破産直前にする財産の名義変更

1 破産をすると、基本的に財産を手放さないといけないことは広く知られています。

そこで、もう借金を払うことができず破産をしなければならないと認識した時点で、自分が所有している不動産や自動車を親族名義に変更しようという気持ちになる方がいらっしゃいます。

しかし、破産直前に無償で財産を譲り渡す行為は、破産手続上大きな問題となる可能性があります。

 

2⑴ 本来、自分が所有している財産について、いつ・いくらで処分するかは自由です。

しかし、破産しないといけないような経済状態の方についてまで自由な財産処分を認めると、破産手続の中で債権者に配当すべき財産がなくなってしまいます。

そこで、一定の時期以降の一定の行為については、破産手続の中で破産管財人が否認して、なかったことにすることが認められています。

⑵ 特に、無償行為については、「破産者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる」と規定されています(破産法160条3項)。

通常、弁護士に破産を依頼すると弁護士から債権者に対して受任通知を送付しますが、受任通知の送付は「支払の停止等」に当たります。

すなわち、基本的には、弁護士に破産の依頼をする前6か月以内に自分の財産を無償で他人名義に変更しても、後で否認されます。

3 破産申立てに係る名古屋地方裁判所の書式において、不動産については期間を問わず、保険や車、株式等については過去1年間程の間の財産処分の記載が求められているのも、上記行為があるかの確認の趣旨と思われます。

否認の対象となる行為があれば、他の事情が問題なくても破産管財事件となり、多額の予納金を裁判所に入金しなければ破産手続が開始しませんし、事情によっては免責が許可されないおそれもあります。

支払いが困難になりそうと感じた時点で、まずは弁護士に相談することをお勧めします。

預貯金と清算価値

1 個人再生における清算価値保障原則

個人再生について説明するウェブサイトをいくつか見ていますと、個人再生で返済すべき総額は債務額の5分の1との記載を見かけることが多いです。

たしかに、債務額が500万円から1500万円の間にある方であれば、これに該当することが多いでしょう。

しかし、所有する財産が多いと、個人再生で返済すべき総額も多くなる可能性があります。

個人再生では、所有する財産の評価額以上を返済しないといけないというルールが存在するためです(これを「清算価値保障原則」といいます)。

 

2 預貯金の扱い

清算価値として把握される財産とは、現金、預貯金、不動産、車、生命保険の解約返戻金等、一切のものが含まれます。

預貯金については、所有する全ての口座の残高を確認することになります。

この点に関して、名古屋地方裁判所では、個人再生の申立て前に債権者に弁済する原資とするため、弁護士の預り金口座に管理している場合には、「所持現金と合わせて99万円の範囲内」であれば、清算価値に含まれないものとして扱われています。

これは、破産手続において、現金99万円が自由財産として換価の対象から外れていることとのバランスを取ったものと思われます。

個人再生した後に支払が出来なくなったら

1 個人再生した後に支払が出来なくなった際の対処

個人再生した後、計画どおりの返済ができなくなってしまうこともあります。

そのような場合、自己破産を選択する方もいらっしゃいます。

しかし、自己破産をせずとも、次の方法を取ることができる場合があります。

2 再生計画の変更

個人再生においては、再生計画認可の決定があった後やむを得ない事由で再生計画を遂行することが著しく困難となったときは、再生計画で定められた債務の期限を延長することができます。

