CICによる「クレジット・ガイダンス」提供開始

弁護士の松山です。

今年の10月、信用情報機関の一つであるCICが、「クレジット・ガイダンス」の提供を開始するとの発表がありました。

CICによると「クレジット・ガイダンス」とは、CICが保有する信用情報を分析のうえ算出した「指数」と「算出理由」をCICの加盟企業及び消費者に提供するサービスです。

指数は、支払い状況や残高等の客観的な取引事実に基づいて算出した指標であり、200から800までの数値で示されます。

CICのウェブサイトでは、指数の算出方法として、理由の明示が可能な統計的分析手法を採用しており、AI等の手法は採用していないと説明されています。

消費者に対する提供は既に令和6年11月28日から開始されており、加盟企業(クレジットカード会社など)への提供は令和7年4月1日から開始されるとのことです。

今後は、数値で示されることになるので、一見して個人の信用状態が分かりやすくなりますが、指数の算出に用いられる支払い状況や残高等の客観的な取引事実は、従来から提供されていた情報のため、クレジットカード会社等の与信判断が大きく変化することはないと思われます。

また、一定の手続によって、CICの加盟企業に自分の指数や算出理由が提供されることを停止することが可能です。

相続放棄の際、故人の預金から葬儀代を払ってよいか

1 故人の預金から葬儀代を払っても、基本的に相続放棄は可能

相続放棄をご検討中の方から頂戴することの多い質問として、故人の預金から葬儀代を払っても相続放棄ができるか、というものがあります。

結論としては、一般的な葬儀に通常かかる費用であれば問題ないです。

2 裁判例

⑴ この問題について論じた裁判例として、大阪高決平14・7・3家月55巻1号82頁が存在します。

問題となった事案では、故人の貯金302万4825円と香典代144万円の計442万4825円で、葬儀費用等に273万5045円を支出し、仏壇92万7150円及び墓石127万0500円が購入されました(不足分の46万円余りは相続人らが負担しました)。

⑵ このようなケースにおいて、裁判所は、葬儀費用と仏壇・墓石の購入とを分けて論じました。

まず、葬儀費用の支出に関しては、①社会的儀式として必要性が高いこと、②葬儀の時期の予想が困難であり、その執行には必ず相当額の支出を伴うこと、③相続財産があるにもかかわらず、これを使用することが許されず、相続人らに資力がないため葬儀を執り行うことができない事態は非常識な結果であることを理由として、法定単純承認事由である「相続財産の処分」(民法921条1号)に該当しないとしました。

また、仏壇及び墓石の購入に関しては、夫や父親が亡くなった場合、仏壇や墓石を購入して弔うことは日本の慣例であり、遺族が被相続人の預貯金を利用するのも自然な行動といえることを理由に、購入された仏壇や墓石が社会的に不相当に高額とは断定できない本件では、遺族が貯金を解約して費用の一部に充てた行為が、「相続財産の処分」に該当すると断定することはできないとしました。

⑶ 夫ないし父親が「一家の中心である」と述べられていたり、20年以上前の裁判例であり、ここで述べられた我が国の慣例が今後もそのまま妥当するかは不明な点があったりしますが、故人の貯金の使い道や金額を考える際には参考となります。

葬儀費用の金額等によっては判断が異なる場合もありえるので、詳細は弁護士にご相談ください。

個人再生における住宅ローンとおまとめローン

1 個人再生と住宅資金特別条項

借金を整理しつつマイホームを残すというのが個人再生のメリットとして挙げられることが多いです。

しかし、一部には、個人再生でもマイホームを残すことができない場合もあります。

マイホームが残せない典型例として、住宅ローン以外のローンを担保するための抵当権が自宅に付されているケースがあります。

このような場合、多くは、住宅資金特別条項(住宅ローンのみは特別扱いで払っていく条件)を付した再生計画が認められません。

 

2 おまとめローンについて抵当権があるとき

たとえば、数社からの借り入れを一本化するためのおまとめローンについて、自宅に抵当権を付けていると、多くの場合、自宅を残した個人再生をすることができません。

しかしながら、住宅ローンを組む際に、他の借金を完済することを求められることは通常よくあります。

このようなローンを組んでいる場合について、一律に住宅資金特別条項を付すことが認められないと、マイホームを残して経済的再建を図ることを目的とした制度趣旨を没却することにもなりかねません。

