名古屋市の「新型コロナウイルス感染症の感染拡大を全市一丸となって防止す るための条例」について

3月10日付で,名古屋市では「新型コロナウイルス感染症の感染拡大を全市一丸となって防止す るための条例」という条例が公布・施行されました。

北海道では,先日,知事が緊急事態宣言を行い,道民に外出自粛に対して協力を求めましたが,新型コロナウィルスに対する対策を,条例という形で地方自治体が制定するのは,全国初のようです。

内容を見ていくと,第 1条で条例の趣旨・目的を紹介し「この条例は、新型コロナウイルス感染症のまん延を防止するため、市、事業者及び市民の責務等を定めることにより、 全市一丸となって当該感染症の感染拡大の防止に向けた取組を推進すること を目的とする。」と定めています。

そして,第2条で市の責務,第3条で事業者の責務を定めるとともに,第4条で私たち一人一人の市民の責務として,「第4条 市民は、新型コロナウイルス感染症に関する正しい知識を持つととも に、当該感染症の感染拡大の防止に十分に注意を払うよう努めなければならない。」と定めています。

また,第5条では,「感染を防止するための協力」と題して,1項で,市長が,新型コロナウィルス感染の疑われる人に対して,体温その他の健康状態について情報の提供を求めることができること,2項で,市長は,新型コロナウィルス感染の疑われる人に対して,不要不急の外出をしないよう協力を求めたり,感染拡大防止のために必要な情報提供を求めることができることなど,市長が市民に対して求める協力の内容について定められています。

要するに,条例が名古屋市民に対して求める内容は,「名古屋市民ひとりひとりが,新型コロナウィルスの予防について,しっかり学び,注意深く行動して,感染拡大をくいとめましょう。」ということであり,「特に,感染が疑われる人については健康状況や行動歴等の情報提供に協力し,さらに,可能な限り出歩かないでください。」ということです。

特に,違反者に対する罰則などがあるわけではなく,個人の自由に対して制限を加えない内容です。

現時点で,日本の新型コロナウィルスに対する対策は,あくまで,自粛や協力要請という形で,個人の自由を尊重する形で行われています。

都市を封鎖し,外出を禁止し,飲食店等を閉鎖した中国の対応に比べると,非常にソフトな対応といえます。

こういった日本の対応について,テレビなどをみていると「手ぬるい,もっと厳しい措置をとれないのか。」といったコメントも,時々耳にしますが,大学の法学部で憲法の講義を聞いてきた弁護士の立場からすると,個人の自由権の制限を必要最小限にとどめようとする,現在の日本の姿勢も十分理解できます。憲法や,その歴史背景を学んできた立場からすると,新型感染症も当然怖いですが,国家権力が遠慮なく私権を制限する状態はもっと怖いという感覚があります。

 

自由には責任が伴うとよく言いますが,もしも,国家権力が強烈に社会を統制して感染をコントロールしようとするやり方ではなく,名古屋市の条例が掲げるように,一人ひとりの市民が自由を享受しながら,公衆衛生に対する社会的責任を自覚し,自由意思に基づいて自発的に行動を律する方法で,感染拡大が防止できるのならば,それこそが,自由主義国の市民社会として理想的な姿であると思われます。

現実は,そんな綺麗ごとのようにうまくは運ばないとは思いますが,弁護士法人心でも,従業員の業務中のマスク着用の奨励や,消毒液の設置・使用,従業員の支店間の往来の制限,部分的なテレビ会議やテレワーク等,できる限り,知恵をしぼって感染予防に努めております。

 

建国記念の日と憲法記念日

2月11日は,建国記念の祝日です。

弁護士として,法律の面から,この祝日についてお話をすると,

国民の祝日に関する法律第2条には,

「国民の祝日」を次のように定める。

「建国記念の日 政令で定める日 建国をしのび、国を愛する心を養う。」

とさだめられており,

さらに,「建国記念の日となる日を定める政令」という政令で,

「内閣は、国民の祝日に関する法律・・・中略・・・基づき、この政令を制定する。

・・・中略・・・建国記念の日は、二月十一日とする。」

と定められています。

法律の世界では,休日を決めるのにも,これくらい厳めしい法律上の根拠というものが必要となるのです。

ところで,法律では,「建国をしのび,国を愛する心を養う。」とかかれていますが,

そもそも,なぜ2月11日が建国記念の日なのかご存知でしょうか?

ちなみに,王政からの市民革命によって近代国家を形成した国や,別の国から独立した国では,革命や独立の日を,建国記念日としている例が多いようです。

また,憲法の制定を建国とみなす場合もあり,ノルウェーやデンマークなどではその国の基本的な形を定める法律が定められた日として,憲法が定められた日を建国記念日としているようです。

もっとも,日本では,日本国憲法の施行は5月3日であり,憲法記念日として別の祝日となっています。

それでは,2月11日は,いったい何の日なのかというと,今上天皇の100代以上前の先祖にあたる初代天皇,神武天皇が,今から2000年以上前に橿原宮で天皇に即位された日を,日本という国のスタートであると考えて,建国記念の日としているわけです。

そのことに思いをはせると,建国記念の日は,日本人の「国」というものに対する考え方を象徴しているようで,興味深く思います。

日本は,休日一つを定めるのにも法令上の根拠が求められるぐらいに高度に発展した法治国家であり,その法治国家を機能させる様々な法令の究極の根拠は日本国憲法ですから,法的な統治機構や社会制度の観点から日本という「国」をイメージするなら,日本国憲法の制定・施行こそが日本の「建国」であると考えても,おかしくはありません。

しかし,国民の祝日に関する法律第2条は,日本国憲法の施行は単に「憲法記念日」であって「建国」ではない,神武天皇即位こそが日本の「建国」であるといっていることになります。このような「建国記念の日」の定め方の背景には「日本国憲法にもとづく法秩序が成立するはるか以前から,天皇を中心にした民族共同体としての「日本という国」が存在していたのだ。」という意識を読み取ることができます。そして,国民の祝日に関する法律第2条は,そのような文脈での民族共同体としての「国」を愛する心を養うために,「建国記念の日」を休日とするのだといっていることになります。

