名古屋市の「新型コロナウイルス感染症の感染拡大を全市一丸となって防止す るための条例」について

3月10日付で,名古屋市では「新型コロナウイルス感染症の感染拡大を全市一丸となって防止す るための条例」という条例が公布・施行されました。

北海道では,先日,知事が緊急事態宣言を行い,道民に外出自粛に対して協力を求めましたが,新型コロナウィルスに対する対策を,条例という形で地方自治体が制定するのは,全国初のようです。

内容を見ていくと,第 1条で条例の趣旨・目的を紹介し「この条例は、新型コロナウイルス感染症のまん延を防止するため、市、事業者及び市民の責務等を定めることにより、 全市一丸となって当該感染症の感染拡大の防止に向けた取組を推進すること を目的とする。」と定めています。

そして,第2条で市の責務,第3条で事業者の責務を定めるとともに,第4条で私たち一人一人の市民の責務として,「第4条 市民は、新型コロナウイルス感染症に関する正しい知識を持つととも に、当該感染症の感染拡大の防止に十分に注意を払うよう努めなければならない。」と定めています。

また,第5条では,「感染を防止するための協力」と題して,1項で,市長が,新型コロナウィルス感染の疑われる人に対して,体温その他の健康状態について情報の提供を求めることができること,2項で,市長は,新型コロナウィルス感染の疑われる人に対して,不要不急の外出をしないよう協力を求めたり,感染拡大防止のために必要な情報提供を求めることができることなど,市長が市民に対して求める協力の内容について定められています。

要するに,条例が名古屋市民に対して求める内容は,「名古屋市民ひとりひとりが,新型コロナウィルスの予防について,しっかり学び,注意深く行動して,感染拡大をくいとめましょう。」ということであり,「特に,感染が疑われる人については健康状況や行動歴等の情報提供に協力し,さらに,可能な限り出歩かないでください。」ということです。

特に,違反者に対する罰則などがあるわけではなく,個人の自由に対して制限を加えない内容です。

現時点で,日本の新型コロナウィルスに対する対策は,あくまで,自粛や協力要請という形で,個人の自由を尊重する形で行われています。

都市を封鎖し,外出を禁止し,飲食店等を閉鎖した中国の対応に比べると,非常にソフトな対応といえます。

こういった日本の対応について,テレビなどをみていると「手ぬるい,もっと厳しい措置をとれないのか。」といったコメントも,時々耳にしますが,大学の法学部で憲法の講義を聞いてきた弁護士の立場からすると,個人の自由権の制限を必要最小限にとどめようとする,現在の日本の姿勢も十分理解できます。憲法や,その歴史背景を学んできた立場からすると,新型感染症も当然怖いですが,国家権力が遠慮なく私権を制限する状態はもっと怖いという感覚があります。

 

自由には責任が伴うとよく言いますが,もしも,国家権力が強烈に社会を統制して感染をコントロールしようとするやり方ではなく,名古屋市の条例が掲げるように,一人ひとりの市民が自由を享受しながら,公衆衛生に対する社会的責任を自覚し,自由意思に基づいて自発的に行動を律する方法で,感染拡大が防止できるのならば,それこそが,自由主義国の市民社会として理想的な姿であると思われます。

現実は,そんな綺麗ごとのようにうまくは運ばないとは思いますが,弁護士法人心でも,従業員の業務中のマスク着用の奨励や,消毒液の設置・使用,従業員の支店間の往来の制限,部分的なテレビ会議やテレワーク等,できる限り,知恵をしぼって感染予防に努めております。