そこで、住宅ローン債権者との間のおまとめローンであり、実際に他社の借金を返済し、その金額が僅少であること等が書面上明らかであれば、例外的に住宅資金特別条項を付すことが認められることがあります。

もっとも、相当例外的な対応を裁判所に求めることになるので、客観的な資料をもとに具体的に説明する必要があります。

ご自宅に住宅ローン以外のローンの抵当権が付いている方は、そのローンの具体的な使い道を明らかにしたうえで弁護士に相談することをお勧めします。

否認権行使の効果

1 否認権が行使されたときの効果

弁護士の松山です。

破産手続において、破産管財人による否認権行使が認められるとどうなるのでしょうか。

詐害行為否認が認められると、原状回復が効果として定められています(破産法167条1項)。

破産者が破産直前に相場よりも著しく安い価格で財産が売却された場合に、その財産を破産財団に取り戻すケースが分かりやすいです。

もっとも、現物を取り戻すことが困難なことも多く、財産の金銭的評価をしたうえ、金銭的価値による回復も認められています(破産法168条4項)。

2 目的財産の価額算定の基準時

ところで、財産の価額は、時の経過によって変動しえます。

そのため、価額賠償請求がなされたときに返還すべき額は、どの時点の価額なのかが問題となります。

判例は、否認権が行使された時の価額とすべきとしており、学説の多数もこれを支持しているようです。

しかし、学説は多岐に分かれており、財産の処分時とする説や口頭弁論終結時とする説、否認権行使時を基本としつつ価値変動分を部分的に反映させる説などが唱えられています。

また、とくに暗号資産のように価値が大幅に変動する財産をも視野に入れようとすると、従来の議論では限界が生じる場面もあるようです。

自己破産と個人再生のどちらを選ぶべきか

弁護士として債務整理の相談を受けていると、手続の名前は知っているけれど、個人再生と自己破産のどちらが適切か迷っていらっしゃる方も多く見受けられます。

以下では、それぞれの手続の特徴を示して、どのような方がそれぞれの手続をするのに適しているかをご説明します。

 

1 自己破産

裁判所を利用した手続で、裁判所から免責決定を得ることが目的となります。

免責決定が確定すれば、基本的にすべての債務を支払う責任がなくなります。

個人再生と比べたときのメリットは、債務を支払う必要がなくなる点です。

一方で、個人再生と比べたときのデメリットは、主に2点あります。

1点目は、一定額以上の財産を手元に残せない点です。

原則として、合計99万円の範囲内でしか財産を残せません。

また、合計99万円の範囲内であっても、一定の類型の財産(預貯金や保険など)以外は、換価の対象となり手元に残せません。

2点目は、一定の資格や職業に制限がある点です。

警備員や生命保険募集人などは、それぞれの職業を規制する法律で、破産手続中はその職務に就いたり、職務を遂行したりすることが認められていません。制限される期間は、短くて3か月程度ですが、その職業を続けたい方にとっては支障となります。

また、破産の注意点として、免責不許可事由の存在があります。

具体的には、浪費やギャンブルによって過大な債務を負担したこと等であり、これらの事由が存在すると原則として免責が認められません。

ただし、免責不許可事由がある場合でも、例外が認められており、現在は反省し節制した生活をしていること等の事情があれば免責が認められることが多いです。

 

2 個人再生

裁判所を利用して、債務額を圧縮し、3~5年間で返済する手続です。

自己破産と比べたときのメリット・デメリットは、自己破産の項目で述べたことの裏返しです。

すなわち、一定額以上の財産を所有している場合でも必ず手放さなくてはならないわけではなく、資格や職業の法律上の制限もありません。

一方で、債務額は圧縮されるもののゼロになりません。

 

3 まとめ

破産も個人再生も、裁判所を利用する手続です。

裁判所に申し立てる際に提出する書類のほとんどは、両方の手続で共通するため、申立ての準備にかかる手間は同程度です。

そのため、資格や職業の制限が関係なく、大きい財産を持っていなければ、破産を選択するのが適切であることが多いです。

給料天引きの支払い

名古屋の弁護士の松山です。

個人再生をお考えの方の中には、勤務先や勤務先の共済組合から借り入れをして、毎月給料から天引きされることで返済をしている方がいらっしゃることと思います。

このような方が個人再生をする際には注意が必要です。

個人再生においては、債務者が所有する財産よりも多くの額を債権者に返済しなければならないというルール(これを清算価値保障原則といいます。)が存在し,否認対象行為は債務者の財産に計上されることとなっております。

