今年も、あとわずかとなりました。
例年、「年内にもめごとを解決させて、新しい年をすっきりした気持ちで迎えたい」というお気持ちを持たれる方も多く、年末は特に忙しくなる時期でもあります。
今年の残りの時間を有効に使って、引き続き、業務を集中して進めていきたいと思います。
今回は、八雲法律事務所さまから発刊される『実務解説 サイバーセキュリティ法』という書籍について、取り上げたいと思います。
サイバーセキュリティという言葉自体は、ニュースでも日常的に取り上げられていますし、もはや説明が必要ないほどに一般的なものになっているでしょう。
今やインターネットに接続することなく事業を営んでいるという企業や自営業者はほとんどないでしょうし、事業で内外部の重要な情報を情報媒体で取り扱っていないということもほぼないでしょう。
その意味では社会経済活動をするうえで、サイバーセキュリティとは関係がないという方はほとんどいらっしゃらないでしょう。
いざインシデントが発生してしまった場合には、企業は多大な経済的損害を被ることになりますし、十分な対策を怠っていれば、社会的な非難の対象にもなるでしょう。
私が所属する組織でも、サイバーセキュリティが頻繁に会議の議題とされていますし、組織的な体制の構築と職員へのリテラシーの向上を図っています。
本書は、サイバーセキュリティに関連した法律業務分野の実務について解説した書籍です。
「サイバーセキュリティ法」では、民法、商法、行政法、刑法などの多分野の法律が関係しています。
私の認識では、独立の講学上の学問領域というよりも、実務上の領域であると認識しています。
この領域が法律以外の技術的な専門的知識を要求されること、これまでに弁護士が扱ってきた業務分野とは異なること、他方で、多数の関係法令が存在することが、この分野を専門的に扱う必要性を生じさせていると思います。
このような実務分野が存在するのは、やはりその対象の専門的な性格にあると考えられますし、一般的な弁護士が扱うことは難しい分野だと思います。
八雲法律事務所さまは、サイバーセキュリティ分野を専門的に取り扱っておられ、本書では、これに関する問題点について、とても理解しやすく解説されています。
この分野において弁護士業界に対する社会的なニーズは高まっており、より多くの弁護士がこれに応えられるよう、本書が資することは確実だろうと思います。
不動産取引における心理的瑕疵について①
連日、暑い日が続いていますね。
肌の弱い私にとっては、暑さもさることながら、日差しの強さが天敵でして、なるべく日差しを避けるように行動しています。
とはいえ、普段から名古屋市内を自転車で移動していますので、この対策をしていても相当な被害を被っています。
最近は、突然の雨にも悩まされていますし、いつも天気予報を気にしながら行動しています。
「酷暑や突然の雨も、まったく気にならない」という方はごく少数でしょうから、程度の差こそあれ、みなさまも同じようなご状況でしょうか。
今回からしばらく、不動産取引における心理的瑕疵について取り上げたいと思います。
不動産取引における「心理的瑕疵」とは、その不動産で人の死に関して発生したできごとが対象の不動産の取引においてマイナスに影響するもののことです。
たとえば、その住居で過去に殺人事件があったということであれば、そのような住居には住みたくないと考えるのが一般的ですので、そのできごとが不動産の価値を損なう方向で影響するといえます。
このような不動産の価値に関する重要な情報は、取引において、相手に予め伝えておく必要があるのです。
ここで問題になるのは、「どのような事項であれば、予め相手に伝えておく必要があるのだろうか」ということです。
心理的瑕疵とは、あくまで主観的なものであって、人の感じ方はさまざまであることからすると、予め伝えないといけない事項であるかどうかは判断が難しい面があります。
不動産業者(宅地建物取引業者)が仲介に入っている場合には、業者には、取引にあたって、心理的瑕疵にあたりうるものを「重要事項」として予め伝える義務があるとされていますので、業務をするうえで悩ましい面が出てくるのです。
加えて、業者としても、どのような方法で心理的瑕疵にあたりうるできごとがあったかどうかを調査しなければならないのかという問題もあります。
これらの問題について、国土交通省で検討会が開かれ、ガイドラインが作成されました。
これまでの実務や裁判例を踏まえて作成されたものですので、参照するに値するものだと思います。
ガイドラインで対象となっているのは居住用の不動産だけであったり、主には業者向けの内容であったりするのですが、相続に関わる弁護士業務をするうえでもしばしば問題になりますし、興味深い点も多くありますので、これから数回に渡ってその内容を紹介していきたいと思います。