この場合、変更後の債務の最終の期限は、再生計画で定められた債務の最終の期限から2年を超えない範囲で定める必要があります。

3 ハードシップ免責

再生計画を遂行することが極めて困難である場合は、次の条件のもとで、裁判所は免責の決定をすることができ、これによって債務者は債務を支払う義務を免れます。

⑴ 再生計画を遂行することが極めて困難となったのは、債務者の責めに帰することができない事由によること

⑵ 再生計画で定められた債務の4分の3以上の額の返済を終えていること

⑶ 再生計画の認可決定時に破産した場合の配当総額以上の返済をし終えていること

⑷ 再生計画の変更をすることが極めて困難であること

4 新たな個人再生手続きの申立て

基本的には、再度の個人再生手続きの利用が法律上妨げられているわけではないため、新たに個人再生手続きの申立てをすることも考えられます。

ただ、給与所得者等再生では、1回目の給与所得者等再生の返済計画の認可決定が確定した日から7年間は手続きを利用することはできません。

また、2回目の個人再生であるという点が債権者の同意の有無に影響を及ぼす可能性もあります。

5 弁護士への相談

いずれの方法をとるにせよ、お早めに弁護士に相談することをお勧めします。

破産した際の郵便物等の回送

1 破産者宛ての郵便物等が破産管財人へ送付される

破産手続において破産管財人が選任された場合、裁判所は破産管財人の職務の遂行のため必要があると認めるときは、破産者にあてた郵便物等を破産管財人に送付するように信書の送達の事業を行う者に対して嘱託することができます(破産法81条1項)。

条文上は「できる」と規定されていますが、少なくとも名古屋地方裁判所では、破産管財事件の全件について嘱託をしていると思われます。

そして、破産管財人は、破産者にあてた郵便物等を受け取ったときは、これを開いて見ることができます(破産法82条1項)。

2 趣旨

破産者にあてた郵便物等からは様々なことが分かる可能性があります。

たとえば、固定資産税納付書が送付されていれば不動産を所有していることが分かりますし、株主総会招集通知が送付されれば当該会社の株式を所有していることが分かります。

また、友人からの手紙にお金の貸し借りについての記載がなされていれば、裁判所に知らせていない債権者が判明することもあります。

このように、郵便物等からは破産者の債務や財産等に関係する情報を得る可能性があり、破産管財人の職務の遂行を実効的なものとすることから、憲法で定められた通信の秘密が一定の限度で制限されています。

3 郵便物等の返却

裁判所の嘱託を受けて破産管財人に送付された郵便物等も、破産者にあてたものなので、破産者は、破産管財人に対し、破産管財人が受け取った郵便物等の閲覧又は当該郵便物等で破産財団に関しないものの交付を求めることができます(破産法82条2項)。

大多数のケースでは、ほとんど全ての郵便物等は、破産管財人が中身を確認した後は、月1回程度のペースで破産者に返却されていることが多いようです。

破産した場合の道路の補修代の扱い

1 名古屋の弁護士の松山です。

道路法58条は、「道路管理者は、他の工事又は他の行為により必要を生じた道路に関する工事又は道路の維持の費用については、その必要を生じた限度において、他の工事又は他の行為につき費用を負担する者にその全部又は一部を 負担させるものとする。」と規定しており、たとえば交通事故により道路を破損させた場合の工事費用を、交通事故の原因者に負担させています。

このような債務も破産によって免責を受けることができるでしょうか。

2 個人の方にとっては、破産する最大の目的は免責を受けることです。

免責によって、基本的に全ての債務について支払いをする責任が免れます。

しかし、破産手続について定めた破産法は、例外的に免責がなされない債権をいくつか定めています(このような債権を非免責債権といいます。)。

このうち租税等の請求権(破産法253条1項1号)とは、国税徴収法又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権です。

たとえば、滞納している住民税は、破産して免責決定が確定しても支払の責任は免除されません。

3 道路法73条1項は、「この法律、この法律に基づく命令若しくは条例又はこれらによつてした処分により納付すべき負担金、占用料、駐車料金、割増金、料金、連結料又は停留料金(以下これらを「負担金等」という。)を納付しない者がある場合においては、道路管理者は、督促状によつて納付すべき期限を指定して督促しなければならない。」と定め、同条3項前段は、「第一項の規定による督促を受けた者がその指定する期限までにその納付すべき金額を納付しない場合においては、道路管理者は、国税滞納処分の例により、前二項に規定する負担金等並びに手数料及び延滞金を徴収することができる」と定めています。

すなわち、道路法53条が規定する原因者負担金は、督促を受けた原因者によって期限までに納付されなければ、国税徴収の例により徴収することが可能な債権です。

したがって、基本的に、事故による道路の修理代は租税等の請求権にあたり、非免責債権となるため、免責を受けても支払わなければならない債務として残ってしまう可能性があります。

