罪)は、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。」としています。

「事実を適示しなくても」というのは、刑法230条1項(名誉毀損罪)の「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。」を受けて規定されているものです。

要するに、「公然と事実を摘示」した場合には名誉毀損罪、そうでない場合は侮辱罪という区分けがされているといえます。

例えば、「●●は××と不倫している」など具体的な事実を示した場合は、事実の摘示があったとして名誉毀損になり得るのに対し、「●●はバカだ」など単に評価を言っただけの場合には、事実の摘示には該当しませんので、名誉毀損にはなりませんが、侮辱にはなり得るといえます。

※ ●●や××は具体的な氏名

 

2 刑法改正による侮辱罪の法定刑の引上げ

今回の刑法改正では、侮辱罪の法定刑について、「拘留又は科料」を「一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」に改めるとされています。

改正の理由としては、「近年における公然と人を侮辱する犯罪の実情等に鑑み、侮辱罪の法定刑を引き上げる必要がある。」とされており、最近、SNS等での誹謗中傷が社会問題となっていることが背景にあると考えられます。

参考リンク:衆議院・刑法等の一部を改正する法律案

なお、侮辱罪の法定刑引上げについては、表現の自由を脅かすのではないかということも議論になっており、日本弁護士連合会からも意見書が出されています。

この点について、衆議院において、施行後三年を経過したときに、表現の自由等の不当な制約になっていないかについて、外部有識者を交えて検証を行う等の附則が追加されました。

参考リンク:衆議院・刑法等の一部を改正する法律案に対する修正案

犯罪の時効

何か犯罪行為をしたとしても、それについて一生処罰される可能性があるというものではなく、一定期間が経過すると処罰されなくなる「公訴時効」という制度があります。

「どうして犯罪行為について、時間が経過してしまえば許されるような制度があるのか?」と疑問に思われる方もいるかと思います。

この点について、法務省「凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方について」によると、

① 時の経過とともに、証拠が散逸してしまい、起訴して正しい裁判を行うことが困難になること

② 時の経過とともに、被害者を含め社会一般の処罰感情等が希薄化すること

③ 犯罪後、犯人が処罰されることなく日時が経過した場合には、そのような事実上の状態が継続していることを尊重すべきこと

ということが挙げられています。

ただ、これらは時代によって変わっていきます。

例えば、現在では、DNA鑑定技術が進歩していますので、長い年月が経過していても有効な証拠が出てくる可能性があります。

また、近年は、時の経過とともに社会一般の処罰感情等が希薄化するといえないような場合もあり、特に重大犯罪についてはその傾向があるように思われます。

このような時代の変化を踏まえて、法改正もなされており、2010年には、公訴時効の撤廃や期間の長期化がなされました。

公訴時効については、こちらの弁護士法人心のページでより詳しく解説しています。

強制執行について

1 強制執行が必要となる場面

⑴ お金を返してもらえない場合にはどうする?

例えば,貸したお金を返してくれない人がいるとします。

督促しても返してくれない場合,どうすればよいのでしょうか?

日本では,債務者の家に立ち入って無理やりお金を持ってくるなどといった法律の手続きを踏まない実力行使(自力救済などと言われます。)は,認められていません。

債務者がお金を返してくれない場合には,基本的に,訴訟等の裁判所での手続きが必要となります。

⑵ 裁判してもお金を返してくれない場合には強制執行

それでは,訴訟をして勝訴判決を得たとします。

これで債務者がお金を返してくれればよいのですが,それでも返してもらえない場合があります。

そのような場合に,「強制執行」という方法をとることになります。

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2 強制執行とは

強制執行とは,裁判所を通じて債務者の財産を差し押さえて,お金に換え,債権者がそのお金の配当を受けるという手続きです。

強制執行をするためには、確定判決、仮執行宣言付判決、仮執行宣言付支払督促などの「債務名義」といわれる文書が必要です。

 