特定路線価について
円安が進行しているようです。
円相場に影響を与える経済的要因としてはさまざまなものがありますが、日本と他の国家間での金融政策の違いが原因だとも分析されているようです。
すなわち、インフレを抑制しようとしている他の国の金融政策に対して、日本はインフレを許容する金融緩和を続けていることから、円の価値が相対的に下落し、円安につながっているのだと分析されています。
原料を輸入し、加工した工業製品を輸出するという経済モデルをとっていたかつての日本であれば、円安は国際競争力の強化にもつながり、歓迎すべき状況ともされたのでしょうが、現在の日本においては、このような単純な評価がされる状況にはありません。
さまざま経済人や識者が、現在の円安状況についての見解を発表していますし、私自身、それぞれの見解を興味深く読んでいますし、名古屋経済にとってどうなのかも気になるところです。
少なくとも、急激な環境の変化は生活などに与える影響も大きいでしょうから、みなさまの生活やお仕事に悪い影響がですぎることがないように願っています。
前回は、土地の路線価と固定資産評価額について取り上げましたが、今回は特定路線価についてご紹介いたします。
路線価は、相続税や贈与税において、土地の評価に使用する指標で、国税庁から毎年、発表されるものです。
路線価地域にある土地については、この路線価を基準として土地の評価額を計算していくことになります。
しかし、ありとあらゆる道路に路線価が設定されているわけではなく、評価の対象の土地に接している道路に路線価が設定されていない場合があります。
そのような場合には、税務署にその道路の路線価を設定してもらう必要があり、このようにして設定された路線価を特定路線価と呼んでいます。
特定路線価を設定してもらうためには、税務署に特定路線価設定申出書を提出する必要があります。
申出書に必要事項を記入したうえで、評価すべき土地や、特定路線価を設定する道路についての物件案内図や地形図、写真などの資料を付して、提出することになります。
国税庁のホームページでは、この手続きの処理に必要な標準処理期間は、概ね1か月程度と紹介されています。
相続税の申告期限が近い場合には、設定に要するこの期間も問題となりえますので、特定路線価の設定が必要な場合には、早めに対応しておく必要があります。
所有不動産記録証明制度(仮称)について
私の住んでいる愛知県では、お昼間は暖かくなり、すっかり春となった印象です。
今年はゆっくり桜を観ることもできず、もう少し余裕を持ちたいところではありますが、必要なことをしっかりと対応していけるように頑張りたいと思います。
前回のブログで触れたとおり、今回も、所有者不明土地の問題に関する不動産関係の民法や不動産登記法の法改正について取り上げることにします。
今回は、「所有不動産記録証明制度(仮称)の創設」について取り上げたいと思います。
現在の提案内容の一部を紹介すると、「① 何人も、登記官に対し、手数料を納付して、自らが所有権の登記名義人(これに準ずる者として法務省令で定めるものを含む。後記②において同じ。)として記録されている不動産に係る登記記録に記録されている事項のうち法務省令で定めるもの(記録がないときは、その旨)を証明した書面(以下「所有不動産記録証明書(仮称)」という。)の交付を請求することができる。」とされています。
不動産の登記記録には、所有者の住所や氏名が記載されています。
不動産の登記内容はすでにデータ化されていますが、その方がどのような不動産を所有しているかを、住所や氏名から検索する公的な方法はありませんでした。
たとえば、相続の案件の場合には、自治体から届く固定資産税の通知書を確認したり、自治体に名寄帳(自治体によって名称は異なりますし、取得できる書類の内容も異なります)を申請したりすることで、被相続人の不動産の内容を調査しています。
この調査方法には、不動産が所在する自治体が分からなければならないため、調査の網羅性には限界があります。
所有不動産記録証明制度が整備され、この証明情報の申請者に相続人も含められた場合には、被相続人の所有する全国の不動産を調査することが可能になるといえそうです。
そうすれば不動産の相続手続き漏れを防ぐための有効な手段になります。
ただ、この調査方法の網羅性にも限界があるとはいえそうです。
この方法で検索をかける場合には、おそらく、住所や氏名の全面一致がある場合に限られると考えられますが、不動産については住所の変更があった場合にも変更の登記がされていない場合がしばしばみられるため、このような場合には検索にかからないと考えられます。
このような場合に備えて、過去の住所も含めて検索を実施するも必要になりそうです。
