再生計画中の履行中に退職する場合

1 弁護士の松山です。

個人再生では,圧縮された債務額を3~5年間かけて返済するという再生計画を裁判所に認可してもらう必要があります。

通常は,現在の収入から生活費を差し引いて,返済に回す余裕がどれくらいあるのかを計算して,返済計画が実行できることを資料とともに示すことになります。

 

2 それでは,再生計画を実行中に定年等で退職が見込まれる場合,それ以降の収入について,どのようなことを裁判所に示す必要があるでしょうか。

まずは,退職した後も継続的に収入があることを示すものとして,再就職の有無が挙げられます。

勤務先に再就職の例が多いか少ないかや,再就職した場合の収入の見込みを上申書等で説明することとなります。

また,退職金が出る場合に,退職金を返済に充てても生活ができることを示したうえで,退職時に一括で返済するという内容で計画を立てることも考えられます。

 

3 再就職しなかったり,今まで再就職の例がなかったりする場合でも,年金を得ることが出来るなら,その金額の見込みをもって再生計画を履行できることを示すことも考えられます。

いずれにせよ,再生計画を履行している間に退職する見込みがある場合,今後の生活の見込みを検討したうえで,複雑な考慮が必要となる場合がありますので,弁護士と相談して計画を立てるのがよいでしょう。

債権者名簿に記載しなかった債権

名古屋の弁護士の松山です。

1 破産をし,免責許可決定を得ても免責の効力が及ばない債権を非免責債権と言います。

破産法253条には非免責債権が列挙されており,その中の一つに破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった債権があります(破産法253条1項6号)。

2 債権者名簿に記載されなかった債権者は,免責に対する異議申立の機会を奪われ,免責に対する防御の機会が完全に失われることから,このような債権を保護する趣旨とされています。

3 上記の趣旨から,破産者があえて債権者名簿に記載しなかった場合だけでなく,破産者が過失によって記載しなかった場合も含むと考えられています。

4 過失の有無の認定には,様々な要素を考慮されますが,破産者が調停調書による債権を債権者名簿に記載することを失念したまま免責許可決定を得た事件について,債権者が当該債権につき調停調書作成以後免責許可決定から4年ほど経過するまで一度も請求しておらず,原告の債務不履行後免責申立の時まで六年が経過していたこと,破産の原因は当該債権の発生日以後の債権がほとんどであり,当該債権について免責不許可事由がないこと,当該債権は破産債権全体からするとほんの一部であること等を指摘して,非免責債権とした裁判例が存在します(神戸地裁平成元年9月7日)。

自己破産に対する誤解

弁護士として,できるだけ自己破産をしたくない方のご相談をお受けすることも多いですが,その理由を聞いてみると,自己破産手続について誤解をしているケースが少なくありません。

1 基本的に会社や親戚に知られることはありません。

自己破産をしても,戸籍や住民票に破産の事実が記載されることはありません。

また,政府が発行する「官報」に氏名が載りますが,一般の人が官報を目にすることはめったにありません。

したがいまして,滞納が続いて給料の差押えがなされたり,親戚と同居していたりする場合でなければ,会社や親戚に自己破産を知られる可能性は低いです。

2 必ず仕事をやめないといけないわけではありません。

自己破産をすると,手続きをしている間は,警備員や生命保険募集人等の一定の資格・職業に就くことが制限されます。

しかし,制限があるのは手続中のみですし,そのような資格・職業に就いていたり就く予定があったりするわけでなければ,自己破産による影響はありません。

3 選挙権はなくなりません。

自己破産をしても選挙権が制限されることはありません。

4 破産手続き終了後は,海外旅行の制限はありません。

自己破産の手続中は,転居や宿泊を伴う出張をするには裁判所の許可を得る必要があり,海外旅行の許可がなされないことも多いです。

しかし,上記の許可が必要なのは自己破産の手続中だけですし,自己破産をしてもパスポートに制限が加えられるわけではありませんので,自己破産の手続きが終了した後は海外旅行をすることができます。

会社の破産につきましては,こちらもご覧ください。

破産前の債権者の一部のみに対する返済

1 一部の債権者に対する返済

自己破産をして免責許可決定が下りると借金を支払う責任がなくなります。

そのため,破産をしようとしている人が親族や知人等から借入れしている場合,その債権者に迷惑をかけたくないとの思いから,一部の債権者にだけ返済をしてしまうことがあります。

しかし,全ての債務を十分に返済することのできない資力しかない状況で,一部の債権者のみに返済を行うこと(これを偏頗行為といいます。)は,返済を受けなかった債権者にとっては,返済しなかったならば破産手続で平等に分配されたであろう部分を得ることができなくなることを意味する行為です。

