遺言ではできないが民事信託を使えばできること【後継ぎ遺贈型受益者連続信託】

1 遺言の限界

相続対策として近年注目されているものとして「民事信託」があります。

遺言ではできないことが民事信託を活用すれば実現できることが注目の理由の一つです。

典型的な例として,おじいさんが「自分が死んだら息子に土地を相続させ,さらに息子が死んだあとは孫にその土地を相続させたい」と考えたとします。

基本的に遺言では,「自分が死んだら息子に土地を相続させる」ということは実現できますが,「息子が死んだあとは孫にその土地を相続させる」ということは実現できません。

息子は,土地を相続した後に,その土地を売ってしまうことや,孫とは別の人に相続させることもできてしまうわけです。

これに対して,民事信託を活用すれば上記おじいさんの意思を実現することが可能です。

 

2 民事信託とは

まず,簡単に民事信託について説明します。

民事信託では,通常,以下の三者が登場します。

自分の財産を委託する「委託者」,信託契約に従って委託された財産を管理・処分する「受託者」,財産からの利益を受ける「受益者」の三者です。

 

3 上記ケースで民事信託を活用

上記ケースでは,おじいさんを「委託者兼受益者」とし,息子を「第二次受益者」,孫を「第三次受益者」とすることで,おじいさんが生きている間は,おじいさんが土地を利用し,おじいさんが亡くなったあとは息子が土地を利用し,されに息子が亡くなった後は,孫が土地を利用するということができるわけです。

これを後継ぎ遺贈型受益者連続信託といいます。

後継ぎ遺贈型受益者連続信託に関する法律は,信託法91条ですので以下引用します。

「受益者の死亡により,当該受益者の有する受益権が消滅し,他の者が新たな受益権を取得する旨の定め(受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定めを含む。)のある信託は,当該信託がされた時から三十年を経過した時以後に現に存する受益者が当該定めにより受益権を取得した場合であって当該受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでの間,その効力を有する。」

 

4 民事信託を使用した相続対策

他にも,民事信託には相続に活用できる場面があります。

弁護士法人心では,家族信託・民事信託についてのサイトを作り,家族信託・民事信託に関する情報を発信していますので,参考にしていただければと思います。

2019年ゴールデンウィーク10連休と国民の祝日に関する法律(祝日法)

先日,2019年のゴールデンウィークは10連休になるとの報道がされていました。

新天皇の即位日の2019年5月1日を祝日とすると,国民の祝日に関する法律(祝日法)によって,4月30日と5月2日が休日になるのです。

ここで祝日法について少し見てみたいと思います(弁護士でもほとんど見ることのない法律です)。

まず,祝日法2条では「国民の祝日」として,昭和の日,憲法記念日,みどりの日,こどもの日などが定められております。

次に,祝日法3条3項は「その前日及び翌日が『国民の祝日』である日(『国民の祝日』でない日に限る。)は,休日とする」としているため,5月1日が祝日になれば,5月1日と祝日の4月29日と5月3日に挟まれた,4月30日と5月2日が休日になります。

さらに,祝日法3条2項は,「『国民の祝日』が日曜日に当たるときは、その日後においてその日に最も近い『国民の祝日』でない日を休日とする。」としていますので,5月6日が休日になります(いわゆる振替え休日です)。

 

【5月1日が祝日になった場合の2019年のゴールデンウィーク】

4月27日 土曜日

4月28日 日曜日

4月29日 昭和の日

4月30日 休日←祝日法3条3項

5月1日 新天皇即位日

5月2日 休日←祝日法3条3項

5月3日 憲法記念日

5月4日 みどりの日

5月5日 こどもの日

5月6日 振替え休日←祝日法3条2項

債務整理

1 債務整理とは
「債務整理」という言葉を聞いたことがありますでしょうか。
通常,返済が困難になった借金問題を解決することを債務整理といいます。
借金問題の解決というと,自己破産を思い浮かべる方が多いかもしれません。
確かに自己破産も債務整理の1つなのですが,自己破産以外にも,個人の方であれば,任意整理,個人再生といった方法があります。

