1年の振り返り

早いもので12月も半分以上終わり、今年も残りわずかとなりました。12月は賞与入金時期であることもあり、弁護士費用を分割払いにされている方の中には、賞与で費用の積立が完了する方もいらっしゃるため、自己破産・個人再生の申立てへ向けた打合せが立て込むなど、例年何かと忙しい時期です。

さて、少し気になったので、当職が今年1年でどれくらいの案件を受任したか集計してみたところ、任意整理、自己破産、個人再生、時効の援用を全て足すと、12月17日時点で350件ほど受任しておりました。また、相続放棄の案件も対応させていただいており、そちらは50件ほど受任しておりましたので、合計で約400件の対応をさせていただいたことになります。

1日当たり1件以上受任しているような計算となり、多くの方の手助けをできたとともに、より深い知識・経験を積むことができたのではないかと感じております。

ただ、まだまだ弁護士の助力を求めている方も多いと思いますので、来年もより一層多くの方のお力になれるよう尽力していきたいと思います。

本年は、12月27日までの予定で、新年は1月6日から出社の予定です。少し早いですが、今年は大変お世話になりました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。

免責不許可事由③

11月に入り、名古屋でも急に寒さが厳しくなってまいりました。寒暖差アレルギーなのか、くしゃみが止まらず、非常につらいです。

さて、少し間が空きましたが、免責不許可事由の深掘りをしてみたいと思います。

破産法252条1項3号は、「特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。」と規定されています。これは、「偏頗弁済」と呼ばれる行為をさします。

自己破産の手続きでは、債権者平等の原則といって、すべての債権者を平等に取り扱わなければならないというルールがあります。しかし、一部の債権者に対してだけ優先して返済を行ってしまうと、債権者間の平等性が害されてしまうため、そのような行為は偏頗弁済と呼ばれ、禁止されています。

よくある例としては、親・兄弟などの親族、友人、勤務先からも借入れがあり、迷惑をかけたくないからという理由でそれらの債権者に対してだけ返済を続けてしまうことがありますが、免責不許可事由に該当する可能性があるため、やってはいけません。

また、偏頗弁済があった場合、裁判所から破産管財人という弁護士が選任され、偏頗弁済行為に対して否認権を行使し(=なかったものとして扱うこと)、返済を受けた相手方に対し、受け取った金額の返還を求める場合があり、かえって相手方に迷惑がかかる可能性もありますので、やめましょう。

多重債務事件増加を受けて弁護士に期待される役割と望ましい債務整理事件処理について再確認をするシンポジウム

先日、日本弁護士連合会「多重債務事件増加を受けて弁護士に期待される役割と望ましい債務整理事件処理について再確認をするシンポジウム」にZoomで参加いたしました。

コロナ禍が明け債務整理の相談が増えている中で、SNS等を通じて大量に広告を出して集客する事務所の中には、直接面談義務を履行しない事務所や、不適切な事件処理をする事務所が一部いるようで、これらの問題について情報共有を行い、今一度債務整理を取り扱う弁護士として期待されている役割、適切な事件処理をするために必要なことは何かについて議論がなされました。

問題意識としては主に2つで、①直接面談義務を履行しないことによって、弁護士から依頼者となる方に対して、収入支出の状況等に関する適切な聴き取りがなされず、無理な任意整理の契約をさせられてしまっていること、②広告の中には、国が認めた新しい借金救済措置があるかのような誤解を招く表現や、過払金によって借金が減額する可能性があると期待させて集客するなど、不適切なものが散見されること、が指摘されていました。

私も、過去のブログにて、一度任意整理をしたが支払いが厳しくなったため自己破産・個人再生をしたいという相談があった際に、本人の収入・支出のバランスからすればどう考えても任意整理での解決が難しいにもかかわらず、任意整理で契約した方が見受けられるとお話しいたしましたが、同様の問題意識を持つ弁護士は多く、日弁連としても問題視しているようです。

