近頃、テレビをつけると、連日、ロシアとウクライナの間の戦争に関するニュースが流れています。
あらためて確認しなおすと、ロシア軍がウクライナに実際に侵攻を開始したのが2月24日のことだったようですから、かれこと、2か月ほど戦争状態が続いていることになります。
ニュースを見ていると、基本的にロシアを非難する報道が多く、また、ロシアの軍事行動を抑制できない国連の機能不全などについても語られています。
本来なら「国連総会」「安全保障理事会」「常任理事国」といったキーワードは、中学・高校の公民の授業で学んでいるはずなのですが、日本で生活している一般人の自分にとって、国連の話は、宇宙ステーションの話と同じくらい遠い世界の話に感じられて、あまり国際関係に関する制度や法律を真面目に勉強をしたことがありませんので、ニュースで国連決議が採択できないなどと報道されているのを見ても、具体的にどういう制度の話をしていて、何ができないから機能不全だといわれているのかが理解できませんでした。
そこで、弁護士として、日本国内の法律を扱う仕事が中心であるとはいえ、国際関係に係る法律やルールを知っておくのも重要かと思い、これを機会に国連の仕組みについて、政治的な観点ではなく、法律的な観点から少し勉強してみることにしました。
このブログを読んでくださっている方も、高校の授業の復習と思って読んでいただけると、ウクライナのニュースなどがより分かりやすくなるのではないかと思います。
ニュースでみる、国連の決議の話などを理解するうえで、一番わかりやすい方法は、国連憲章というものを読んでみることだと思います。
国連憲章とは、国際連合に係る基本的な事項を定めた条約であり、加盟国の権利や義務を規定するとともに、国連の主要機関や手続きを定めているとされています。
簡単にいってしまえば、日本国の国の在り方を決めるのが日本国憲法であるとすると、国際連合に加盟する国々の間で作られる国際社会の在り方を決める根本ルールが国連憲章であるということになります。
国際連合ができたのは第2次世界大戦が終わった1945年のことですが、日本が国際連合に加盟したのは1956年のことですので、1956年以降は、国連憲章は、あまり意識されることはありませんでしたが、日本人にも適用される規範となっていたことになります。
この国連憲章では、様々なことが定められていますが、日本国憲法に国会や内閣に関するルールが定められているように、国連憲章7条では、「国際連合の主要機関として、総会、安全保障理事会、経済社会理事会、信託統治理事会、国際司法裁判所及び事務局を設ける。」として、国連の基本的な機関の設計が定められています。
このうち、今回のような戦争があった際に一番関係してくるのが「安全保障理事会」です。
安全保障理事会は、国連憲章の第5章23条以下に、いろいろなルールが定められています。こういった「機関」について細かな条項の文言を全部しっかり読むのはなかなか、骨が折れる仕事です。
まず、どんな機関かという点を理解するために、国連憲章23条1項をみると「安全保障理事会は、15の国際連合加盟国で構成する。中華民国、フランス、ソヴィエト社会主義共和国連邦、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国及びアメリカ合衆国は、安全保障理事会の常任理事国となる。総会は、第一に国際の平和及び安全の維持とこの機構のその他の目的とに対する国際連合加盟国の貢献に、更に衡平な地理的分配に特に妥当な考慮を払って、安全保障理事会の非常任理事国となる他の10の国際連合加盟国を選挙する。」と書かれています。
ここでポイントを整理すると、①安全保障理事会は15か国で構成されていること、②その15か国のうち中国、フランス、ソ連(現ロシア)
、イギリス、アメリカの5か国は常に理事会のメンバーになること、③15か国のうち、残りの10か国は総会の選挙で決めること、がポイントとなっています。
そして、このように構成される安全保障理事会が、どんな役割を果たすのかというと、国連憲章24条1項では「国際連合の迅速且つ有効な行動を確保するために、国際連合加盟国は、国際の平和及び安全の維持に関する主要な責任を安全保障理事会に負わせるものとし、且つ、安全保障理事会がこの責任に基く義務を果すに当って加盟国に代って行動することに同意する。」と記載されており、国際平和及び安全維持に関することを安全保障理事会が担うとされています。
では、国際平和及び安全維持に関する仕事をするのかというと、これは、国連憲章の第6章以下に記載されており、ここでその全部を記載することは困難ですが、様々な、要請や調査、注意喚起などをすることが規定されています。
そして、そのような安全保障理事会の仕事をする上で、どのように安全保障理事会が意思決定をするかというと、国連憲章の27条で、「①安全保障理事会の各理事国は、1個の投票権を有する。②手続事項に関する安全保障理事会の決定は、9理事国の賛成投票によって行われる。③その他のすべての事項に関する安全保障理事会の決定は、常任理事国の同意投票を含む9理事国の賛成投票によって行われる。但し、第6章及び第52条3に基く決定については、紛争当事国は、投票を棄権しなければならない。」とされています。
ここで、ポイントをあげると、まずは①1国1票の投票制になっていること、②手続き事項に関する決定と、その他の事項に関する決定とで意思決定の条件が異なっていること、③手続き事項については、15か国中9か国の賛成投票で決定がされること、④その他の事項について、「常任理事国の同意投票を含む」9か国の賛成投票が必要とされていることです。
この常任理事国の同意投票を含むと記載されているため、常任理事国が同意しないと、手続き事項以外については、安全保障理事会は決定ができないこととなります。
常任理事国が「拒否権」をもっているということがニュースでいわれていますが、具体的にその「拒否権」の根拠をみると、国連憲章のこの部分が拒否権の根拠ということができます。
国連憲章の話は、かなり話がながくなるので、引き続き、本ブログで整理してご紹介していきたいと思います。