文化財保護法について

裁判の手続などで大阪から京都まで出張することが頻繁にあるのですが、毎年この季節は京都駅にも祇園祭りに関連する飾りつけなどが増えていきます。

祇園祭りは京都を代表する歴史の深いお祭りのひとつであり、この季節は京都の市街地が祭り一色に染め変えられたかのような印象を受けます。

京都の地元の方にとって重要なお祭りであることはもちろんですが、全国的にも有名なお祭りで、たくさんの観光客が見物に来られています。

弁護士として法律的な観点からお話をすると、祇園祭りは法的な面でも文化財保護法によってその重要性が認められています。

祇園祭りの山鉾行事については重要無形民俗文化財に、各々の山鉾についても重要有形民俗文化財に指定されています。

このように、重要無形民俗文化財や重要有形民俗文化財という言葉を聴くと、ありがたいもののように感じられますが、そもそも、これらの法律概念がどういう意義をもつものなのかについては、弁護士である自分も、あまり整理して考えることはありませんでした。

普段の業務で私が取り扱う業務のなかでは、文化財に関する事項を取り扱うことがなかったためです。

そこで、この機会に、文化財保護法の仕組みを簡単に整理して、ご紹介してみたいと思います。

まず、文化財保護法は第1条の趣旨をみると、「文化財を保存し、且つ、その活用を図り、もつて国民の文化的向上に資するとともに、世界文化の進歩に貢献することを目的」としてつくられた法律です。文化財というのは、ひとたび失われると取り返しのつかない存在ですので、きちんとみんなで守っていきましょう、そして、文化財を活用してみんなの暮らしを文化的な面で豊かなものにしましょうという法律です。

そして、文化財保護法では保護の対象となる「文化財」を第2条で①有形文化財、②無形文化財、③民俗文化財、④記念物、⑤文化的景観、⑥伝統的建造物群の6種類に分類して定義しています。

すべての用語の定義について触れることは、ここではできませんが、祇園祭りに関連して指定を受けている重要有形民俗文化財、重要無形民俗文化財というのは、この③番目に記載されている「民俗文化財」に該当します。この民族文化財とはどのようなものかというと、「衣食住、生業、信仰、年中行事等に関する風俗慣習、民俗芸能、民俗技術及びこれらに用いられる衣服、器具、家屋その他の物件で我が国民の生活の推移の理解のため欠くことのできないもの」と定義されています。山鉾行事はまさしく「信仰、年中行事等に関する風俗慣習、民俗芸能、民俗技術」にあたりますし、山鉾そのものは「これらに用いられる衣服、器具、家屋その他の物件で我が国民の生活の推移の理解のため欠くことのできないもの」に当たります。

このような、各種の文化財として指定されるとどうなるかというと、文化財保護法で、それぞれの類型の文化財について、どのように保存、管理、活用していく事が適切かについてルール作りがされています。

祇園祭りが指定されている民族文化財についてのルールは文化財保護法の第5章78条から91条に書かれています。

指定を受けることによって、どのようなメリットがあるかについて、詳細に語ると文化財保護法の逐条解説をしなければならなくなりますので、分かりやすい現実的なメリットを挙げると、保存管理にかかる費用について公的資金から援助を受けられるようになります。

まず、文化財保護法78条1項では「文部科学大臣は、有形の民俗文化財のうち特に重要なものを重要有形民俗文化財に、無形の民俗文化財のうち特に重要なものを重要無形民俗文化財に指定することができる。」としており、特に大事なものを「重要」と指定する仕組みになっています。

祇園祭りの山鉾関連の指定はこれに該当します。

そして、「重要有形民俗文化財」に指定された場合には、文化財保護法83条で「重要有形民俗文化財の保護には、第三十四条の二から第三十六条まで、第三十七条第二項から第四項まで、第四十二条、第四十六条及び第四十七条の規定を準用する」と書かれているので、重要有形民俗文化財に指定されたら、重要有形文化財について定められた「第三十五条 重要文化財の管理又は修理につき多額の経費を要し、重要文化財の所有者又は管理団体がその負担に堪えない場合その他特別の事情がある場合には、政府は、その経費の一部に充てさせるため、重要文化財の所有者又は管理団体に対し補助金を交付することができる。」がというルールが適用されることになります。

要するに重要有形民俗文化財になれば、管理や修理にたくさんのお金が必要になって、その文化財の持ち主がさすがにお金を払うのが大変だという状況になったら、日本国政府が、その費用の一部を補助金で支援することができるということです。

また、「重要無形民俗文化財」に指定された場合にも、文化財保護法87条で「文化庁長官は、重要無形民俗文化財の保存のため必要があると認めるときは、重要無形民俗文化財について自ら記録の作成その他その保存のため適当な措置を執ることができるものとし、国は、地方公共団体その他その保存に当たることが適当と認められる者(第八十九条及び第八十九条の二第一項において「保存地方公共団体等」という。)に対し、その保存に要する経費の一部を補助することができる。」とされており、保存のための適当な措置を取るための経費を国が補助できる仕組みになっています。

日本は法治国家であるため、税金で運営されている政府は、なんとなく必要そうだからというような曖昧な理由で、お金を配ることは許されません。そのため、このように誰がどのようなプロセスで必要性を認めて、どのような根拠でお金を配るのかをきちんと法律で決めているわけです。