3 強制執行の種類

⑴ 金銭執行・非金銭執行

強制執行は,金銭執行と非金銭執行に分かれます。

⑵ 金銭執行

金銭執行とは,金銭の支払いを受けるための手続きです。

お金を返してもらえないといった場合には,金銭執行をすることになります。

金銭執行は,何に対して執行するかという観点から,不動産執行,船舶執行,動産執行,債権執行に分かれます。

債務者がお金を返してくれないから,債務者の土地や建物を差し押さえて競売にかけるというのは,不動産執行です。

債務者の給料を差し押さえるという場合もありますが,これは債権執行です。

なお,給料は民事執行法で差押禁止債権とされており,給料の4分の3(給料が33万円を超える場合には33万円)については差押えをすることができません。

⑶ 非金銭執行

非金銭執行は,金銭の支払いを目的としない執行手続きです。

例えば,アパートの大家さんが,賃貸借契約が終了した後も出ていってくれない人がいて困っていたとします。

大家さんは,出ていってくれない人を無理やり力で追い出すことは法律上認められておらず,このような場合には,建物明渡請求訴訟をして勝訴判決をとった上で,強制執行をすることになります。

このような場合には,お金の支払いではなく,建物の明渡しを目的としているので,非金銭執行になります。

 

4 強制執行の費用等

どのような手続きをとるかによって異なります。

また,裁判所によっても異なる場合があります。

以下は,名古屋地方裁判所における不動産競売の場合の費用です(※例外や変更の可能性もあります。)。

①申立手数料 4000円

②登録免許税

請求金額(1000円未満切捨て)×4/1000=登録免許税額(100円未満切捨て)

③予納金 原則70万円

また,弁護士に強制執行の申立てを依頼する場合には,弁護士報酬もかかります。

 

5 まとめ

以上,簡単に強制執行について見てきました。

債務者が自発的にお金を支払ってくれない場合,法律に基づいて債権を回収するためには,お金も時間もかかってしまうという場合が多くあります。

私も弁護士として債権回収のご相談を受けることがありますが,訴訟では勝てる見込みが大きくても,相手にめぼしい財産が無さそうな場合には,強制執行しても空ぶってしまい,費用も時間も無駄になってしまう可能性をお伝えしなければならないこともあります。

また,債権の金額が少額の場合には,債権を回収できたとしても,弁護士報酬が同等かそれ以上にかかってしまったら経済的には意味がないので,なかなか難しいところです。

参考リンク:裁判所・民事執行手続

原因において自由な行為

1 「原因において自由な行為」が問題となる事例

「A氏は,V氏を素手で殴って痛めつけてやろうと考えていたが,しらふの状態で犯行に及ぶのは恐かったため,飲酒をしたところ,泥酔してしまい,意識がもうろうとするなか,近くに落ちていた金属バットでV氏を殴り殺してしまった。」という事例について考えます。

A氏には何らかの犯罪が成立するのでしょうか?

2 問題の所在

上記事例では,V氏がA氏を金属バッドで殴り殺していますが,その時点(=金属バットで殴った時点)では,V氏は泥酔して意識がもうろうとした状態にあり,責任能力があるとはいえません
犯罪が成立するには,責任能力が必要です。
心神喪失と評価される場合には,責任無能力として犯罪不成立となり,心神耗弱と評価される場合には,限定責任能力として刑が必ず減軽されます(刑法39条1項,2項)。
しかし,上記事例のような場合に,A氏が泥酔していたからといって,犯罪が成立しない,あるいは,減軽されるというのはいかにもおかしな感じがします。
そこで考えられた理論が「原因において自由な行為」です。

3 原因において自由な行為とは

責任能力は,結果行為(上記事例では金属バットで殴る行為)の時点でなかったとしても,責任無能力を招いた原因行為(上記事例では飲酒行為)の時点で存在すれば,責任非難は可能であるという考え方があります。
このような考え方に立てば,少なくとも,A氏が酒を飲み始めた時点では,A氏に完全な責任能力がありますので,泥酔していたことが理由でA氏に犯罪が成立しなかったり,減軽されたりすることはありません。

4 A氏に殺人罪が成立するか?

A氏に殺人罪が成立するためには,A氏に殺人の故意があることが必要です。
上記事例では,A氏がV氏を金属バッドで殴った時点では殺人の故意があったかもしれませんが,少なくとも,責任能力のある飲酒開始時は,「V氏を素手で殴って痛めつけてやろう」と思っていたにすぎませんので,殺人の故意はなく,傷害の故意が認められるにすぎません。
つまり,客観的には殺人の結果が生じているけれども,主観的には傷害の故意しかないわけです。
このような場合には,殺人の故意が無い以上,殺人罪は成立しません。
もっとも,殺人罪と傷害罪は,傷害罪の限度で重なり合います(専門的には客観的構成要件が重なり合うなどといいます。)。
そして,V氏が死亡しているため,A氏には傷害罪の結果的加重犯である傷害致死罪が成立すると考えられます(刑法205条)。