これを,民族主義やナショナリズムとして否定的にとらえるのか,

あるいは,歴史・文化・伝統を尊重する日本の美徳としてとらえるのかは,

個人の価値観の問題だと思われますが,

日本人が「日本という国」に対して,どのような意識をもっているのかを考えるうえで,今日は,興味深い休日だと思います。

慰謝料

よく,テレビで弁護士がいろんな相談に答える番組を見ていると「訴えてやる。慰謝料を払え。」といったセリフが出てくるのを見ます。

慰謝料という言葉は,一般の方にも広く知られている言葉なのではないかと思います。

慰謝料というのを,法的に説明すると,民法710条を根拠として,精神的損害に関する損害賠償のことということになります。

要するに,他人の権利を侵害した場合には,侵害された権利の分の賠償をするのはもちろんですが,

それだけではなくて,辛い思いをさせてしまったことについても,賠償金を払わなければならないということです。

もっとも,100万円の価値がある物を壊されたから,100万円賠償してくださいという話は計算が簡単ですが,

精神的な苦痛というのは,目に見えないし,そもそも値段がついているものでもないですから,

妥当な賠償金の計算というのは非常に困難です。

そのため,交通事故などの分野では,怪我の内容・程度,治療期間,入通院日数などに応じて,慰謝料の目安をつくって判断しています。

離婚などの際にも,ある程度過去の裁判例から相場感覚を導いて解決する事例が多いようです。

ただし,例えば,物が壊れただけの場合には,一般的には慰謝料が認められないことが多いなど,どんな場合にも慰謝料が認められるというわけではありません。

また,企業などが顧客情報流失した際には,プライバシー侵害などを理由に慰謝料が認められた事例がありますが,

賠償額についてみていると,数万円程度の慰謝料しか認められていない裁判例も多くあり,被害者の方が弁護士を立てて裁判を起こすことを躊躇してしまうことも多くあります。

このように,慰謝料といっても,実際には,様々な類型があり,請求できるか否かや,請求した場合の金額の計算方式や相場も様々です。

 

 

新人弁護士の入所

今年も,弁護士法人心に新人弁護士が入所しました。

今年は,名古屋地域に1人,東京地域に1人の入所です。

弁護士が事務所に就職するまでには,以下のような長い道のりがあります。

まず,毎年5月に実施される司法試験を受験します。

通常,司法試験の合格発表はその年の9月に行われます。

ここで無事に司法試験に合格した人は,その年の11月から司法修習という研修期間に進むことになります。

司法修習とは,1年ほどの期間をかけて,決められた修習地の裁判所や検察庁,弁護士事務所の中にはいって,

実際に,法曹三者の仕事ぶりをまじかで学ぶことができる研修期間です。

大学や大学院で,法律書の中で勉強していた机上の知識を,実務の現場で使えるようになるための,導入のための研修といえます。

法律関係以外の仕事をされているかたにイメージをもってもらうとすると,司法試験合格者専用のインターンシップのようなものと思っていただれば良いかと思います。

そして,1年の司法修習を経て,司法試験合格の翌年の11月に2回試験と呼ばれる,最後の試験を受験し,

合格して,初めて弁護士等の登録が可能になるという仕組みです。

このように,司法試験受験から弁護士になるまでには,長い道のりがあります。

また,二回も大きな試験をパスしなければならない心理的なプレッシャーは,かなり大きなものです。

私の場合には,東京で司法試験を受験し合格し,三重県の津市で司法修習し,名古屋の法律事務所に就職しました。

弁護士の仕事をはじめて,もう何年もたちますが,いまだに夜寝ていて,試験に落第する悪夢をみて,バッと目を覚ますことがあります。

弁護士の仲間で話をしていると,こういった司法試験等に落ちる悪夢は,多くの弁護士がみたことがあるようで,ちょっとした「あるあるネタ」となっています。

いずれにしても,そのような長い道のりを経て,当法人に入所してくれた新人弁護士が,今後,活躍してくれることを期待しています。

 

都市計画法の用途地域について

以前,本ブログのなかで,街の景観を考えるうえで,用途地域というものを知っておくと面白いという話をご紹介しました。 弁護士の仕事をしていると,些細な日常の風景でも法律に結び付けて考えてしまうことが,職業病のようになります。名古屋の街並みをみても,なぜ,そのような街並みが作られたのかということに興味が向きます。その以前かかせていただいた,ブログのなかで,「全部で12種類の用途地域」とご紹介したのですが, 都市計画法の改正により,新たに用途地域に「田園住居地域」というものが追加されて,現在では,用途地域は全部で13種類となっています。 田園住居地域は,農業の利便の増進を図りつつ、これと調和した低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域と定義されていて,住居系の用途地域の一つとして追加されたものです。 はじめて,この用途地域を見た時には,少し違和感を感じました。 都市計画の中で用途地域を指定する地域というのは,基本的に都市化・市街化が進んでいる地域ですので,「田園」というものと,なかなか頭の中で風景がリンクしないのです。 例えば,私の祖父母は奈良県の農家ですが,祖父母宅を訪ねれば,見渡す限り,まさしく田園と低層住宅の風景です。 しかし,実際に用途地域の指定状況を調べてみると,祖父母宅は,そもそも用途地域の指定されていない地域でした。 おそらく,多くの田園のある場所は,そもそも都市計画として用途地域が指定されていない場所になりそうな気がします。 行政のホームページ等で,実際に田園住居地域として指定された場所がどこにあるのか探してみたのですが,今のところ,まだ見つけることができませんでした。 東京の世田谷区などでは,住宅と田園のバランスをとるために,積極的に田園住居地域を活用していきたいというような紹介がありましたが, まだ,街歩きをしながら「なるほど,こういう場所が田園住居地域なのか。」とイメージがまだわいてこないです。