ローンを組んでいる自動車を持っているときの破産

1 ローンを組んでいる自動車を持っている場合、破産ではどのように扱われるのでしょうか。

通常、ローンを組んで自動車を購入するとき、所有権留保が付された契約となります。

すなわち、売買代金が完済するまでは所有権(の一部)がローン会社に残ったままとなります。

破産や個人再生が関係しなければ、売買代金の支払いが滞れば、ローン会社が留保された所有権に基づいて自動車を返還するよう求めてくるのに対して拒否することはできません。

事実上、引き揚げに協力しなかったとしても、訴訟を提起されれば、ローン会社の言い分が認められることになります。

2 しかし、実際に破産手続が開始された、または、破産をする予定である場合は、ローン会社が要求する自動車の返還を拒否することができることもあります。

これは、破産では、自動車の売買の際にはいなかった第三者が登場することによります。

それは破産管財人と言われる、裁判所が選任する弁護士です。

第三者は契約の事情を知りませんので、所有権が移転する、所有権を留保する等を第三者に主張するためには、一定の形式が要求されます。

普通車においては、その形式は車検証の所有者としての登録です。

したがって、車検証の所有者がローン会社であれば、ローン会社からの引き揚げ要求を拒否することができませんが、車検証の所有者が破産者であれば、拒否できます。

3 車検証だけでは判断できないのが、車検証の所有者が自動車の販売店だった場合です。

この場合に自動車の引き揚げに応じないといけないかを判断するには、自動車の売買契約書の内容を確認する必要があります。

最高裁判所の判断がいくつか下されたことで、最近契約された自動車ローンは、車検証の所有者が販売店でも引き揚げを拒否できないものが多いですが、中には最高裁で問題となった事案とは異なる内容の契約書を作成している業者もあり、判断に悩むこともあります。

クレジットカードの現金化と免責不許可事由

弁護士の松山です。

クレジットカードのショッピング枠を現金化すると、破産において悪影響が出る可能性があります。

 

1 クレジットカードの現金化

手元に現金がないと、換金することを目的としてクレジットカードで商品を購入し、その商品を売却してお金を得ることを考える方がいます。

たとえば、新幹線の回数券等をクレジットカード等で購入し、購入額から数%割り引いた額で売却して現金を得ることが可能です。

しかし、このようなクレジットカードの現金化は、一時しのぎにはなっても、手に入れる現金よりも債務額の方が大きいため、全体としてみれば経済状態を悪化させることになります。

 

2 免責不許可事由

⑴ 破産手続では、原則として免責が許可されない免責不許可事由が定められています。

クレジットカードの現金化は、免責不許可事由に該当する可能性があります。

まず、破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したことは免責不許可事由です(破産法252条1項2号)。

クレジットカードの利用は「信用取引」に当たります。

なので、商品の購入額や売却額、回数等を考慮して「著しく不利益な条件」での処分と評価されると、クレジットカードの現金化は免責不許可事由に該当します。

⑵ また、浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したことは免責不許可事由です(破産法252条1項5号)。

現金化は、元から売却することを前提として商品を購入するので、「浪費」に該当する可能性があります。

なので、その額や回数等によって「著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担した」と評価されれば、免責不許可事由に該当します。

3 裁量免責

もっとも、クレジットカードの現金化が免責不許可事由に該当したとしても、直ちに免責が認められないことが確定しているわけではありません。

裁判所は、破産に至った経緯その他一切の事情を考慮して、免責を許可することがあります(破産法252条2項)。

裁判所に提出する資料や破産管財人からの質問に虚偽を述べず、クレジットカードの現金化の違法性を自覚し、自身の行為を反省していることを示せば、免責が許可される可能性があるので、これだけを理由に破産を諦める必要はないと考えます。

破産しても残せる財産

1 自己破産とは、破産者が所有する財産を現金に換えて、各債権者に配当する手続です。

しかし、破産者が所有する全ての財産を換価してしまうと、破産者の今後の生活に支障を来たし、経済的な再建を図ることが難しくなります。

そのため、一定の財産については、破産しても手元に残すことが認められています。

以下では、破産した場合の財産の取り扱いの原則を示した後、手元に残せる財産の範囲を説明します。

 

