国選とお歳暮

弁護士の岡原です。

先日、弁護士会の倫理研修がありました。
これは、一定の年次の弁護士に受講が義務付けられているもので、本来は弁護士会館で直接講義を受ける形式のものなのですが、昨今の情勢からオンラインで講義を受講し、その後試験を受けて合格しなければならないという形式のものに変わりました。

この試験の中に、国選事件の依頼者から物品や金銭を渡されたという設定の設問があり、以前お受けした国選事件での出来事を思い出してしまいました。

前提として、国選事件の場合、依頼人である被疑者、被告人やその他の関係者から、名目のいかんを問わず一切の報酬や対価を受け取ってはいけないこととなっています(弁護士職務基本規程49条1項)。
(国選弁護人の報酬は国から出ます。)
そして、この対価にはお金だけでなく物品やサービスの受領も含まれ、大変厳格に解されることとなっています。

私が以前お受けした国選事件で、受任直後に被疑者のお母様が事務所にいらっしゃったことがありました。
相談室にお通しした際に、お召し物に似合わない大きな袋をお持ちだったのでどうしたのだろうと不思議に思っていたところ、これを受け取ってほしいと果物の詰め合わせを手渡されてしまいました。

もちろん受け取ることはできないのでお断りすると、「国選弁護人の報酬はとても少ないと聞きました。先生には何としても息子の無罪を勝ち取っていただきたいので、受け取ってください。」とその方はおっしゃったのです。

私はこれを聞いて、「一般の方は、弁護士のことを報酬が少ないと手を抜き、報酬が多いと頑張ってくれると思っているのか。」と、悲しいような情けないような気持ちになりました。
実際に、インターネットで国選弁護人について検索してみると、国選弁護人はやる気がないから私選弁護人に変えたほうがいいなどと言った書き込みが多く見られます。

個人的な意見ではありますが、国選弁護人一般が(報酬が少ないから)やる気がないのではなく、報酬の多寡にかかわらず単にその弁護士にやる気がないのだと思います。
通常の弁護士は、綺麗事などではなく、国選だろうが私選だろうが被疑者の身柄開放や被告人の無罪獲得などに向けて全力で活動しています。
(もし本当に報酬にこだわるのであれば、そもそも国選事件を受けないと思います。)
ですので、一部のやる気のない弁護人の活動で、国選弁護人全体がこのような思われ方をするのは、とても悲しいことだと思います。

結局、その方には上記のことをご説明し、心苦しくはありましたが果物はお持ち帰りいただきました。

折しも、そろそろお歳暮のシーズンになってきました。
もし、このブログをご覧の方で、国選弁護人にお歳暮を贈ろうと思っている方がいらっしゃいましたら、申し訳ないですが止めていただくようお願いします。
お手紙を一枚いただくほうが、弁護士にとってはよほどうれしいと思います。