5 「原因において自由な行為」の学術的見解

以上は,実行行為はあくまでも結果行為であり,実行行為と一定関係にある原因行為時に責任能力があれば,責任を問うことができるという見解に基づいて検討しました。
実務を扱う弁護士としては上記理解で十分であるとも思えますが,学術的には,原因において自由な行為について,原因行為を実行行為と捉え,自分の責任無能力状態を道具として利用しているため間接正犯の場合と同様に責任を問えるという見解(間接正犯準用説)や,実行行為と実行の着手を区別し,原因行為と結果行為を合わせて実行行為と捉え,実行行為の開始時に責任能力があるため責任を問えるという見解などもあります。
興味のある方は,刑法の専門書等を読んでみてください。

破産と倒産の違い

1 破産と倒産は異なる

「破産」と「倒産」という言葉について,同じような意味だとお考えの方も多いかと思いますが,厳密には異なる意味で使われます。

 

2 破産について

まず,「破産」については,法律上の用語で,破産法2条に,「この法律において「破産手続」とは,次章以下(第十二章を除く。)に定めるところにより,債務者の財産又は相続財産若しくは信託財産を清算する手続をいう。」と規定されています。

簡単にいうと,破産は,支払い不能や債務超過の状態になっている債務者が,裁判所が関与する手続きを通じて,財産を現金化し,それを債権者に分配するものです。

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3 倒産について

一方,倒産は,一般的には,「会社が潰れる」「事業が継続できなくなる」といったイメージがありますが,厳密には,破産のみならず,民事再生や会社更生といった再建型の手続きも含みます。

再生型手続きの場合,会社はなくならず,一定の手続きを経て再建されることになります。

「倒産」しても会社がなくならないというのは不思議な感じがするかもしれませんが,実際にはそのようなケースも少なくありません。

有名な例としては,2010年に日本航空(JAL)が会社更生法の適用を申請し,「戦後4番目の大型倒産」などと報道されましたが,その後再建され,ご存じのとおり今でも存続しています。

 

4 司法試験科目としての「倒産法」

現在の司法試験には選択科目があり,その一つとして「倒産法」という科目があります。

司法試験の「倒産法」においても,その対象は,破産法だけでなく,民事再生法や会社更生法も出題範囲に含まれています。

なお,倒産法という名前の法律はなく,上記の破産法,民事再生法,会社更生法といった倒産に関わる法規を総称して倒産法とよばれています。

ちなみに,労働法についても,労働法という法律があると誤解されている方も多いのですが,実際は,そのような名称の法律はなく,労働関係の法律を総称して労働法とよんでいます。

 

5 破産・倒産に関するご相談

破産や倒産については,上記のとおり,司法試験でも選択科目扱いですので,弁護士であっても必ずしも勉強しているわけではありません。

また,実務上も,倒産問題について経験豊富な弁護士は限られていますので,弁護士へのご相談をお考えの際には,詳しい弁護士を探してご相談されることをおすすめいたします。
弁護士法人心には,倒産問題に詳しい弁護士が所属しており,会社の破産にも対応しております。

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正当防衛と緊急避難の違い

1 正当防衛とは

刑事事件における正当防衛とは,相手方の突然の侵害行為に対して,防衛のために反撃等する行為のことです。
例えば,突然ナイフを持った人が襲ってきたので,自分の身を守るために,やむを得ずに相手を殴り倒したとした場合,正当防衛が成立する可能性があります。
相手を殴り倒すと,通常であれば,暴行罪や傷害罪となりますが,正当防衛に当たる場合には,違法性がないとして犯罪にはなりません。
正当防衛の具体例については,こちらもご覧ください。

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2 緊急避難とは

刑事事件における緊急避難とは,現在の危難を避けるためにやむを得ずにした行為であって,その結果生じた害が,避けようとした害の程度を超えなかったものをいいます。
例えば,クマに襲われて逃げる際に,他人の物を壊してしまったという場合,それが危険を避けるためにやむを得なかったのであれば緊急避難が成立する可能性があります。
緊急避難が成立する場合,正当防衛の場合と同様に,違法性がないとして犯罪にはなりません。