ゾンビは生きているか(生きた死体の殺人罪の客体性に関する刑法的考察)

10月はハロウィンの季節です。

今年は,若干,盛り上がりが弱くなっているようですが,この季節になると,東京や名古屋など都市部に,ゾンビや幽霊の仮装をした若者があふれかえります。

このような風景は,慣れない人からするとギョッとするものですが,見慣れてくると,なかなか面白みもある日本の秋の風物詩となっております。

ところで,ゾンビといえば,生きた死体といわれ,死んでいるのに動き回り,あるいは歩き,あるいは走り回って,人を襲い食べる怪物として,映画などでよく登場するキャラクターです。

映画のなかでは,ゾンビを銃で撃ったり,ナイフで切ったりして,斃すシーンがしばしば登場します。

弁護士や法学部の学生などがあつまって,そのようなゾンビ映画を見ていると,かならずでてくる議論が,ゾンビを斃すことについて,何らかの刑法的な責任を問われることがあるかということです。

映画によって,ゾンビの生態は異なりますので,一概に結論をだすことはできませんが,多くの映画では,ゾンビは身近な人間が,他のゾンビにかまれたことでゾンビ化したものとして描かれます。

そのため,ある登場人物にとって,あるゾンビは,身近な家族がゾンビ化したものである場合があります。

このような場合,主人公があっさりと,当該ゾンビを殺傷した場合には,そのゾンビの家族であった人間からは,家族を殺されたかのような感情を持たれるおそれがあります。

仮に,このようなケースで,ゾンビの家族から,殺人罪等で起訴された場合に,殺人罪が成立する余地があるのでしょうか。

通常は,ゾンビは死体だから,死体損壊罪にしかならないというのが,法律を学んだ人間たちのよくある回答です。

しかし,私としては,あえてここでその点について,掘り下げて考えてみたいと思います。

刑法では,殺人罪の客体となりうる「人」と言えるかどうかの判断基準として「人の始期」や「人の終期」というものについて,大真面目に議論が展開されています。

書店で,刑法の法学書を読んでいただければ,「殺人罪」の項目で,いろんな学説が紹介されています。

代表的な学説は「脳死説」という,脳の機能停止をもって,人の死とする学説です。また,「三兆候説=総合判定説」といって,呼吸の停止,瞳孔拡大,脈拍の停止の三つの兆候で人の死と判断する学説もあります。さらに,「脈拍停止説」や「呼吸停止説」というように,脈の有無や,呼吸の有無だけで判断する学説もあります。

これらの学説を踏まえた場合,映画に登場するゾンビは,殺人罪の客体にならないのでしょうか?

私は,以前,某アメリカのゾンビ映画の一説のなかで,「ゾンビは脳機能の大部分が失われているがもっとも原始的な脳は活動を続けているため,食べるという本能だけに従って人を襲って食べるのだと」という説明をしているを聞いたことがあります。そうすると,ゾンビは脳幹部の機能が完全かつ不可逆的に喪失したとは言い難いのかもしれません。そのため,「脳死説」を採用した場合には,ゾンビは,いまだに人の終期を迎えておらず,殺人罪の客体となる可能性があることになります。

また,「三兆候説」や「呼吸停止説」を採用した場合でも,多くのゾンビ映画では,ゾンビは人を襲うとき,叫び声をあげています。人体の構造上,発声は,肺から排出される呼気が声帯を振るわせて行うものです。そのため,仮に,ゾンビが叫び声をあげているのだとすると,そのゾンビは少なくとも,自発的に呼吸をする能力を備えていることとなります。したがって,「三兆候説」や「呼吸説」を採用しても,ゾンビは,未だ生きた人間であり,殺人罪の客体となるという解釈がありえます。

最期に,「脈拍停止説」についてですが,そもそも,私は,映画のなかでゾンビの脈を測っているシーンというのを見たことがありません。そのため,ゾンビが脈を有しているのか否かについては不明です。もし,ゾンビの心臓が動いていないのであれば,「脈拍停止説」を採用すれば,問題なく,ゾンビは「人」ではないと断言することができます。

ゾンビは,あくまでフィクションの話ですので,上記の検討は,あくまで思考実験のようなものですが,

このように,一見,常識的に簡単に判断できそうな物事でも,よくよく追及していくと,「本当にそうなのか?」ということが法律の世界ではよくあります。

法律の世界は,一般の方が,自分の常識感覚で判断して行動すると思わぬ落とし穴にはまることのある怖い世界です。もしなにか法律に関して迷われた場合には,どんなことでも,まずは弁護士など法律の専門家に相談していただくと良いのではないかと思います。

 

 

司法試験の結果について

今年も司法試験の結果が法務省から発表される季節となりました。

自分が,司法試験に合格をしたのは,ずいぶん昔の話ですが,今でもこの季節に法務省のホームページを開こうとすると,

あの頃の緊張がよみがえってきて,心拍数があがりそうになります。

今年も,概ね1500人程度の受験生が合格することができたようで,出願者の数との関係でいうと,合格率は以前より高くなっているようです。

近年,弁護士の業界については「法曹人口の増加により,食えない弁護士が増えた。」「年収300万を下回る弁護士がたくさんいる。」「弁護士の平均年収下落の一途」といった,景気の悪い話が,ニュースや雑誌などで目につきます。

実際,自分の同期の弁護士などと話していても,収入面だけでいうと,あまり景気のいい話はきかないです。

そんなことも影響してか,最近では,そもそも司法試験を受けたいという出願者数が年々減少しているようです。

その結果,合格率がどんどん高くなっているようです。

なんとなく,寂しいような気もする話ですが,視点を変えると,儲かるかどうかを抜きにして,純粋に弁護士の仕事に興味がある受験生にとっては,この流れはチャンスなのかもしれないと思います。

弁護士の仕事は,儲かる儲からないという話を抜きにしても,面白い仕事だと思います。

日々,新しい分野の勉強をしなければならず,日々,新しい相手と交渉や裁判で勝負しなければならない世界ですので,勉強が好きで,なおかつ,仕事は少しくらいストレスフルなほうが張り合いがあって面白いと感じるタイプの人にとっては,弁護士の仕事はかなりおすすめできるのではないかと思います。

もし,まだ学生で進路に悩んでいる方や,社会人で就職したものの何か違う世界に足を踏み込みたいと感じている人がいたら,弁護士という選択肢も一度検討してみても面白いのではないでしょうか。

私自身,まだまだ弁護士として先輩風をふかしたようなことが言える立場ではない未熟ものですが,純粋に「弁護士の仕事が面白い!好きだ!」と思って,弁護士業界に入ってくる後輩弁護士が増えると嬉しいと思います。

法と倫理

倫理学のなかで,よく議論になる話題として,トロッコ問題という問題があるのをご存知でしょうか?

