テレビなどをみていると、社会の高齢化との関係で、年金制度について、
「今の若い世代の人は、支払った年金よりも貰える年金額のほうが少なくなる。」
という説明を目にすることがあります。
確かに、現行の年金制度を前提に、年齢階層別の人口分布をみると、
老齢年金の支払額と受給額のバランスは、そういう結論になるのかもしれません。
ただし、弁護士として仕事をしていると、このような年金制度の一側面の問題について説明を聞いて、
「だったら、国民年金なんて払うだけ損じゃないか。払うのをやめよう。」という結論に至るのは、待っていただいた方がいいと思います。
もちろん、年金制度の趣旨である世代間扶養という理念が大事だからということもありますが、
それ以上に、年金を払わないことは、若い現役世代の方自身にとっても、リスクがあるからです。
「年金」という言葉を聞くと、どうしても「年をとってからもらうもの。」というイメージが強いですが、
年金と一口に言っても、この「老齢」を理由に支給される年金以外にも、「障害年金」や「遺族年金」といった年金もあることを忘れてはいけません。
特に、どんな人でも、不慮の事故や病気で障害を抱えて生活が苦しくなる恐れがあるので、もしもの時の備えとして、この「障害」に関する年金の重要性を、忘れてはいけません。
障害年金は、老齢年金のように、年をとらないともらえない年金ではなく、一定の基準を満たす重い障害を負ったときに支給される年金です。
国民年金や厚生年金に加入して保険料を納めていれば、重い障害を負って働けなくなった場合でも、障害年金を受給することで、年間約80万~90万円程度の公的な年金を受け取ることができる可能性があります。
厚生年金加入者の場合には、さらに年金額が高い可能性もありますし、また、障害を負った方に扶養家族がいる場合には、さらに年金額が加算できる可能性もあります。
この点で、障害年金は、もしもの時のセーフティーネットとして、軽視できない価値があります。
ただし、障害年金は、一定期間以上の保険料の「未納期間」があると、受給が認められなくなってしまいます。
年金制度の根本には、「義務を果たさないと権利を喪う」という国の厳しい態度があるということです。
そのため、「どうせ支払った分よりも少ない金額しかもらえないのだから。」という理由で、安易に年金保険料の納付を怠ってしまうと、不慮の事故で重い障害を負ったときなどに、本来、受けられたはずだった障害年金の保障を受けることが出来なくなってしまう恐れがあるのです。
ただし、収入が不安定な状況にいるときは、国民年金の保険料を払うことが経済的に、どうしても難しいという場合もあると思います。
最近では、コロナの流行で営業自粛を迫られた自営業の方や、職を失った方などもたくさんいるはずですから、それこそ、「年金なんか払っている場合か!」と思うような、大変な経済状況になっている方も少なくないと思います。
ただし、そのような「お金がなくて年金なんか払っていられない。」というときでも、かならず、保険料の免除や納付猶予の申請を役所で行うようにしていただければと思います。
詳しくは、インターネットなどで「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」というキーワードで検索していただければ、厚生労働省のホームページなどで詳しい案内をみることができますが、簡単にいうと、お金がなくて年金保険料を支払えない時でも、きちんと申請をして手続きをしておけば「年金払えなくても仕方ないよね。」と国の方でも認めてくれる制度が用意されているということです。
そして、この年金保険料の「免除」や「納付猶予」が認められていれば、実際に年金保険料を納めていなかったとしても、「未納期間」とは評価されないことになります。
そのため、こういった手続きさえしっかりしておけば、お金がなくて年金保険料を納めることが出来ない場合でも、障害年金の保障を受ける権利を喪わずに済むことになります。
「免除」や「納付猶予」の申請をするだけであれば、タダです。
タダでできる手続きを怠って、障害年金の保障を受ける権利を喪うのはもったいない話です。
今は年金保険料を払う余裕がないというときでも、役所にいって「免除」や「納付猶予」の申請をするよう気を付けていただければと思います。