財産開示手続について

1 概要
金銭の支払いを求めて訴訟提起し、勝訴しても、被告(債務者)が支払わないことがあります。
その場合、強制執行手続を行うことになりますが、債務者の財産状況が不明であると、事実上、強制執行手続を行うことができません。
そのような場合に活用できるのが、民事執行法上の「財産開示手続」と「第三者からの情報取得手続」です。
以前は実効性が無いとも言われていましたが、2020年の法改正によって、ある程度実効性のある制度に変わりました。
令和5年司法統計年報の民事・行政編によると、裁判所における財産開示手続の件数が、2019年は577件であったのに対し、2023年には2万2022件にまで急増しています。
参考リンク:裁判所・司法統計年報
今回は、この財産開示手続について説明します。

2 財産開示手続
⑴ 管轄
債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が管轄します(民事執行法196条)。
例えば、債務者が名古屋市中村区に住所があれば、名古屋地方裁判所の管轄となります。

⑵ 要件
財産開示手続きを申し立てるためには、
①執行力のある債務名義があること
②強制執行又は担保権の実行で完全な弁済を得ることができなかったこと、あるいは、知れている財産に対する強制執行を実施しても完全な弁済を得られないことの疎明がなされたこと
③強制執行を開始することができないときでないこと
が必要です(同法197条1項)。

①について、判決、仮執行宣言付支払督促、公正証書などがこれに該当します。
なお、以前は、仮執行宣言付判決などでは財産開示手続の申立てができなかったのですが、法改正によって、できるようになりました。
③について、破産手続開始決定、民事再生手続開始決定等がなされている場合がこれに該当します。

なお、債務者が3年以内に財産開示期日で財産について陳述していた場合には、原則として、財産開示手続を実施することができません(同法197条3項)。

⑶ 手続の内容
債務者は、裁判所によって定められた期日までに、財産開示期日において開示する財産の目録を作成し、裁判所に提出しなければなりません(民事執行規則183条)。
また、債務者は、財産開示期日に裁判所に出頭し、財産について陳述しなければなりません(民事訴訟法199条1項)。
裁判所は債務者に質問をすることができ(同条3項)、申立人も裁判所の許可を得て質問をすることができます(同条4項)。
財産開示期日は、非公開で行われます(同条6項)。

⑷ 刑罰
財産開示手続に応じなかった場合等について、刑罰が定められています。
具体的には、
・債務者が呼出しを受けた財産開示期日において、正当な理由なく、出頭せず、又は宣誓を拒んだ場合
・宣誓をした債務者が、正当な理由なく、陳述すべき事項について陳述をせず、又は虚偽の陳述をした場合
には、6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されます(同法213条1項5号6号)。
債務者が財産開示手続の呼出しを無視して出頭しなかったような場合には、刑事告発をするという対応も考えられます。

懲役刑・禁錮刑と拘禁刑

日本の刑罰について、刑法9条は、「死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。」としています。

この中でわかりにくいのが、「懲役」と「禁錮」の違いですが、「刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる。」(刑法12条2項)、「禁錮は、刑事施設に拘置する。」(刑法13条2項)とされており、いずれも拘置されるのは共通ですが、所定の作業を行わなければならないものか否かが異なります。

なお、所定の作業とは、いわゆる刑務作業を意味し、木工作業、印刷作業、洋裁作業、金属作業などを行います(参考リンク:法務省・名古屋市刑務所)。

この懲役と禁錮については、法改正によって「拘禁刑」となり、2025年6月1日から施行されます。

この拘禁刑については、「刑事施設に拘置する。」「拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる。」とされており、懲役と禁錮が一本化されたと言われています。

ちなみに、既に施行されている「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」(いわゆる「撮影罪」)では、例えば性的姿態等撮影について「三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する」とし、現時点で「拘禁刑」という言葉が使われており、一見すると拘禁刑が現時点で施行されているように思えますが、刑法の一部改正に伴う経過措置として、刑法等の一部を改正する法律の施行日の前日までは、「拘禁刑」とあるのは「懲役」とするとされており、やはり2025年6月1日までは懲役刑となります。