不適切な事件処理が行われることによって、弁護士全体に対する信頼の低下につながる危険性もあるため、私もより一層気を引き締めて取り掛からなければならないと思いました。

タスク詐欺の被害が急増中

連日暑い日が続いています。名古屋では、25日連続で猛暑日が続いたようで、記録的な暑さとなっています。

さて、最近相談に乗っている中で、とある詐欺被害に遭ったため破産したいという相談が増えてきました。その詐欺というのが、「タスク詐欺」と呼ばれるものです。

タスク詐欺とは、SNS等を通じて「副業に興味がないか?」と誘い、まずは、InstagramやX(旧Twitter)の指定した投稿に「いいね」を押す、特定のアカウントをフォローするなどの簡単な作業をさせ、数百円程度の報酬を払って信用させ、その後、高額の報酬をちらつかせて、特定の口座にお金を入金させる、指定した仮想通貨を購入させるなどの方法でお金をだまし取る方法のことをいいます。さらに、お金を払わせた後、「そのお金を引き出すためには、さらに〇〇万円の入金が必要」などと言われ、高額なお金をだまし取られてしまう方もいらっしゃいます。

詐欺被害による借金について自己破産の申し立てをした場合、詐欺加害者に対する損害賠償請求を行うために、裁判所が破産管財人を選任する場合があります。その場合、弁護士費用とは別に破産管財人の費用がかかりますので、負担も重くなってしまいます。

詐欺の手段は年々巧妙化しておりますが、お金を稼ぐためにこちらがお金を一旦払う必要がある場合や、こちらの労力に見合わない報酬が設定されているなどのうまい話は、簡単に信用してはいけません。

免責不許可事由②

8月8日に宮崎県で震度6弱の地震があり、8月9日には神奈川県で震度5弱の地震がありました。

特に前者については、南海トラフ地震との関連性が指摘されているといった報道もありました。事務所のある名古屋市も南海トラフ地震の想定震源域に位置していますので、十分な注意を払っていきたいです。

さて、前回に引き続き、免責不許可事由について詳しく見ていきたいと思います。

破産法252条1項2号は、「破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。」と規定されています。

「著しく不利益な条件で債務を負担」に該当する行為の典型例としては、いわゆる闇金からお金を借りることが挙げられます。闇金は、利息制限法を大幅に超える利息を取っていることから、「著しく不利益な条件」で借入をしたことになります。借金の返済に行き詰ったとしても、闇金には手を出さないようにしましょう。

また、「信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分した」に該当する典型例としては、クレジットカードを利用した換金行為が挙げられます。クレジットカードを利用して商品券やゲーム機、ブランド物を購入し、すぐに売却して現金化する方がいらっしゃいますが、このような換金行為自体がクレジットカードの規約違反となる可能性があるばかりか、免責不許可事由に該当する可能性もあります。返済に追われているが、キャッシングをすることもできないという状態になってしまったら、換金行為に走るのではなく、弁護士に相談し、解決方法についてアドバイスしてもらうことをお勧めします。

免責不許可事由①

7月に入り、名古屋でもかなり暑い日が続いています。こまめに水分補給をして熱中症にならないよう気を付けましょう。

さて、自己破産の相談を受ける際、自己破産が認められるか否かを判断する上で、「免責不許可事由」に該当するかどうかがポイントとなります。

免責不許可事由は、破産法252条1項に規定されていますので、何回かに分けて各号について見ていきたいと思います。

破産法252条1項1号には、「債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。」と規定されています。

破産手続では、破産者の財産は破産管財人が管理・処分権を持つことになり、破産管財人によって換価された財産は、債権者に配当されます。

しかし、破産したら取られてしまうから…といって、財産を隠したり、壊したり、安く売り払ってしまう、タダであげてしまうなどの行為をすると、債権者が受けられる配当の金額が減ってしまうため、そのような行為を禁止すべく、免責不許可事由として規定されています。