2 原則は破産財団に属する

自己破産の手続開始決定が下されると、原則として、破産者が所有するすべての財産は、破産管財人という弁護士の管理処分権のもとに置かれます。

破産管財人が管理処分権を有する財産を、破産財団に属する財産といいます。

破産財団に属する財産は、基本的に破産手続の中で換価されることになります。

 

3 自由財産

破産者が所有する財産でも、破産財団に属しない財産を自由財産といい、破産者は手元に残すことができます。

 

4 本来的自由財産

⑴ まず、破産手続開始決定後に新たに取得した財産は、自由財産です。

⑵ 次に、個別の法律で差押えが禁止されている財産も自由財産となります。

たとえば、破産者の生活に欠くことができない衣服や寝具、家具がこれにあたります。

⑶ 99万円以下の現金も自由財産です。

⑴~⑶は本来的自由財産と呼ばれています。

 

5 本来的自由財産以外の財産

本来的自由財産にあたらなくとも、裁判所が認めた財産については自由財産となります。

すなわち、破産者の生活の状況、破産者の財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して、裁判所が認めると、自由財産とされる財産の範囲が拡張されます。

たとえば、通勤や日常の生活を送るのに自動車が欠かせない場合で、所有している自動車1台の財産価値が小さければ、その自動車を残せる可能性があります。

破産における債権の優先関係(その2)

弁護士の松山です。

前回の記事の続きです。

破産債権の中での優先関係は、以下のとおりです。

大枠としては、1優先的破産債権、2一般の破産債権、3劣後的破産債権、4約定劣後破産債権の順です。

 

1 優先的破産債権

優先関係は⑴、⑵、⑶、⑷の順です(98条2項)。

⑴ 優先的破産債権のうち国税(国税徴収法8条)

ア 財団債権とならない破産手続開始前の原因に基づいて生じた国税のうち、破産手続開始当時、納期限から1年を経過したもの(148条1項3号、98条1項)

イ アの延滞税破産手続開始前に生じたもの

⑵ 優先的破産債権のうち地方税(地方税法14条)

⑴と同様

⑶ 優先的破産債権のうち公課

⑴と同様

⑷ 優先的破産債権のうち私債権

優先関係はア、イ、ウ、エの順です(民法329条1項)。

ア 共益の費用(民法306条1号)

イ 雇用関係(民法306条2号)

① 給料のうち財団債権でない部分

② 退職金のうち財団債権でない部分

③ 解雇予告手当(一部の裁判所で財団債権とする扱いがある)

④ その他の労働債権

ウ 葬式の費用(民法306条3号)

エ 日用品の供給(民法306条4号)

個人の破産手続開始前6か月以内の上水道、電気、ガス料金

 

2 一般の破産債権

 

3 劣後的破産債権(破産法99条1項)

⑴ 破産手続開始後の利息の請求権(97条1号)

⑵ 破産手続開始後の不履行による損害賠償又は違約金の請求権(97条2号)

⑶ 破産手続開始後の延滞税、利子税若しくは延滞金の請求権又はこれらに類する共助対象外国租税の請求権(97条3号)

⑷ 租税等の請求権であって、破産財団に関して破産手続開始後の原因に基づいて生ずるもの(97条4号)

⑸ 国税通則法2条4号に規定する過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税及び重加算税若しくは地方税法1条1項14号に規定する過少申告加算金、不申告加算金及び重加算金の請求権又はこれらに類する共助対象外国租税の請求権(97条5号)

⑹ 罰金、科料、刑事訴訟費用、追徴金又は過料の請求権(97条6号)

⑺ 破産手続参加の費用の請求権(97条7号)

⑻ 54条1項に規定する相手方の損害賠償請求権(97条8号)

⑼ 57条に規定する債権(97条9号)

⑽ 59条1項の規定による請求権であって、相手方の有するもの(97条10号)

⑾ 60条1項に規定する債権(97条11号)

⑿ 168条2項2号又は3号に定める権利(97条12号)

 

4 約定劣後破産債権(破産法99条2項)