(さらに進んで、過去に被相続人が所有していた不動産についても検索ができれば、相続案件を扱う弁護士の立場としては助かる面があるのですが、現在はそのような話では進んでいないようです。)
このように、所有不動産記録証明制度が整備できれば非常に有効な財産調査のツールになると考えられますが、不動産登記に関する膨大なデータを検索可能になるシステムを構築できるまでには、どの程度の準備期間が必要になるのかについての心配もあります。
この点については、民事執行法の分野で、強制執行の実効性を高めるため不動産に関する情報取得手続きの制度が整備されることになっているため、担当部局で、すでにある程度の検討やシステム構築作業は進んでいるのではないかと思っています。
効率的で実効的な相続手続きができるように、より制度の充実を進めていただきたいと考えています。
他方で、まったく違った視点ですが、このような制度ができた場合の濫用の危険に対する懸念はありうるでしょう。
たとえば、上記の所有不動産記録証明書の申請者が非常に広く認められた場合、これを営業目的の情報として商業的に利用されるおそれがないともいえません。
他方で、破産管財事件での破産管財人には、破産者の財産内容の把握のために、所有不動産記録証明書の申請権を認めることに合理的な理由があるともいえそうですし、公的な必要性との考量が必要な分野はあると思います。
なかなか難しい問題もあるところですが、おおまかな方向性として、このシステムが導入されることには大きなメリットがあると評価しています。
法制審議会のページのリンクはこちらです。
http://www.moj.go.jp/shingi1/housei02_00302.html
自筆証書遺言の保管制度の開始
コロナの影響でテレワークが進んでいるようです。
弁護士の業界でも,以前にご紹介した民事裁判のIT化等が進んできていますが,まだまだ紙ベースでの業務が多く,印鑑文化についても当分無くならないように感じています。
とはいえ,自らの弁護士としての職印を押す際には,その文書の内容に責任を持つという独特の重みがあるように感じていますし,これがデータのみでやりとりされるようになった場合には,便利にはなるものの,自らの創作物に対する責任をどのような形で確認しようかと考えています。
さて,今回は,いよいよ7月10日から始まる法務局による自筆証書遺言の保管制度について取り上げたいと思います。
法律の内容自体は,以前から決まっていたのですが,すでに細かな運用まで決まっています。
まず,予め作成していた遺言書の保管の申請は,管轄の法務局に対してする必要があります。
管轄は,遺言者の住所地,本籍地,所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する遺言書保管所となります。
たとえば,名古屋市であれば名古屋法務局の本局が管轄となります。
それぞれの市町村の管轄については,法務省のホームページで確認することができます。
また,保管の申請等を行う際には,予め予約を取っておく必要があります。
予約は,予約専用のホームページがあるほか,電話で取ることもできるようです。
制度開始に先駆けて,予約については7月1日からできるようになるそうです。
必要な費用も決まりました。
たとえば,遺言書の保管の申請であれば,一件について3900円,遺言書情報証明書の交付請求であれば,一通について1400円となっています。
自筆証書遺言を作成する場合に,このような選択肢が広がったことは望ましいことだと思います。
公正証書遺言にするかどうかは,それぞれにメリットとデメリットがありますので,お気軽にご相談いただきたいと思います。
なお,弁護士法人心に新たに四日市法律事務所が開設されました。
よりお客様にご利用していただきやすくなると思いますので,お気軽にご相談等にご利用ください。
コロナ下での弁護士業務
新型コロナウイルスの影響がさまざまなところで拡がっています。
なかなか先が見通せない状況の中,健康面,経済面に対するご不安を抱えていらっしゃる方も多いかと思います。
歴史上も,人間社会は細菌やウイルスの脅威に幾度となく見舞われてきました。
社会が環境の変化に対してどのように対応できるかは,一人ひとりが環境の変化に対応できる能力にかかっていると思います。
できる限り情報の収集に努めていただき,冷静に分析をして,賢明な行動を取っていただきたいと思います。
私の勤務する名古屋地区でも,裁判所の期日が取消しになり,裁判手続きが停止してしまっています。
事件が長引けば長引くほど,依頼者様にとっては精神的な苦痛が長引くということであり,私自身も心苦しい限りです。
ただ,この状況下においても,進めることができる手続きはあります。