2 否認権

偏頗行為は,上述したような意味で債権者を害するため,破産法上,否認権行使の対象となっています。

否認権とは,破産手続開始前の一定の行為を破産手続開始後に破産財団のために失効させ,流出した財産を破産財団に回復し,また,債権者間の公平を図る制度です。

否認権の対象行為となる返済があった場合,破産手続開始決定後に,破産管財人という弁護士が返済を受けた相手方に対して,返済を受けた分の返還請求がなされます。

迷惑をかけたくないからこそ特定の借入を返済したにもかかわらず,そのような偏頗行為をすることで,相手方は破産管財人からの返還請求を受ける等,かえって迷惑をかけてしまう場合もあるのです。

3 偏頗行為の否認

偏頗行為の否認は,大きく二つの類型があります。

まず,破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした返済等の行為です(破産法162条1項1号)。

この場合,否認権行使の対象となるには,返済が支払不能後になされたときには,債権者が破産者の支払不能又は支払停止の事実を知っていたこと(同項1号イ),返済が破産手続開始の申立て後になされたときには,債権者が破産手続開始の申立ての事実を知っていたこと(同項1号ロ)が必要です。

次に,破産者の義務に属せず,又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって,支払不能になる前30日以内にされたものです(破産法162条1項2号)。

4 否認権の対象となる偏頗行為の具体例

破産者が自ら積極的に一部の債権者にだけ返済する場合の他,銀行口座からの自動引き落としを利用していたときや勤務先からの借入について給料から天引きされていたときで,債権者への受任通知到達後に自動引落としや天引きがあった場合にも,偏頗弁済となって否認権の対象となります。

勤務先の借入についての給与天引き

1 勤務先からの借入について給与天引きされている人が破産や個人再生を行った場合は,給与天引きされている事実はどのように扱われるのでしょうか。

 

2 破産の場合,勤務先からの借入も破産債権ですので,弁護士が受任通知を送付した後になされた給与天引きは偏頗弁済にあたり否認対象行為です(破産法162条1項1号)。

破産手続開始前までに勤務先が天引き分を任意に返還しなければ,裁判所から選任された破産管財人という弁護士が勤務先に対して天引き分のお金の返還請求を行うこととなります。

破産管財人が選任される事件類型だと,裁判所に納める予納金も最低20万円以上となることが通常です。

 

3 個人再生では否認という制度はありませんが,故意に否認対象行為を行うと,不当な目的による申立てとされ,申立てが棄却されるおそれがあります(民事再生法25条4号)。

また,破産したとすれば債権者に配当されたであろう金額以上の金額を返済するという計画案でなければ裁判所に認可されません(清算価値保障原則)。

したがって,弁護士が受任通知を送付した後の給与天引きは否認対象行為となることから,その分の金額は個人再生をする方の財産に上乗せされて計算され,それ以上の金額を返済する計画案を立てることとなります。

障害年金受給者の個人再生

障害年金を受給している方が個人再生をすることができるのでしょうか。

個人再生の手続のうち,利用者が多い小規模個人再生を例に説明します。

小規模個人再生では,手続を開始させるために「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込み」(民事再生法221条1項)が必要です。

これに該当する限り,年金を受給している方も個人再生を利用することが可能です。

老齢年金なら,基本的に年金額が減ることはないので,問題ありません。

しかしながら,障害年金の場合は特別な考慮が必要となります。

すなわち,障害年金のうち一部は,一度認定されても一定年数毎の申請が必要となるのです。

したがって,一度障害を認定されて障害年金を受給したとしても,それが生涯継続するとは限らないのです。

そのため,障害年金を受給していることから当然に「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込み」があるとは判断できず,これまでの障害年金を受給してきた実績や現在の障害の状態,通院歴等から再生計画の終了時に支給停止となる見込みが小さいと判断されたとき,「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込み」があるとは判断されて個人再生が利用できることになります。

実際,支給停止となる見込みが小さいと弁護士が説明することで,障害年金を受給している方が個人再生を利用できるようになった経験があります。

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家計の状況作成の注意点

個人再生や自己破産を行うとき,数か月分の家計の状況を作成して裁判所に提出する必要があります。

家計の状況では,1カ月ごとの世帯全体での収入と支出を記載しますが,漫然とした記載では不適切となる場合があります。

以下では,名古屋地方裁判所での運用を前提に,家計の状況作成における注意点をご説明します。

 

1 まずは,その1カ月の間に実際に動いた金額を記入します。

すなわち,2月分の電話代を3月に支払った場合には,3月の家計の状況に支払った額を記入します。

2 次に,家賃や電話料金,水道代等の公共料金は領収書や通帳の記載を確認して,1円単位で正確な額を記入する必要があります。

特に公共料金について,紙の請求書をもとにコンビニ払いをしているような場合,領収書の提出を求められることがあります。

3 また,どの項目に入れてよいのか一概にはわからない支出は,「その他」の項目を利用したり,余白に金額をメモしたりして記入すべきです。

むやみに「食費」や「日用品・雑費」という項目に振り分けて記入すると,その項目のみ高額となってしまい,どのようなお金の使い方をしているのか検証しにくくなったり,浪費をしていると誤解されたりする可能性があります。

 

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