また、以前ブログにも書きましたが、財産の隠匿について、悪質な場合には詐欺破産罪として刑事責任を問われる可能性もありますので、絶対にやめましょう。

任意整理でよかったのか?と思う場面

6月に入り、気温もだいぶ上がってきました。さらに、これから梅雨に入るにあたって湿度も上昇ずることから、梅雨型の熱中症が増えるだろうと報道されていました。皆様もお気を付けください。

今回は、任意整理で進めるのは間違ってないか?と感じた場面についてお話しします。

私は、弁護士として債務整理の相談に乗ることが多いですが、その中で他の弁護士事務所・司法書士事務所で一度任意整理したが、支払が難しいため自己破産や個人再生に切り替えたい、という相談を受けることがあります。

例えば、任意整理を開始した時には安定した収入があったが、その後、病気、怪我、会社の業績不振等が原因で支払いができなくなったという事情であれば、自己破産・個人再生に切り替えたいという流れも自然であると思います。

他方で、収入の減少や突発的な支出の増大といった、任意整理後に発生した特殊事情がないような場合も一部見受けられます。

私が普段相談に乗るときは、現在の収入、支出の金額(支出については、家賃、光熱費、食費、携帯代、保険料などの内訳も含めて)をなるべく詳細に聴き取り、収入と支出のバランスから任意整理での支払いを継続できそうかを検討します。

しかし、これらの情報を聴き取れば、どう考えても任意整理での支払いができる余力がないにもかかわらず、任意整理の契約をしてしまっている方が稀に見受けられます。任意整理を選択する際には、収支のバランスを整理し、継続的に支払いができそうか、慎重に見極める必要があると思います。

直接面談義務に関する意見書

弁護士が債務整理に関する依頼を受ける場合、依頼を受ける弁護士(弁護士法人が受任する場合はその社員または使用人である弁護士の少なくとも一人)が、依頼者と直接面談をする必要があります。これを、直接面談義務といいます。この直接面談義務は、日本弁護士連合会が定めた、「債務整理事件処理の規律を定める規程」の中で義務付けられています。

この直接面談義務について、一部の弁護士事務所できちんと果たされていないとして、大手消費者金融4社(アコム、アイフル、SMBCコンシューマーファイナンス、新生フィナンシャル)が、連名で日本弁護士連合会に対して意見書を提出したという報道がありました。

最近では、インターネットやSNS等に多くの広告を出し、全国各地から債務整理の依頼を獲得しようとする事務所が増えてきています。その結果、例えば名古屋市在住の方が、東京にしか事務所がない法律事務所に依頼することもあり得ます。

しかし、SNS等で知った事務所に依頼をしたが、事務所が遠方であることを理由に弁護士との面談はなかったため、不安に思い当法人に相談したいというお問い合わせもあります。そして、実際に面談をして相談してみると、前に依頼した事務所は、依頼した債務整理について問い合わせをしても弁護士が出てくることはなく、すべて事務員が対応する(しかも対応する事務員がコロコロ変わるため、個別の事情を把握していない)とか、必要と思われる最低限の説明すらなされていないように感じるケースもあります。

債務整理については、メリットだけではなく、信用情報に傷がつくなどのリスク・デメリットがありますので、その点を面談の中でしっかりと説明し、理解してもらったうえで進める必要がありますから、直接面談義務はとても重要なものといえます。

時効の援用に対する債権者からの反論

4月に入り、だいぶ暖かい季節になってきました。先日、名古屋市内にある鶴舞公園に行ったところ、きれいに桜が咲いていて、春の訪れを感じました。

さて、今回は、時効の援用をしたところ、債権者からとある反論をされたので、ご紹介しようと思います。

事案の概要としては、消費者金融A社から借入れと返済を繰り返していましたが、平成20年頃に返済ができなくなり、その後現在に至るまで返済をしなかった、という事案でした(案件の特定防止のために、事実関係を少し変えています。)。聴き取りをしたところ、今までに裁判所から書類は届いたことがないということでしたので、時効になる可能性があると判断し、時効の援用をする方向で契約をしました。