英語では,trolley problemなどといわれ,世界的に有名な問題です。

ちなみに,トロッコといわれると,いまひとつイメージがわかない方は,トロッコを電車に置き換えて考えてもらっても同じ話になります。

問題の概要を説明しますと,

①トロッコの線路の分岐点に,分岐器が設置されているとします。そして,その分岐器を使えば,トロッコの進路を線路Aと線路Bのどちらかに自由に切り替えることができるとします。

②あなたは今,そのトロッコの分岐器の目の前に立っています。そして,自由に分岐器を操作して,トロッコの進行方向を切り替えることができます。

③そこに,分岐点に向かって運転制御を失って暴走するトロッコが猛スピードで走ってきました。

④いま,分岐器は,線路Aをトロッコが進む設定になっています。そして,線路Aでは5人の作業員が作業をしていて,このままで5人は確実にトロッコに轢き殺されてしまいます。

⑤もし,あなたが,分岐器を操作して,トロッコの進路を線路Aから線路Bに切り替えれば,線路Aの5人の作業員の命を助けることができます。

⑥しかし,線路Bでも1人の作業員が作業をしていて,もしあたなが,分岐器を操作してトロッコの進路を線路Bに切り替えると,この1人の作業員が轢き殺されることになります。

このような状況下で,あなたの採るべき行動はなんでしょうか?5人を助けるために,線路を切り替え1人の命を犠牲にすることでしょうか?

それとも,トロッコの暴走を見過ごして,5人の命を助ける機会を捨てることでしょうか?

これは,倫理的には非常に大きな問題です。

友人と議論していても,5人>1人の命の重さを考えて,迷うことなく線路を切り替えるという人もいれば,自分の行動で本来死ぬ運命になかった1人を死なせることは耐えられないから何もできないという人もいます。

ただし,倫理的な視点を一歩離れて法的な視点から見ると,答えは比較的単純です。

法律家として,もしクライアントからこのような質問が持ち込まれたときには,絶対に「何もしない(分岐器を切り替えない)」ことを勧めます。

理由は単純です。分岐器を切り替えて線路B上の1人の作業員を死なせる行為は,どう考えても刑法199条の殺人罪の構成要件を満たす行為になります。

したがって,もしあなたが良心から分岐器を操作して,線路Bの作業員1人を死なせた場合,あなたは「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」に処せられるリスクを負うこととなります。

では,反対に,何も行動せずに線路A上の5人の作業員を死なせることは,刑法上罪にならないのでしょうか?

刑法には,刑法218条保護責任者遺棄等のように,他者を助けなかったことが罪に問われる場合があります。また,殺人罪についても,一定の場合には,不作為による殺人罪の成立を認める考え方があります。

もっとも,これら犯罪は,あくまで「被害者を保護し助けるべき義務を負っている者」が,必要な義務を尽くさずに人を死なせるなどした場合に成立する犯罪です。

そのため,上記設問の事案で,分岐器を操作しなかったとしても,たまたまその場に居合わせたあなたが,線路A上の作業員5人を保護し助ける法的義務を負っていたとは認められないでしょうから,あなたが罪に問われる可能性は極めて低いと言えます。

したがって,非常に冷たい意見のようにも思えますが,法的にみると,トロッコ問題については,5人の作業員の命を見捨てて何もしないということが正解ということになります。少なくとも,刑法は,個人に対してそのような行動を期待する形で定められているといえます。

ところで,話は変わりますが,弁護士法人心ではホームページの集合写真を変更しました。

弁護士法人心の従業員がどんな顔をしているのか,ご興味のある方は,一度,ご覧ください。

http://www.lawyers-kokoro.com/こちらでリンクします。

 

 

外国籍の方に関する法律について

弁護士法人心の本店及び名古屋駅法律事務所は,名古屋駅の西側にございます。

そのため,昼食やコンビニの買い物など,よくこの地域のお店を利用するのですが,

ここ何年か特に印象的なのが,ネパール系の方がたくさんいるなということです。

先日は,コンビニのレジで商品を受け取る時に「ありがとう」の意味で,両手を合わせる仕草をしたら,

「ナマステ」と先方からも両手を合わせて挨拶を返され,気まずいような面白いような不思議な気分になりました。

日本で生まれ,日本で育った日本国籍の私にとって,

こういった,外国籍の方が日本に滞在するためにどういった法律関係が必要になるのかは,あまり馴染みのない話でしたので,

在留資格の制度について,少し調べてみました。

まず,外国籍の方が日本に滞在することに関しては入管法に詳しく定められています。

そして,入管法では,外国籍の方が日本に滞在するには原則として「在留資格」が必要だと定めています(入管法2条の2)