3 正当防衛と緊急避難の違い

正当防衛は,上記例のように突然ナイフで襲ってくる等の「不正」に対して反撃行為をするものです。
一方,緊急避難は,上記例のように,壊された物の所有者は何か悪いことをしたわけではありません(つまり「正」です。)。
このように,正当防衛は「正 対 不正」の関係であるのに対し,緊急避難は「正 対 正」の関係であり,そのため,緊急避難の方が正当防衛よりも成立するための要件が厳しくなっています。
実際に正当防衛や緊急避難が成立するか否かは難しい判断になるケースが多いですので,弁護士にご相談ください。

憲法と法律の違い

1 憲法と法律は何が違うのか?

憲法と法律の違いについて,憲法は「国家権力」に向けられた法規範であるのに対し,法律は「国民」に向けられた法規範であるなどと説明されることがあります。

例えば,刑法は犯罪と刑罰について定められた「法律」で,「国民」が刑法に違反した場合に刑罰が与えられるという「国民」を対象にしたルールです。

また,民法も,私人間の取引や家族関係などについて定められた「法律」で,これもまた「国民」を対象にしています

これに対して,憲法は,「国家権力」に向けられたもので,例えば,国が,国民による自由な言論を一切認めないという法律を作ったとしたら,表現の自由について定める憲法に違反することになるわけです。

このように,憲法と法律は対象がそもそも異なります。

2 憲法に違反する法律はどうなるのか?

憲法98条には,「この憲法は,国の最高法規であつて,その条規に反する法律,命令,詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は,その効力を有しない。」と定められており,憲法に違反する法律は無効となります。

問題は,憲法に違反するかを誰が判断するのかです。

これについては,憲法81条で,「最高裁判所は,一切の法律,命令,規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」と定められており,最終的には,最高裁判所が判断することになります。

ちなみに,日本ではこのように通常の裁判を行う司法裁判所が違憲審査をするのですが,ドイツのように違憲審査を行う専門の憲法裁判所がある国もあります。

3 法律が憲法違反だと思ったら裁判所に審査してもらえる?

日本の場合,具体的な争いごとを解決する必要な限度で違憲審査がされる仕組みになっており(具体的な事件に付随して審査を行うという意味で付随的審査制といいます。),具体的な争いごとを離れて,法律が憲法違反かどうかの判断を裁判所に審査してもらうことはできません。

4 憲法違反にも種類がある?

そもそも法律自体が憲法に違反しているという「法令違憲」と,法律自体は合憲だけれども,ある具体的な場面においてその法律を適用させることが憲法に違反するという「適用違憲」があります。

例えば,昔は刑法200条で「自己又ハ配偶者ノ直系尊属ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ処ス」というのがあり,親や祖父母などの直系尊属を殺害した場合には,通常の殺人罪(刑法199条)よりも重い刑罰が定められていました。

これについて,実父から性的虐待を受けていた女性が実父を殺害した事件で,刑法200条が憲法に違反するかが争われ,1973年に最高裁判所は,刑法200条自体が,平等原則を定めた憲法14条に違反すると判断しました。

このように,刑法200条という法律自体が憲法違反だとされるのが法令違憲です。

これに対して,例えば,1952年に名古屋で発生した高田事件では,事件から15年間にわたって刑事裁判の審理が行われなかったことについて,最高裁判所は,被告人の迅速な裁判を受ける権利を侵害するとして違憲の判断をしており(参考:最高裁判決全文),これは,刑法や刑事訴訟法自体が憲法に違反するわけではなく,本件において,それを適用することが憲法に違反するというものです。

5 まとめ

以上のように,憲法と法律は対象が異なるものであり,国家権力による憲法違反が争われた場合には,具体的な事件を解決するのに必要な限度で,裁判所が,法律自体または法律適用の違憲性を判断することになります。

交通事故で自分に過失があっても自賠責保険からは100%支払われる?