たとえば,裁判手続きになっている事件でも,裁判外での和解の話合いはできますし,裁判に向けての準備作業等もできます。
裁判になっていない事件についても,コロナの影響での制約はありますが,それぞれの事件で進められる手続きはあります。
争いになっている事件以外でも,法律分野でできることはあります。
前回のブログでも遺言について触れさせていただきましたが,先が見えない世の中だからこそ,万一の事態に備えて遺言を書いておかれるべきだろうと思います。
ただ遺言の中でも公証人が作成する公正証書遺言については,公証役場のなかには,現在,不要不急以外のものを公証役場で作成することを避けてほしいとしているところがあります。
公正証書遺言でのご作成を考えておられる方も,まずは自筆証書遺言をご作成しておかれて,後日,改めて公正証書遺言をご作成されるという方法もありますので,ご検討ください。
コロナの影響で,わたしたちの周囲の環境も予断を許さない状況になっています。
必要以上に悲観的になる必要はないと思いますが,私自身も,弁護士としてどのように社会に対する貢献ができるのかを考えていきたいと思います。
配偶者居住権について
先月のブログでも触れましたが,コロナウイルスの感染がさらに拡がっているようです。
私の勤務地の名古屋駅周辺でも,この影響で平日,休日を問わずに行き交う人の数が非常に減少していますし,経済への影響は避けがたいものがあると思われます。
例年であれば,この時期には花見を楽しめたのでしょうが,今年はそういうわけにもいかなさそうです。
古来,季節を愛でてきた日本人の一人として,今年も美しく咲き誇ってくれている桜を観ると,少し寂しい気持ちになります。
コロナウイルスの影響で,みなさまそれぞれに行動の制限がかかってしまっているでしょうが,どうかできる限りの対策をしていただいて,この危機を乗り切っていただきたいと思います。
今回は,来月から施行される配偶者居住権をとりあげたいと思います。
配偶者居住権とは,配偶者に相続によって居住建物に無償で住み続けることを認める権利です。
高齢社会の進展によって,配偶者が亡くなった時の相続人が高齢であるケースが増えてきているといえますが,そのような相続人にとっては,長年住み慣れた住居に住み続けたと考えることが通常であるはずですし,近年は高齢者が住居を借りることが難しくなってきています。
しかし,たとえば,遺産のほとんどが自宅で,ほかに遺産がない場合には,配偶者が自宅を相続してしまうと,ほかの預貯金等の財産を相続することができなくなってしまいます。
そうずると,配偶者にとっては,自宅は相続できたものの,老後の備えとなる資金が不足し困った事態となりまねませんし,自宅を相続することすら叶わないかもしれません。
このような場合に,「自宅の所有権」を取得するのではなく,「自宅に住み続ける権利」を取得するのにとどめておけば,その分について他の財産を取得することができることになります。
この権利は相続人の協議によって設置することができますが,必ずしもすべての相続人がこの権利の設定に応じてくれるとは限りません。
そのため,この権利は遺言によっても設定することができますから,後の相続における紛争を防ぐためにも,遺言で決めておくことがよいでしょう。
配偶者居住権は,相続でもめることを防ぐだけでなく,相続税の対策にも有効です。
また,この権利を設定するためには要件がありますので,この要件を満たすかどうかを確認しておくことも重要です。
さまざまな可能性のある制度ですので,専門家のアドバイスも受けながら,検討してほしいと思います。
社会的な危機が訪れた際には,人は自らの人生について見つめなおすといいますし,万一のことがあった場合に備える機会になると思います。
自宅で家族とともに過ごされる時間が増えた方も多いでしょうが,これをきっかけにして,パートナーや家族を守るための検討をされてみてはいかがでしょうか。
自治体への土地の寄附について
コロナウイルスが世界的に流行しているようです。
愛知県内でも多くの感染者が確認されているため,名古屋でもマスクを着けながら行動している方が多いです。
今後,この件で社会にさまざまな影響が出ることが懸念されます。
それぞれの人が,それぞれの立場で,予防と対策をすべきですが,過度な混乱を招かないように冷静に行動をしてほしいと思います。
以前にブログで土地の所有権放棄について取り上げたことがあります。
今回は,これに関する資料が公表されておりましたので,お伝えしたいと思います。
私が,弁護士として相続案件に携わっていて非常に困るケースとして,相続財産に山林や農地が多く含まれており,相続人がすでに遠方に住んでいるなどしているために,その管理が困難というものがあります。