給料からの天引きは、再生債権に対する一部弁済と考えられ、遅くとも弁護士による受任通知送付後は偏頗行為(一部の債権者のみに対してした弁済)として、否認権行使の対象となりますので(破産法162条1項1号イ、同条3項、165条)、個人再生においては、天引きされた給料の額が債務者の財産に計上されると考えられています。

すなわち,受任通知送付後に毎月5万円が天引きされており,それが10カ月続くと合計50万円が清算価値に計上されることとなるのです。

また、再生手続開始決定がなされた後は、原則として再生計画によらない弁済が禁止されています。

したがって、それ以上の天引きが行われないよう、給料天引きの停止を申し出る必要があります。

個人再生において非減免債権があるときの再生計画の内容

1 個人再生でも減額されない債務があります

個人再生は、債務の減額を目指して行います。

しかし、個人再生によっても減額されない債務が存在し、これを非減免債権といいます。

民事再生法において、以下が個別に定められています。

⑴債務者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権

⑵債務者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権

⑶民法の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務

⑷民法の規定による婚姻費用分担義務

⑸民法の規定による子の監護に関する義務

⑹民法の規定による扶養の義務

⑺⑴から⑹までに掲げる義務であって、契約に基づくもの

非減免債権であるか否かは、再生手続では確定しません。

争いがある場合には、再生手続とは別の訴訟等によって確定します。

2 非減免債権がある場合の再生計画の内容

⑴ 非減免債権のうち、無異議債権と評価済債権については、弁済期間中は再生計画で定められた一般的基準に従って弁済し、弁済期間満了時に弁済期間中の弁済額を控除した残額を一括して弁済します(民事再生法232条4項、244条)。

たとえば、非減免債権が500万円で再生債権の80%が免除されるとの再生計画のとき、3~5年間の弁済期間中に100万円(=500万円×20%)を分割して弁済し、弁済期間満了時に残額の400万円を一括して弁済することになります。

⑵ 上記以外の非減免債権については、弁済期間中は弁済せず、弁済期間満了時に全額を一括して弁済することになります(民事再生法232条5項、244条)。

⑶ いずれの場合も、弁済期間が満了したタイミングで残額を一括で弁済することになるため、支払原資を確保しなければなりません。

破産や個人再生の申立ての際の住所

1 住所は申立書に記載する

破産や個人再生の申立ての際には、申立書に申立人の住所を記載します。

住民票上の住所のみならず、実際に生活の本拠となっている現住所の記載が求められます。

2 住所によって申立てできる裁判所が決まる

これは、どの裁判所に申し立てることができるか、に関わってきます。

個人の方の自己破産や個人再生の場合、基本的に申立人の住所を管轄する地方裁判所に申し立てます(逆に言うと、基本的に他の裁判所には申し立てることができません)。

たとえば、名古屋市に居住している人であれば名古屋地方裁判所に申し立てることになります。

3 住所とは何か

住所は、住民票の住所欄に記載されている場所とは限りません。

住所とは、民法上、生活の本拠地を指し、これは実質的に定められます。

通常、住所は一つだけの方が多いですが、居住形態や働き方が多様化している現代社会においては、実質的に判断された生活の本拠が複数存在する場合があると考えられています。

4 官報の記載

自己破産や個人再生の手続中は、官報に住所と氏名が掲載されるタイミングがあります。

その時点の住所を掲載する必要があることから、申立て後に、引っ越し等で住所を変更した場合には、速やかに裁判所に報告する必要があります。

破産手続が開始される条件

1 支払不能

破産手続が開始される条件として、破産原因があることが必要です。

個人の方の破産の場合、破産原因は「支払不能」です。

「支払不能」は、法律上、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態と定義されています(破産法2条11項)。

 

2 支払能力

支払能力を欠いていることが必要ですが、「支払能力」は、財産、信用、労務の3つの要素によって判断されます。

つまり、返済するための資金を確保する手段として、所有している財産を換金したり、他人からお金を借りたり、働くことでお金を得たりすることがありますが、これら3つの方法を尽くしても、返済するための資金を確保できないときに支払能力を欠いていると認められます。

 

3 支払能力の具体的な判断

たとえば、換価が容易な財産を所有していて、換価することで債務額のほとんどを返済することができるほどの資金を確保できるのであれば、支払不能とは言えない可能性が高いです。