2 どの方法によって債務整理をするのか
では,個人の方が債務整理をする際に,任意整理と個人再生と自己破産のどれがよいのかというと,これは,借金の額や,財産・収入の状況等によって異なってきます。
例えば,住宅ローン付きの不動産を所有している場合に,自己破産をしてしまうとその不動産を失うことになりますが,個人再生であれば,不動産をのこしつつ個人再生を行うことができる可能性があります。
このあたりの判断は,債務整理に詳しい弁護士に相談されるとよいかと思います(債務整理について名古屋で弁護士へのご相談をお考えの方はこちら)。

3 債務整理をしたことが周囲に知られるのか
債務整理をすると,借金をしていることを家族や職場に知られてしまうのではないかと気にされる方も少なくありません。
自己破産や個人再生をすると官報に掲載されるため,借金のことが知られる可能性がゼロとは言えませんが,それが気づかれる可能性は高くはないように思います。
また,弁護士に依頼する場合,弁護士とやり取りをしていることを家族等に知られないようにしたいことを弁護士に伝えておけば,連絡方法を配慮してもらえると思います。

錯誤取消し

最終更新日2019年10月8日

弁護士に限らず民法を勉強したことのある方であれば,「錯誤無効」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。

現行民法95条本文は,「意思表示は,法律行為の要素に錯誤があったときは,無効とする。」としており,これが錯誤無効です。

例えば,宝石を100万円で買おうと思い,間違って100万$で買うと意思表示してしまった場合,錯誤があったとして,その意思表示を無効と主張できるのです(ただし,意思表示をした人に重大な過失があった場合は無効を主張できないので注意が必要です)。

錯誤の例

 

錯誤無効と似たものとして,「詐欺取消し」があります。

これは,現行民法96条1項で,「詐欺又は強迫による意思表示は,取り消すことができる」とされています。

例えば,宝石がダイヤモンドだと説明されたので,100万円で買おうと思い,100万円で買うと意思表示したが,実はダイヤモンドではなくガラス製だったという場合には,詐欺によるものだとして,意思表示を取り消すことができます。

ところで,錯誤の場合は「無効」,詐欺の場合は「取り消し」と異なっているのはなぜでしょうか。

これについて,錯誤の場合は,意思表示に対応する意思(専門用語では内心的効果意思といいます),上記の例では,「宝石を100万$で買う」という意思は存在しない(「円」「$」と間違えたのであって「100万$」で買うつもりはそもそもない)のに対し,詐欺の場合には,騙されてはいるものの「宝石を100万円で買う」という意思(内心的効果意思)があるのです。

錯誤と取消しの比較

つまり,内心的効果意思の存在しない錯誤の場合には,そもそも意思表示が無効であるのに対し,内心的効果意思が存在する詐欺の場合には,意思表示は一応有効だけれども取り消すことができるというわけです。

このように,内心的効果意思の有無の違いによって,「無効」と「取り消し」が区別されているというのが従来の考え方でした。

ところが,今回の民法改正で,「意思表示は,次に掲げる錯誤に基づくものであって,その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは,取り消すことができる。」とされ,錯誤の場合にも「取り消し」として扱われることになりました。

これが今回のタイトルの「錯誤取消し」です。

どうして取り消しになったのかや,現実問題として何か変わるのかについては,改めて書きたいと思います。

正当防衛

1 正当防衛とは

刑事事件のニュースや刑事ドラマで,時々,「正当防衛」という言葉がでてきますが,どのような場合に正当防衛が認められ,正当防衛となるとどうなるのかご存知でしょうか。正当防衛は,簡単に言うと,相手が攻撃してきた場合に,自分の身を守るために反撃するというものです。

刑法には,36条1項に正当防衛についての定めがあり,「急迫不正の侵害に対して,自己又は他人の権利を防衛するため,やむを得ずにした行為は,罰しない。」とされています。

2 正当防衛となるとどうなる?