そして、当職からA社に対して消滅時効援用の通知を送ったところ、「期限の利益を喪失したのは令和3年であり、そこから5年経過していないので時効にはなっていない」との反論がありました。

確かに、時効のカウントが始まる時点(起算点)は、期限の利益(債務者が分割で債務を支払うことができる権利のこと)を喪失した時点と考えられており、A社から送られてきた取引履歴にも令和3年に期限の利益を喪失したとの記録がありました。しかし、一般的に、消費者金融との間で取り交わされる金銭消費貸借契約の約款では、「約定の支払日の支払いを怠ると、当然に期限の利益を喪失する」と規定されていることが多いので、上記主張には違和感を感じました。また、平成20年に返済がなくなったにもかかわらず、令和3年に期限の利益の喪失の処理をしたというのは、かなり不自然です(時効援用通知を受け取った後に、期限の利益喪失から5年経過していないかのように装うために、令和3年にそのように処理したという記録を残したのではないか?とさえ疑ってしまいます。)。

A社から、約款を取り寄せてみたところ、やはり約款上も約定の支払日の支払いを怠ると、当然に期限の利益を喪失する旨の規定となっていました。そこで、平成20年に返済を怠った時点で期限の利益を喪失していたはずであるから、平成20年から時効のカウントが始まっている、などの主張を行いました。

すると、後日、A社担当者から、本件債務については時効成立を認める旨の連絡が入り、無事に終了しました。

昔借入れをしていたところから請求が来ているという方は、債権者へ連絡する前に、弁護士にご相談ください。

任意整理の条件緩和

3月に入り、ある債権者から、今月中に和解が成立するのであれば、任意整理の和解条件を緩和するという連絡がありました。年度末ということもあり、債権者の方も任意整理の和解が終わっていない案件について整理したかったのだと思われます。

任意整理を取り扱っているすべての弁護士事務所に対して、条件緩和の連絡をしているかどうかは分かりませんが、弁護士法人心には、たびたび条件緩和の連絡が入ります。これは、名古屋地域に限らず、全国的に事務所全体で多くの任意整理案件を取り扱っていることから、そのような連絡をした際に多くの案件を和解に進めることができると見込まれるためであると思います。

和解条件の緩和の内容は、債権者ごとにまちまちですが、分割回数を通常3年~5年(36~60回)分割が目安になるところを100回分割まで延長してもらえたり、経過利息や将来利息をなしにしてもらえることもあります。

任意整理案件を多く取り扱っている事務所に依頼すると、任意整理に関する豊富な知識・経験を用いて、スピーディーに、最大限有利となるような交渉ができるメリットがありますが、債権者側からも和解条件の緩和を打診してくれることがある点も、メリットの一つとして挙げられるかもしれません。

偏頗弁済とは

あけましておめでとうございます、というには少し時間が経ち過ぎましたが、年が明けて最初のブログ更新となります。

今年は年が明けてすぐに能登半島で地震が発生したり、航空機の炎上事故が起きるなど、不安な幕開けとなってしまいましたが、本年も皆様のお力になれるよう、尽力してまいりたいと思います。

さて、今回は、偏頗弁済(へんぱべんさい)についてお話ししようと思います。

自己破産や個人再生の手続きにおいては、すべての債権者を平等に取り扱わなければならないというルール(債権者平等の原則)があります。偏頗弁済とは、この原則に反し、一部の債権者のみ優先的に返済をしてしまうことをいいます。

親・きょうだいなどの親族や、友人・知人から借入れがあり、それらの人には迷惑をかけたくないとして、返済を続けてしまっていた、という場合、偏頗弁済をしたとして問題になります。

