自己破産する前に一部の債権者にのみした返済

1 一部の債権者に対する返済

名古屋の弁護士の松山です。

自己破産をして免責許可決定が下りると借金の支払義務がなくなります。

そのため,親族や知人等から借入れしている場合,その債権者に迷惑をかけたくないとの思いから,一部の債権者にだけ返済をしてしまうことがあります。

しかし,全ての債務を十分に返済することのできない資力しかない状況で,一部の債権者のみに返済を行うこと(これを偏頗行為といいます。)は,返済を受けなかった債権者にとっては,返済しなかったならば破産手続で平等に分配されたであろう部分を得ることができなくなることを意味する行為です。

2 否認権

偏頗行為は,上述したような意味で債権者を害するため,破産法上,否認権行使の対象となっています。

否認権とは,破産手続開始前の一定の行為を破産手続開始後に破産財団のために失効させ,流出した財産を破産財団に回復し,また,債権者間の公平を図る制度です。

否認権の対象行為となる返済があった場合,破産手続開始決定後に,破産管財人から返済を受けた相手方に対して,返済を受けた分の返還請求がなされます。

3 偏頗行為の否認

偏頗行為の否認は,大きく二つの類型があります。

まず,破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした返済等の行為です(破産法162条1項1号)。

この場合,否認権行使の対象となるには,返済が支払不能後になされたときには,債権者が破産者の支払不能又は支払停止の事実を知っていたこと(同項1号イ),返済が破産手続開始の申立て後になされたときには,債権者が破産手続開始の申立ての事実を知っていたこと(同項1号ロ)が必要です。

次に,破産者の義務に属せず,又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって,支払不能になる前30日以内にされたものです(破産法162条1項2号)。

4 否認権の対象となる偏頗行為の具体例

破産者が自ら積極的に一部の債権者にだけ返済する場合の他,銀行口座からの自動引き落としを利用していたときや勤務先からの借入について給料から天引きされていたときで,債権者への受任通知到達後に自動引落としや天引きがあった場合にも,偏頗弁済となって否認権の対象となります。

 

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倒産手続におけるリース契約

倒産手続において,倒産した人が契約しているリース契約がどのように扱われるかについては,リース契約の種類によって異なってきます。

1 フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約

判例は,フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約について次のように述べています。

フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約は,リース期間満了時にリース物件に残存価値はないものとみて,リース業者がリース物件の取得費その他の投下資本の全額を回収できるようにリース料が算定されているものであって,その実質はユーザーに対して金融上の便宜を付与するものであるから,右リース契約においては,リース料債務は契約の成立と同時にその全額について発生し,リース料の支払いが毎月一定額によることと約定されていても,それはユーザーに対して期限の利益を与えるものにすぎず,各月のリース物件の使用と各月のリース料の支払とは対価関係に立つものではない(最高裁平成7年4月14日)。

上記判例は,会社更生事件に関するものであり,上記説示を理由として,未払のリース料債権は全額更生債権となるとしました。

また,同判例の趣旨からして残リース料は,リース目的財産を担保目的物とする更生担保権と解されています。

破産手続において,更生手続と別異に解すべき特段の事情がないため,破産手続では,リース会社は別除権を有すると解されています(伊藤眞他『条解破産法(第2版)』522頁)。

2 ノンフルペイアウト方式のファイナンス・リース契約

リース期間終了後に残存価値があるものがノンフルペイアウト方式のファイナンス・リース契約です。

リース物件の見積残存価値を控除し,その控除後の金額をリース期間に配分して全額回収できるように,リース料の総額が設定され,そのようなリース料総額がリース物件の使用の有無にかかわらずリース業者に支払われることが約定されているような場合には,リース契約時に,このような リース料債権が全額発生していると解されるため,リース料債権全額が倒産債権となります(伊藤眞他『担保・執行・倒産の現在』340頁)。

3 メンテナンス・リース契約

リース業者がリース物件の修繕・整備・保守の義務を負う形態のリース契約です。

修繕・整備・保守の義務は,リース契約締結後にリース業者が履行することで初めて代金債権が発生するものであり,当該代金債権と履行義務は対価関係に立つので,双方未履行双務契約としての性質を有します。

破産手続開始後の履行部分は,財団債権となると解されます。

 

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