このような場合,相続人の誰もがその取得を望まないために,当該不動産についてはむしろマイナスの財産として評価したうえで,相続人の一人が引き受けるという扱いをすることがあります。
このような事情の背景として,不動産については所有権の放棄が容易ではないことは,以前のブログで取り上げました。
他方,不動産を自治体に寄付するという手段が考えられるかと思います。
ただし,「自治体は,容易には寄付を受け付けてくれない」という事情があることは,私も承知しておりました。
この点について,法務省の法制審議会「民法・不動産登記法部会」で自治体の土地に寄附に関する対応状況が明らかになりました。
全国市長会によると,全国の91都市に対して,土地の寄附の申出件数および受理件数を照会したところ,81都市から回答を得られ,申出自体はある程度の件数があるものの,受理をされたのは0件であったとのことでした。
ただし,上記の対象には,道路や水路などの公共施設の用地取得に係る寄附は除かれています。
土地の寄附を受理しない理由としては,「行政目的のない土地は受け取らない」,「維持管理コストの負担の増加」が挙げられています。
このような現状からすると,利用価値に乏しく,維持管理コストが高い土地については,引き続き,取得の負担が大きいということがいえます。
上記法制審議会では,国土の有効活用のため,一定の要件の下で,土地所有権の放棄を認める制度の創設について議論がされています。
このような制度が整備されることは,国策上も有用だと思いますし,遺産分割の内容にも影響すると考えられますので,引き続き,議論の経過を追っていきたいと思います。
養育費,婚姻費用の新算定方式について
今年最初の投稿です。
去年1年を振り返ってみても,平成の最後の年を迎えた時には,令和の最初の年がこのような1年になろうとは思ってもみませんでした。
1年の計を立てるには元旦がよいなどと言われますが,1年の計画の立てることの難しさを感じています。
これからも,明確な目標を設定し,しっかりと日々の計画を立てながら,弁護士としての職務にあたっていきたいと思います。
今回は,新たに発表された養育費,婚姻費用に関する報告を採りあげたいと思います。
昨年12月23日,養育費,婚姻費用に関する司法研修所の研究が発表されました。
ここで新たな養育費,婚姻費用に関する算定表も発表され,最高裁判所のホームページでも公開されています。
詳しい研究内容は『養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究』(司法研修所編)という書籍に記載されています。
まず,基礎収入の算定方法は,最新の税率・統計資料に基づいて基礎収入割合が算出されただけで,従来の算定方式との間で特段の変更点はないようです。
子どもの生活費指数については,15歳前後で区分するという点には変更がありませんでしたが,0~14歳区分が従来の「55」から「62」に増加し,15歳以上が従来の「90」から「85」に低下しました。
前者の理由は,学校教育費等の考慮すべき生活費の割合上昇によるもの,後者の理由は,国公立高等学校の学費が下がったことによるものだと説明されています。
成人年齢の引下げの法改正の影響については,結論としてはないこととされています。
このように,今回の新算定方式は従来の算定方式が依拠していた統計資料等を最新のものに更新しただけで,考え方や内容に大きな変更点はありません。
その理由としては,従来の算定表がこれまで実務で広く受け入れられてきたにも関わらず,これに大きな変更を加えることは実務の混乱をもたらすおそれがあるため,法的な安定性の観点からも,必要最小限の修正に留められたのでないかと思われます。
また,研究発表では,「本研究発表は,養育費等の額を変更すべき事情変更には該当しない」と明記されていますので,この点も非常に大事でしょう。
新算定方式はこのような内容ですから,少なくとも実務上は,名古屋を含めて全国の家庭裁判所に受け入れられるものと考えられます。
裁判手続きのIT化について
令和の最初の年も,もうすぐ終わろうとしています。
私自身も,今年1年でできたことと,できなかったことをしっかり見直して,また来年からより一層頑張っていきたいと思います。
これからも,みなさまのご指導とご鞭撻をお願いいたします。
今回は,民事訴訟のIT化の話題を採りあげたいと思います。
日本の裁判手続きにおいては,以前からIT化の遅れが指摘されて久しいものがあります。
民事裁判を提起する訴状や,裁判での主張内容を記載する準備書面といった書面は,現在はすべて紙で提出する必要があります。
訴訟係属中の準備書面等はFAXによって提出していますが,枚数が多い場合にはFAXによらず郵送をする必要がありますし,郵送には費用や手間が非常にかかってしまっています。