1 過失相殺とは?
交通事故に遭うと,事故の状況等に基づいて,過失割合が「1:9」などと決まります(交通事故の過失割合について詳しくはこちらをご覧ください)。
過失相殺というのは,例えば,100万円の損害を被ったとして,自分の過失割合が1割,相手の過失割合が9割であれば,相手には100万円の9割の90万円を請求できることになります。
ここまでは多くの方が理解されているのですが,次にお話しする自賠責保険では,過失があっても100%支払いを受けられる場合があり,これについてはご存じない方も少なくありません。

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2 自賠責保険では過失があっても100%支払われる?
交通事故の被害者の方は,加害者が加入する自賠責保険から損害賠償の支払いを受けることができます(自賠責保険と任意保険の関係についてはこちらをご覧ください)。
被害者の方が亡くなった場合や後遺障害が残った場合は別として,ケガをしたという場合であれば,自賠責保険から,120万円を上限として,治療費,休業損害,慰謝料等の支払いを受けることができます。
そして,ここがポイントなのですが,自賠責保険においては,過失が7割未満であれば,自己の過失分を減額されません。
上記の例では,被害者の過失は1割(7割未満)ですので,損害額である100万円が支払われます。
他方で,過失が7割を超える場合には,2割減額されますが(重過失減額),それでも通常の過失相殺と比べてかなり被害者に有利になっています(なお,後遺障害や死亡に関するものについては減額される割合が異なります。)。
実際に交通事故に遭った直後では,損害額は確定していませんが,事故状況やケガの程度などから見通しを立てて対応することは可能ですので,過失などで不安がある場合には早い段階で弁護士に相談されることをおすすめいたします。

定型約款について

最終更新日:2022年5月5日

1 定型約款とは

⑴ 約款とは

スマートフォンでアプリを入れようとすると,利用規約が出てきて,同意するにチェックを付けると,申し込みボタンが押せるようになり,次に進めるといった経験をしたことのある方も多いかと思います。
このような約款(利用規約も約款の一種)を利用して契約を締結するというのが最近非常に多くなっています。

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⑵ 改正民法で新たに規定された定型約款

世の中で多く使われている約款ですが,これまで民法には直接的な規定がなく,ルールが不明確でした。
そこで,ルールを明確にするために,民法改正で,「定型約款」について規定されることになりました。

⑶ 改正民法の「定型約款」とは

例えば,スマートフォンアプリの利用規約,保険約款,電気の供給約款など,①不特定多数を相手とするもので,②画一的な内容にすることが当事者双方にとって合理的で,③特定の者(当事者の一方)によって準備されたものが定型約款にあたります。
改正民法548条の2第1項において,定型約款とは,「定型取引において,契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」とされており,この定型取引とは「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって,その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」とされているので,上記①,②,③を満たすものが定型約款となるわけです。

従来型の契約のように,当事者が交渉して,個別に契約の内容を決めるというようなものではありません。

2 定型約款はどのように活用されるのか?

冒頭の例のように,アプリの利用規約に同意するにチェックを入れて,申し込みボタンを押すと,当事者(ここでは,アプリを提供する事業者とアプリのユーザー)が定型約款(ここでは利用規約)の各条項について,合意したものとみなされます。
これを「みなし合意」といい,ユーザーは,原則として,利用規約を読んでいなかったのだから知らないとは言えなくなります。

3 不利益条項について

もし,ユーザーにとってすごく不利益な条項が利用規約にこっそりと入っていたとしても,それに気づかずに同意してしまったら,「みなし合意」として,契約内容に含まれてしまうとするととても怖いですよね。
いくら利用規約に書いてあるからといっても,利用規約を最初から最後まですべて読むという方は少ないかと思います。
そこで,改正民法では,相手の利益を一方的に害するような不当な条項については,合意をしなかったものとみなすとしています(改正民法548条の2第2項)。
例えば,ユーザーからの解約が一切できないような条項が入っていた場合には,それについては,合意しなかったものとみなされると考えられます。

4 定型約款の変更

⑴ 事後的な変更に関するルール

通常,契約締結後に契約内容を変更するのであれば,改めて当事者間で合意をする必要がありますが,先ほどのアプリの例のように,事業者が不特定多数のユーザーと契約しているような場合には,個々のユーザーと変更内容について合意するというのは,現実的でありません。
そこで,改正民法では,一定の要件を満たす場合には,定型約款を変更すれば既存の契約についても契約内容が変更されるようになりました。
改正民法は,「定型約款の変更が,相手方の一般の利益に適合するとき」または,「定型約款の変更が,契約をした目的に反せず,かつ,変更の必要性,変更後の内容の相当性,この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき」には定型約款を変更すれば,既存の契約についても契約内容が変更されるものとしています(改正民法548条の4第1項)。
問題になるのは,ユーザーにとって不利な変更が後からなされた場合に,それが有効かどうかです。
例えば,アプリの利用料が,合理的な理由が無く,いきなり10倍になるといった場合には,上記要件を満たさない可能性が高いと考えられます。