在留資格は,入管法の別表に定められており現在36種類の在留資格が定められています。

在留資格は,時代とともに改正されており,近年ですと平成29年から「介護」という在留資格が追加されました。

高齢化による介護の人手不足を考慮しての政策のようです。

また,在留資格によって,在留期間や日本国内で認められる活動が制限される仕組みになっています。

例えば,「留学」という在留資格で滞在する場合には,原則として学業に集中してくださいということになります。

ただし,資格外活動の許可を得た場合には1週間に28時間以内の範囲でアルバイト等に従事することは認められているようです。

1週間28時間ということは,平日毎日5時間半ほどは働くことが認められることになります。

弁護士が仕事でよく使うエクセルの関数について④

ここまで,数字を分類するSUMIF関数と,それを使う際に便利な「データの入力規則」や「絶対参照」などについて,ご紹介しました。

これらは,私が弁護士業務を行ううえで,毎日のようにパソコン上で使っている関数です。

このように大きな数字を扱う集計表を作っていると,たとえば,A1のセルをいまみているけれども,B3000のセルの数字を修正したいというように,かなり距離のはなれたセルの間を移動したくなるときがあります。

こういうとき,愚直にスクロールで移動する方法もありますが,エクセルのショートカットキーを使うと,非常にサクサクと仕事が進みます。

たとえば,「ctrl」キーを押しながら「↓」「→」などの矢印キーを使うと,一気に数字の入っているセルの一番端のセルまでジャンプすることができます。

たとえばA1のセルからA5000のセルまで数字が入力されているときに,A1のセルで上記のキーを押すと,一気にA5000のセルまで飛べます。

ただし,数字の入力がないところでこの操作をすると,A1048576というような最果てのセルまでジャンプすることになるので注意が必要です。

また,データをコピーしたいときも,例えば,A1からA100のセルまでの数字をコピーしたいときに,マウスの捜査でドラッグしながらコピーの範囲を広くするよりも,「Shift」キーを押しながら方向ボタンでセルの範囲を増やしていった方が操作は楽だと思います。

また,先ほどのショートカットキーと組み合わせてCTRL+Shift+↓と押せば,一気に,A1からA5000までのすべての数字をコピーすることも可能です。

大量のデータを入力したあと,作業がつらいときには知っておくと便利な小技だと思います。

弁護士が仕事でよく使うエクセルの関数について③

前回,前々回と,SUMIF関数とデータの入力規則について紹介しました。

しかし,弁護士の仕事上必要となる分類の内容は,もう少し複雑なこともあります。

たとえば,数字の列を「売上,固定経費,変動経費」という大きな分類で分類すると同時に「Aからの報酬」「Bからの報酬」や「電気代」「水道代」というように,さらに細かな項目でも分類したいときもあります。

この場合,分類の項目を増やすことは,難しいことではありません。

エクセルは,ABCの順番に並ぶ列と,1234の順番にならぶ行との組み合わせでセルを特定しています。

たとえば,集計の対象となる数字を1列目,つまりA列の1行目から100行目まで入力したとします。

そして,2列目,つまりB列の1行目から100行目までにデータの入力規則をつかい「売上,固定経費,変動経費」を記録していきます。

さらに,3列目,つまりC列の1行目から100行目までにデータの入力規則をつかい「Aからの報酬」「Bからの報酬」や「電気代」「水道代」といった細かな分類項目を記録していきます。

もし希望があれば,同じ要領でさらに分類項目をD列やE列に足していくことも可能です。

しかし,このようにして数の増えた一つ一つの分類項目について,全部SUMIF関数を組んでいくのはかなり骨の折れる仕事です。

そこで,便利なのが「絶対参照」と「相対参照」の使いわけです。

たとえば,上記の事例で,D列1行目に検索条件として「売上」,D列2行目に「固定経費」を入力したとします。

そして,その横のE列1行目に検索条件をD1,E列2行目に検索条件をD2としてSUMIF関数で関数を組みたいとします。

このとき,E列1行目には,「=SUMIF(B1:B100,D1,A1:A100)」と入力されるはずです。「B1:B100」が検索される分類項目をメモした箇所であり,「D1」が検索条件を入力したセル,数字の集計対象となるのが「A1:A100」です。

このようにE1のセルに関数を組んだ後,そのままドラッグしてE2のセルにコピーをすると,関数は「=SUMIF(B2:B101,D2,A2:A101)」と,すべて1行ずつ下に数字が繰り下がってしまいます。

また,たとえば,仮にE1セルとをドラッグして,横のF1セルにコピーした場合「=SUMIF(C1:C100,E1,B1:B100)」というように,横に1列ずつすべての指定されるセルがずれてしまいます。

これでは,期待する集計ができません。

このように,相対的なセルの位置関係だけで,セルをしていするのが「相対参照」です。

これに対して,絶対参照とは,このセル以外は参照するなと絶対的に指示する参照のしかたです。

たとえば,E1のセルに「=SUMIF($B$1:$B$100,D1,$A$1:$A$100)」というように,参照範囲を動かしたくない列や行のまえに「$」マークを付けた場合,それをドラッグしてE2にコピーすると「=SUMIF($B$1:$B$100,D2,$A$1:$A$100)」となり,もう一回SUMIF関数を組みなおす労力を省くことができます。

まだ,エクセルに不慣れだったころ,この方法を初めて知ったときには「こんな便利な方法があったのか!」と感動を覚えた記憶があります。

絶対参照と相対参照を使いこなすと,一気に大量の分類項目の集計表を完成させることができますので,非常に便利な技術です。

弁護士が仕事でよく使うエクセルの関数について②

前回につづき,弁護士が使うエクセルの関数等について紹介したいと思います。

なお,エクセルの関数の具体的な記入方法等については,もっと図などを引用した分かりやすいサイトがあるはずですので,そちらを参考にしていただければ幸いです。

本ブログでは,あくまで,どういう観点から,弁護士がエクセルを使っているのかを紹介したいと思います。

前回は,SUMIF関数を紹介しましたが,今回は,それを使ううえで,ちょっとした注意点と小技について触れていきたいと思います。

前回のように,項目ごとに分類して数字を集計したいときにSUMIF関数は有効なのですが,実際に使ってみると,集計漏れが生じてしまうことがあります。

もちろん,パソコンのエラーなどではなく,人為的ミスによる集計漏れです。

まず,必ずするべきなのは,数字を入力した列をSUM関数で合計して入力されている数字の総額を確認し,さらにSUMIF関数をつかって分類した後の数字についてもあらためてSUM関数で合計して,両者が一致しているかを確認することが必要です。