司法当局が参加する民事司法制度改革推進に関する関係省庁連絡会議は,今月,民事裁判制度の改革の骨子案をまとめました。
骨子案によると,民事訴訟手続きを段階的にオンライン化し,最終的には全面的なオンライン化を図るというもののようです。
訴訟代理人弁護士には,裁判関係書類のオンライン提出を義務付けることで,民事訴訟手続きのオンライン化を推進するとされています。
上記のようなオンライン化が進めば,口頭弁論期日をオンラインで行うことや訴訟記録をオンラインで閲覧・謄写することも可能になるでしょう。
実際に,愛知県弁護士会では,名古屋地方裁判所との間で,ウェブ会議による争点整理手続を想定した合同模擬裁判も開かれています。
裁判手続きがオンライン化されれば,弁護士業務の効率化にもつながるため,私としてはこれに期待するところが大きいです。
他方で,訴訟代理人が就かない,いわゆる本人訴訟による場合には,なかなか弁護士以外の方がオンラインに対応することは難しく,これまでもハードルが高いとされてきた訴訟手続きにアクセスすることがより困難になるのではないかという懸念もあるでしょう。
また,オンラインでのデータのやりとりとなる場合には,情報漏洩等のリスクがより高まることも予想されますし,弁護士としても守秘義務の観点からの対応が要請されるケースもありそうです。
司法制度に関わる一員として,これらの問題点を適切に克服しながら,より効率的な紛争解決に努めていきたいと思います。
名古屋圏の地価について
10月に入り,一気に涼しくなりましたね。
過ごしやすい季節となったのはいいのですが,夏の暑い時期にさぼっていたベランダの掃除などにもしっかりと取り組まないといけないなと感じているところです。
これまで法律に関する堅い話が多かったので,今回のブログは名古屋圏の地価について取り上げたいと思います。
私は相続の案件を多く扱っており,遺産の中に不動産が含まれていることも多く,不動産がどのくらいの価値があるのかは常に気にしながら弁護士業務を行っています。
国土交通省が今年9月19日に発表した地価調査によると,名古屋圏の商業地の地価は3.8パーセント上昇し,名古屋市内の全区で上昇したとのことです。
栄地区では百貨店「丸栄」跡地などでの再開発が進んでいますし,リニアの開通を控えた開発などで名古屋駅周辺などでも,これらの事情が地価を大きく押し上げる要因となっているようです。
また,知立市,刈谷市,安城市といった名古屋への通勤圏の自治体でも地価の上昇がみられているようですね。
当法人の事務所もある名古屋駅周辺のオフィスの空き室率は1パーセント台ということで,このように好調な需要が周辺地域での開発を後押ししているようです。
このように相続財産の中に高い価値のある不動産がある場合,もちろん遺産の額が大きいことは相続人にとっては喜ばしいことなのですが,一方で考えなければならない問題も生じます。
たとえば,相続財産のほとんどが不動産の場合,でこのように高い地価の土地が含まれているとすると,相続人は多額の相続税を支払う必要が生じてきます。
相続税は,原則として,被相続人が亡くなってから10か月以内に申告と納付をしなければなりませんので,価値の高い不動産が遺産に含まれている場合,相続税の納付にあてる預貯金等の資金が足りないおそれが生じます。
その場合には,相続人が共同して不動産を売却してその資金に充てることも考えられますが,相続人の間で売却についての考え方が分かれてしまったり,売却を慌てて行うことで低い売却代金で妥協してしまったりということがありえます。
このような事態にならないように,ご生前中からしっかりと相続対策をされることをアドバイスする機会も多くあります。
不動産に関する最新の情報もしっかり収集しながら,みなさまに適切なアドバイスができるように日々精進していきたいと思います。
相続放棄の最高裁判例について(2)
もう9月も終わろうとしていますが,あまり秋という感じがしないですね。
名古屋では朝の早い時間帯や夜は涼しいなと感じることもありますが,日中はまだまだ蒸し暑く感じます。
前回に引き続き,今回のブログでも再転相続に関する判例について取り上げたいと思います。
(前回の続き)
5.原審判断の理由とは
それでは,なぜ原審は民法916条の適用ではなく,民法915条を適用するとの判断に至ったのでしょうか。
そもそも,相続放棄の熟慮期間の起算点については,民法915条の解釈によって,相続の開始原因事実のみではなく,自らが相続人であることも知ったときと解されています。
第1相続のみを相続放棄することも現在の判例上は認められていますから,相続放棄をするかどうか確定していない再転相続においては,再転相続人が,自らが第1相続の相続人であることを認識した時点のみを問題にすればよいと考えるのが自然です。
