国連決議について

ニュースを振り返ってみていると、ロシアのウクライナ侵攻をめぐって、何種類かの国連決議が話題に上っていました。

1つは、2月下旬に話題になっていた、国連の安全保障理事会での決議です。ロシアのウクライナからの即時撤退を求める採決が行われ、否決されました。

2つ目は、3月初旬におこなわれた国連総会の緊急特別会合での、ロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議です。

こちらは、賛成多数で採択されました。

3つ目は、3月下旬に国連の安全保障理事会にロシアが提出した人道決議の採決で、こちらは否決されています。

4つ目は、同じく3月下旬に国連総会に欧米主導で提出された人道決議案の採決で、こちらは賛成多数で採択されています。

このように整理すると、安全保障理事会の採択はすべて否決でおあり、国連総会での決議は可決されていることがわかります。

これを、なぜこのような結論になったのかを国連憲章との関係で確認すると、

前回の記事で触れた国連憲章27条に基づき、常任理事国に拒否権があるため、常任理事国同士で意見対立が生じる今回のウクライナ侵攻については、常任理事国の拒否権により決議が採決に至らなかったということになります。

他方で、国連総会の決議には、そのような拒否権の規定は定められていません。

国連憲章18条をみると

「1 総会の各構成国は、1個の投票権を有する。

2 重要問題に関する総会の決定は、出席し且つ投票する構成国の3分の2の多数によって行われる。重要問題には、国際の平和及び安全の維持に関する勧告、安全保障理事会の非常任理事国の選挙、経済社会理事会の理事国の選挙、第86条1cによる信託統治理事会の理事国の選挙、新加盟国の国際連合への加盟の承認、加盟国としての権利及び特権の停止、加盟国の除名、信託統治制度の運用に関する問題並びに予算問題が含まれる。

3その他の問題に関する決定は、3分の2の多数によって決定されるべき問題の新たな部類の決定を含めて、出席し且つ投票する構成国の過半数によって行われる。」

と規定されていますので、こちらは、構成国1国1票の多数決で決議が採択される仕組みとなっています。

なお、安全保障理事会の決議と、国連総会の決議とでは、前者には法的拘束力があるが、後者には法的拘束力がないといわれています。

安全保障理事会の決議に法的拘束力があるといわれる理由は、一般的に国連憲章25条に

「国際連合加盟国は、安全保障理事会の決定をこの憲章に従って受諾し且つ履行することに同意する。」と規定されていることによると説明されています。

ただし、日本国内で法律が法的拘束力をもつ場合には、その法律に違反がなされれば、刑事罰をもって強制をすることができますし、民事分野でも民事執行などにより、強制的に目的を実現する方法が用意されています。

他方で、国連については、そういった執行機関が制度的に整備されているわけではありません。

「平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決定し、並びに、国際の平和及び安全を維持し又は回復するため」に必要がある措置については、国連憲章7章39条以下に定められています。

安全保障理事会は、

①国連憲章39条に規定されている「勧告」すること、

②国連憲章40条により「必要又は望ましいと認める暫定措置に従うように関係当事者に要請」すること、

③国連憲章41条により「兵力の使用を伴わないいかなる措置を使用すべきかを決定することができ、且つ、この措置を適用するように国際連合加盟国に要請する」ことができます。

基本的に、最初は勧告又は要請を中心に進めていくわけです。

なお、要請といっても国連憲章41条で要請できる措置には「経済関係及び鉄道、航海、航空、郵便、電信、無線通信その他の運輸通信の手段の全部又は一部の中断並びに外交関係の断絶を含むことができる。」とされていますので、かなり踏み込んだ対応を要請できることがわかります。

そして、国連憲章42条では「安全保障理事会は、第41条に定める措置では不充分であろうと認め、又は不充分なことが判明したと認めるときは、国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍又は陸軍の行動をとることができる。この行動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる。」と規定されており、

39条から41条の勧告又は要請によって問題を解決できないときには、国連憲章に基づいて安全保障理事会の決議に基づく軍事行動が可能なようになっています。

このようにみると、勧告等のソフトな手続きから団体的に実行力のある強制的措置に進んでいく制度設計は、日本国内の行政法規の設計とよく似た仕組みになっています。

なお、今回のロシアのウクライナ侵攻については、大阪弁護士会でも、国連憲章や日本国憲法に言及しながら「ロシア連邦のウクライナに対する軍事侵攻に反対する会長談話」というものが出されていますので、興味のある方はご参照ください。