そうすると,しばしば,両者が一致しないことが起きます。

その不一致が起こる最大の理由は,2列目の「A店」「B店」などの記入ミスです。

手作業で,2列目に分類を入力していると,どうしても「A店」と書くべきところを「A点」書いてしまったりすることがあります。また,分類に使用する記号によっては,大文字小文字等の肉眼では区別しにくい違いがパソコン上でことなる文字列として認識されてしまうケースもあります。

このような場合,SUMIF関数で指定した条件と少しでも違うメモが2列目にかかれた数字は集計対象になりません。

そのため,集計漏れがしょうじるのです。

これを回避する小技が「データの入力規則」です。

エクセルの画面の上のほうをみると「ホーム」「挿入」などと並んで「データ」と書かれているのが見つかると思います。

この「データ」を開くと「データの入力規則」という項目があります。それを開くと,「入力値の種類」という項目があるので,それをクリックして「リスト」を選択します。

さらに,その下の「元の値」という項目に,「,」で区切りながら,分類したい分類項目を全部列挙していきます。たとえば「A店,B店,」というようにです。

そうすると,このデータの入力規則の指定をうけたセルではプルダウンで,そのリストのなかから選択式でセルの内容を決定できるようになります。

これを,数字の列の横のメモの列に全部使い,さらに,SUMIF関数の検索条件指定のセルにもコピーしておけば,上記のような記入ミスによる集計漏れをなくすことが可能となります。

弁護士が仕事でよく使うエクセルの関数について①

弁護士というと,大学の学部でいうと文系の法学部を出身母体とする人間の集まりであります。

もっとも,実際に業務を行ううえでは,文章を書いたり,話をしたりすることもさることながら,

数字を扱うことも数多くあります。

むしろ,民事事件などは,最終的には金銭による解決が目標となりますので,計算が骨格として,文章で肉付けをしていくようなイメージかもしれません。

この数字を扱うにあたり,一番よく使うのがエクセルです。一般の企業の方でも同じだと思いますが,関数を組み合わせれば,特殊なプログラミング言語を使わなくても,かなりの計算を自動化できて重宝するソフトです。

そこで,エクセルに詳しい方には,何をいまさらというような内容もあるかと思いますが,このブログで,実際に弁護士の仕事でエクセルをどのような場面で,どのような関数などを使っているのか紹介していきたいと思います。

まず,私が,業務でエクセルをよく使うのが,お客様からお預かりした領収書の束の数字の整理です。

たとえば,自営業の方が被害者となった損害賠償請求事件などでは,被害を受ける前の売上や経費,利益の金額から,事故がなければ得られていたであろう利益を推計し,実際に被害を受けたことにより,どれだけ利益が減少するのかを計算しなければなりません。

しかし,確定申告などをされていない方の場合,そもそも,事故前の収支の実態を把握すること事態が容易ではありません。

そのような場合,お客様から大量の伝票や請求書の束,電気代の領収書などをお預かりして整理して,何とか,被害に遭う前の収支の状況を把握しようとすることがあります。

単純に,数字を入力して集計するのであれば「SUM関数」という関数を利用すれば問題ありません。

たとえば,領収書を見ながら,100円,2000円,1580円,と数字を打ち込んでいき,それで集計をすれば,合計をだすことができます。

しかし,入力したあと,たとえば,固定費はいくらで変動経費はいくらかを計算したい場合,A店,B店,C店と取引先ごとに伝票の合計額を集計したい場合には,単純に「SUM関数」を使ったのでは,項目ごとの集計ができません。

かといって,条件に該当するセルを一個一個拾い上げて足し算をしていくのであれば,電卓をたたいたほうが早いぐらい時間がかかります。

そこで,よく使うのが「SUMIF関数」です。この関数は,以下のような段取りで使うと便利です。

まず,伝票の数字を1列目に「100円,2000円,1580円・・・」と入力した後,その横の2列目に「A店,B店,C店,A店・・・」というようにどこのお店の伝票かをメモしておきます。そのうえで,SUMIF関数で2列目を検索範囲とし,検索条件を「A店」として,数字の列を計算対象の範囲として指定すれば,自動的にA店とメモされた伝票の数字だけを抽出して集計してくれます。

同じ要領で,B店,C店も作っていけば,大量の数字でも,一気に分類して集計することができるようになります。

 

とうとう元号が発表されました

とうとう元号が発表されました。

「令和」という元号だそうです。

特筆すべきは,これまでの元号は,中国の古典から引用するのが原則であったところ,

今回は万葉集からの引用であるということです。

伝統を重んじつつも,新しい要素も今回の元号にはあるということです。

ちなみに,元号について,弁護士らしく法律面からお話をすると,

そもそも,現在の元号の定められ方や扱われ方は,長い日本の歴史からみると,かなりイレギュラーな仕組みになっています。

まず,現在の日本の法制度では,元号について,「元号法」という法律があって,その法律に従って,元号は決定され使用されます。

元号法はかなり短い法律で,「第1条 元号は政令で定める。」「第2条 元号は,皇位の継承があった場合に限り改める。」という2条からなっています。

なお,「政令」とは,内閣が制定する命令のことです。

つまり,現在の法律制度では,「元号」とは,天皇が代替わりしたら,内閣が決めて変更するという仕組みになっているわけです。

長い日本の歴史を振り返ると,元号は,①天皇が決定するものであり,②1代の天皇の間に複数の元号が使用されることも数多くありました。

この2点で,現在の元号法は,古代から中世,近世へと続く,元号使用の伝統とは異なる制度設計になっているといえます。

 

 