刑法では,正当防衛の場合には,「罰しない」とされています。

この「罰しない」の意味について,刑法学上は,違法性が阻却される(なくなる)と考えるのが通常です。

違法性がないと犯罪は成立しませんので,犯罪にならないということです。

3 正当防衛となるための要件

⑴ 「急迫不正の侵害」

まず,正当防衛となるためには,「急迫不正の侵害」が必要です。

例えば,あらかじめ相手がいつどこで襲ってくることがわかっており,この機会に相手に危害を加えてやろうと思い反撃の準備をしていたような場合には,「急迫不正の侵害」は認められず正当防衛にはなりません。

⑵ 「自己又は他人を防衛するため」

他人の権利を守る場合でもよいため,例えば,仲間を助けようとした場合でも正当防衛になります。

⑶ 「やむを得ずにした行為」

正当防衛となるためには,「やむを得ずにした行為」でなければなりません。

例えば,逃げようと思えば問題なく逃げられたのに,あえて反撃したような場合は,「やむを得ずにした行為」とはいえません。

また,素手で殴りかかってきた相手に対して,拳銃で反撃したような場合も,体格差や状況にもよりますが,基本的には「やむを得ずにした行為」とはいえないと考えられます。

4 刑事事件で正当防衛を主張したい場合にはどうすべきか

正当防衛が認められるためには,正当防衛を基礎づける事実関係を主張・立証していく必要がありますので,弁護士にしっかりと相談することが重要です。

民法改正

今年の6月2日に「民法の一部を改正する法律」が公布され,この日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日に改正民法が施行されることになっています。

今回の民法改正は,明治時代以来の大改正と言われており,日常生活や企業活動にも様々な影響を与えるものと考えられます。

既に改正民法への対応は各所で進められていますが,施行に向けて今後より一層加速していくものと思われます。

弁護士業務にも大きな影響を与えるものですので,私も実務上問題となりうる場面を想定しつつ,改正内容の把握に努めています。

破産宣告とは

「破産宣告」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

債務者が破産をしたいと考える場合,裁判所に対して破産手続開始の申立てを行うと,裁判所が審査して要件を満たすと認められる場合には,破産手続の開始の決定が出されます。

この裁判所の決定を以前は「破産宣告」と呼んでいたのですが,現行の破産法では,「破産手続開始の決定」とされています。

弁護士法人心では,借金で悩む個人の方の自己破産や,法人破産を取り扱っております。

破産をする前には,そもそも破産によって免責を受けられるのか,破産よりも適切な解決方法がないのか,破産をするための費用はどのくらいかかりそうかなど検討しておくべき事項が多くあります。

専門的知識がないと難しいところですので,自己破産や法人破産を検討されている方は,破産分野に詳しい弁護士にご相談されるとよいかと思います。

弁護士法人心の自己破産サイトはこちら

交通事故の治療費

交通事故に遭った場合,多くのケースでは,加害者側の保険会社から治療費が支払われます。

では,この治療費はいつまで支払われるのでしょうか?

症状が完治すれば,もちろん完治した時点までですが,問題は,完治が難しい場合です。

これについて,これ以上は治療を続けても症状が改善しないという時点を「症状固定」といい,この症状固定の時点まで加害者に治療費の支払義務があると考えるのが通常です。

この症状固定の時期は,医学的な判断ですので,保険会社や弁護士が決めるものではありません。

裁判所の管轄

最終更新日2019年4月28日

1 裁判所の管轄は『被告の住所地』が原則

訴えを起こす際に,まず考えなければならないことの1つとして,どこの裁判所に訴えを起こせばよいのかという「管轄」の問題があります。

裁判所は全国各地にありますが,どこにでも自由に訴えを起こしてよいというわけではなく,法律上,管轄というのが決められています。

最も基本的なルールとして,被告となる人の住所地には管轄があるということです(民事訴訟法4条1項,2項)。

ですので,相手の住所が名古屋であれば,自分の住所がどこであったとしても,少なくとも名古屋地方裁判所(もしくは名古屋簡易裁判所)には管轄があります。

 

