1 憲法と法律は何が違うのか?
憲法と法律の違いについて,憲法は「国家権力」に向けられた法規範であるのに対し,法律は「国民」に向けられた法規範であるなどと説明されることがあります。
例えば,刑法は犯罪と刑罰について定められた「法律」で,「国民」が刑法に違反した場合に刑罰が与えられるという「国民」を対象にしたルールです。
また,民法も,私人間の取引や家族関係などについて定められた「法律」で,これもまた「国民」を対象にしています
これに対して,憲法は,「国家権力」に向けられたもので,例えば,国が,国民による自由な言論を一切認めないという法律を作ったとしたら,表現の自由について定める憲法に違反することになるわけです。
このように,憲法と法律は対象がそもそも異なります。
2 憲法に違反する法律はどうなるのか?
憲法98条には,「この憲法は,国の最高法規であつて,その条規に反する法律,命令,詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は,その効力を有しない。」と定められており,憲法に違反する法律は無効となります。
問題は,憲法に違反するかを誰が判断するのかです。
これについては,憲法81条で,「最高裁判所は,一切の法律,命令,規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」と定められており,最終的には,最高裁判所が判断することになります。
ちなみに,日本ではこのように通常の裁判を行う司法裁判所が違憲審査をするのですが,ドイツのように違憲審査を行う専門の憲法裁判所がある国もあります。
3 法律が憲法違反だと思ったら裁判所に審査してもらえる?
日本の場合,具体的な争いごとを解決する必要な限度で違憲審査がされる仕組みになっており(具体的な事件に付随して審査を行うという意味で付随的審査制といいます。),具体的な争いごとを離れて,法律が憲法違反かどうかの判断を裁判所に審査してもらうことはできません。
4 憲法違反にも種類がある?
そもそも法律自体が憲法に違反しているという「法令違憲」と,法律自体は合憲だけれども,ある具体的な場面においてその法律を適用させることが憲法に違反するという「適用違憲」があります。
例えば,昔は刑法200条で「自己又ハ配偶者ノ直系尊属ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ処ス」というのがあり,親や祖父母などの直系尊属を殺害した場合には,通常の殺人罪(刑法199条)よりも重い刑罰が定められていました。
これについて,実父から性的虐待を受けていた女性が実父を殺害した事件で,刑法200条が憲法に違反するかが争われ,1973年に最高裁判所は,刑法200条自体が,平等原則を定めた憲法14条に違反すると判断しました。
このように,刑法200条という法律自体が憲法違反だとされるのが法令違憲です。
これに対して,例えば,1952年に名古屋で発生した高田事件では,事件から15年間にわたって刑事裁判の審理が行われなかったことについて,最高裁判所は,被告人の迅速な裁判を受ける権利を侵害するとして違憲の判断をしており(参考:最高裁判決全文),これは,刑法や刑事訴訟法自体が憲法に違反するわけではなく,本件において,それを適用することが憲法に違反するというものです。
5 まとめ
以上のように,憲法と法律は対象が異なるものであり,国家権力による憲法違反が争われた場合には,具体的な事件を解決するのに必要な限度で,裁判所が,法律自体または法律適用の違憲性を判断することになります。