破産における債権の優先関係

弁護士の松山です。

破産においては、配当の場面で債権の優先関係が問題となります。

まず、全ての財団債権は、全ての破産債権に優先します(破産法151条)。

財団債権の中での優先関係は、条文及び解釈上、以下のとおりとされています(1、2、3、4の順で優先され、同順位の債権間では按分して配当されます)。

1 管財人報酬(立替事務費を含む)

2 債権者申立て又は第三者予納の場合の予納金補填分

3 破産法148条1項1号・2号の債権(⑴⑵以外)(破産法152条2項)

① 破産債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権(1号)

② 破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権(2号)

4 その他の財団債権

① 破産手続開始前の原因に基づいて生じた租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権及び97条5号に掲げる請求権を除く)であって、破産手続開始当時、まだ納期限の到来していないもの又は納期限から1年を経過していないもの(148条1項3号)

② 破産財団に関し破産管財人がした行為によって生じた請求権(148条1項4号)

③ 事務管理又は不当利得により破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権(148条1項5号)

④ 委任の終了又は代理権の消滅の後、急迫の事情があるためにした行為によって破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権(148条1項6号)

⑤ 53条1項の規定により破産管財人が債務の履行をする場合において相手方が有する請求権(148条1項7号)

⑥ 破産手続の開始によって双務契約の解約の申入れ(53条1項又は2項の規定による賃貸借契約の解除を含む。)があった場合において破産手続開始後その契約の終了に至るまでの間に生じた請求権(破産法148条1項8号)

⑦ 破産管財人が負担付遺贈の履行を受けたときは、その負担した義務の相手方が有する当該負担の利益を受けるべき請求権(遺贈の目的の価額を超えない限度において)(148条2項)

⑧ 保全管理人が債務者の財産に関し権限に基づいてした行為によって生じた請求権(148条4項)

⑨ 破産手続開始前3か月間の破産者の使用人の給料請求権(149条1項)

⑩ 破産手続の終了前に退職した破産者の使用人の退職手当の請求権(当該請求権の全額が破産債権であるとした場合に劣後的破産債権となるべき部分を除く。)のうち、退職前3か月間の給料の総額(その総額が破産手続開始前3か月間の給料の総額より少ない場合にあっては、破産手続開始前3か月間の給料の総額)に相当する額

 

破産債権の中での優先関係については、別の記事でまとめます。

社会福祉協議会の貸付けと自己破産

1 社会福祉協議会の貸付け

新型コロナ感染症の影響で、地方自治体の社会福祉協議会から緊急小口資金や総合支援資金の貸付けを受けている方もいらっしゃるかと思います。

これらの貸付けについて、「国からの借入れ」との認識から自己破産しても支払わなければならない債務として残ってしまうと思っていらっしゃる方も散見されます。

2 自己破産の対象となる

しかしながら、社会福祉協議会の貸付けも自己破産の対象となります。

裁判所から免責が認められれば、原則として全ての債務について法律上支払う必要がありません。

免責が認められても支払わなければならない債務については、法律で非免責債権として列挙されたものに限られます。

非免責債権の代表例としては、税金や罰金、養育費等です。

社会福祉協議会の貸付けは、法律で列挙された非免責債権のいずれにも該当しないため、自己破産をして免責されれば、支払う必要がなくなるのです。

3 注意点

社会福祉協議会の貸付けが自己破産の対象となることから、自己破産するに際して特に注意しなければならない点が2つあります。

一つ目は、自己破産を進めるに当たって、依頼した弁護士に対して社会福祉協議会からお金を借りていることを忘れずに伝えることです。

払う必要があるため破産とは関係ないと誤解していると、つい伝えるのを忘れてしまうかもしれません。

しかし、社会福祉協議会からの借入も銀行や消費者金融、カード会社に対する債務と同じように扱われるため、これが漏れた債権者名簿を裁判所に提出すると免責不許可事由に該当する可能性があります。

