相続放棄の際、故人の預金から葬儀代を払ってよいか

1 故人の預金から葬儀代を払っても、基本的に相続放棄は可能

相続放棄をご検討中の方から頂戴することの多い質問として、故人の預金から葬儀代を払っても相続放棄ができるか、というものがあります。

結論としては、一般的な葬儀に通常かかる費用であれば問題ないです。

2 裁判例

⑴ この問題について論じた裁判例として、大阪高決平14・7・3家月55巻1号82頁が存在します。

問題となった事案では、故人の貯金302万4825円と香典代144万円の計442万4825円で、葬儀費用等に273万5045円を支出し、仏壇92万7150円及び墓石127万0500円が購入されました(不足分の46万円余りは相続人らが負担しました)。

⑵ このようなケースにおいて、裁判所は、葬儀費用と仏壇・墓石の購入とを分けて論じました。

まず、葬儀費用の支出に関しては、①社会的儀式として必要性が高いこと、②葬儀の時期の予想が困難であり、その執行には必ず相当額の支出を伴うこと、③相続財産があるにもかかわらず、これを使用することが許されず、相続人らに資力がないため葬儀を執り行うことができない事態は非常識な結果であることを理由として、法定単純承認事由である「相続財産の処分」(民法921条1号)に該当しないとしました。

また、仏壇及び墓石の購入に関しては、夫や父親が亡くなった場合、仏壇や墓石を購入して弔うことは日本の慣例であり、遺族が被相続人の預貯金を利用するのも自然な行動といえることを理由に、購入された仏壇や墓石が社会的に不相当に高額とは断定できない本件では、遺族が貯金を解約して費用の一部に充てた行為が、「相続財産の処分」に該当すると断定することはできないとしました。

⑶ 夫ないし父親が「一家の中心である」と述べられていたり、20年以上前の裁判例であり、ここで述べられた我が国の慣例が今後もそのまま妥当するかは不明な点があったりしますが、故人の貯金の使い道や金額を考える際には参考となります。

葬儀費用の金額等によっては判断が異なる場合もありえるので、詳細は弁護士にご相談ください。