ただし,これは過去のブログでも指摘したとおりですが,そのように解すると,民法915条のみを再転相続も含めた事案に適用すればよいのであり,これとは別に民法916条を規定した意義がどこにあるのかが分からなくなります。
言い換えると,再転相続人の認識を問題にするというは民法915条からも明らかであり,わざわざ民法916条を規定する必要はないのではないかという疑問です。
原審が,民法916条の適用の余地を限定したうえでも残し,当該事案で民法915条を適用するとしたのも,このあたりに理由のひとつがあったのかもしれません。
6. 再転相続における相続放棄の理論的根拠
ここで,再転相続において再転相続人がなぜ第1相続の相続放棄をすることができるのかということの理論的な側面に触れておきたいと思います。
有力な考え方によると,すでに亡くなっている相続人は,みずからが相続をするかどうかを判断していませんので,相続放棄をするかどうかを判断する権利を有していることになります。
そして,その相続人が亡くなったときには,再転相続人が,その相続するかどうかを判断する権利を相続人から承継することになります。
これが,再転相続人が,再転相続において第1相続の相続放棄をすることができることの理論的な理由です。
この点を踏まえて原審の判断をみてみると,「相続人が,被相続人の相続人であることを知っていたが,相続の承認又は放棄をしないで死亡した場合」に民法916条を適用するとしており,相続人がすでに相続放棄をするかどうかの判断をする機会を得ていた場合に限って適用していることになります。
つまり,相続人は相続放棄をするかどうかを判断しなければならない地位にあり,再転相続人がその地位をそのまま受け継ぐのであれば,再転相続人も第1相続についての認識の有無に関わらず,相続放棄をするかどうかの判断をしなければならない地位にあるといえます。
そして,そのように処理をすると,第2相続の開始時期によっては熟慮期間が短かすぎ,再転相続人にとって酷といえる場合がありうるため,民法916条でその熟慮期間を伸長したと考えることができます。
このような理論面からしても,原審の判断は理にかなったものではあったと,私は考えています。
3.最高裁判所の判断について
しかし,それでも私は今回の最高裁判所の判断を支持したいと思います。
弁護士として相続に関する案件を多く扱っていて思うのですが,やはり自らが認識していない相続に関する負債を不意打ち的に負うことになるのは相続人にとって酷だといえますし,法定単純承認にあたるような行為をしていた相続人は別ですが,そうではない相続人の財産を債権者が責任財産としてあてにするというのもおかしいのではないかと思うからです。
原審の判断内容を実質的に考えても,相続人が判断をする機会があったことは確かだとは思いますが,結局,熟慮期間内に判断をしなかったのであれば,十分な判断の機会が保証されていたとはいえないでしょうし,再転相続人にあたらめて判断の機会をあたえるとすることが公平だといえると思います。
ただ,結論としては最高裁のように考えることが妥当だとはいえても,理論的にはそのような解釈をすることは難しい面があるのではないかと考えますが,今回の判断内容は最高裁にのみ許される解釈であると思いますし,私は今後の裁判実務の明確な指針となる判決を出してくれたことを歓迎したいです。
4.最後に
実は,民法916条は,再転相続人に相続放棄をするかどうかの機会をあたえ,保護する面とともに,債権者やそのほかの利害関係人にとっては法的な安定性を与えられるという面もあり,これとの調整を図ったものであると指摘されてきました。
後者の面については今回の判例では触れられていませんが,債権者らにとっては,再転相続人に対して相続人であることを通知すればよいのですから,それほど配慮しなければならないものとはいえないのかもしれません。
(前回,今回と難しい話をしてしまったので,次回は簡単な話題を取り上げたいと思います)
空き家シンポジウムの講演内容
11月も終わりが近づき,今年もあとわずかとなりました。
今年1年を振り返ったときに,良い1年だったと思えるように残りの日も頑張っていきたいと思います。
弁護士の江口潤です。
今回は,私も,先日,参加した空き家シンポジウムの講演内容をご紹介したいと思います。
空き家が発生する理由についてはさまざまありますが,少子高齢化による人口減少,建物の老朽化や接道のない建物であることによる取引需要の低下などがあるそうです。
また,名古屋市が平成27年度に行った市政アンケートによると,空き家を所有することになった理由について,「相続」と回答した割合が66パーセントであったそうです。