偏頗弁済をしてしまった場合、自己破産の手続きでは、破産管財人という弁護士が選任され、返済を受けた人に対して、返済を受けた額の返還請求がなされることがあります。

個人再生の手続きでは、偏頗弁済によって減った財産が清算価値に計上されることになります。

また、偏頗弁済の程度、悪質性によっては、自己破産や個人再生が認められなくなってしまうこともあり得ますので、偏頗弁済はしないように注意しましょう。

良いお年をお迎えください。

2023年も残るところあと少しになりました。今年は、名古屋地区だけではなく、岐阜地区での債務整理案件も多数担当させていただきました。

名古屋と岐阜は、距離的には近いですが、裁判所の運用が異なっている部分もありました。例えば、名古屋地裁であれば、破産・再生を受任した直後の段階で債権者から届いた債権調査票(現在の債務額が取引の履歴が開示された書類)を提出すれば問題ありませんが、岐阜地裁では、申立前6か月以内に発行された債権調査票を提出する必要があります。そのため、依頼してから申立てまでに6か月以上要する場合には、申立直前に再度、各債権者から債権調査票を送ってもらう必要がある場合があります。最近では、債権調査票を開示するために手数料を請求してくる債権者もちらほら出てきていますので、金銭的な負担が増える場合もありますし、弁護士としても再度債権調査票の発行を依頼する手間がかかります。

また、破産管財事件における債権者集会において、裁判官から破産する方に対して質問がされることがあり、破産に至った原因をどう考えているか、二度と破産しないようにどのようなことを気を付けているかなどについて質問されることがあります。名古屋地裁の裁判官は、比較的穏やかな聞き方をしてきますが、岐阜地裁は割と深く突っ込んだ質問をしてくる印象があります(※あくまで個人的な印象ですし、裁判官によっても異なるとは思います。)。ただ、これも債権者集会の場でしっかりと反省を促して、二度と借金等をしないようにさせたいという親心なのだろうと思います。

2024年も多くの人の助けとなるべく、尽力してまいりたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

個人再生における清算価値③

個人再生における清算価値を計算する上で、漏れが生じやすい財産があります。その一例を紹介していきます。

⑴名義預金

例えば、親が子供名義で銀行口座を開設し、そこに少しづつ貯金を貯めているという場合があります。このような預金を名義預金と呼びます。名義預金については、親が口座を管理していて、子供がその口座の存在を知らないという場合もあるため、清算価値を計算する上で漏れやすい財産になりますが、個人再生をする方名義の預金であれば、基本的には清算価値として計上すべきものということになります。

⑵名義変更未了の相続不動産

親が亡くなり、その親が不動産を持っていたが、遺産分割協議をしておらず、親名義のままになっている不動産が見つかることがあります。この場合、相続放棄の手続きをしてある、又は親の死亡を知ってから3か月以内に相続放棄の手続きをとれば問題ありませんが、相続放棄の手続きをとっていない場合、法定相続分に従ってその不動産の持ち分を持っていることになります。したがって、不動産の持ち分に相当する価値が、清算価値に加算されますので、注意が必要です。

⑶親が加入している保険

⑴の名義預金と似たような話ですが、親が子供のために保険に加入していることがあります。掛け捨ての保険であれば問題ないですが、積立て型も保険の場合、解約した際に返戻金というお金が戻ってくることがあります。親がお金を払っていたとしても、基本的には個人再生をする方名義で加入した保険であれば、清算価値に含めるよう裁判所に指示される可能性が高いです。

個人再生を申立てする際には、このような財産に漏れがないか、場合によっては親御様に聞いていただくなどして確認するのが無難です。

名古屋市内で弁護士をお探しの方は、当法人までご相談ください。

 

個人再生における清算価値②

前回に引き続き、個人再生における清算価値について触れていきます。今回は、清算価値を算出するための資料について説明していきます。

⑴現金・預貯金

現金については、あまり資料を提出することはなく、自己申告であることがほとんどです。しかし、直前の家計の収入・支出の状況からみて、所持していると考えられる金額と、申告された金額との間に乖離がある場合には、裁判所から財産隠しを疑われてしまうので、正確に申告するようにしましょう。

