遺言作成の件数

1 遺言を作成する人は増えているのか?
近年、「相続対策」や「終活」に関する意識が高まっており、弁護士としては遺言を作成する人は増加しているように感じられますが、実際にはどうなのかを入手可能なデータをもとに考えてみます。
まず、遺言には、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3種類があるのですが、③秘密証書遺言は件数が少ないため除外して、ここでは、①自筆証書遺言、②公正証書遺言の件数についてみていきます。

2 ①自筆証書遺言について
自筆証書遺言は、自分で作成できるものですので、作成しただけの段階では、すぐには件数として把握できません。
もっとも、自筆証書遺言について、法務局による保管制度ができましたので、その保管件数については把握できます。
また、自筆証書遺言のうち、法務局で保管していなかったものについては、遺言者が死亡した後に、遺言の保管者又は遺言を発見した相続人が、家庭裁判所において遺言の検認をしなければならないため、その検認の件数についても把握することができます。
そこで、以下、法務局での保管件数と検認の件数についてみていきます。

⑴ 法務局での保管件数
法務局における自筆証書遺言保管制度は、2020年7月に開始されたものですので、それ以前の統計はありませんが、2022年に保管された件数は、1万6954件でした。
参考リンク:法務省民事局・遺言書保管制度の利用状況

⑵ 検認の件数
遺言の件数は、裁判所が公表している司法統計によると、2012年には1万4996件であったのに対し、2021年には1万9576件と約30.5%増加しています(2022年の数値は現時点では公表されていないため、2021年の数値を記載しています。)。
注意点としては、検認は、死亡後の手続きですので、遺言作成からタイムラグがあるということと、死者数が増加すれば検認の件数も増加しやすいということです。
後者について、2012年と2021年の死者数の増加率についてみてみると、厚生労働省の人口動態統計月報年計(概数)の概況によると、2012年は125万6254人であるのに対し、2021年は143万9809人であり、その増加率は約14.6%で、検認の増加率の方が倍以上であることがわかります。
参考リンク:平成24年人口動態統計月報年計(概数)の概況令和3年人口動態統計月報年計(概数)の概況

3 ②公正証書遺言について
公正証書遺言については、日本公証人連合会が統計を出しており、遺言公正証書の作成件数が、2012年には8万8156件であったのに対し、2022年には11万1977件と約27%増加しています。
参考リンク:令和3年の遺言公正証書作成件数について令和4年の遺言公正証書の作成件数について

4 まとめ
以上からすると、遺言を作成する人は増加している可能性が高そうです。
ただ、検認については、上記のとおりタイムラグがあることに加えて、法律に違反して検認がなされないケースや、そもそも作成した遺言が発見されずに検認に至らないケースもあると思いますし、また、公正証書遺言については、同一の人が何度も作成しているケースもあると思いますので、完全に上記数字のとおりに遺言を作成する人の数が推移しているとは限らない点に注意が必要です。