⑵ 定型約款の変更手続き

定型約款を変更に際しては,①定型約款を変更する旨,②変更内容,③効力発生時期をインターネット等で周知しなければ,効力が生じません(改正民法548条の4第2項,同第3項)。

5 最後に

定型約款については,改正民法で新たに導入されたものですので,弁護士から見てもまだまだ不明確な点があるように感じます。
今後,事例が蓄積され,使い勝手が良くなっていくことを期待したいです。

契約書の「合意管轄条項」の記載例と注意点

最終更新日2021年3月11日

1 合意管轄とは?

合意管轄というのは,「もし将来,訴訟をすることになったら●●の裁判所でやりましょう」というのを契約当事者間であらかじめ決めておくものです。

裁判所の管轄については法律上定められていますが,契約であらかじめ管轄裁判所を定めることもできるのです(民事訴訟法11条1項)。

裁判所の管轄について詳しくはこちらをご覧ください。

 

2 裁判所の管轄が重要な理由

裁判をする相手方が近くにいる場合にはそれほど問題になりませんが,遠くにいる相手と裁判をする場合には,自分の所在地と相手の所在地のどちらにある裁判所で裁判をするのかが重要な問題になります。

遠方で裁判をする場合,近くの弁護士に依頼すると,通常,交通費・出張費がかかりますし,他方で,自分の所在地から離れた現地の弁護士に依頼すると,直接会っての打ち合わせがしにくいという問題があります。

また,本人尋問や証人尋問がある場合には,本人や証人が裁判所に出向かなければなりませんが,遠くの裁判所だと大変です。

そのため,訴えたり,訴えられたりするときに備えて,近くの裁判所で裁判ができるようにしておくというのが実務上重要なのです。

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3 契約書の合意管轄条項の記載例

私は,「甲及び乙は,本契約に関し裁判上の紛争が生じた場合には,名古屋地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」といった条項を入れることが多いです。

 

4 合意管轄条項の注意点

上記の記載例のポイントは,専属的合意管轄裁判所と,「専属的」と入れている点です。

合意管轄には,「付加的合意管轄」と「専属的合意管轄」があります。

以下では,法律上は,A裁判所とB裁判所に管轄がある場合において,契約で,C裁判所について合意管轄をしたという例で解説します。

⑴ 付加的合意管轄の場合

付加的合意管轄とは,「法律上管轄のあるA裁判所やB裁判所に加えて,C裁判所でも裁判できる」というように管轄裁判所を加えるものです。

この場合には,A裁判所やB裁判所でも裁判ができてしまうため,相手方に先に遠方で裁判を起こされると厄介なことになります(移送という制度もありますが,話が複雑になるためここでは触れません)。

⑵ 専属的合意管轄の場合

専属的合意管轄は,「C裁判所だけでしか裁判できない」というように,管轄裁判所を限定するものです。

この場合には,A裁判所やB裁判所では裁判をすることができず,C裁判所のみで裁判をすることができることになります。

⑶ 「専属的」と明記しておくことが重要

このように,付加的合意管轄か専属的合意管轄かで,どこで裁判できるかが大きく変わってきます。

管轄裁判所を特定の裁判所に限定しておきたいという場合には,本来不要な争いを生まないためにも,「専属的」と明記しておくのがよいと思います。

正当防衛の具体例

1 正当防衛について

「Aさんは,Bさんに急に襲われたので,反撃したらBさんにケガを負わせてしまった」というケースで,反撃したAさんは罪に問われるのでしょうか?
このようなケースについては,Aさんに「正当防衛」が成立するかどうかが問題となります。
正当防衛が成立するのであれば,Aさんの行為には,違法性がないとして,Aさんの行為は犯罪になりません。

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2 正当防衛が成立するには?

相手が先に手を出してきたからといって必ずしも正当防衛は成立しません。
正当防衛が成立するためには,①急迫不正の侵害があること(簡単にいうと危険が迫っていることです),②自己または他人の権利を防衛するためであること,③やむを得ずした行為であることが必要です。
正当防衛について詳しくは,こちらもご覧ください。

3 具体的なケースで正当防衛が成立するかどうか?

