運転中の通話はどこまでOKか(消極)

弁護士の岡原です。
先月梅雨が明けてから、東京は信じられないくらい暑い日が続いています。
こんなに暑いと、体温が上がってお店の入り口の検温器に引っかかってしまわないかとすら思ってしまいます。

ところで、交通事故の案件を普段取り扱っていると、加害者側がスマートフォンを操作していたり、通話中だったりといった事故が少なからずあります。
令和元年12月1日に施行された道路交通法の改正により、運転中にスマートフォンを使用した場合、交通事故を起こさなくても罰則が6月以下の懲役又は10万円以下の罰金となり、反則金も普通車の場合1万8000円と以前の3倍の金額に、違反点数も1点から3点へと引き上げられました。
交通事故を起こした場合はより罰則が強化されており、この場合は反則金制度の適用がなく罰則のみとなり、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金、違反点数も6点と一発で免許停止になります。

このような罰則強化を受けてか、家電量販店やカー用品店では運転中の通話に関してBluetoothやハンズフリーイヤホンなどの活用が推奨されているようです。

ところが、個人的には、ハンズフリーであれ何であれ、運転中の通話は行うべきではないと考えています。
理由は以下のとおりです。

①両耳にイヤホンを装着した状態での運転は、車外の音が聞こえにくくなり危険の察知に時間を要する恐れがあります。
また、東京都の場合、東京都道路交通規則第8条5号により、「高音でカーラジオ、またはイヤホンなどを使用してラジオを聞くなどによって安全な運転に必要な交通に関する音、声が聞こえないような状態で車両等を運転しないこと」と定められており、音量によってはこれに該当して違法となる可能性もあります。
特に、車内は外部の走行音などで意外とうるさく、通話音声を聞き取りやすくするために音量を調整するとかなりの大きな音量となってしまうことがありますので、上記規定に該当する可能性は十分にあります。

②片耳にイヤホンを装着した状態での運転の場合、片耳から車外の音が聞こえるので安全のようにも思われますが、通話中の相手の声を聞きながら車外の音にも気を配り、視覚で安全を確認し…といったように、複数の高度な処理を一度に行うと、一つ一つの処理能力が格段に落ちてしまうのが人間の仕様です。
特に、通話は身振り手振りや表情などの視覚情報がなく、会話内容と声のトーンだけで会話を進めていく必要があるため、助手席の人と会話しながら運転しているよりも集中力をより要します。
(アメリカの心理学者アルバート・メラビアン博士による「メラビアンの法則」によると、相手に伝わるのは言語情報(話の内容、言葉そのもの)がわずか7%で、聴覚情報(口調や速さ、声の質)が38%、視覚情報(見た目や視線、表情)が55%と言われています。つまり、声のトーンや間、言い方、会話のテンポなどの「周辺言語」や、顔の表情、腕組みなどの「しぐさ」といった言葉以外の「非言語的な要素」が、相手との意思疎通に非常に大きな役割を果たしているのです。)
そのような状態で想定外の事態が起こった時、いつもどおりとっさに適切な車両操作が可能かと言われると、正直私は首を傾げざるを得ません。
これは、車載Bluetoothハンズフリースピーカーを利用して通話する場合も同じです。

③イヤホンであれBluetoothハンズフリースピーカーであれ、通話開始時と通話終了時には携帯電話またはカーナビ画面の操作が必要です。
操作自体はものの数秒で終わるかもしれませんが、自動車がその数秒の間に何メートル進むか考えたことはあるでしょうか。
一般道の法定速度である時速60kmの場合、換算すると秒速16.7mとなります。
操作に2秒しか掛からなかったとしても、その間に33.4mも進んでしまいますので、前方の車両が停止したことに気付かず追突したり、後方をあまり確認せずに進路変更してくる車両と衝突したりすることは十分にあります。
また、危険な状況を認識してからブレーキを踏み、実際に車両が停止するまでにはラグがあります。
時速60kmの場合の、危険を認識してから実際に車両が停止するまでの距離(これを停止距離といいます)は44mと言われており、道路が濡れている場合はこれよりも停止距離が長くなります。
したがって、2秒間前方から目を離し、顔を上げて危険を察知してから車両が停止するまでは、単純計算で77.4mも進んでいることになります。
自分の意思とは関係なく77.4mも車両が動くなんて、周りからしたら怖すぎます。

正直なところ、運転中にすぐ出ないといけないような緊急性の高い通話なんて一年に一回もありません。
大して重要でもない通話に出たがために交通事故を起こし、刑事罰と免停をくらって社会的信用を落とすくらいなら、電話の相手から遅いと嫌味を言われたとしても安全な路肩に停まってから折り返したほうが良いと思いませんか?