死亡届について

緊急事態宣言も解除され,名古屋市でも徐々に人出が増えたように感じています。

第2波,第3波の危険も指摘されているところでもあり,再度の感染拡大に注意しながら,日頃の行動を律していきたいと思います。

 

今回は,死亡届について取り扱おうと思います。

死亡届については,みなさまにはあまり馴染みがないかもしれませんが,相続を扱う弁護士にとってはまれに問題になることがあります。

 

まず,死亡届には届出義務者が定められており,死亡の事実を知った日から7日以内(国外での死亡の場合は3か月以内)に届け出をしなければなりません。

 

届出義務者には順序があり,「同居の親族」,「その他の同居者」「家主,地主又は家屋若しくは土地の管理人」の順序で届出義務を負っています。

 

法律上,届出義務を負っている届出義務者のほかに,届出を提出することができる届出資格者というのがあります。

上記の届出義務者は,その順序に関わらず届出をすることができるとされていますから,届出資格者でもあるといえます。

そのほかの届出資格者としては,同居の親族以外の親族,後見人,保佐人,補助人,任意後見人があります。

 

それでは,死亡届の届出資格者がいない場合にはどうすればよいのでしょうか。

死亡届が誰からも提出できるというのは妥当ではないかもしれませんが,他方で,その方が亡くなったことが明らかであるにも関わらず,これが戸籍に反映されないことも問題です。

そのため,死亡届が届出資格者以外からなされた場合には,これを死亡したことを戸籍に反映することを申し出る「死亡記載申出書」として扱ってもらえることがあります。

 

家族の在り方の変化に伴って,独居で亡くなる方も増えてきているようです。

そのような方々が亡くなった後もトラブルとならないように,また,亡くなった後の面倒をみる方がスムーズに手続きを進められるように,さまざまな工夫が必要であると感じています。

 

婚姻費用・養育費に関する新たな研究結果の発表について

「もう12月も差し迫っているのに,今年はあまり寒くならないなあ」と思っていたところ,ここ数日で急に寒くなった気がします。

特に,朝晩の時間帯は非常に冷え込むようになりましたので,みなさまもご体調にはお気をつけていただければと思います。

 

今回は,婚姻費用や養育費についての話題を採りあげたいと思います。

 

私は,相続や離婚などの家族関係の事件を多く取り扱っているため,婚姻費用や養育費が問題となることも多いのです。

最高裁判所の司法研修所が,12月23日に,婚姻費用や養育費に関する新たな研究結果を発表することが分かっています。

これまでの実務では,平成15年に東京・大阪の裁判官によって発表されていた簡易算定表を参考にして,名古屋の裁判所でも計算がされていました。

ただし,上記算定表によって計算した婚姻費用や養育費が低すぎるのではないかという批判が以前からあり,日本弁護士連合会も独自の算定方法を提案していましたが,なかなか実務での浸透はしていませんでした。

このような状況のもとで,上記のような新たな研究発表がされるということになりましたので,これによると婚姻費用や養育費は増額されることになるのではないかという予想がされています。

まだ研究発表内容が明らかになっているわけではありませんので,これがただちに実務に反映されるのかどうかも不透明ではあります。

ただ,私が現在担当している調停中の事件でも,上記研究の発表内容を踏まえてから婚姻費用や養育費の額を決めたいという考えが当事者や裁判所でもあり,すでにこのようなかたちで実務に対する影響はでているといえます。

 

いったいいかなる算定方法が婚姻費用や養育費として妥当なのかというのは,規範的な考慮を必要とするため,非常に難しい問題だと思います。

また,個々のケースの事情にきめ細かく配慮しつつ,他方で,できる限り簡易に算定が可能な方法としても使えるものとしなければならないという要請もあります。

婚姻費用や養育費の事件に関わる弁護士としては,今回発表される研究結果を十分に理解したうえで,検討する必要があります。

その結果については,今後,このブログでも採りあげていきたいと思います。

相続放棄の最高裁判例について(2)

もう9月も終わろうとしていますが,あまり秋という感じがしないですね。
名古屋では朝の早い時間帯や夜は涼しいなと感じることもありますが,日中はまだまだ蒸し暑く感じます。