そろそろ元号がかわります

早いもので,今年も3月が終わろうとしています。

世間では「平成最後」を強調した商品などが増えていますが,平成31年で平成の元号は終了することになります。

次の元号がどのようになるのか,発表が迫っており,気になるところです。

なお,裁判所などの文書では,元号を使用することとされており,弁護士が裁判所に送る書面はすべて元号が記載されています。

事務所の書式も,「平成 年 月 日」という書式になっていますので,新元号が発表されると,書式の変更作業を行わないといけません。

弁護士の仕事をしていると,元号というのは不便なものです。

いちいち漢字と数字の両方を記入にしないといけませんし,「昭和20年生まれの人はいま何歳?」という計算も,和暦西暦対照表などでチェックしないといけません。

昭和ならまだいいですが,明治・大正の資料などがでてくると,いつ頃の話なのか,頭の中でイメージするのに苦労します。

純粋に作業効率だけ考えるのであれば,公文書もすべて西暦に統一してしまったほうがよさそうなものですし,実際に,西暦に統一しようという意見もあるようです。

ただ,なんというか,不便なことは不便なのですが,元号をつかわなくなるのも,それはそれで少し寂しいような気もしてきます。

作業効率や経済的合理性というものを徹底的に追及していけば,多くの伝統は無意味に思えてきます。

年賀状はいちいち手書きで送るのではなく電子メールで一斉送信すれば効率的だという意見も,似たような話かと思います。

ただ,そうやって効率の悪い伝統を全部放棄していって出来上がる世の中は,なんとなく,物寂しく退屈な気もします。

そもそも,元号も年賀状も,こういった伝統というものに効率の話を持ち出すのは無粋なものであって,多少不便でも大事にして味わうのが伝統の持つうま味ではないかと思います。

少し話し外れますが,激安商品を所狭しと陳列することで有名なドン・キホーテが,一度,商品を見つけやすいように綺麗に陳列したことがあると聞きました。そうすると,顧客からすれば,商品が見つけやすくなって売上があがりそうなものなのですが,反対に,客足が遠のいて売上が落ちたといいます。

あのごちゃごちゃと山積みにされた商品の中から自分の欲しいものを見つけるひと手間が,顧客にとってドン・キホーテで買い物をする楽しみの一つとなっていたようです。きれいに陳列されてしまうと,単なるスーパーマーケットと同じで買い物の楽しみを感じられなくなって,反対に客足が減ってしまうことになったといいます。

人間というのは,不便なものは嫌だといいつつ,多少の無駄や不便さがあったほうが面白みや楽しみを感じるという矛盾を抱えた生き物のようです。

元号についても,「不便だな」「いらないんじゃないの?」といいつつ,「次の元号何になるかな?」とお茶の間の話題に楽しむいまの状況が自然な姿なのだと思います。

壬申戸籍について

最近,インターネットのニュースで,壬申戸籍がネットオークションに出品されたという記事をみました。

弁護士など,法律に携わる者にとって,戸籍は身近な存在であり,壬申戸籍という言葉も,戸籍制度の歴史の中でしばしば目にする単語です。

もっとも,一般の方にとって,壬申戸籍というのは,あまりなじみのない言葉なのではないでしょうか。

壬申戸籍とは,明治維新直後の日本で,戸籍法に基づいて最初に作成された戸籍です。

江戸時代には,お寺の檀家制度を背景に人別帳を作成していましたが,明治維新で日本が近代国家になる過程の一つとして,国家が主体となって国民を戸籍によって把握する仕組みがつくられたのです。

この点で,壬申戸籍は,近代的な戸籍制度の出発点として非常に大きな歴史的意義をもっているのですが,現在,閲覧は禁止となっています。

それは,壬申戸籍が作成された当時の日本は,江戸時代の身分制度の影響が強く残っていた時代であるからです。

江戸時代には,士農工商という身分制度があったという話は,時代劇などでイメージがわきやすいと思いますが,

明治時代になっても,華族,士族,平民といった身分は残っていました。

壬申戸籍では,そのような身分制度による分類がなされており,さらに,いわゆる被差別部落の問題と直結する「エタ」「非人」等の記載もされていたとのことです。

そのため,壬申戸籍を公開してしまうと,現代の日本において不合理な差別意識を助長するおそれがあると考えられ,閲覧が禁止されているとのことです。

 

地目について

以前,都市計画法の用途地域の規制を考えながら街を歩くと面白いというお話を,このブログでかかせていただきました。

今日は,用途地域ではなく「地目」というものについてお話したいと思います。

「地目」は,「ちめ」ではなく「ちもく」と読みます。

マイホームを購入されるなどして,不動産登記簿をご覧になったことのある方には見慣れた言葉かもしれません。

他方,不動産登記簿に触れる機会のない方にとっては,日常の中であまり意識をするのことのない専門用語かもしれません。

地目は,不動産登記法第2条18号で「地目 土地の用途による分類であって、第三十四条第二項の法務省令で定めるものをいう。」と定義されています。

そして,不動産登記法第34条2項では「前項第三号の地目及び同項第四号の地積に関し必要な事項は、法務省令で定める。」とされています。

つまり,不動産登記法がここで言っているのは,「地目とは,土地の使い道に関して分類したものです。具体的にどのように分類されているのかについては,詳しくは法務省令を見てください。」ということです。

そして,法務省令である不動産登記規則99条では「地目は、土地の主な用途により、田、畑、宅地、学校用地、鉄道用地、塩田、鉱泉地、池沼、山林、牧場、原野、墓地、境内地、運河用地、水道用地、用悪水路、ため池、堤、井溝、保安林、公衆用道路、公園及び雑種地に区分して定めるものとする。」と定められています。

日本にある土地で不動産登記するならば,その土地は,ここで挙げた23種類のどれかに分類されることになります。

田畑や宅地,学校用地,公園,公用道路といった地目は,なんとなく身近でイメージがわきやすいですが,「塩田」という地目の土地はどこにあるのか,名古屋に住んでいると,ちょっとイメージができません。

 