また、めぼしい財産を所有していなくとも、債務者の給料が高額であり給料から分割で返済するとの合理的な計画が立てられるなら、支払不能に該当しないとされる可能性があります。

ここでの合理的な計画とは、少なくとも、返済計画が長期にわたらず、かつ、債務者の生活費の支出を考慮して実現可能性があることが必要と考えられています。

詳細は弁護士にご相談ください。

破産や個人再生が会社に知られるか

1 自分が破産や個人再生をしたことが会社(勤務先)に知られるか心配される方も多いです。

実際、会社に知られる可能性はどれくらいあるのでしょうか。

2 会社からの借入れがある場合

まず、会社からの借入れがある場合、会社に知られることになります。

会社からの借入れは、手続の対象としなければならない債務だからです。

破産であれば破産債権に、個人再生であれば再生債権として扱われ、債権者一覧表に記載する必要があります。

裁判所は、手続きが始まると、債権者一覧表に記載された債権者に対して通知を送付するため、手続きをしていることが会社に知られてしまいます。

3 会社からの借入れが無い場合

会社からの借入れが無い場合は会社に知られないでしょうか。

この場合には会社に知られる可能性は低いです。

破産や個人再生をすると官報(政府が発行する機関紙)に掲載されますが、基本的に上司や同僚が官報を見る職場にいらっしゃる方はいません。

また弁護士に依頼した後は、通常、債権者から会社への督促は止まります。

4 退職金額を示す資料が必要

ただし、破産や個人再生では退職金額を示す資料の提出が必要となるので、この点で会社の担当者や担当部署から資料を出してもらうのに苦労される方もいらっしゃいます。

退職金規程を自由に閲覧できる状況であればそのコピーを提出すれば足りますが、退職金規程が無いなどの場合で、裁判所に必要であることを隠したままだと退職金額を示す資料の確保が難しいときには、ある程度事情を話さざるを得ないこともあるでしょう。

退職金額が多くない場合には、確定した金額を示す資料までは裁判所から求められないこともあるので、どうしても資料の提出が難しいときには弁護士にご相談ください。

書面による免責審尋

1 新型コロナ感染症の流行前における同時廃止における免責審尋

新型コロナ感染症が流行する令和2年よりも以前、名古屋地方裁判所での自己破産の同時廃止における免責審尋は、通常、破産者が裁判所に出頭し、直接裁判官から質問を受ける形で行われていました。

この場合、一つの部屋で数十人が同時に免責審尋期日を迎えていました。

2 新型コロナ感染症の流行後での同時廃止における免責審尋

新型コロナ感染症の流行後は、感染防止の観点から、破産者が裁判所に出頭することは求められなくなり、その代わりに「免責についての申述書」という書面を提出させる運用となりました。

日本で新型コロナ感染症が流行して丸4年が経ちましたが、この運用は続いています。

「免責についての申述書」では、以下の事項の記載が求められています。

⑴ 破産手続開始決定を受けるに至った事情、本人の本籍、住所、身分関係、家族、勤務先について、申立ての際に提出した書類に記載したとおりか。

⑵ 上記⑴に訂正、変更又は付け加える点があれば、その内容。

⑶ 破産手続開始決定を受けてから、債権者に対する返済や新たな借入れなどしたことがあるか。

⑷ 上記⑶で「ある」場合には、その時期、債権者名、使途など。

⑸ 免責申立てに関して、真実かつ正確で、漏れなく記載した債権者名簿を提出したか。

⑹ 再び破産の申立てをすることがないように、申立人が考えていること、実行していること。

破産前の不動産の名義変更

1 破産前の不動産売却に注意

破産すると、基本的に所有不動産を手放す必要があります。

これを避けるために、破産する前に自分の名義となっている不動産を他人に名義変更することを考える方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、借金の返済が困難となった「支払不能」以降に自分の財産を他人に名義変更することには注意が必要です。

 

2 不動産を安く売った場合

まず、返済が困難となってから、市場価格よりも安く不動産を売却すると、後の破産手続の中で不動産の売買契約が否認の対象となる可能性があります。

売買契約が否認されると、売買契約が無かったことになります。

少なくとも、破産手続の中で破産管財人(裁判所から選ばれる弁護士)が買主に不動産の名義を戻すよう接触するので、買主に迷惑をかけることになります。

また、ご自身が免責の判断に悪影響を及ぼす可能性もあります。

 