2 多くのケースでは『原告の住所地』にも管轄がある

また,財産上の訴え(代金の支払い請求や損害賠償請求などはこれにあたります)については,「義務履行地」に管轄があります(民事訴訟法5条1号)。

義務履行地というのは,特に指定がされていなければ,「債権者の現在の住所」になります(民法484条)。

つまり,財産上の訴えについては,契約等で義務履行地が定められていない限り,金銭を支給する側(原告側)の住所地にも管轄があるのです。

 

3 不法行為については『不法行為地』にも管轄がある

それ以外にも,例えば,交通事故のような不法行為に関する訴えに関しては,不法行為があった場所,つまり交通事故の場所にも管轄があります(民事訴訟法5条9号)。

結局,交通事故については,被告の住所地にも,原告の住所地にも,交通事故の場所にも管轄があることになります。

 

4 契約による『専属的合意管轄』

また,契約をする際には,あらかじめ,将来争いが生じた場合の管轄裁判所を契約で定めておくこともあります。

「名古屋地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とする」というように,特定の裁判所のみでしか訴訟をしないことを定めておくことを,専属的合意管轄といい,弁護士が契約書を作成するには,この条項を入れておくことがよくあります。

 

5 その他の管轄

そのほかにも訴訟の類型によって管轄が定められている場合があります。

「被告」と「被告人」

「被告」という言葉は,皆さん聞いたことがあるかと思いますが,厳密な意味をご存知でしょうか?

民事訴訟で訴えられた人が「被告」です(訴えた人は「原告」)。

「被告人」という言葉もありますが,これは,刑事事件で裁判にかけられた人のことです。

よく刑事事件に関するニュースで「●●被告に実刑判決」などというのを聞きますが,そこでいう「被告」は厳密には「被告人」で,慣行上「被告」と表現されているようです。

民事訴訟で「被告」と呼ばれて怒っている方を見かけたことがありますが,「被告」という言葉に「悪いことをした人」というイメージがあったからでしょうか。

ちなみに,ニュースで耳にする「容疑者」という言葉は,法律用語では「被疑者」といいます。

「被疑者」が検察官に起訴されると「被告人」となるわけです。

交通事故と代車使用料(レンタカー代)

1 交通事故と代車使用料
交通事故に遭い,車が壊れてしまった場合,修理か買替えが必要となり,その間は車がなくなってしまいます。
その間に代車を使った場合,代車使用料を加害者に請求することができることがあります。

2 代車の必要性
代車使用料が認められるためには,代車の必要性と,実際に代車を使用したことが必要です。
日頃から車を通勤等に使っていたという場合には,代車の必要性が認められやすいですが,他にも車を保有していた場合や,電車やバスなどの公共交通機関の利用が可能かつ相当である場合には,代車の必要性が否定されることもあります。
裁判例でも,「被害車両を使用して自宅から約三キロメートルの会社に通勤していたことが認められるところ、バスや電車等の公共の交通機関やタクシーの利用では不十分であることなどの主張、立証がなく、そのうえ、原審における第一審原告A本人尋問の結果によれば、第一審原告ら宅には被害車両のほかに普通乗用車、軽トラック、原付自転車各一台が所有されていることが認められるから、代車使用の必要性があるものとはいい難く、代車使用料相当の損害の主張は採用できない」として代車の必要性を否定しているものがあります(大阪高判平成5年4月15日交通事故民事裁判例集26巻2号303頁)。

