私の住んでいる愛知県では、お昼間は暖かくなり、すっかり春となった印象です。
今年はゆっくり桜を観ることもできず、もう少し余裕を持ちたいところではありますが、必要なことをしっかりと対応していけるように頑張りたいと思います。
前回のブログで触れたとおり、今回も、所有者不明土地の問題に関する不動産関係の民法や不動産登記法の法改正について取り上げることにします。
今回は、「所有不動産記録証明制度(仮称)の創設」について取り上げたいと思います。
現在の提案内容の一部を紹介すると、「① 何人も、登記官に対し、手数料を納付して、自らが所有権の登記名義人(これに準ずる者として法務省令で定めるものを含む。後記②において同じ。)として記録されている不動産に係る登記記録に記録されている事項のうち法務省令で定めるもの(記録がないときは、その旨)を証明した書面(以下「所有不動産記録証明書(仮称)」という。)の交付を請求することができる。」とされています。
不動産の登記記録には、所有者の住所や氏名が記載されています。
不動産の登記内容はすでにデータ化されていますが、その方がどのような不動産を所有しているかを、住所や氏名から検索する公的な方法はありませんでした。
たとえば、相続の案件の場合には、自治体から届く固定資産税の通知書を確認したり、自治体に名寄帳(自治体によって名称は異なりますし、取得できる書類の内容も異なります)を申請したりすることで、被相続人の不動産の内容を調査しています。
この調査方法には、不動産が所在する自治体が分からなければならないため、調査の網羅性には限界があります。
所有不動産記録証明制度が整備され、この証明情報の申請者に相続人も含められた場合には、被相続人の所有する全国の不動産を調査することが可能になるといえそうです。
そうすれば不動産の相続手続き漏れを防ぐための有効な手段になります。
ただ、この調査方法の網羅性にも限界があるとはいえそうです。
この方法で検索をかける場合には、おそらく、住所や氏名の全面一致がある場合に限られると考えられますが、不動産については住所の変更があった場合にも変更の登記がされていない場合がしばしばみられるため、このような場合には検索にかからないと考えられます。
このような場合に備えて、過去の住所も含めて検索を実施するも必要になりそうです。
(さらに進んで、過去に被相続人が所有していた不動産についても検索ができれば、相続案件を扱う弁護士の立場としては助かる面があるのですが、現在はそのような話では進んでいないようです。)
このように、所有不動産記録証明制度が整備できれば非常に有効な財産調査のツールになると考えられますが、不動産登記に関する膨大なデータを検索可能になるシステムを構築できるまでには、どの程度の準備期間が必要になるのかについての心配もあります。
この点については、民事執行法の分野で、強制執行の実効性を高めるため不動産に関する情報取得手続きの制度が整備されることになっているため、担当部局で、すでにある程度の検討やシステム構築作業は進んでいるのではないかと思っています。
効率的で実効的な相続手続きができるように、より制度の充実を進めていただきたいと考えています。
他方で、まったく違った視点ですが、このような制度ができた場合の濫用の危険に対する懸念はありうるでしょう。
たとえば、上記の所有不動産記録証明書の申請者が非常に広く認められた場合、これを営業目的の情報として商業的に利用されるおそれがないともいえません。
他方で、破産管財事件での破産管財人には、破産者の財産内容の把握のために、所有不動産記録証明書の申請権を認めることに合理的な理由があるともいえそうですし、公的な必要性との考量が必要な分野はあると思います。
なかなか難しい問題もあるところですが、おおまかな方向性として、このシステムが導入されることには大きなメリットがあると評価しています。
法制審議会のページのリンクはこちらです。
http://www.moj.go.jp/shingi1/housei02_00302.html