⑴ ケース
「Bさんがナイフを突き出してAさんの方に向かってきたので,Aさんは,近くにあった金属バットでBさんの頭を殴って怪我をさせた」というケースでAさんに正当防衛が成立するのでしょうか?
⑵ ①急迫不正の侵害,②自己または他人の権利を防衛するため
Bさんがナイフを突き出してAさんの方に向かってきているので,通常であれば,①急迫不正の侵害があり,Aさんの行為は,②自己の権利を防衛するためにしたものといえそうです。
ただ,Aさんが予めBさんの襲撃を察知しており,この機会にBさんを痛めつけてやろうと思って金属バットを準備し,予定どおりBさんを金属バットで殴りつけたという場合であれば,①急迫不正の侵害が否定されるものと考えられます。また,このようなケースであれば,②自己または他人の権利を防衛するための行為でないともいえます。
⑶ ③やむを得ずした行為
これについては,具体的な事情を総合的に判断することになります。
例えば,Bさんの持っていたナイフが刃渡り20センチメートルのものか,5センチメートルのものかで随分と事情が変わってきます。
また,Aさん,Bさんの年齢,性別,体格などによっても大きく事情が異なります。
例えば,Aさんが20歳の体格の良い男性で,Bさんが70歳の小柄な女性だったとすると金属バットで殴らなくても危険を回避できるのではないかと考えられます。

4 まとめ

このように,正当防衛が成立するかは,具体的な事情を踏まえて詳細な検討をしなければならず,弁護士でも判断が難しいようなケースもあります。

名古屋で刑事事件についてお困りの方はこちら

交通事故とケガとの因果関係

1 交通事故とケガとの因果関係

交通事故を原因としてケガをし,通院することになった場合,治療費,休業損害,慰謝料などについて,加害者に損害賠償請求をすることができます。

しかし,交通事故と症状との間に因果関係がない場合には,損害賠償を受けることができません。

 

2 因果関係が認められないというのはどういうことか?

症状があるのは確かだけれども,交通事故との間に因果関係が認められないとされることがあります。

これは,つまり,症状が交通事故とは別の原因で生じた可能性があるような場合です。

例えば,もともと体を痛めていた場合や,交通事故後に別のケガをしたような場合が考えられます。

 

3 因果関係が特に問題になるケース

因果関係が特に問題になるのは,交通事故に遭ってから病院に行くまでの期間が空いてしまっているようなケースです。

このようなケースで因果関係が否定されて弁護士にご相談いただくことがよくあります。

仕事等のためになかなか時間が取れず,病院に行くのが先になってしまったという方も少なくないのですが,交通事故から期間が空いてしまうとどうしても不利になってしまいます。

そのため,交通事故に遭いケガをした場合には,可能な限り当日,どうしても難しい場合には翌日には病院に行くことが大切です。

交通事故の因果関係についてはこちらもご覧ください。

遺言を書くタイミングと気を付けるべきポイント

1 遺言を書くタイミング
遺言に関していつか書こうとは思いながらも「自分はまだ若いから」「誰に何を相続させるか決めていないから」などと言って先送りにしている方もいるかと思います。
しかし,人生いつ何があるかわかりません。
万が一のときのために,遺言はすぐにでも書いておくのがよいと思います。

2 後で考えが変わったら?
「そうはいっても,誰に何を相続させるかについて,後で考えが変わるかもしれない」と思われる方もいるかもしれません。
でも,大丈夫です。
遺言は何度でも書き直すことができるので,考えが変われば,その都度書き直せばよいのです。

3 遺言を書く際に気を付けるべきポイント
遺言には,「日付を書かなければならない」「署名をしなければならない」「複数名が共同で書いてはならない」など守らなければならないルールがあります。
ルールを守っていないと無効となるおそれがありますので,注意が必要です。
また,遺言に不明確な書き方をしてしまうと,後にその解釈をめぐって争いになってしまうこともありますので,遺言を書く際には,正確な表現を用いることが大切です。

4 遺言作成について弁護士に相談できる?
弁護士というと遺産分割などで争いになってから依頼するイメージがあるかもしれませんが,争いを生じさせないための相談も承っています。
法律上問題のない遺言を作るためには,遺言等の相続問題に詳しい弁護士にご相談されることをおすすめします。

弁護士法人心の遺言に関するサイトはこちらになります。