預貯金については、通常、通帳のコピーや銀行のスマホアプリ等の画面を提出して、現時点で残っている金額の資料とします。

⑵ 不動産

不動産の資料としては、登記簿謄本、固定資産税評価証明書が必要となります。また、不動産の価値をより細かく算定する必要がある場合には、不動産業者の査定書を提出する場合もあります(当職を含め、債務整理を良く取り扱っている弁護士であれば、不動産屋さんの知り合いが複数いるので、弁護士経由で査定を依頼することもできます)。

⑶保険解約返戻金

保険の解約返戻金額については、保険証券の中に記載がある場合もありますが、記載がなければ保険会社に問い合わせて、返戻金額の証明書を発行してもらう必要があります。

⑷自動車

名古屋地方裁判所の運用では、初年度登録から7年以上経っている国産車で、新車価格が300万円以下の車の価値はゼロと評価されます。それ以外の車については、中古車業者の発行する査定書、日本自動車査定協会(有料)の発行する査定書、ネット上の中古車市場で似たような車を探して資料として提出する、などの方法で、自動車の価値を算出します。

⑸退職金

退職金については、会社に退職金支給見込額証明書を作成してもらい、資料として提出するか、退職金規定など退職金の額を計算できるものを資料として提出する必要があります。

このように、個人再生では様々な資料の提出を求められます。個人再生をお考えの方は、弁護士にご相談ください。

個人再生における清算価値①

小規模個人再生事件では、100万円、借金の金額の5分の1(※借金額が1500万円~3000万円以下の場合は300万円、3000万円を超え5000万円以下の場合は10分の1)、清算価値のうち最も高い金額まで借金が減額されます。

ここにいう清算価値とは、全財産に相当する金額のことを意味します。

では、清算価値にはどのようなものが含まれるのでしょうか。名古屋地方裁判所の運用をもとに説明します。

⑴ 現金、預貯金

現金、預貯金として持っている金額は、清算価値に含まれます。

⑵ 不動産

土地、建物等の不動産を持っている場合、その評価額が清算価値に含まれます。ただし、住宅ローンが残っていて、住宅を残しつつ個人再生を行う場合は、不動産の価値が住宅ローンの残額を上回っていた場合(いわゆるアンダーローンの場合)に、差額部分が清算価値に含まれます。他方で、住宅ローン残額の方が不動産の価格よりも多い場合(オーバーローンの場合)、不動産の価値はゼロと評価されます。

⑶ 保険解約返戻金

生命保険等の中には、解約する際に返戻金というお金が戻ってくるタイプの保険があります。このような保険に加入している場合、現時点で解約した際に支払われる返戻金の金額が清算価値に含まれます。

⑷ 自動車

自動車もその時価額が清算価値に含まれます。ただし、初年度登録から7年以上経過している国産車で、新車価格が300万円未満の車であれば、その価値はゼロと評価する運用がとられています。

⑸ 退職金

仮に現時点で退職したとしたら支払われるであろう退職金の金額も、清算価値に含まれます。ただし、現時点での退職金の金額の8分の1(※直近3年以内に定年退職が見込まれる場合には4分の1)の金額が、清算価値として計上される運用となっています。

このように、清算価値には様々なものが含まれます。次回は、清算価値の資料としてどのようなものを提出する必要があるか、その資料の集め方等も含めてお話ししていきたいと思います。

差押えについて②

前回に続き、差押えについてお話していきたいと思います。今回は、差押えの対象となりやすい財産について解説していきます。

①給料の差押え

債務名義がとられた場合、よく狙われるのが給料です。給料が差し押さえられると、基本的には手取り収入の4分の1(手取り収入が44万円を超える場合には、33万円を超える部分)が差押えの対象となります。債権者から見れば、給料を差し押さえると、毎月の給料から確実に回収をすることができる点で非常に有効な回収手段となりますので、債権者に勤務先を知られている場合には、給料の差押えがされる危険が高いといえます。

他方で、勤務先を特定しなければ給料の差押えはできませんので、債権者に勤務先を知られていない場合、給料の差押えがなされる危険性は低くなります(とはいえ、探偵による調査や、銀行口座の履歴の開示手続がなされるなどして、勤務先を知られる可能性はありますので、絶対に安心とは言い切れません。)。