前回に引き続き,今回のブログでも再転相続に関する判例について取り上げたいと思います。

(前回の続き)
5.原審判断の理由とは
それでは,なぜ原審は民法916条の適用ではなく,民法915条を適用するとの判断に至ったのでしょうか。
そもそも,相続放棄の熟慮期間の起算点については,民法915条の解釈によって,相続の開始原因事実のみではなく,自らが相続人であることも知ったときと解されています。
第1相続のみを相続放棄することも現在の判例上は認められていますから,相続放棄をするかどうか確定していない再転相続においては,再転相続人が,自らが第1相続の相続人であることを認識した時点のみを問題にすればよいと考えるのが自然です。
ただし,これは過去のブログでも指摘したとおりですが,そのように解すると,民法915条のみを再転相続も含めた事案に適用すればよいのであり,これとは別に民法916条を規定した意義がどこにあるのかが分からなくなります。
言い換えると,再転相続人の認識を問題にするというは民法915条からも明らかであり,わざわざ民法916条を規定する必要はないのではないかという疑問です。
原審が,民法916条の適用の余地を限定したうえでも残し,当該事案で民法915条を適用するとしたのも,このあたりに理由のひとつがあったのかもしれません。

6. 再転相続における相続放棄の理論的根拠
ここで,再転相続において再転相続人がなぜ第1相続の相続放棄をすることができるのかということの理論的な側面に触れておきたいと思います。
有力な考え方によると,すでに亡くなっている相続人は,みずからが相続をするかどうかを判断していませんので,相続放棄をするかどうかを判断する権利を有していることになります。
そして,その相続人が亡くなったときには,再転相続人が,その相続するかどうかを判断する権利を相続人から承継することになります。
これが,再転相続人が,再転相続において第1相続の相続放棄をすることができることの理論的な理由です。
この点を踏まえて原審の判断をみてみると,「相続人が,被相続人の相続人であることを知っていたが,相続の承認又は放棄をしないで死亡した場合」に民法916条を適用するとしており,相続人がすでに相続放棄をするかどうかの判断をする機会を得ていた場合に限って適用していることになります。
つまり,相続人は相続放棄をするかどうかを判断しなければならない地位にあり,再転相続人がその地位をそのまま受け継ぐのであれば,再転相続人も第1相続についての認識の有無に関わらず,相続放棄をするかどうかの判断をしなければならない地位にあるといえます。
そして,そのように処理をすると,第2相続の開始時期によっては熟慮期間が短かすぎ,再転相続人にとって酷といえる場合がありうるため,民法916条でその熟慮期間を伸長したと考えることができます。
このような理論面からしても,原審の判断は理にかなったものではあったと,私は考えています。

3.最高裁判所の判断について
しかし,それでも私は今回の最高裁判所の判断を支持したいと思います。
弁護士として相続に関する案件を多く扱っていて思うのですが,やはり自らが認識していない相続に関する負債を不意打ち的に負うことになるのは相続人にとって酷だといえますし,法定単純承認にあたるような行為をしていた相続人は別ですが,そうではない相続人の財産を債権者が責任財産としてあてにするというのもおかしいのではないかと思うからです。
原審の判断内容を実質的に考えても,相続人が判断をする機会があったことは確かだとは思いますが,結局,熟慮期間内に判断をしなかったのであれば,十分な判断の機会が保証されていたとはいえないでしょうし,再転相続人にあたらめて判断の機会をあたえるとすることが公平だといえると思います。
ただ,結論としては最高裁のように考えることが妥当だとはいえても,理論的にはそのような解釈をすることは難しい面があるのではないかと考えますが,今回の判断内容は最高裁にのみ許される解釈であると思いますし,私は今後の裁判実務の明確な指針となる判決を出してくれたことを歓迎したいです。

4.最後に
実は,民法916条は,再転相続人に相続放棄をするかどうかの機会をあたえ,保護する面とともに,債権者やそのほかの利害関係人にとっては法的な安定性を与えられるという面もあり,これとの調整を図ったものであると指摘されてきました。
後者の面については今回の判例では触れられていませんが,債権者らにとっては,再転相続人に対して相続人であることを通知すればよいのですから,それほど配慮しなければならないものとはいえないのかもしれません。
(前回,今回と難しい話をしてしまったので,次回は簡単な話題を取り上げたいと思います)