二つ目は、自己破産すると決めた以上は、社会福祉協議会からの貸付けを受けてはいけないという点です。

社会福祉協議会の貸付けは、据置期間の設定によって返済開始が数年後になっている場合があります。

すぐに返さなくてよいとの認識や、「公共団体からの恩恵・援助」との認識から借りてもよいと思う方もいらっしゃいます。

しかし、社会福祉協議会の貸付けも自己破産の対象になり、免責が認められれば返済する必要はありません。

自己破産して免責を受けると決めたのにお金を借りることは、当初から返すつもりがない行為と評価され、こちらも免責不許可事由となる可能性があります。

非減免債権を有するときの返済計画

1 非減免債権とは

個人再生をしても減額がなされない債権が法律で定められています。

これを非減免債権といい、債務者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権や故意又は重過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権、扶養義務等に係る請求権(養育費等)がこれに該当します(民事再生法229条3項)。

非減免債権も再生債権なので、他の再生債権と同様、少なくとも弁護士に依頼した後に返済すると偏頗弁済に当たりますし、手続開始決定後は手続外での返済が禁止されます。

2 再生計画の内容

非減免債権のうち、無異議債権と評価済債権については、弁済期間中は再生計画で定められた一般的基準に従って弁済し、弁済期間満了時に弁済期間中の弁済額を控除した残額を一括して弁済します。

たとえば、非減免債権が300万円であり再生債権の80%が免除されるとの再生計画ですと、弁済期間中(3~5年)に60万円(=300万円×20%)を分割して弁済し、弁済期間満了時に残額の240万円を一括して弁済することになります。

上記以外の非減免債権については、弁済期間中は弁済せず、弁済期間満了時に全額を一括して弁済することになります。

宝くじはギャンブルか

破産するに当たってギャンブルは一切すべきでないことを認識しつつも、 宝くじはギャンブルと認識されていない方も散見されます。

しかし、宝くじの購入も破産法に定める賭博や浪費に該当する可能性があります。

競馬やパチンコと異なり、宝くじの購入にはまって借金を大きく膨らましてしまう方を聞くことは珍しいので、実際には「賭博…をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担した」(破産法252条1項4号)ということで免責不許可事由に該当するとまでは言えないことがほとんどかと思われます。

しかしながら、そのほかの事情によって免責不許可事由が存在する方が、弁護士に破産手続の依頼をした後においても宝くじの購入を続けていた場合、回数や金額によっては節制した生活を送るつもりのない人だと破産管財人や裁判所に判断されるおそれがあります。

ですので、破産をすると決めたとき以降は宝くじの購入は控えていただくべきです。

なお、仮に破産手続開始前に宝くじを購入し、破産手続開始後に宝くじが当選してお金が手元に入ってきたとしても、そのお金は「破産手続開始前に生じた原因に基づ」くものとして破産財団に含まれる可能性があります。

破産手続中に新たな債権者が判明した場合

1 新たな債権者の発覚

破産の申立て時には、全ての債権者を記載した債権者一覧表を裁判所に提出します。

ですので、破産の申立て前までには全ての債権者を把握する必要がありますが、申立て前には破産者の記憶をたどったり、自宅に届いている請求書を調べたり、信用情報機関へ問い合わせたりしても判明しなかった債権者について、申立後に発覚することもあります。

新たな債権者が発覚した場合は、早急に依頼している弁護士にその旨を伝えて、債権者一覧表を訂正してもらわなければなりません。

2 非免責債権

なぜなら、法律上、破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった債権は非免責債権となり、破産しても後日その債権者から請求されるおそれがあるからです(破産法253条1項6号)。

「破産者が知りながら」とは、破産者が債権者の存在を認識しながらあえて弁護士に伝えなかった場合だけでなく、破産者が過失によって記載しなかった場合も含むと考えられていることに注意が必要です。

少なくとも破産手続中に請求書が送付される等して新たな債権者が判明したにもかかわらず、当該債権者の追加を裁判所に伝えなかった場合には、過失が認められる可能性が高いと考えられます。

年金受給者の個人再生

弁護士の松山です。

1 老齢年金について

個人再生の手続のうち、利用者が多い小規模個人再生を例に説明します。

小規模個人再生では、手続を開始させるために「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込み」(民事再生法221条1項)が必要です。