②預金の差押え

銀行等の預金も差押えの対象となりやすいです。預金が差押えされると、債務額によってはその時の預金残高が全額差押えとなってしまいます。債権者にとっては、債務者がどこに銀行口座を持っているかを調べなければ、差押えをすることはできませんが、ゆうちょ銀行やメガバンクなど、口座を持っている可能性が高そうな銀行は、狙われる可能性が高いです。

預金が差し押さえられる可能性が高い場合には、給料や年金など、入金があったらすぐに引き出しておき、口座の中身を空にしておくと、差押えのリスクを最小限に抑えることができます。

③動産の差押え

裁判所の執行官が自宅等を訪問し、現金や財産的価値のある物(動産)を差し押さえる手続きです。昔のドラマなどで、「差押」と書いた紙を家中の動産に張り付けるシーンを見たことがある人は、差押えと聞くとこの動産の差押えがされるのではないかとイメージする方もいらっしゃるかもしれません。

もっとも、生活必需品としての家具・家電や衣類、寝具などは差押禁止動産とされていますので、差し押さえられることはありません。また、債権者としても、借金の支払ができなくなった債務者の自宅等に現金や高額な動産がある可能性は低いためか、あまり動産の差押えがされるケースは少ないです。

以上、差押えについて簡単に触れましたが、差押えのリスクが避けられるに越したことはありませんので、支払いに困ったら早めに弁護士に相談して、解決策を探ることをお勧めします。

差押えについて①

借金問題でお悩みの方の中には、借金の支払ができなくなるとすぐに財産が差し押さえられてしまうのか?、差押えがなされると家に債権者が押しかけてきていろいろなものを持っていかれてしまうのか?(急に家に来て周り近所に知られてしまうのか?)など、差押えに関する不安を抱えている方は少なくないでしょう。

そこで、今回は借金の支払ができなくなった際に行われる差押えまでの流れついて解説していきます。

借金の支払ができなくなると、まずは債権者から訴訟(裁判)を提起されたり、支払督促といった裁判所の手続きが行われることがあります。それを無視してしまったり、適切に反論をしないと、訴訟の場合は判決が、支払督促の場合は仮執行宣言付支払督促の申立てがなされ、それらが確定してしまうと、債権者は財産の差押えなどの強制執行をすることができるようになります。

このように、強制執行をすることができるようになる確定判決や仮執行宣言付支払督促の確定などを、「債務名義」と呼びます。

債権者からの督促状や法的手続予告通知書等の書面には、この一連の流れを「支払をしない場合、訴訟などの法的手続をとって財産を差押えします。」とさらっと記載してあることが多いです。おそらく、あえてそのように記載することで、支払しないとすぐに差押えが来るから大変だと思わせて、支払を促したいという思惑があるのだと思います。しかし、実際は裁判を起こしてから、初回期日まで1~2か月ほどかかる場合もありますし、支払督促の場合は受け取ってから2週間以内に督促異議を出せば、債権者は訴訟に移行せざるを得なくなるため、債権者が債務名義を獲得するまで、少し時間がかかります。

とはいえ、訴訟等の手続きがなされると、早ければ数か月程度で差押えがなされる危険性がありますので、支払いに困ったら、訴訟や支払督促などされる前に、弁護士に相談した方がよいでしょう。

次回は、差押えの対象となる財産について触れたいと思います。

債務整理と相続財産

債務整理の相談に乗っていると、まれに、亡くなった親の名義のままの不動産が残っている、という場面に出くわすことがあります。例えば、お父様が亡くなったが、お父様名義の実家にそのままお母様が住み続けることに相続人間で争いがなかったため、特に遺産分割協議等をすることもなく、名義変更もしなかった、ということがあります。

