自動車保険の一種に人身傷害保険というものがあります。
通常,交通事故で損害を受けた被害者は,事故の相手方あるいは相手方の保険会社に対して損害賠償請求をすることになります。
人身傷害保険に入っている場合には,契約している保険会社から損害の補償を受けることができます。
この人身傷害保険が大きな意味を持ってくるケースの1つとして,被害者側にも一定の過失がある場合です。
例えば,被害者が300万円の損害を受けたが,被害者にも30%の過失がある場合を考えてみましょう。
この場合,被害者が相手方あるいは相手方の保険会社に損害賠償請求をしても,自己の過失分30%が引かれるため,認められるのは,300万円×70%=210万円になります。
残りの90万円については,相手方あるいは相手方の保険会社から賠償を受けることができません。
では,人身傷害保険に入っている場合にはどうなるのでしょうか。ここでは,人身傷害保険の基準に従って人身傷害保険から支払われる額が120万円と仮定します。
まず,①先に人身傷害保険からの支払を受け,その後に相手方に請求するケースを考えます。
この場合,人身傷害保険から120万円の支払いを受け,300万円との差額の180万円について相手方あるいは相手方の保険会社に損害賠償請求をすることができると考えられています。
次に,②先に相手方に請求し,その後に人身傷害保険の請求をする場合を考えます。
この場合は,まず,相手方あるいは相手方保険会社から300万円×70%=210万円の賠償を受けることができます。
その後,人身傷害保険からの支払がどうなるのかが問題になりますが,これは人身傷害保険の約款次第です。
「判決や裁判上の和解がある場合には,損害額を裁判所基準にする」といった内容の約款であれば,裁判所基準での損害が300万円であるとすると,相手方からまだ受け取っていない90万円について,人身傷害保険からの支払を受けることができます。
他方で,「人身傷害保険の基準によって計算された金額が支払われる」という内容の約款であった場合には,120万円が限度となり,既に,相手方から210万円の賠償を受けているので,人身傷害保険からの支払は受けられないとされてしまう可能性があります。
現に,大阪高判平成24年6月7日判決は,このような考え方にたっているものと思われます。
過失がある場合に人身傷害保険が役立つのですが,その考え方はとても複雑ですので,具体的場面でご不明点等がある場合には,弁護士等の専門家に相談されるのがよいかと思います。