3 代車の使用期間
事故に遭った車の修理や買替えに必要な相当期間を限度として,代車使用料が認められます。
ですので,例えば,車を修理に出して代車を3週間使用したとしても,その事故に遭った車の修理に必要な相当期間が2週間だったとすれば,代車使用料は2週間分しか認められません。
代車の使用期間として認められるのは,もちろんそれぞれのケースごとに異なりますが,修理の場合は2週間程度,買替えの場合には1か月程度というのが一つの目安とされています。
また,加害者側保険会社等との交渉期間についても相当期間に含められることがあります。
裁判例でも,「一般に,加害者の示談交渉を代行し,交通事故処理を専門的かつ継続的に担当する損害保険会社の担当者は,被害者に対して合理的な損害賠償額の算定方法について十分かつ丁寧な説明をなし,その根拠資料を示して,被害者の理解を得るように真摯な努力を尽くすべきであって,ことに,被害者側に何らの落ち度もない事案においては,被害感情が高いことが少なく(原文ママ),その必要性は大変高いものということができる。そして,被害者が納得するための説明,交渉等に時間を要し,その結果,修理又は買換手続に着手する以前の交渉等に費やされた期間中に代車料が生じたとしても,それが,加害者(損害保険会社の担当者)の具体的な説明内容や被害者との交渉経過から見て,通常の被害者が納得して修理又は買換手続に着手するに足りる合理的な期間内の代車料にとどまる限り,加害者(損害保険会社)はその代車料についても当然に負担する責任を負わなければならない。」とし交渉期間についても代車使用料を認めたものがあります(東京地判平成13年12月26日交通事故民事裁判例集34巻6号1687頁)。

4 代車の車種
どのような車種を代車としてもその使用料が認められるわけではありません。
事故に遭った車と同程度の車種であればその代車の使用料が認められるというのが基本的な考え方です。
ただ,事故に遭ったのが高級外車の場合には,国産高級車の限度で代車使用料が認められる傾向にあります。
裁判例でも,「原告車には、事務が行えるよう電話機、ファックスなど機器が備えつけられていた。原告が営業車として特に原告車を使用していた理由は、安全性が高いこと、車内で事務が可能であること、多人数を乗車させることができること、会社の体面などである。」と認定した上で,「原告が原告車を営業車として使用していた理由は、修理期間という短期間であることも考えれば、いずれも国産高級車をもって十分代替できるところで、代車としてキャデラックのリムジンを使用しないことによって、営業活動に与える支障は特段認めることができず、他に原告の主張を認めるに足りる証拠もない。」として,高級外車ではなく国産高級車の限度で代車使用料を認めたものがあります(東京地判平成7年3月17日交通事故民事裁判例集28巻2号417頁)。

5 まとめ
このように,交通事故で車が壊れたとしても,無制限に代車使用料が賠償されるわけではありません。
代車使用料について保険会社との話がまとまらない場合には,弁護士に相談してみるのもよいかもしれません。

交通事故におけるレンタカー代については,こちらもご覧ください。

主婦にも休業損害が出る?

1 主婦でも休業損害が認められる
交通事故に遭われた主婦の方の中には,会社等から払われている給料等が無いので,休業損害は認められないと思われている方が少なくありません。
ですが,主婦の方でも誰かのために家事労働を行っており,それが事故によってできなくなったという場合には,休業損害が認められます。

2 主婦の休業損害の金額
損害額は,賃金センサス等により1日あたりの収入額を出し、そこに家事ができなかった日数をかけて算定するのが一般的です。
これに関してご注意いただきたいのが,「5700円×休業日数」という計算式です。
これは,自賠責保険における休業損害の計算式であり,加害者(あるいはその保険会社)と示談交渉をする際には,この計算式を用いる必要はありません。
自賠責保険というのは,最低限度の補償ですので,この自賠責保険の計算式を用いると,賃金センサス等によって計算する場合よりも低い金額になってしまいます。