名古屋で相続放棄をお考えの方はこちらをご覧ください。

遺言の自由と制限について

弁護士の江口潤です。

 

先日,名古屋市の鶴舞公園に行ってまいりましたが,桜の開花もかなり進んできました。

なかなか心行くまで花見酒とはいかない身としては,心の置けない方たちとともに愉しまれている方々が羨ましく見えます。

 

今回は,遺言について,ちょっと変わった視点から見てみようと思います。

つまり,日本以外ではどのような遺言の制度となっているのかについて紹介し,日本の遺言や,それにまつわる相続制度の特徴を考えてみたいと思います。

 

遺言者は,自分の死後に自分の財産をどのように処分したいかを遺言をすることで決めます。

自分の財産なのですから自分の好きなようにできるはずではあるのですが,法律上はそうではなく,遺留分という制限が存在します。

 

遺留分は,配偶者や子,親などの相続人に認められている「権利」であるとされており,遺言者の側から見ると,遺言による財産処分の権利が制限されているということになります。

なぜこのような遺留分が認められているかについては,相続人の相続に対する期待を保護するためであるとか,相続人が経済的に困窮することを防ぐためであるなどと説明されています。

 

法学の世界で大陸法系と言われる国は遺言の自由を制限する傾向にあり,日本は大陸法系の国に属していますので,遺言の自由が比較的制限されています。

遺言の自由を広く認めているといわれる英米法系の国では,子らには遺留分が認められていないことがほとんどです。

ただ,英米法系の国であっても,配偶者や扶養を必要としている子に対しては一定の財産的な権利が確保されています。

 

実は,相続人が相続において財産の確保するための法制度上の手段は,遺留分だけではありません。

日本は,婚姻後も夫婦それぞれが財産を形成する「夫婦別産制」を採っていますが,「夫婦共有制」といって,婚姻後取得した財産についてはそれぞれの名義のものであっても均等の持分を持つものとしている国では,夫婦の一方が死亡した場合,夫婦の共有財産の半分は配偶者が取得することになります。

そのため,夫婦共有制の国では,初めから夫婦の財産の半分は配偶者が確保しており,遺言者は残った半分についてだけ,遺言で自由に処分することができるということになります。

 

相続法の改正作業においても,遺留分の制度についてはさまざまな議論がされました。

ただ,この制度が残されたことにはそれなりの意味があるわけですし,私たちは,この制度があることを前提にして,自分が望むことに最も近い結果を実現できるように対応していかなければならないでしょう。

 

そのうえで,法律家として,ご依頼者様がこのような結果を実現することの手助けができるよう,研鑽を積んでいきたいと思います。

 

成年後見制度について

弁護士の江口潤です。

 

寒さもだいぶ和らいできました。

この冬は,前年に比べるとあまり寒くなかった印象がありましたが,やはり全国的に暖冬傾向だったようですね。

 

私の住む名古屋でも,降雪はほとんどありませんでしたし,過ごしやすかった気がします。

 

 

さて,私が,先日,成年後見事務に関する研修を受けてきましたので,今回は成年後見に関して取り上げたいと思います。

 

私は,普段から相続に関する案件を取り扱うことが多く,成年後見制度を利用することも多いです。

たとえば,遺言書を作成したいというお客様から任意後見制度のご利用をアドバイスしたり,遺産分割協議をする中で相続人の一人に成年後見人を就ける必要があったりということで,成年後見制度に携わっています。

 

成年後見人とは,認知症や精神疾患などにより十分な判断ができなくなった方にかわって,本人の財産を管理し,その身上を監護する者をいいます。

このようにサポートを必要とする人のために成年後見人をつけるには,家庭裁判所に成年後見開始の審判を申し立てる必要があります。

裁判所の資料によると,後見開始の審判の申立件数は,平成28年で2万6836件であったのが,平成29年では2万7798件となり,約3.6パーセント増加しているようです。

日本は高齢化社会ですから,今後も後見開始の審判の申立ては,この程度の件数が維持されるものと見込まれます。

 

