自筆証書遺言の方式の緩和

平成も最後の年を迎えました。

 

弁護士の江口潤です。

 

私たち弁護士は,裁判所の文書が和暦を用いていることもあって,普段の業務でも西暦ではなく和暦を用いることが多いのです。

それだけに,あらたな年号が何になるかについては,個人的な関心が強いです。

 

明治の「M」,大正の「T」,昭和の「S」,平成の「H」の頭文字以外から選ばれるのではないかなど,さまざまな推測もできますが,あらたな時代を前向きに迎えられるような年号になってほしいと思います。

 

 

さて,前回に引き続き,今回の記事でも遺言について扱いたいと思います。

 

今回扱いたいのは,自筆証書遺言の方式の緩和についてです。

 

これまでの法律では,遺言者は自筆証書遺言の全部を自筆で作成しなければなりませんでした。

このような厳格な方式が要求されるのは,「遺言者の意思を確実に担保するため」であると説明されてきました。

ですが,日本が高齢化社会を迎えた今,高齢者がいざ遺言書を作成しようと思ったときに,全文を自筆で書くということが困難な場合が少なくありません。

ですから,全文の自筆という厳格な要件を求めることは,簡便に作成することができるという自筆証書遺言のメリットまで奪う,過剰な規制であるといえるでしょう。

 

そのような問題意識から,民法の改正により,自筆証書遺言の方式が一部緩和され,平成31年1月13日から施行されることになりました。

 

法改正によって,自筆証書遺言の内容のうち相続財産の全部または一部について,目録を添付することができ,この部分については自書を要しないこととなりました(民法968条第2項)

ただ,法改正後も,原則としては,遺言者がその全文,日付,氏名を自書する必要がありますので,ご注意ください(同条第1項)。

この改正によって,目録をパソコン等で作成したり,銀行の通帳のコピー,不動産の登記事項証明書等を目録として添付したりすることも許されるようになりました。

遺言者が不動産や金融資産を多数所有しても,簡便に自筆証書遺言を作成することができるようになったといえるでしょう。

 

さらに注意が必要なのは,この改正は今月13日から施行されるものであり,この日より前に作成された遺言書については改正法の適用がないということです。

つまり,自筆証書遺言が,この日以降に作成されたということが明確でなければなりません。

 

「自筆証書には日付の記載があるから,問題ないではないか」と思われるかもしれませんが,弁護士的な視点からは,これで十分とは思われません。

なぜなら,遺言書の効力を争う側から,「その日以前に作成されたのではないか」ということを主張してくるおそれがあるからです。

このような争いとなることは稀だとは思われますが,このような主張にも予め対処しておいた方がよいでしょう。

 

対処の方法としては,遺言書作成の日を証拠にしておくために,遺言書の作成過程を録画しておき,その際に,その日の朝刊が映るようにしておくということが考えられます。

これによって,その朝刊が発行された日以後に作成されたことが明らかになりますから,改正法施行日以降に作成されたという証拠ができ,上記のような主張を斥けることができます。

 

自筆証書遺言の作成については,より簡便に作成できるようになったとはいえ,目録の添付方法や,訂正の方法など難しいところも多く残っています。

法的に効力が認められ,遺言者の意思を着実に実現できる遺言書を作成するためには,専門家からのアドバイスを受けられた方がよろしいかと思われます。