衆議院選と憲法改正論議

先日,台風のなか第48回衆議院選挙が行われました。

今回の選挙に関するニュースを見ていると,

「改憲勢力が議席の3分の2以上」ということを,大きく取り上げているのを見かけます。

憲法改正の是非については,極めて政治的話題ですので,

このブログで取り扱うのは適切ではないと思いますが,

今回のブログでは,

この「議席の3分の2以上」という数字がもつ意味についてお伝えできればと思います。

 

憲法96条では,「この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。」と定められています。

憲法は,国の最高法規だから憲法を変更しようと思った場合,衆議院と参議院の3分の2以上が賛成していないと,そもそも憲法を変えましょうという提案すらできないということです。

そして,いま,国会で改憲勢力と呼ばれる政党が3分の2以上を占めているということは,

「憲法を変えましょう。」という提案を,国会で改憲勢力と呼ばれる政党が行うことが出来るということを意味しています。

ただし,憲法96条に明記されているように,憲法の改正は,国会議員だけで議論して決定できるものではありません。

国会が,憲法を変えましょうと発議をした後には,国民投票によって,過半数が賛成しなければなりません。

国会議員が国会で憲法を変えましょうと発議をしても,その内容が,国民投票で賛成を得られなければ,憲法が変更されるには至らないことになります。

このように,憲法96条では

「憲法の改正に賛成するのか反対するのか?」という問題は,

国会議員だけにまかせておいてはいけない問題であり,

国民の一人一人が自分で考えて判断して,投票しなければならない問題であるとされているのです。

 

今回の選挙では,改憲勢力と呼ばれる政党の議席数が,選挙前よりも増加しました。

もしかすると,いよいよ憲法改正の発議が国会でなされる日が近付いているのかもしれません。

 

その時,自分は憲法の改正に賛成するのか,反対するのか,いまからしっかり考えておくべきなのかもしれません。

科挙

弁護士になるには,司法試験に合格をしなければいけないという事実は,広く知られていることだと思います。

新司法試験制度の導入などの司法制度改革のなかで,近年,司法試験の合格率はかなり上昇していますが,

一昔前は,合格率が数パーセントという,極めて合格することが難しい試験でした。

その当時の,司法試験を例える表現として「現代の科挙」という言葉があります。

ところで,この「科挙」というのは,どのようなものかご存じでしょうか。

科挙というのは,簡単にいうと,大昔の中国の公務員試験です。

科挙は,紀元600年頃に中国にあった王朝である隋という国で誕生した制度で,受験資格に制限はなく,だれでも受験できる試験で,国の官僚や役人になるための資格試験でした。

この科挙という制度は,隋という国が滅びたあとも,中国では近代にいたるまで採用されつづけた制度でした。

試験で公務員を選ぶというのは,現代の感覚からすれば「あたりまえじゃないか?」と思われるかもしれませんが,当時は,貴族が世襲で政府の要職を独占して,政治を牛耳るのが普通の社会でしたから,身分にかかわらず,試験に合格さえすれば官僚になれるという制度は,非常に画期的で平等な制度だったと評価できると思います。

科挙は,このように身分にかかわらず受験することができたため,極めて競争率の高い試験で,人類史上もっとも合格することが困難な試験ではないかといわれています。

試験に合格したときには,70代のおじいさんになっていた。試験に合格しなくて発狂して自殺した。そういうエピソードもたくさんあるそうです。

そのような事情から,「科挙」というのは,難関試験の代名詞のように使われる言葉となりました。