再転相続の場合の相続放棄の熟慮期間の起算点について(1)

こんにちは。

弁護士の江口潤です。

 

今回と次回は,いわゆる再転相続における相続放棄の熟慮期間の起算点についての問題を取り扱いたいと思います。

 

1.再転相続とは

 

再転相続とは,相続人となった者が熟慮期間中に相続の承認も放棄もしないまま死亡し,その相続人の地位をさらに相続した場合のことをいいます。

 

先に死亡した者を「被相続人」,後に死亡した者を「相続人」,それらを相続した者を「再転相続人」と以下では呼ぶことにします。

 

2.民法916条

 

再転相続の相続放棄の起算点に関しては,民法916条で「相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは,前条第一項の期間は,その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する」と規定しています。

 

この条文の趣旨については,第1相続の放棄についての熟慮期間を被相続人の死亡時点からとしてしまうと,熟慮期間が非常に短くなって,再転相続人が十分な調査や熟慮ができなくなってしまうので,第1相続と第2相続の両方の熟慮期間の起算点を再転相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時に伸ばしたと考えられています。

 

3.判例と学説

 

上記の条文の趣旨からすると,第1相続と第2相続の両方の熟慮期間は,自己のために相続の開始があったことを知った時から同時に進行すると考えるのが自然であり,従来の学説もこのように考えてきたようです。

 

この考え方のもとでも,再転相続人が,第2相続を放棄することなく,第1相続を放棄することも認められるとされてきました。

 

これは,再転相続人が,第1相続を放棄する相続人の権利を承継したとすることで,従来の学説からも理論的に説明することができ,矛盾するものではなかったからです。

 

しかし,昭和63年の最高裁判決(最判昭和63年6月23日家裁月報41巻9号101頁)では,第1相続について先に相続放棄をした後,第2相続を放棄しても,第1相続の放棄の効力は遡って無効にはならないと判断されました。

 

上記の判示部分に対しては,再転相続人が,相続人が有していた被相続人の相続を放棄するかどうかの選択権を承継したとする従来の学説から説明することは困難にも思えます。

 

他方で,上記昭和63年最高裁判決は,再転相続人が先に第2相続を放棄した場合には,第1相続につき承認または放棄をすることはできないとも判断しています。

 

この判示部分については,従来の学説と整合することは確かですが,最高裁が,再転相続人の第1相続についての選択権を,第2相続の選択権とはかかわりのない,別個の固有権とは考えていないといえます。

 

判例の立場についての一つの説明として,前者の判示部分については,第1相続についての選択権を承継した再転相続人が第1相続を放棄したうえで,第2相続についてどのような選択をするかは時点な問題であるにすぎない一方,後者の判示部分については,第2相続を放棄しておきながら第1相続の選択権を承継するというのは論理的に矛盾するから認められないと考えることもできそうです。

 

この判例に対しては,さまざまな考え方がありうるところです。

 

なお,上記昭和63年最高裁判決では,民法916条について,2で述べたような期間の伸長を認めるだけではなく,再転相続人について第1相続と第2相続のそれぞれにつき,各別に熟慮し,承認または放棄をする機会を保障する趣旨をも有するものであるとの位置づけをしています。

 

続きについては,次回に取り上げます。

名古屋で相続放棄をお考えの方はこちら