1 時効の完成猶予・更新
時効完成前に、債権者から「裁判上の請求」や「支払督促」などを受けた場合には、その事由が終了するまでの間は、時効は完成せず(民法147条1項)、これを「時効の完成猶予」といいます。
また、上記の場合において、「確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したとき」は、上記事由が終了した時から新たに時効が進行することになり(同条2項)、これを「時効の更新」といいます。
また、債務者が、債務の存在を認めたり、一部の弁済をしたような場合にも、「権利の承認があった」として、時効が更新されます(同法152条1項)。
ここでのポイントは、これらの条文は、時効の完成前であることを前提としているという点で、時効の完成後には、これらの条文は適用されません。
それでは、時効の完成後に、①債務を承認した場合、②債権者から支払督促がなされ、放置していたところ、仮執行宣言付支払督促が確定してしまった場合、③債権者から裁判上の請求を受けたものの対応せず、判決が確定してしまった場合は、それぞれどうなるのでしょうか。
以下、順に考えていきます。
2 ①時効の完成後に、債務を承認した場合
この場合は、 最判昭和41年4月20日民集第20巻4号702頁において、「その債務についてその完成した消滅時効の援用をすることは許されない」とされており、その理由として、「時効の完成後、債務者が債務の承認をすることは、時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり、相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろうから、その後においては債務者に時効の援用を認めないものと解するのが、信義則に照らし、相当であるからである」とされています。
3 ②時効完成後に、債権者から支払督促がなされ、放置していたところ、仮執行宣言付支払督促が確定してしまった場合
このような場合には、債務者としては、請求異議の訴えにおいて、時効の援用をすることが考えられます。
これが信義則に反して許されないのではないかという点が問題となり得ますが、宮崎地判令和2年10月21日では、支払督促の手続きの中で時効の援用をしなかったことについて、「そのような消極的対応は、時効による債務消滅の主張と相容れないものとまではいえず、それゆえ、本件貸金債権の消滅時効の援用は、信義則に反するとはいえない」として、消滅時効の主張を認めています。
4 ③時効完成後に、債権者から裁判上の請求を受けたものの対応せず、判決が確定してしまった場合
この場合には、債務者としては、債務不存在確認訴訟や請求異議の訴えにおいて、時効の援用をすることが考えられます。
しかし、この場合は、支払督促の場合とは異なり、債務者の主張は認められません。
なぜなら、確定判決には「既判力」(民事訴訟法114条1項)があり、前訴の訴訟物である権利義務関係についてはもはや争うことができないからです。
なお、支払督促について、民事訴訟法396条は、仮執行宣言付支払督促が確定したときは、「確定判決と同一の効力を有する」としているのですが、ここでいう効力に「既判力」は含まれないと解釈されますので、支払督促の場合には既判力による遮断が生じず、時効の主張ができるという結論を導き出すことが可能です。
5 消滅時効に関するご相談
消滅時効に関しては、制度を理解するのが必ずしも容易ではなく、判断を誤った場合の不利益も多いですので、具体的な問題でお悩みの際は、弁護士にご相談されるのがよいかと思います。