遺産の家屋の占有

こんにちは。
弁護士の江口潤です。

私は,普段から名古屋市近郊で相続事件を多く取り扱っているのですが,事務所外の一般の法律相談の場でも相続のご相談は非常に多いです。

今回は,相談で多く寄せられる相続についての質問についてお答えしようと思います。

「 相続人の1人が遺産である家屋を独り占めしており,なんとかしたい 」

1.遺産である不動産の権利関係

このご質問に答えるときには,まずは相続の開始後,相続人が遺産にどのような権利を有しているのかを説明させていただいております。

相続の開始後,遺産は相続人の共有の状態となり,不動産であれば,相続人それぞれが相続分に応じた共有持分を有していることになります。

そして,当該遺産を誰が占有するのかを決めることは,一般に管理行為であるとされていますので,共有持分の過半数で決める必要があります。

したがって,過半数に満たない持分しか有さない相続人の1人が,他の相続人に無断で遺産である家屋に居住することはできません。

2.占有の権原が認められるケース

ただし,一定の場合には,相続人に占有の権原が認められることがあります。

たとえば,相続人が相続開始前から被相続人の許可を得て,遺産である家屋で同居していたケースなどがあげられます。

判例では,このような場合には,被相続人と相続人との間に使用貸借契約の関係があったとして,相続人の占有の権原が認められています。

このような占有の権原が認められるかどうかは,それぞれのケースによります。

3.明渡しを請求することはできない

判例によれば,過半数の持分を有する者からの請求であっても,不動産を占有する者に対して,当然には明渡しを求めることはできないとされています。

この理由として,不動産を占有する者にも自己の持分に基づいて占有する権原があることがあげられています。

(なお,この旨を判示した判例(最判昭和41年5月19日民集20巻5号947頁)では,権原ではなく「権限」という言葉が使われています。

この判例を引用した判例(最判昭和63年5月20日家月40巻9号57頁)では,「権原」の語が使われていますので,こちらが正しいのでしょう。)

では,どのようなケースであれば明渡しを請求することができるのかについてですが,裁判例では,「共有者全員の協議で共有物の使用関係を定め」た場合などがあげられていますが,このような協議が整うことはあまり現実的ではないでしょう。

4.基本的には金銭的な請求によるしかない

したがって,このような場合,占有者以外の相続人は,不法行為または不当利得を根拠にして,占有者に対し,持分を超えた部分の不法占有についての金銭的な請求をするしかないことになります。

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司法修習生の傍聴

先日,名古屋の裁判所の期日に出廷した際に,司法修習生の傍聴がありました。

裁判官からそれを伝えられたとき,私は独特の気恥ずかしさを覚えました。

 

というのも,司法修習生は,実際の裁判を傍聴することで裁判実務を勉強することになるのですが,これはそれぞれの事件をいわば「教材」とすることになります。

ですので,事件の記録や経緯に加えて,訴訟代理人の訴訟活動についても,修習生どうしや裁判官との間で検討の対象とされることになるのです。

 

私も,司法修習生時代には,担当の裁判官と事件の論点や訴訟の見通しについて議論するとともに,「訴訟代理人の訴訟活動について,どう思ったか」ということも話し合っていました。

特に,私の配属先は地方の小規模庁だったのもあり,担当裁判官は丁寧に対応してくださったので,「自分が訴訟代理人だったら,どうしたか」や「訴訟代理人の一つ一つの行為について,どのような意味があったか」についても,細かなところまで話し合うことができました。

そこで,「弁護士の活動が裁判官からどう見られているか」という視点を学べたことは,今でも大きな糧になっています。

 

ただ,先日の期日でも,期日は代理人にとっては真剣勝負の場ですので,私もやりとりに集中し,司法修習生の目が気になるということはなかったのですが,あの後,事件について裁判官と司法修習生との間でどのような検討がなされたのかは気になるところです。

 

司法修習生にとって,少しでもよい「手本」となるべく,日ごろから研鑽を深めていきたいと思ったできごとでした。