3 休業損害が認められるには
休業損害が認められるためには,家事労働ができなかったということをしっかりと主張・立証することが重要です。
現実には,交通事故で怪我をして体を動かすのがつらいけれども,他に家事をやってくれる人がいないので,無理をして家事をしていたという場合も少なくありません。
このような場合であっても,怪我をしていない場合と比べて,家事ができる量が減っていたような場合であれば,そのできなかった割合分が損害であるとして主張していくこともあります。
どのように主張・立証していくかによって,金額が変わってくることが少なくありませんので,交通事故に詳しい弁護士にご相談されるとよいかと思います。
主婦の休業損害についてはこちらもご覧ください。

人身傷害保険

自動車保険の一種に人身傷害保険というものがあります。

通常,交通事故で損害を受けた被害者は,事故の相手方あるいは相手方の保険会社に対して損害賠償請求をすることになります。

人身傷害保険に入っている場合には,契約している保険会社から損害の補償を受けることができます。

この人身傷害保険が大きな意味を持ってくるケースの1つとして,被害者側にも一定の過失がある場合です。

例えば,被害者が300万円の損害を受けたが,被害者にも30%の過失がある場合を考えてみましょう。

この場合,被害者が相手方あるいは相手方の保険会社に損害賠償請求をしても,自己の過失分30%が引かれるため,認められるのは,300万円×70%=210万円になります。

残りの90万円については,相手方あるいは相手方の保険会社から賠償を受けることができません。

では,人身傷害保険に入っている場合にはどうなるのでしょうか。ここでは,人身傷害保険の基準に従って人身傷害保険から支払われる額が120万円と仮定します。

まず,①先に人身傷害保険からの支払を受け,その後に相手方に請求するケースを考えます。

この場合,人身傷害保険から120万円の支払いを受け,300万円との差額の180万円について相手方あるいは相手方の保険会社に損害賠償請求をすることができると考えられています。

次に,②先に相手方に請求し,その後に人身傷害保険の請求をする場合を考えます。

この場合は,まず,相手方あるいは相手方保険会社から300万円×70%=210万円の賠償を受けることができます。

その後,人身傷害保険からの支払がどうなるのかが問題になりますが,これは人身傷害保険の約款次第です。

「判決や裁判上の和解がある場合には,損害額を裁判所基準にする」といった内容の約款であれば,裁判所基準での損害が300万円であるとすると,相手方からまだ受け取っていない90万円について,人身傷害保険からの支払を受けることができます。

他方で,「人身傷害保険の基準によって計算された金額が支払われる」という内容の約款であった場合には,120万円が限度となり,既に,相手方から210万円の賠償を受けているので,人身傷害保険からの支払は受けられないとされてしまう可能性があります。

現に,大阪高判平成24年6月7日判決は,このような考え方にたっているものと思われます。

過失がある場合に人身傷害保険が役立つのですが,その考え方はとても複雑ですので,具体的場面でご不明点等がある場合には,弁護士等の専門家に相談されるのがよいかと思います。

交通事故の示談交渉

交通事故に遭ってケガを負った場合,治療が終わった段階で相手方の保険会社から示談の話が出てきます。

基本的には,保険会社の方から,「損害賠償金提示のご案内」などのタイトルで,示談金額が計算された書類が届きます。

示談書にサインをして送り返すと,少ししてから示談金額が支払われます。

ここで,気をつけたいのは,示談金額は交渉次第で大きく変わるということです。

弁護士が入って交渉することで数十万円以上示談金額が増額することも少なくありません。

保険会社から示談の話が出てきたら,まずは,示談金額が適切かを弁護士に見てもらった方が安心です。

弁護士費用特約⑵

実はご自身の保険に弁護士費用特約がついているのに気が付いていないという方も少なくありません。

交通事故に遭ったりして,弁護士に依頼することが必要になった場合には,ぜひ自動車保険の保険証券を確認してみてください。

また,弁護士費用特約は,家族の保険のものを使えることもありますし,火災保険等についていることがありますので,こちらも確認してみるとよいと思います。

せっかく入っている保険を有効活用しましょう。

弁護士費用特約⑴

「弁護士費用特約」をご存知でしょうか?

