弁護士として仕事をしていると,日本語の細かな使い方についても気を使わなければなりません。
助詞の使い方ひとつで文章のニュアンスが変わることもあります。
先日,書面の推敲をしながら,ふと気になったことですが,
「AはBした。」という文章と「AがBした。」という文章は,どちらもよく似た意味の文章だけれども,ニュアンスに違いがあります。
しかし,どこがどう違うのか,うまくその感覚を言語化できずに,もどかしく思い,日本語文法の書籍等で調べてみました。
調べてみたところ,そもそも「~が」というときの「が」は格助詞と呼ばれ,文章のなかでその言葉が主語であることと示す働きがあるのに対して,
「~は」というときの「は」は格助詞ではなく副助詞(提題の副助詞)として分類され,話の主題や話題がなんであるかを示す働きがあるとのことでした。
どちらの文章でもAが主語になっているので,「は」も「が」も主語を表す助詞なのかと思っていたのですが,私の認識に誤りがあったようです。
確かにいわれてみれば,「次回期日は,追って指定します。」というときの「は」は,あくまで話題であり,主語ではありません。「次回期日が,追って指定します。」といわれたら,奇妙な日本語になります。
その他にも,「は」と「が」の使い分けについては,いろいろと興味深い説明がありました。
例えば,「が」は話者又は聞き手にとって新たな情報,「は」は既知の情報について語る時に使うというような使い分けや,複数の物事を列挙して話すときに「は」は対比を表すのにたいして,「が」は排他的関係を表すなどです。
例えば,「明日が書類提出の締め切り日です。」といわれたときと,「明日は書類提出の締め切り日です。」といわれたときでは,前者は,書類締め切りの日について知らない(あるいは忘れていそうな)人に対して語っている印象になるのに対して,後者は,共通認識となっている締め切り日について再確認しているような印象になります。
また,例えば「あの人の容姿が良い。」といわれるのと,「あの人の容姿は良い。」というのでも,ニュアンスが異なります。
前者は,「あの人」という人物の属性のなかの「容姿」という限定された排他的一部分について,「良い」と語っている形になるので,「容姿」以外の属性については肯定的なニュアンスも否定的なニュアンスもとくになく,「容姿」に関する純粋な誉め言葉としてみることができます。
他方で,後者の場合には「容姿はよいけれど・・・」というように,「容姿」という属性との対比で,容姿以外の「性格」などの別の属性が必ずしも「良い」と言えないといったニュアンスを含むことになってしまいます。
普段何げなく使っている日本語ですが,突き詰めて考えてみると,いろんな分類研究がなされているものだと,感心しました。