相続人の間で遺産分割協議が進まないなどの問題が生じると,家屋を誰が相続するかについて決めることができませんし,長い期間を経過することで,家屋の権利関係がより複雑になってしまい,空き家が放置される要因になるという点が,指摘されていました。
私が名古屋で相続に関する相談を受けていても,遺産分割の方法について相続人間でもめてしまって協議が進まなかったり,遺産分割をせずに放置したままであったりしたことで,長い期間が経過してしまい,数次相続が発生して相続人が変更されることで,問題の解決がより困難になっているケースは,しばしばうかがいます。
たしかに,相続人にとって思い出のある実家を残したいという気持ちもよく理解できますし,家を継ぐ方が実家から離れてしまった状況で,仏壇や家財道具が実家に残ったまま倉庫代わりになっているケースは,致し方ないようにも思います。
ただ,遺産分割協議を進めることができなかった結果,相続人間の誰も住む予定がなく管理が大変な自宅を押し付けあったり,自宅を売却するかどうかでもめたりするケースについては,空き家のまま放置し,管理が十分にされなかった結果,災害等によって倒壊し,周囲の人や者に損害を与えた場合には,所有者として民事上の責任を負うリスクがありますので,相続人にとってもできるだけ早く解決することにメリットがあるといえます。
また,このようなリスクは,亡くなる方が生前から,適切な内容の遺言書を作成しておけば避けられた場合が少なくありません。
ただ,相続に関する場合には限られませんが,管理が大変な空き家を所有することになってしまった者に対しては,行政からさまざまな支援を受けることができる制度があります。
たとえば,このブログの掲載時には,老朽化して保安上危険な家屋に対して解体費の一部を行政が補助する制度であったり,空き家の発生を抑制するため,被相続人の居住の用に供していた家屋を取り壊すなどして土地を譲渡する等いくつかの条件を満たした場合には,売却に伴う譲渡所得から3000万円まで控除するという特例があったりします。
すでに空き家になってしまっている家屋を抱えている場合には,お早めに対応をされた方がよいですし,空き家になってしまいそうな家屋を所有されているのであれば,予めそれについての対策をされておかれるようにおすすめします。
慣習の意味と周囲の理解
こんにちは。
弁護士の江口潤です。
今回は,外国人の友人から受けた素朴な指摘から私が考えたことについて書きたいと思います。
日本に来てくれた外国の友人を案内していたときのことです。
彼を大好きなとんこつラーメンの有名店に案内し,一緒に食事をしていたところ,彼は,突然,露骨に不機嫌な表情になりました。
彼が気分を害した原因は,周囲の客が麺を勢いよくすすっていたことにありました。
彼,いわく,
「日本人はいつも礼儀正しいのに,どうしてラーメンを食べるときにはこんなに失礼なんだ」
(彼によると,音を立てて食事をするのは,人前でおならをする以上に失礼な行為だそうです)
彼は,日本の文化や政治にも詳しく,日本のことも非常に気に入っているがゆえの疑問だったのだと思います。
私は,彼の指摘を受けて,すぐに答えが思い浮かばなかったのですが,
「日本でも,人前で音を立てて食事をすることは失礼なことだけど,麺を食べるときはそれが許されているんだ」
と説明しました。
おそらく,麺を勢いよくすすって食べることがもっともおいしい食べ方なのであり,その行為を周囲の人間が許容しているということなのだと思います。
ただ,そのような説明をしても,彼はやはりそのような食べ方に抵抗があるのか,首を傾げるだけで,まったく理解はしてくれませんでした。
(「もっともおいしい方法で食べるをすることが,料理や食材の作り手に対する尊敬につながるのであり,これは日本文化を象徴する行為だ」とでも言えば,説得的だったのかもしれませんが)
たしかに,昨今は,ヌーハラ(ヌードルハラスメント)なる言葉もあり,自分が当たり前に感じていた行為が,万人にとって当たり前ではないのかもしれません。
これは弁護士業界にもいえることであり,業界の人間が当たり前に感じていた慣習が,周囲の方にとっては当たり前ではないということもあるのでしょう。
このような場合,自分としては,周囲の方からどのように見られているか尊重したうえで,その慣習にどのような意味があるのか考え,意味があると思うのであれば周囲の方にその意味を説明する必要があるのだと思います。
ちなみに,私は麺類をすすって食べません。
そのおかげで,彼からはナイスガイと認定されましたが,その理由は失礼だと考えているのではなく,汁が飛び散るのが嫌だからです。
あえて理由を説明する必要もなかったので,その時の私は日本風のスマイルを返しておきました。