交通事故に遭ってしまった場合等に,一定の範囲内で,弁護士費用を出してもらえるという保険です。

交通事故に遭ってしまった場合,弁護士が必要になる場面が意外と多くあります。

「まだ治療を続けたいのに相手方保険会社から治療費の支払を打ち切られた」,「治療しても症状が残ってしまったので後遺障害の申請をしたい」,「相手方保険会社から示談金額の提案があったが適切な額かわからない」などといった場合,弁護士に相談・依頼すべきです。

年間数千円程度の保険料で弁護士費用特約を付けられるので,ぜひ特約を付けておくことをおすすめします。

有給休暇

今日は,有給休暇についてお話します。

有給休暇というのは,皆さんご存知のとおり,賃金が支払われる有給の休暇日のことです。

皆さん,有給休暇については,なんとなく知っているかと思いますが,法律上どのような制度になっているのかを厳密に知っている方は少ないのではないでしょうか。

まず,会社は,6か月間継続勤務した労働者には,最低10日間の有給休暇が与えなければならず,そこから1年ごとに労働者に最低限与えなければならない有給休暇の日数が増えていき,最大で20日間の有給休暇を与えなければなりません。

次に,何のために有給休暇を使うのかは労働者の自由とされており,また,有給休暇を取得したことによる不利益な取り扱いは,原則として違法とされています。

さらに,労働者は,基本的には,労働者の休みたい日に有給休暇を使うことができます。

ただし,会社は,「事業の正常な運営を妨げる場合」には,労働者の有給の使用を拒否することができます(これを法律用語では,「時季変更権の行使」といいます。)。

「事業の正常な運営を妨げる場合」とは,有給休暇を取る日の仕事が、労働者の担当している業務や所属する部・課・係など、一定範囲の業務運営に不可欠であり、代わりの労働者を確保することが困難な場合をいい,慢性的な人手不足などはこれにあたらないと考えられています。

正当な理由なく有給休暇を取らせてもらえなかったり,有給休暇を取得したことにより不利益な扱いを受けたりしたときには,弁護士等の専門家に相談した方がよいかもしれません。

クーリングオフ

「クーリングオフ」という言葉はご存知の方も多いかと思いますが,一定の取引について,一定期間内であれば契約の申し込みを撤回したり,契約を解除したりできるというものです。

クーリングというのは,冷却するという意味で,クーリングオフは冷静に考えた上で契約をやめたいという消費者を保護するための制度です。

クーリングオフができる期間には制限がありますので,お悩みの際には,速やかに弁護士等に相談することが大切です。

法改正

法律も社会の変化によって実情に合わなくなることがあります。

その場合には,法改正がなされます。

現在,民法の大改正が進められており,各所に大きな影響がでると考えられます。

公示送達

所在不明の人を相手として訴訟を提起したい場合にはどうすればよいかご存じですか。相手の所在がわからないために、弁護士に相談する前にあきらめていた方もいるのではないでしょうか。

 

まず,訴えを提起するには裁判所に訴状を提出しなければなりません。裁判所に提出された訴状に問題がなければ,訴状の副本が被告に送達され,訴訟が開始されます。

送達にはいくつかの方法がありますが,実務上は郵便による送達が行われるのが通常です。

ところが、相手の所在がわからない場合には,このような方法で送達することができません。

 

そこで役に立つのが「公示送達」という制度です。

公示送達とは,裁判所に出頭すれば送達すべき書類をいつでも交付する旨を裁判所の掲示場に掲示し,掲示の日から2週間経過するとその書類が送達されたことにするというものです。

日頃から裁判所の掲示場をチェックしている人は滅多にいませんので,掲示に気づく可能性は極めて低いのですが,それでも,送達されたことにしてしまおうというのが公示送達なのです。

 

この公示送達の制度により,相手の所在が不明であっても訴訟を提起することができるようになっています。