これに該当する限り、年金を受給している方も個人再生を利用することが可能です。

老齢年金なら、基本的に年金額が減ることはないので、返済額さえ確保できれば個人再生の利用に問題はありません。

2 障害年金について

それでは、障害年金を受給している方が個人再生をすることができるのでしょうか。

障害年金の場合は特別な考慮が必要となります。

すなわち、障害年金のうち一部は、一度認定されても一定年数毎の申請が必要となるので、一度障害を認定されて障害年金を受給したとしても、それが生涯継続するとは限りません。

そのため、障害年金を受給していることから当然に「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込み」があるとは判断できず、これまでの障害年金を受給してきた実績や現在の障害の状態,通院歴等から再生計画の終了時に支給停止となる見込みが小さいと判断されたとき、「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込み」があるとは判断されて個人再生が利用できることになります。

実際、支給停止となる見込みが小さいと弁護士が説明することで,障害年金を受給している方が個人再生を利用できるようになった経験があります。

破産すると、車はどうなるのか

破産した場合、車はどうなるのか。

1 破産すると、一定の財産は債権者に配当する為に換価(現金に換えること)されてしまいます。

それでは、破産すると、所有している車は手放さなければならないのでしょうか。

2 自動車ローンが残っている場合

自動車ローンが残っている状態で破産すると、自動車ローン債権者は所有権留保の実行として、車の引き揚げを要求してきます。

このとき、自動車ローン債権者が対抗要件を備えていれば、引き揚げに応じざるを得ません。

一方で、自動車ローン債権者が対抗要件を備えていなければ、車の引き揚げを拒否することができます。

対抗要件を備えているか否かは、車検証や契約書の内容によって判断されます。

たとえば、普通車については、契約書の内容にかかわらず車検証の所有名義人の欄が破産者であれば、車の引き揚げ要求を拒否することができます。

3 自動車ローンが残っていない場合

車の財産的価値によって、車を手放さなければならないかが変わってきます。

名古屋地方裁判所の基準だと、個別の財産項目がいずれも20万円未満であり、かつ、現金及び普通預貯金の合計額が50万円未満であれば、原則として同時廃止となります。

同時廃止となれば、財産の換価という手続きがないため、車は手放さなくて済みます。

一方で、何らかの事情で破産管財事件となった場合、車は換価の対象となる可能性があります。

もっとも、その場合でも、外国車であったり評価額が高額であったりしなければ、生活や通勤等に必須であることを示すことで、1台のみであれば手元に残してもよいとされる運用が多いです。

自己破産を名古屋でお考えのかたはこちら

名古屋地裁での免責審尋

1 同時廃止における免責審尋

名古屋地方裁判所ではこれまで、同時廃止決定が下された場合の免責審尋については、原則として破産者が裁判所に出頭することが求められていました。

通常は、30人程度の破産者が一つの部屋に集められ、裁判官からの質問に回答する形で審尋が行われていました。

裁判官によって、個別の破産者を指名したり、選択肢を提示して適切だと思う選択肢に挙手させたりする等の回答方法の違いは認められますが、質問内容は免責不許可事由の具体例や非免責債権の具体例は何か等、大方共通しています。

2 コロナ下での免責審尋

しかし、昨年から新型コロナ感染症の影響で、破産者を一つの部屋に集めて審尋することはせず、「免責についての申述書」という書面を提出させることによって書面による審尋を行う運用となっているようです。

破産手続の開始が決定してから1か月程度経過した時点での事情を踏まえて、主に破産の原因や今思っていること、今後同じことを繰り返さないために考えたり実行したりしていることを自筆で記入することが求められています。

新型コロナ感染症の終息が見えない現状においては、このような書面による審尋もしばらく続くと考えられます。

個人再生における返済期間

1 個人再生における返済期間

個人再生をした場合,返済期間は原則として3年です。

しかし,「特別の事情」があるときは,3年を超えて返済するとの再生計画も認められます。

この場合の返済期間の上限は5年です。

「特別の事情」とは,典型的には3年では履行可能な返済計画を立てられないが,5年であれば履行可能な返済計画を立てることができる場合などです。

2 具体例

⑴ たとえば,最低弁済総額が300万円のとき,3年の返済計画を立てると,毎月8万3334円以上の返済が可能である必要があります。

一方で,5年の計画ですと毎月の返済は5万円で足ります。

ですので,毎月の手取り収入から返済に充てることができる金額が6万円の場合,3年や4年では返済できず,再生計画を5年とすべき「特別の事情」があることになります。

⑵ 「特別の事情」が認められるには,3年での返済ができないというだけでは足りず,3年を超えた期間(上限5年)であれば返済ができる必要があります。

したがいまして,返済開始から4年後に定年を迎えて退職する予定である場合等には,定年後にも再雇用がなされて一定額以上の収入を得る見込みが高いこと等を示して5年の返済計画を履行できることを認めてもらう必要があります。

