古代ローマというと,紀元前後にイタリアを中心に地中海沿岸に栄えた,歴史上の大帝国であり,
地理的にも歴史的にも,現代日本とは大きな隔たりのある存在です。
何年か前に,「テルマエ・ロマエ」といった古代ローマを舞台にした漫画や映画が流行したことがありましたが,そういった文芸の話を抜きにすると,ほとんど縁のない世界の話に思えます。
しかしながら,法制度という観点からみると,古代ローマと現代日本の民法は,意外に深いつながりがあります。
たとえば,法学部生が民法を学び始めた最初の頃にであう「契約締結上の過失」といった議論でも,
法学部では「culpa in contrahendo」などという厳めしい用語とともに,ローマ法まで遡って講義をうけます。
これは,現代民法の制定に際して,ローマ法が直接参考にされたからではありません。
現代民法は,フランスの法学者であるボアソナードの協力を得て,明治時代にフランス民法典等のヨーロッパ諸国の法令に,日本の慣習等も考慮して制定されたものです。なお,フランス民法典は,別名,ナポレオン法典とも呼ばれることがありますが,これは,フランス革命の話で登場する有名なナポレオンの関与のもとにフランス民法典が制定されたことによります。
そして,そのフランス民法典(ナポレオン法典)の制定に際しては,ヨーロッパ各地の慣習法だけでなく,古代ローマのローマ法も大いに参照されたようです。
明治以降の日本は,欧米の法制度を積極的に輸入しアレンジすることで,国家・社会の基礎を築いてきましたが,その欧米の法制度は,さらにさかのぼると,中世のヨーロッパ各地の慣習法や,古代ローマの法制度,さらには,その背景にある古代ローマやギリシャの人間観などにもつながっていくものであり,歴史や文化の思いもよらないつながりに,面白みを覚えます。