心理的瑕疵について

今年は,梅雨の雨が長く続きましたが,8月に入り晴天が続き,道を歩いていても,どこかからドライヤーの風を吹き付けられているのではないかという,暑い日が続いております。

どうも,こういう暑い季節には,昔から,怪談話や心霊番組が流行るようです。

怖い話をきくと,ゾッとして少し暑さを忘れるということなのかもしれません。

基本的に,我々,弁護士の仕事は,法律という近代的合理性精神の結晶のようなものを取り扱う仕事ですから,怪談や心霊とは縁遠い仕事です。

例えば,相続の案件などで,亡き父が夢枕に現れてこのように述べたから,これを遺言として遺産分割をしてくれといった訴えは,裁判では到底認められません。

ただ,怪談話と法律との境界線上に位置づけられる話もあります。

例えば,不動産取引(売買も賃貸も両方を含みます。)における,心理的瑕疵に関する話です。

たしかに,心霊の存在が科学的に証明されているか否かという問題は別として,

「この部屋では,去年,入居者が自殺した。」,あるいは,「殺人事件があった。」などといわれると,

ちょっと,そういった場所に住みたいと思えないという気持ちがします。

純粋に,合理的に考えるのであれば,「心霊は科学的に証明されていないのであるから,その存在を前提にした言動や仮説は不合理であり,

仮に,自殺や殺人があった場所でも,遺体の撤去がなされ,清掃・洗浄・消毒がなされていれば,その他の不動産と何ら変わるところはない。」といった,割り切った態度をとることもできそうです。

しかし,少なくとも,私には,そこまできれいさっぱりと割り切ることはできません。

おそらく,大半の方が,頭で考えることと,感情のレベルで不快に感じることとに,一定の齟齬を抱えながら生きているはずです。

そのため,心霊がいるとかいないとか,そういう次元の話はさておくとして,

「普通,そんなことがあった部屋だと,通常は誰も好んで住みたがらないよね。」と思うような事情のある部屋は,

実際に,売買価格や賃料収入の減少が起こるわけです。

これが,いわゆる「心理的瑕疵」といわれるものです。

裁判例などでは,心理的瑕疵は,「単に買主において,その事由の存する家屋の居住を好まぬというだけでは足らず,さらに,進んで,それが,通常一般人において,その事由があれば住み心地の良さを欠くと感ずることに合理性があると判断される程度に至ったもの」と定義されています。

ここで,重要なのが「通常一般人」が基準の話だということです。

裁判所は,なにも自殺や殺人があった場所は心霊現象が起きる確率が高いから不動産価値を低く見積もろうといっているわけではありません。

裁判所が言っているのは,仮に,心霊を信じることが不合理であるとしても,多くの人がそのような不合理な感情を抱き行動をし,その結果,家賃の低下や不動産価値の減少が生じるのであれば,そのような人間の不合理さを前提に,自殺や殺人のあった不動産の価値を見積もるほうが合理的だという話です。

その考え方自体は妥当だと思いますが,「通常一般人」を基準に「住み心地の良さ」を欠くというのが,どのレベルのものなのかは,非常に判断の難しい問題です。

裁判例などをみていると,当該不動産の性格(戸建てなのか,土地なのか,マンションの一室なのか)や,心理的瑕疵が生じた態様(自殺か他殺かや,具体的にどのように亡くなったかなど),事件からどのくらいの年月が経過しているか,途中でその部屋に住んだ人がいるか否か,その後の近隣の風評などはどうなっているかなど様々な事情を考慮して,心理的瑕疵といえるか否かを判断しているようです。

 

 

新型コロナとオフィスの立地の動向について

先日,新聞で,渋谷などの東京都心でのオフィスの空室率が上昇しており,

将来的には賃料にも下落圧力が加わるのではないかという記事を読みました。

その理由として,新型コロナによって,在宅勤務の増加などの働き方を見直す動きの影響もあるのではないかといわています。

たしかに,IT企業など,比較的在宅勤務などに切り替えがしやすい業態では,

フットワーク軽く,新しい働き方を見据えた,オフィスの変更などもできるのかもしれません。

他方で,リモートワークに切り替えは難しいだろう業種も多数存在します。

第1次産業や第2次産業は当然ですし,小売業なども,レジに立つスタッフが必要になります。

サービス業などでも,最近,感染拡大の要因として名指しされることの多い「夜の街」関連の仕事などは,

リモートでは成立し難いと思われます。例えば,自宅で,1人お酒をのみながら,リモートのモニーター越しに,

ホストクラブのホストが盛り上げてくれるようなサービスがあったとして,誰がそのサービスにお金を払うでしょうか?

そして,弁護士業務もリモートワークには馴染みにくい仕事の一つであり,どうしても,簡単に在宅勤務に切り替えるというわけにはまいりません。

まず,事件に関する記録ファイルなどはセンシティブな個人情報の塊ですので,気楽に自宅に持ち帰るというわけにはまいりません。

たとえば,家に記録を持ち帰り,その記録を配偶者や子供が読んで,ご近所さんや学校でうわさ話になれば,

守秘義務違反の問題が生じます。

また,出廷の問題もあります。裁判の際には,裁判所に直接出頭しなければなりません。

裁判所は,たいていの場合,その地域の都心部に設けられていますので,

リモートワーク前提に郊外にオフィスを移転すると,出廷の労力が大きくなり,業務効率が低下します。

多くの弁護士事務所が,裁判所の周辺に軒を連ねているのも,出廷の負担を軽減するということが大きな理由です。

さらに,依頼者との相談等の問題もあります。

たしかに,電話相談やメール相談など,相談の方法も多様化してきていますが,直接面談義務が問題となる債務整理の案件などでは,

来所相談を相談者にしてもらわないといけませんし,交通事故の事故状況などは,依頼者の方と一緒に事故現場の図面などを見ながら聴き取りしないと,思わぬ誤解をしてしまう恐れもあります。

このように,弁護士事務所も,なかなかリモートワークで業務を終わらせることが難しい業態ですので,

引き続き所内での感染予防に留意しながら,業務を続けていきたいと思います。

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