具体的に何年での返済計画となるかは,現在および今後の収支の状況により変わりますので,弁護士にご相談ください。

土地や建物を所有する方の破産

1 自己破産すると,不動産は手元に残せない

不動産をお持ちの方が自己破産した場合,ほとんどの場合,その不動産を手放さなければなりません。

⑴ 競売

まず,不動産に住宅ローン等を担保する抵当権が設定されている場合,破産によって住宅ローン等の返済を滞納することになりますので,不動産に設定されている抵当権が実行され,競売手続が進行してしまいます。

⑵ 破産管財人による売却

また,競売手続とならなくても,裁判所から選任された破産管財人が不動産の売却手続を行って,債権者に対し,売却益からできるだけお金を配当することを狙います。

もっとも,買い手がつかなければ破産管財人も売却しようがなく,ある程度の期間を待っても買い手が現れなければ,破産管財人は不動産を放棄することになり,その場合は自己破産しても不動産を手元に残せることになります。

 

2 同時廃止か破産管財事件か

⑴ 原則

1⑵で説明したとおり,不動産をお持ちの方が自己破産すると,基本的には破産管財人が不動産を売却して,売却益を債権者に配当することになります。

ですので,不動産を所有したまま自己破産をすると,不動産売却等のために破産管財人が選任されます(自己破産のうち破産管財人が選任される類型を破産管財事件と言います。)。

⑵ 例外

ア 名古屋地方裁判所の運用では,原則として,①現金及び普通預貯金以外の個別財産について,財産項目ごとの合計額が20万円未満の場合,かつ,②現金及び普通預貯金の合計額が50万円未満の場合,破産管財人の選任されない同時廃止事件となります。

イ 不動産の評価額は,原則として処分価格の合計額です。

固定資産税評価証明書のみを裁判所に提出したとき,①建物ですと,その担保する被担保債権額が固定資産税評価額の1.5倍以上である場合,②土地ですと,その担保する被担保債権額が固定資産税評価額の2倍以上である場合には無価値とみなすことができます。

また,固定資産評価証明書のみでは,上記の基準を満たさないときでも,当該不動産の被担保債権額が複数の不動産業者の査定額の平均値の1.5倍以上であるときにも,無価値とみなすことができます。

現金化と免責不許可事由

1 免責とは

免責手続とは,債務がゼロとなる手続のことをいいます。

自己破産をすると,破産者は,基本的には免責許可決定を受け,それが確定すれば,それまでの債務から解放され,経済的に新たなスタートを切ることができるようになります。

2 免責不許可事由

⑴ 免責不許可決定

しかし,自己破産をすれば必ず免責許可決定を受けられるわけではなく,場合によっては免責不許可決定を受けることがあります。

免責不許可決定を受けると,破産者は全ての債務について支払う義務が残ります。

免責不許可決定を受ける可能性がある事項は,免責不許可事由といい,破産法で定められています。

⑵ 信用取引により買い入れた商品の著しく不利益な条件での処分

免責不許可事由の中には,信用取引により買い入れた商品の著しく不利益な条件での処分が定められています。

たとえば,換金目的でクレジットカードを利用して商品を購入し,その商品を安く換金することは免責不許可事由となります。

このような現金化は,ブランド物のバッグや新幹線のチケットの購入・売却によってなされることが多いです。

クレジットカードの利用明細にそのような商品の購入が多数見受けられる場合には,現金化の疑いがあるため,購入目的等を詳しく聞かれることになります。

弁護士法人心千葉法律事務所のサイトは以下です。

https://www.chiba-saimuseiri.com/