3 適正な金額で売った場合

一方で、適正な金額で不動産を売却して名義変更すること自体は認められています。

ただし、売却したことによって得た金銭を隠匿する等の意思があった場合には、その売買が否認の対象となる可能性があります。

そのため、弁護士に破産を依頼する前に不動産を売却した場合でも、売却して得た金銭はそのまま保管して、破産を依頼した際に弁護士に預けるのが無難です。

その金額が多い場合には破産手続の中で債権者に配当されます。

悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権と免責

破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権は、非免責債権として、免責許可決定が確定しても支払の責任を免れることはできません(破産法253条1項2号)。

現在の破産法は平成16年に公布されていますが、それ以前の旧破産法にも上記と同様の規定がありました(旧破産法366条ノ12第2号)。

旧破産法では「悪意」とは、他人を害する積極的な意欲(=「害意」)であるとの考えと通常の「故意」であるとの考えとが争われていました。

いずれの考えを採用するかで、故意と評価しうる程の不注意な運転で人を死傷させた場合にも非免責債権となるかの結論が変わっていたようです。

しかし、現在の破産法において、「破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」も非免責債権とする規定(破産法253条1項3号)が新設されています。

3号で「故意」と定められていることとの差異から、2号の「悪意」は「害意」とするのが通説のようです。

「害意」も「故意」も、破産者の認識を問題にしており、一概に線引きをするのが困難な場面が多いです。

そのため、支払いが困難な状態に陥っている方は、ご自身が請求されている債務が非免責債権であるかについて早計に判断せず、弁護士にご相談ください。

犬神家の一族と遺留分(その1)

1 映画『犬神家の一族』

11月10日から11月23日まで、角川シネマコレクションの公式YouTubeチャンネルにて、映画『犬神家の一族』(1976年公開)が無料で公開されています。

横溝正史原作で名探偵金田一耕助が登場することや、これまで何度も映像化されてきたこと、スケキヨの白い仮面、湖から生える2本の脚などの一部の有名なシーン以外は知らなかったので、良い機会と思い、鑑賞しました。

2 物語の内容

物語は、犬神佐兵衛という大富豪が亡くなる場面から始まります。

その後、佐兵衛の全相続人が揃ったところで、犬神家の顧問の古舘弁護士から佐兵衛の遺言の内容が明かされますが、その内容を巡り事態が進展します。

3 遺留分制度の存在

この遺言の有効性や古舘弁護士の行動・発言に関しては、作品外で何点か法律的な疑問が挙げられています。おそらくインターネットが発達する前から指摘されていたと思われますし、現在では士業の方のブログで確認できます。

その中でも、とくに重大なものとして遺留分の存在を指摘するコメントを挙げることができます。

遺留分とは、遺言によっても侵害されない相続人の権利です。

『犬神家の一族』の物語の中では、古舘弁護士が遺言の内容が法的に全く問題ない旨を宣言し、遺留分が存在しない前提で話が進んでいきますが、遺留分の存在が示唆されていれば、その後の悲劇は発生していなかったのではないかとも思われます。

・・・と、ここまでなら、単に横溝正史が相続の制度を知らなかったことに起因するミスとも思われますが、事情はもう少し複雑なようです。

職業が不安定な人の個人再生の利用

弁護士の松山です。

1 個人再生の利用適格

小規模個人再生手続きを利用するには、申立人が「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある」必要があります(民事再生法221条1項)。

「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある」とはいえないことが明らかな場合には、個人再生手続開始申立ては棄却されてしまいます。

では、どのような人が「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある」人であり、どのような人がそうでないのでしょうか。

ここでは、派遣社員、アルバイト、主婦、無職の人を例に説明いたします。

2 派遣社員

派遣社員の場合は,派遣先の雇用期間が短期間に限定されている場合、将来において継続的に収入を得ることができるかについて不安がありますが,契約延長や新たな派遣先の紹介を得る見込みを説明することで、個人再生を利用できる可能性があります。

3 アルバイト

これまで短期間のアルバイトを繰り返しているのみの場合であっても現、在働いており一定額以上を返済できる余裕があれば、将来の雇用継続が見込めないことが明らかでない限りは、利用適格がないことが明らかであるとはいえないと解されています。

