給与が減少していないと逸失利益はもらえないのか④

弁護士の岡原です。


何か月かにわたりお届けしている「給与が減少していなくても逸失利益が認められる場合」についてですが、前回は①減収不発生が一時的であること、②昇進昇給における不利益があること、③業務への支障が生じていること、の3点をお話ししました。
今回も引き続き、裁判所が考慮要素としている点をお話しいたします。

④ 退職転職の可能性
後遺障害により業務に支障があり、今後も継続して勤務することが難しく、今後退職または転職する可能性がある場合は、将来の減収の発生を推認させる事実となります。
これは、退職して無職になれば収入がゼロになりますし、転職するとしても後遺障害の存在が再就職で不利になったり、転職できたとしても後遺障害がない人と比べて雇用条件が劣ったりする可能性があり、逸失利益を認める方向の考慮要素となります。

⑤ 勤務先の規模、存続可能性
勤務先で人員整理(リストラ)が行われる可能性が高いこと、勤務先の経営不振、小規模で経営基盤が盤石といえないこと等は、被害者が今後再就職を余儀なくされる可能性が高いこと、そしてその再就職の際に後遺障害が不利に働き減収が発生する可能性が高いことを推認させる事実であり、逸失利益を認める方向の考慮要素となります。

⑥ 本人の努力
痛みなどの症状に耐えながら勤務を継続していることや、症状の軽減悪化防止のための努力をしていること、業務上のハンディキャップをカバーするための努力をしていること、業務をレベルアップさせるための努力をしていることは、これらの本人による特別な努力がなければ減収が発生していたことを推認させる事実であり、逸失利益を認める方向の考慮要素となります。
努力の内容としては、例えば症状軽減のため毎日長時間のリハビリを継続していること、後遺障害による影響をカバーするため平日の夜や土日を返上して残業し仕事をしていること、利き手が麻痺しているため左手で文字が書けるように練習していること、事故後難関資格を取得して転職したことなどがあります。

⑦ 勤務先の配慮
後遺障害により業務に支障が生じているにもかかわらず減収が生じていないには、勤務先の配慮や温情によるものである可能性があります。
例えば、勤務先が被害者の後遺障害に配慮して適正な職場に配置してくれたり、適切な支援をしてくれたりすることで減収を免れている場合、勤務先の経営状況や経営方針、人事異動によってはそのような配慮が打ち切られて減収が発生する可能性があることから、そのような配慮があるという事実は逸失利益を認める方向の考慮要素となります。