【相続法改正】配偶者居住権の価額と相続税

先日,配偶者居住権の金銭的価値の計算方法について記載しました。

今回はその続きとなります。

現在の法制審議会の部会資料では,「長期居住権(配偶者居住権)付の所有権」よりも,「長期居住権(配偶者居住権)」の方が,金銭的には高く評価される場合があります。

これは,感覚的にはよくわかる話です。

配偶者居住権,というものが権利として認められた以上,第三者は「配偶者居住権付」の所有権を購入しても,「誰かに住み続けられてしまう」所有権しか手に入りませんので,いわゆる「完全な」所有権よりもはるかに価値が劣ります。

この問題点として,主に税理士の先生からは以下のような指摘がされています。

つまり,その後に配偶者が死亡すると,「配偶者居住権」は消滅し,建物を相続していた相続人は,「完全な」所有権を手にすることになります。

このときに,当該相続人には新たな「経済的価値」が流入したと考えることもできるのではないか?ということです。

これは,理論的にはあり得なくはないのですが,現在の法制審議会の議論では,このようには考えないようです。

ですので,当該相続人にかかる相続税は,一次相続時の「配偶者居住権付の所有権」を相続したときの価額で計算することになりますので,「完全な所有権」を相続したときよりも低い金額になることが想定され,節税になるのではないかと言われています。

確かに,現時点では節税になるように思えます。

しかし,この制度はまだ開始されていないので,国税庁がこの点について通達等で課税する可能性が全くないとはいえません。

なによりも,弁護士としては,一次相続時に「配偶者居住権付の所有権」が「完全な所有権」よりも低い金額で評価されることで,他の共同相続人が不公平感等を感じ,争いの種になるのではないかと危惧しています。

また,配偶者居住権は,遺産分割協議に相続人全員が同意するか,遺言書に記載することで認められますが,平成32年4月1日以降に亡くなった方に適用されます。

相続税に関してはこちらのサイトをご覧ください。

【相続法改正】配偶者居住権の新設と権利の金銭的価値

以前のブログで,相続に関する民法改正で「配偶者居住権」という権利が新設されることをご紹介させていただきました。

これは,報道番組でもよく焦点を当てて報道されていますので,耳にされた方も多いかもしれません。

今回は,こちらの権利の「金銭的価値」について記載します。

法制審議会の部会資料によりますと,建物の固定資産税評価額は,①長期居住権付所有権の価額と②長期居住権の価額を合算した額とされています。

そして,①長期居住権付所有権の価額とは,

固定資産税評価額×法定耐用年数ー(経過年数+存続年数)/法定耐用年数ー経過年数×ライプニッツ係数

とされているようです。

そして,②長期居住権の価額は,固定資産税評価額から①長期居住権付所有権の価額を差し引いた額とされるようです。

上述した①長期居住権付所有権の価額の計算方法は少々わかりにくいですが,ようは,配偶者が亡くなった際に,他方の配偶者が若ければ若いほど価値が高くなるし,築年数が少なければ少ないほど価値が高くなる計算のようです。

具体的な金額はケースバイケースですが,法制審議会の部会資料で例として挙げられているケースですと,「築20年の鉄筋コンクリート造で固定資産税評価額1000万円のマンションの一室を,70歳の女性配偶者が相続した場合」のケースとして,

①長期居住権付所有権の価額が,143万円

②長期居住権の価額が,857万円

として計算されています。

つまり,所有権よりも,長期居住権の方が高く評価されているようです。

この点について,弁護士・税理士の立場から非常に気になることがありますので,そちらを次回のブログで記載したいと思います。

【相続法改正】自筆の遺言書を法務局が預かってくれる?

今回の民法の相続に関する法改正は,約40年ぶりの大幅改正ですので,弁護士をはじめとして,たくさんの専門家が注目しています。

民法の法改正に合わせて,「遺言書の保管等に関する法律」ができました。

この法律によって,自筆の遺言書を法務局に保管してもらう制度ができました。

これまで,自筆の遺言書は自宅に保管したり,銀行の貸金庫に保管したり,自分で保管しなければならなかったため,紛失したり,改ざんが疑われたり,様々な問題がありました。

今回の法改正で,法務局で保管してもらうことができるようになりますので,紛失の危険は,これまでよりもずっと少なくなります。

また,法務局に預けた自筆の遺言書の場合,これまでの運用と異なり,家庭裁判所による検認手続きを経なくてもよいと改正されました。

検認手続きとは,家庭裁判所で遺言書が保管されていた状態をチェックし,記録に残す手続きですが,この手続きを行うために他の相続人に連絡しなければならないなど,手間や他の相続人と無用なトラブルを招きかねないリスクがありましたが,今回の改正で検認も不要となりました。

ただ,注意が必要なことは,法務局はあくまでも保管をするだけで,内容のチェックをしてくれるわけではありません。

あくまでも形式面での簡単なチェックにとどまるようですので,遺言書を無効としないためにも,作成時には遺言書を日頃から作成している弁護士に相談することをお勧めします。

遺言に関して弁護士をお探しの方はこちら

【相続法改正】自筆証書遺言の方式緩和?

最近,TVの朝のニュース番組でも民法の相続改正について特集されていますね。

弁護士等の士業が見る雑誌ではなく,週刊〇〇みたいな一般の方向けの週刊誌でも相続に関する特集をよく見ます。

そのなかで,「自筆の遺言書が作りやすくなった!」みたいな記載をよく見ます。

具体的には,自筆の遺言書の一部をパソコンで作ることが可能になった~といった説明です。

ですが,これは少々誤解があります。

確かに,遺言書の一部をパソコン等で作成することができるようにはなりましたが,これはあくまでも,財産目録に限ります。

正確には,財産目録について,預金通帳や登記事項証明書等をパソコンで作成したり,これらの書類のコピーを添付する方法でも可能となりました。

ただ,これらの方法で作成した場合は,その目録の一枚一枚に手書きで署名し,押印する必要があります。

表と裏に両方記載がある場合は,両面ともに署名と押印が必要です。

なお,あくまでもこれらの方法で作成することが可能になったのは「財産目録」だけですので,遺言書の本文はすべて自筆で書かなければなりませんので,逆に混乱される方もおられるのではないかと危惧しています。

自筆で遺言書を作成された場合は,法律のルールに則っておらず,無効となってしまうことがよくありますので,作成される際は,弁護士に相談されることをお勧めします。

※こちらの法改正は,平成31年1月13日以降,適用されます。