4 主婦

主婦の場合、現在アルバイトやパートで収入を得ているかどうかで判断は異なってきます。

無職の場合、利用適格がないことが明らかですので、個人再生手続きを利用することはできません。

一方,アルバイトやパートに出ることで、一定額以上の収入を得ることができるようになれば、将来において継続的に収入を得ることができないことが明らかとはいえないとされる可能性があります。

5 無職

無職の場合は、基本的には利用適格がないことが明らかですので、個人再生手続きを利用することはできません。

しかし,現在たまたま失業中であり、既に内定を得ているなどの事情のため、近いうちに再就職することが確実である場合には、継続的な収入を得る見込みがないことが明らかでないとして、個人再生手続きを利用できる可能性があるという考え方があります。

保険金受取人の破産

日本弁護士連合会が発行する雑誌『自由と正義』の2023年9月号では、生命保険の基礎知識について特集が組まれていました。

生命保険は破産手続でも関わりがあります。

上記雑誌の25頁から嶋寺基「生命保険における債権保全・債権回収・破産の問題」という論文があり、そこでは保険金受取人の破産のトピックが扱われています。

上記論文では、破産手続終了後に保険事故が発生した場合、保険金請求権は自由財産に属するものとされるとした判例(最判平成5・6・25民集47巻6号4557頁)とともに、「破産手続終了までに保険事故が発生しなかった場合、保険金受取人たる破産者が有する保険事故発生前の(抽象的)保険金請求権は、それ自体に換価価値はないといえるため、破産管財人は、破産手続終了直前に(抽象的)保険金請求権を破産財団から放棄することになる」との考えが紹介されています。

この考えによった場合、破産管財人は破産者が契約者となっていない生命保険の存在や内容まで調査すべきなのか、申立代理人は破産管財人に放棄してもらうため、破産者が保険金受取人となっている保険について(抽象的)保険金請求権を財産目録に記載すべきことになるのか気になります。

 

自己破産をした場合の生活への影響

1 自己破産以外の債務整理でもありうる影響

自己破産は、自分の財産がお金に換えられて債権者に配当される代わりに、基本的に全ての債務を支払う必要がなくなる手続です。

自己破産をすることで、その手続に付随する生活への一定の影響がありますし、返済できない状態であること自体に基づく影響もあります。

返済できない状態であること自体に基づく影響には、以下のものがあります。

これらは自己破産以外の債務整理でもありうる事柄です。

⑴ ローンが残っている車の引き上げ

返済を数か月滞納したり弁護士に自己破産を依頼したりすると、基本的に、ローンがついている車はローン債権者に引き上げられます。

そのため、生活に車が必要であれば、その確保について検討する必要があります。

⑵ 銀行口座の凍結

借入先に銀行があり、その銀行で預金口座を持っている場合、通常、弁護士が債権者との窓口になった直後には当該預金口座が凍結されます。

大半の預金口座は、凍結されてもその約3か月に凍結が解除されて利用できるようになりますが、中には凍結後に強制的に口座解約となることもあります。

⑶ 信用情報機関への登録

信用情報機関へ事故情報として登録され、一定期間は新たな借入やクレジットカードの作成等が困難になります。

 

2 自己破産特有の影響

⑴ 破産管財人による財産の処分

所有する不動産については基本的に全て、所有する車については一定の場合に、破産管財人によって処分されることになります。

ですので、自宅不動産を所有していた場合には、通常、引っ越しをしなければなりません。

⑵ 転居・旅行の許可申請

破産手続開始決定が下ってから手続が終了するまでは、裁判所の許可が無ければ転居や旅行をすることができません。

不動産処分に伴う転居や仕事の出張などであれば、基本的に許可されるので、しっかりと許可申請をする必要があります。

⑶ 資格・職業の制限

破産手続開始決定から復権を得るまで、警備員・生命保険募集人等の一定の資格や職業が制限されます。

そのため、警備員をしている方は、破産手続開始決定前には警備員の仕事を辞めなければなりません。

どのような資格・職業に制限があるかは、その資格・職業について規律している法律に個別的に定められています。

 