年末

はやいもので,平成30年も残すところわずかとなりました。

弁護士法人心の今年の最終営業日は,平成30年12月28日となります。

12月といえば,忘年会やクリスマスなどイベントごとの多い季節です。

寒さで冷えた体を温めるため,お酒などを飲む機会も普段より多くなるのではないかと思います。

地域や年度によっても異なるのかもしれませんが,先日,私がみた警察の統計では,

やはり12月が一番飲酒運転による交通事故が多くなっていました。

また,年末年始の時期ですと,お正月にお屠蘇としてアルコール飲料を摂取する機会も多くあります。

親戚の家に自動車で年賀の挨拶にいき,少量のお屠蘇を飲んで,そのまま自動車で帰宅という場合でも,

呼気の中から,酒酔い運転と判断されるに足りるアルコールが検出される可能性は十分ございます。

弁護士として交通事故事件を担当していると,飲酒運転の事故の被害者から相談を受けることもありますが,

飲酒による一時の楽しみにより,多くのものを失うケースを目の当たりにすると,飲酒の恐ろしさを感じます。

飲酒運転と過失割合についてはこちら

加害者が飲酒運転の場合,当然のことながら,飲酒運転でない場合に比べて厳しく刑事責任を追及されます。

また,民事の損害賠償責任においても,過失割合が高くなったり,慰謝料の増額事由として評価の対象とされる場合もあります。

自動車保険については,通常,被害者救済の観点から,被害者に対する賠償責任に関する保険金の支払いは補償されますが,

その他の,加害者自身の受け取る保険金の補償範囲は制限されます。

このように,恐ろしい結果を導くこともある,お酒ではありますが,

同時に,飲酒をしたときのほろ酔いの心地よさなど,人類にとって抗いがたい喜びをもたらす一面もございます。

一説によれば,酒と人類のかかわりは非常に古く,有史以前から人はお酒を飲んで楽しんでいたとのことです。

考古学的に確認されている,酒の最古の事例は,日本がまだ縄文時代だったころの中国の遺跡から発見された陶器の欠片からお酒の成分が検出されたというものだそうです。

いずれにしても,酒と人間は,大昔から切っても切れない縁で結ばれているようですので,重要なのは,適切な付き合い方をすることなのでしょう。

いい夫婦の日

今日,11月22日は「いい夫婦の日」だそうです。

弁護士の仕事は,夫婦の別れに立ち会うこともある仕事ですから,「いい夫婦」という言葉は,考えさせられる言葉です。

夫婦の別れの原因として,今も昔も,しばしば登場するのが,配偶者の浮気・不倫です。

浮気・不倫は倫理的にみれば非常に非難される行動ですし,これらは,法律上も不貞行為として離婚原因となります(民法770条1項1号)。不法行為として損害賠償責任を問われる原因ともなります。

テレビや週刊誌などでも,このような不祥事がしばしば取り上げられ,扇情的な愛憎劇として描きだされます。

他方で,こういった倫理や法律,感情の世界を離れて,生物学的な観点から,淡々と浮気や不倫というものを研究した書籍などもございます。

進化生物学の本などを読んでいると,進化という観点から,繁殖活動における配偶者選択において,生物がどのような行動を見せるかについて,様々な研究発表がなされています。

日頃,愛憎渦巻く人間関係のなかで仕事をしている弁護士の立場からすると,純粋に生物学の観点から,浮気や不倫を論じる生物学の研究は,物事を考える視点が,あまりにもかけ離れていて,非常に面白さを覚えました。

おそらく,生物学的な観点からみた場合,雌雄の個体間の貞操や愛情表現などは問題とならず,「いい夫婦」とは最も繁殖に成功し,次世代により多くの遺伝子を残すことに成功した雌雄のカップルだということになるのだと思われます。

弁護士費用特約

交通事故の相談を受けていると,加害者側の保険会社からの提案については争う余地があるけれども,

損害額が少額であるため,弁護士が依頼を受けても費用倒れになるという案件に出会うことがすくなくありません。

たとえば,加害者側から10万円の支払い提案がでていて,弁護士が交渉すれば最終的に20万円ぐらいはとれる可能性があるのだけれども,弁護士が依頼を受けた場合,弁護士費用で少なくとも20万円以上負担が出るというようなケースです。

このような場合,被害者の立場から見ると,弁護士に頼んで賠償金額が+10万円,弁護士費用で手元に残るお金は̠̠̠-20万円ですから,何のために弁護士に依頼するのかわからない事態になってしまいます。

このような費用倒れになる恐れがある案件でも,安心して弁護士に依頼をできるようにするために設けられた保険商品が「弁護士費用特約」と呼ばれる商品です。

自動車保険等の契約の際に,この特約を付けておけば,交通事故で加害者に損害賠償請求する際の弁護士費用を,自分の加入している保険会社が負担してくれることになります。

月々の掛け金も,それほど高額なものではないので,近年では,たくさんの方が加入をされています。

ただし,弁護士費用特約の保険商品の内容は,各保険会社ごとに様々です。

例えば,月々の保険料が他社と比較して低額になっている代わりに,保険会社から支払われる弁護士費用の上限金額が,一般の相場となる弁護士費用より低額に抑えられているため,弁護士に依頼する場合に,弁護士費用の一部について自己負担が発生する場合もございます。

また,損害賠償請求可能な金額が極めて少額な案件などでは,時間制報酬(タイムチャージ)という時給制の弁護士報酬の計算方法でないと,弁護士が事件の依頼を受けられない場合もありますが,保険会社によっては,この時間制報酬(タイムチャージ)での弁護士費用の支払いを認めていない場合もございます。

したがって,弁護士費用特約の内容によっては,加入していても,実際に弁護士に依頼しようとすると,弁護士費用の一部について自腹を切らなければならなくなる恐れもございます。

今後,自動車保険の更新を検討される際には,まずは,弁護士費用特約の付保を検討していただければと思います。

また,弁護士費用特約の付保を検討する際には,具体的に①上限金額は他社と比較してどうなっているか,②時間制報酬(タイムチャージ)など様々な種類の弁護士報酬の計算方法に対応しているか,③弁護士報酬の支払い基準は他社と同程度になっているかなどの事情をしっかり確認して,比較検討していただくと良いのではないかと思います。

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