弁護士の仕事をしていると、日々、忙しく怒涛のように時間が過ぎていきます。
つい1~2週間前に5月のブログを書いたような気がしていたのに、もう1か月が経過していたりします。
有名な物理学者のアインシュタインは、相対性理論を説明するのに、Put your hand on a hot stove for a minute, and it seems like an hour.Sit with a pretty girl for an hour, and it seems like a minute.(熱いストーブのうえに手をおいてたら1分も1時間に感じるだろうし、美女の横に座れば1時間も1分に感じられる)という表現を使ったそうです。
体感時間というものが、物理学の高度な理論とどのように関連するのかは、門外漢である私にはわかりませんが、確かに、経験上、時間の流れというのは、主観の在り方によって随分と影響を受けることはよく理解できます。
仕事をしていて、時の流れを速く感じるというのは、それだけ仕事が充実しているからなのかもしれません。
それにしても、主観と客観のずれというのは、人間の避けがたい性質の一つのようです。
弁護士の仕事をしていると、過去に起きた出来事について正確に聴き取って文章にまとめたり、証拠を集めたりすることが必要です。
交通事故の尋問などのときには、その日にあった出来事を事細かく、位置関係や移動距離、移動時間など特定して陳述書を作成したりします。あるいは、破産管財人に破産者の借金をした経緯を説明するときには、依頼者の方のこれまでの生活状況を時系列で細かく説明したりもします。
弁護士は、依頼者の代理人ですので、依頼者の言葉を代弁する形で陳述書を作成します。
ただし、依頼者から過去の事実関係についてお話をお伺いするときに、常に聴き取ったお話の内容が、その他の客観的な証拠と整合するかを気にして確認するよう努めています。
このようにいうと、お客様である依頼者の言葉を疑ったり信用していないように思われてしまうかもしれませんが、決してそういうわけではありません。依頼者の方が嘘をついていると思うから、証拠の裏付けを求めるというわけではありません。
むしろ、上での述べたように、人間の主観的な認識と客観的な状況というものが、非常に齟齬をきたしやすいものであると思うために、お客様の主観的な記憶と、その他の客観的な証拠の照合作業を欠かさないようにしようと思うわけです。
例えば、交通事故で相手の車との距離について、だいたい10mぐらい離れていたという記憶でお客様が話をされているときでも、実際に、現地にいって一緒に距離を計測したりすると、実際には5m程度の距離しか離れていなかったということもあります。そして、裁判を進めるうえで車間距離が5mであった方が、依頼者にとって有利ということもありえます。
このような場合、依頼者からきいた10mぐらいだったという言葉をそのまま陳述書に書き写すのではなく、客観的な証拠との整合性を検討したうえで、5m程度であった可能性について言及したほうが、依頼者の方の利益にかないます。
もしかすると、弁護士と話をしていると、「私の話をした内容をいちいち他の証拠で確認している。私のことを信用していないのではないか。私が嘘をついていると疑っているのではないか。」と心地悪く思われる方もいるかもしれません。
ただ、基本的に弁護士が細かく証拠との整合性を検討しようとするのは、依頼者の話をする内容が嘘じゃないかと疑っているからではなく、人間が一般的に起こしがちである主観と客観とのズレが起きていないかをチェックして、少しでも依頼者の有利な方向に事件を進められないかと考えてのことですので、どうか寛容なお気持ちで、弁護士の不躾な質問や証拠の確認を受け入れていただければ幸いです。