遺言の自由と制限について

弁護士の江口潤です。

 

先日,名古屋市の鶴舞公園に行ってまいりましたが,桜の開花もかなり進んできました。

なかなか心行くまで花見酒とはいかない身としては,心の置けない方たちとともに愉しまれている方々が羨ましく見えます。

 

今回は,遺言について,ちょっと変わった視点から見てみようと思います。

つまり,日本以外ではどのような遺言の制度となっているのかについて紹介し,日本の遺言や,それにまつわる相続制度の特徴を考えてみたいと思います。

 

遺言者は,自分の死後に自分の財産をどのように処分したいかを遺言をすることで決めます。

自分の財産なのですから自分の好きなようにできるはずではあるのですが,法律上はそうではなく,遺留分という制限が存在します。

 

遺留分は,配偶者や子,親などの相続人に認められている「権利」であるとされており,遺言者の側から見ると,遺言による財産処分の権利が制限されているということになります。

なぜこのような遺留分が認められているかについては,相続人の相続に対する期待を保護するためであるとか,相続人が経済的に困窮することを防ぐためであるなどと説明されています。

 

法学の世界で大陸法系と言われる国は遺言の自由を制限する傾向にあり,日本は大陸法系の国に属していますので,遺言の自由が比較的制限されています。

遺言の自由を広く認めているといわれる英米法系の国では,子らには遺留分が認められていないことがほとんどです。

ただ,英米法系の国であっても,配偶者や扶養を必要としている子に対しては一定の財産的な権利が確保されています。

 

実は,相続人が相続において財産の確保するための法制度上の手段は,遺留分だけではありません。

日本は,婚姻後も夫婦それぞれが財産を形成する「夫婦別産制」を採っていますが,「夫婦共有制」といって,婚姻後取得した財産についてはそれぞれの名義のものであっても均等の持分を持つものとしている国では,夫婦の一方が死亡した場合,夫婦の共有財産の半分は配偶者が取得することになります。

そのため,夫婦共有制の国では,初めから夫婦の財産の半分は配偶者が確保しており,遺言者は残った半分についてだけ,遺言で自由に処分することができるということになります。

 

相続法の改正作業においても,遺留分の制度についてはさまざまな議論がされました。

ただ,この制度が残されたことにはそれなりの意味があるわけですし,私たちは,この制度があることを前提にして,自分が望むことに最も近い結果を実現できるように対応していかなければならないでしょう。

 

そのうえで,法律家として,ご依頼者様がこのような結果を実現することの手助けができるよう,研鑽を積んでいきたいと思います。