しかし、自己破産や個人再生をする際にこのような財産が残っていると、処理が非常に大変になります。

遺産分割協議や名義変更をしていない財産がある場合、法定相続分通りの財産を持っているとみなされてしまいます。

自己破産の場合は、名古屋地裁の運用では、その財産価値が20万円を超えると処分しなければならなくなります。そして、その処分のために破産管財人という別の弁護士が裁判所によって選任されるため、裁判所に収める予納金が、個人の破産ですと22万円~42万円ほどかかります。

個人再生の場合は、清算価値(=個人再生する方の全財産)に、その財産価値が加算されますので、借金の減額幅が少なくなってしまう可能性もあります。

遺産分割協議や名義変更をしていない財産がある場合、手続きに大きな影響があるため、忘れずに申告するようにしましょう。

トイレ使用制限に関する最高裁判例

昨日、最高裁で注目の判例が出されました。

戸籍上は男性であるが、医師により性同一性障害の診断を受けている方(国家公務員)が、女性トイレを使用したい旨を経済産業省の職員へ申し出ました。これを受け、経済産業省では、同じ部署の職員に対し、性同一性障害に関する説明会を行い、女性トイレの使用について意見を求めたところ、数名の女性職員の態度から違和感を感じているように見えたため、勤務するフロア及びその上下階の女性トイレの使用は認められず、それ以外の階の女性トイレを使う処遇が実施されました。その後、人事院に対して、他の女性職員と同等の処遇を行うよう求めましたが、その要求が認められなかったため、人事院の判定の取り消しを求めた、というのが今回の事案です。

最高裁は、女性トイレの使用制限について見直さなかった人事院の判断は、裁量の範囲を逸脱又は濫用したものとして違法であると判断しました。

①性同一性障害について説明会が開かれた際、女性トイレを使用することについて明確に異議を唱えた職員はいなかったこと、②説明会の後、2階以上離れた女性トイレを使用していたが、トラブルが生じたことはないこと、③説明会から、人事院の判定が出るまでの約4年10か月の間、女性トイレを使用させることについて、特段の配慮をすべき他の職員の存在も確認されていないこと、などの事情を挙げ、離れた階の女性トイレを使用しなければならない不利益を正当化する事情はないとしました。

補足意見の中には、説明会後の暫定的な措置として、女性トイレの使用について一定の制限を設けたこと自体はやむを得ないものとして理解を示すものもあり、説明会から人事院の判定が出るまでの約4年10か月の間に、女性トイレの使用について緩和措置を講じるとか、より理解を得られるための研修を行うなどの措置を講じることなく、女性トイレの使用を制限し続けたことを問題視しているような意見もありました。

このように、この判例は、個別具体的な事情をもとに判断されたもので、事例判断の要素が強いと思われますが、社会としてトランスジェンダーをどのように尊重していくかを考える上で、大きな影響を与える可能性があります。また、弁護士目線からしても、例えば顧問先の会社からトランスジェンダーの従業員の取り扱いについて相談を受ける場面も想定されますので、その際は参考になる判例となりそうです。

自殺の動機に「奨学金の返済苦」が追加

ネットニュースを見ていて、気になった記事を見つけました。

朝日新聞の報道によると、2022年の自殺者の中で、奨学金の返済苦がその原因の一つとなっている方が、10名いたそうです。この数字は、自殺と判断された事案について、警察による遺族等からの聞き取り調査の結果、自殺原因を複数の選択肢から選択した統計から明らかになったようです。

もっとも、統計で明らかになった10名以外にも、遺族等からの聞き取り調査で明らかにならなかっただけで、「奨学金の返済苦」が自殺原因の一つになっている方が他にもいた可能性は否定できません。また、もっと広く「借金の返済苦」を原因とするものととらえると、さらに多くの人が該当することになるでしょう。

奨学金には、一定の条件を満たせば、減額返還や返済猶予等の制度がありますので、返済に困ったらそのような制度を利用できないか検討してみるのがよいと思います。また、弁護士に相談して、個人再生や自己破産をすることで、債務額を減額したり、ゼロにすることも可能です。

奨学金を含む借金の返済に苦しんでいる方は、一人で抱え込まず、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。解決の糸口が見つかるかもしれません。