3 自己破産をしても影響を受けないこと

⑴ 選挙権

自己破産と選挙権は関係がありませんので、自己破産をしたとしても選挙権への制限はまったくありません。

⑵ パスポートの制限

自己破産をすると海外渡航が一生できないとの誤解を聞くことが多いです。

自己破産をしてもパスポートに関する制約はありません。

たしかに手続中は、相応の理由が無ければ海外渡航は認められませんが、手続が終了してしまえば、自由に海外渡航が可能です。

⑶ 家族の財産

自己破産をした場合に、同居家族の財産への影響を心配なさる方もいらっしゃいます。

しかし、自己破産をした場合に、債権者に配当するためにお金に換えられる財産とは、破産者が所有する財産のうち一定のものです。

したがって、実質的には破産者の財産と言えるような特別な事情が無い限り、同居家族といえども破産者以外の人の財産は処分の対象ではありません。

以上

名古屋市における住民票等の取得

1 依頼者の方に資料をご準備いただく機会は多いです。

とくに、依頼者の方の住民票や所得証明書を裁判所に提出する場合、基本的にはご自身でご取得いただいています。

最近は、マイナンバーカードを利用することによって、多くの自治体で、コンビニで住民票や所得証明書を取得できます。

平日の日中に役所に赴くのが難しい場合、コンビニで各種書類の交付を受けられることは非常に便利と言えます。

しかし、名古屋市では、令和5年7月20日時点において、住民票や所得証明書のコンビニ交付を行っていないようです。

名古屋市の公式ウェブサイトでは、既存システムの改修が必要であるところ、市長判断として現時点では認められていないとのことです。

2 コンビニ交付に対応できない中で、名古屋市も証明サービスの拡充に取り組んでいるようです。

昨年から、中川区、南区及び守山区においてインターネットによる住民票の写し等の受取予約の実証実験が行われています。

令和4年7月14日から令和5年10月1日までの期間の土曜日・日曜日及び一部の祝日で証明書を受け取ることができ、受取予約は8日前から2開庁日前まで行うことができるようです。

現時点では、予約ができるのは、中川区、南区又は守山区に住民登録している方のみであることに注意が必要です。

名古屋市全域でインターネット予約ができれば市民としては便利になるので、今回の実証実験の結果に期待したいです。

個人再生における履行可能性の判断

1 履行可能性

個人再生では、3年から5年の間、返済計画に従って債務の返済を履行できるか(これを履行可能性といいます。)の判断が非常に重要です。

履行可能性の有無の判断にあたって、裁判所は、毎月の家計の状況及び弁済原資の積立ての状況を参照します。

たとえば、毎月一定額以上の積立てができなければ、今後返済を継続する見込みがないとの判断がなされます。

また、裁判所は過去の実績を重視する傾向にあります。

そのため、現在は履行可能性がないものの、今後、配偶者がパートに出るなどして収入が増えるために将来的には履行可能性が確保できるとの主張も、裁判所からは認めてもらえない可能性が高いです。

 

2 貯金の取り崩し

毎月一定額以上の積立てを弁護士の口座にしている場合でも、家計の状況が赤字となっていて貯金を取り崩しているような状態では、履行可能性はないと判断されます。

貯金がなくなった後の返済が困難なためです。

 

3 親族の援助

同居の家族とは生計が一つであるため、その者の収入や支出もあわせて履行可能性を判断されるのが通常です。

別居している親族から援助を受けることができるときは、それを申立人の世帯の収入として履行可能性が判断されます。

その場合、名古屋地方裁判所では、援助額及び援助を誓約する旨を内容とする援助者作成の誓約書や援助者の資力を裏付ける資料(給料明細書、源泉徴収票など)を求められます。

破産における慰謝料支払債務

弁護士の松山です。

 

破産をすると、基本的に全ての債務が免責され、法律上、債務を返済する責任が一切なくなります。

 

しかし、破産の申立てをして免責決定が下されたとしても、免責がなされない債権があります。

これを非免責債権といい、破産法253条1項に列挙されています。

 

では、誰かに対して慰謝料を支払う義務がある人について免責決定が下された場合、その慰謝料支払債務は免責の対象となるのでしょうか。

先程の破産法253条1項には、「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求」や「破産者が故意又は重過失により人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」が、非免責債権として挙げられています。

 

このうち、前者の「悪意で加えた不法行為」とは、積極的に相手を害することをもって加えた不法行為をいうと考えられています。

これによれば、単に相手に損害を与えると認識していたという事情のみでは非免責債権にあたりません。

一方で、人の生命や身体を害する不法行為の場合、重過失が認められれば、その慰謝料請求権も後者の「破産者が故意又は重過失により人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」に該当するため、非免責債権となります。