裁判所から選任される成年後見人には,本人の親族がなるケースと弁護士等の専門家が選任されるケースとがあります。

成年後見の申立時に,親族を成年後見人の候補者としていても,財産が多かったり,遺産分割の必要があったり,親族が財産管理に適していなかったりした場合には,裁判所の判断で専門家が成年後見人に選任されることになります。

 

しばしば問題となるのは,親族に対する支出が許されるかということです。

成年後見人は,あくまで本人のために本人の財産の管理義務を負っていますから,親族に対する贈与や貸付は,財産の減少行為にあたるため,原則として認められません。

ただし,配偶者や未成熟子に対して,必要な扶養の範囲内での扶養義務の履行としてであれば許される余地がありますが,これも厳格に考えられる傾向にあります。

 

また,相続税対策のために,土地の上に居住用や収益目的での建物を建てることも問題となります。

まず,相続税対策というのであれば,本人のためではなく相続人のためということになりますので,成年後見人は行うことはできません。

居住用の建物建設といった場合にも,その真の目的は相続税対策ではないというためには,居住のために真に必要であったといえなければならないでしょう。

収益目的の建物建設の場合には,本人のために真に必要があるといえるのかどうかが,より厳格に考えられることになります。

 

このように,成年後見の事務には難しい問題も多く,専門家以外を候補者として考えておられる場合には,しっかりと対策をしておかれる必要がありますので,ご注意ください。

 

 

公正証書遺言の作成

年の瀬も押し迫ってきましたね。

12月は,今年1年を振り返る良い機会だと思いますし,私も今年1年でできたことと,残念ながら不足したところを見直し,また来年も頑張っていきたいと思います。

 

弁護士の江口潤です。

 

今,遺言を書くことが一つのブームとなっています。

私も,普段から相続案件を取り扱う中で,「遺言さえあれば,こんなにもめなかったのになあ」と考える事例を担当することがあります。

遺言書を作成したいというご依頼をいただくことも多いですし,その際には,個々の遺言者の具体的なニーズに合わせ,できる限り紛争となりにくいように配慮した遺言書を作成するお手伝いをさせていただいています。

 

今回は,遺言書にまつわる問題を取り扱いたいと思います。

 

遺言書は,遺言の意思能力の問題はあるにせよ,誰でも気軽に作成しようと思えば作成できるものです。

主には自分の財産を,自分の死後にどのように処分しようかという問題ですから,本来,万人にとっての関心事であろうかと思います。

ただ,遺言は,法律の定める方式によってしかすることができないということが,民法960条に明示されています。

現在の法律では,意思表示の方法は,口頭とか書面とか,押印が必要などと限定されていないのが原則とされていますが,遺言については,法律がその方式を厳格に定めているのです。

日本法以外の法律でもそのような規律になっており,これは遺言書の真意が死後には明らかにならないことから,それを関係者によって歪めようとさせないために厳格な方式が要求されているとも説明されています。

 

遺言に方式が厳格に定められている意味を深く考察すると興味深いとは思いますが,今回はもっと実際的な公正証書遺言の方式について紹介します。

 

公正証書遺言とは,公証役場において,公証人という公務員の面前で,遺言者が遺言の内容を口授して作成する遺言書をいいます。

公証人という法律実務家が関わって作成されるものですし,法律上の要件を満たすことについて安心できますから,現在では広く利用されています。

 

公正証書遺言では,公証人が,遺言者から聞いていた遺言の内容をもとに,予め遺言書の案文を作成したうえ,遺言者からの面前の口授によって作成するのが通例です。

このように口授と公証人による筆記とは,民法969条の定める方式と順序が入れ替わっていますが,このような方法によることも裁判所に認められています。

ただし,公証人の質問に対して遺言者が単にうなずいただけとか,手を握り返しただけでは口授としては足りないとされています。

 

このように,公正証書の口授の要件については,裁判所は,一方で,遺言者の意思を実現させるために緩和した方法によることも認めてはいますが,他方で,遺言者の真意の確保という観点から,一定の限界を設けているといえます。

公正証書遺言作成の手続きについてはこちらもご覧ください。