生活保護と破産

生活保護を受けている方から債務整理のご相談を頂くことがあります。

その中には、生活保護を受けていると破産ができないと誤解されている方もいらっしゃいます。

しかしながら、生活保護は健康で文化的な最低限度の生活を保障するためのものです。

通常、生活保護費から返済に回す余裕はないと言えます。

そのため、ごく例外的なケースを除いては、生活保護を受けている方は個人再生や任意整理を利用することはできません。

また、無職だったり、生活保護者だったりしても、それだけを理由に破産ができなくなることはありません。

また、法テラスを利用すれば、生活保護を受けている方であれば、法テラスは、弁護士費用・実費に加えて、裁判所に支払う予納金を20万円(+官報公告費)まで立て替えてくれます。

さらに、通常は法テラスが立て替えた金銭を償還する必要があるところ、手続終了時にも生活保護を受けている方であれば、その償還が全額免除されます。

したがって、基本的には、生活保護を受けている方であれば、費用の心配をすることなく破産手続を進めることが可能です。

ですので、生活保護を受けている方で借金の請求にお悩みの方は弁護士に相談することをお勧めします。

2度目の債務整理

一度債務整理を行ったにもかかわらず、事情の変更等で支払が困難となったり、新たに債務を負担してしまったりして、再度弁護士に相談し、債務整理を検討しなければならない方もいらっしゃいます。

以下では、債務整理の種類に応じて、どのような場合に2度目の債務整理ができるのか等を見ていきます。

1 任意整理

任意整理は、典型的には債務を分割返済するとの和解をまとめる方法です。

一度和解をして返済中の債権者と、再度分割交渉を行うことも認められない訳ではありません。

しかし、一回目の和解による分割返済が失敗に終わったにもかかわらず、再度分割で返済が可能といえる事情の説明が合理的でないと和解ができない可能性があります。

これと関連して、一回目の和解をして数か月で返済ができなくなった場合には、再度の和解に対する反応は厳しいものとなりやすいです。

2 自己破産

自己破産は、以下の場合はそもそも、原則として自己破産して免責を受けることができないと法律上規定されています。

⑴ 自己破産して免責決定が確定してから7年以内の申立て

⑵ 給与所得者等再生における再生計画認可決定が確定してから7年以内の申立て

また、7年が経過している場合でも、2度目の自己破産では、免責を受けるに当たって、借金をすることに対する意識やお金の使途について厳しく審査される傾向にあります。

 

3 個人再生

⑴ 小規模個人再生の場合

以前に破産や個人再生をしていたとしても、小規模個人再生の申立ては制限されていません。

⑵ 給与所得者等再生の場合

以下の場合には、給与所得者等再生の手続が開始されないことが法律上規定されています。

ア 自己破産して免責決定が確定してから7年以内の申立て

イ 給与所得者等再生における再生計画認可決定が確定してから7年以内の申立て

個人再生における退職金の扱い

1 個人再生における財産の扱い

個人再生においては、総債務額が一定額まで減額されます。

個人再生の手続を定める民事再生法では、所有する財産の評価額よりも低い額には減額できないとのルールが定められています。

財産として扱われるものには、第三者に対する権利も含まれます。

そして、勤務先から将来支払われる予定の退職金も、その一部は財産として扱われます。

 

2 退職金の扱われ方

しかし、定年まで年月を要すると、退職金が将来必ず支払われるかは不明です。

そこで、名古屋地方裁判所では、退職までの期間が3年を超える場合、仮に現在自己都合で退職した場合に支払われるであろう退職金の8分の1相当額が財産として評価されます。

退職までの期間が3年以内の場合は、退職金の支払いが相当程度確実であることから、仮に現在自己都合で退職した場合に支払われるであろう退職金の4分の1相当額が財産として評価されます。

 

3 年金で受け取る場合

なお、最近は、退職金を一時金でなく年金で受け取るように定めた企業も多いです。

確定給付企業年金(DB)、企業型確定拠出年金(DC)を受給する権利は、それぞれの権利を定める法律によって差押えが禁止されているため、個人再生における財産としては評価しない運用となっています。

破産管財人との面談で行われること

1 破産管財人との面談

破産手続開始決定とともに破産管財人が選任された場合、基本的には、目安として2週間以内に破産管財人と面談することになります。

面談は、通常、破産管財人の事務所で、破産管財人の事務所の営業時間内に行われます。

名古屋地方裁判所に申し立てた場合は、破産の申立てを依頼した弁護士(申立代理人)も同席することが一般的です。

2 面談で行われること

⑴ 破産管財人からの質問

破産管財人は、申立ての際に裁判所に提出された申立書と証拠書類の写しを一式確認したうえで、債権・財産を調査したり、免責の相当性に関する事柄を調査したりする一環として、破産者に口頭で質問をします。

破産者としては、記憶のある範囲で、質問に回答することになります。

⑵ 財産等の引継ぎ

自由財産拡張が認められない車や建物を所有している場合、通常、車や建物の鍵を破産管財人に渡します。

他にも、宝石等を所有している場合には面談の際に持参するよう求められることがあります。

破産手続開始決定時点で、破産者の財産の管理処分権は破産管財人に移っているので、財産を誰が所持するか等の財産管理については破産管財人の指示にした月必要があります。

⑶ 郵便物の受け渡し方法の調整

破産手続開始後は、破産者に宛てられた郵便物は破産管財人のもとに転送されて、中を開封されることになります。

郵便物の中身を確認された後は、通常、破産者に郵便物が返却されるので、その返却方法を決める必要があります。

1か月に1回程度、破産管財人から郵送する方法や、破産者が破産管財人の事務所に赴いて直接受け取る方法が一般的です。

⑷ 次回面談の日程調整

確認事項が多くなかったり、お金の使い方が原因で破産に至ったりするわけでなければ、破産管財人と面談するのも1回のみで足りることがあります。

しかし、新たに財産が発覚して破産管財人に引き継ぐ必要があったり、破産手続開始後の生活状況を確認する必要があると破産管財人が判断したりした場合には、債権者集会までに複数回の面談を行うこともあります。

その場合には、面談の最後に次回の日程調整を行うことが多いです。

破産直前にする財産の名義変更

1 破産をすると、基本的に財産を手放さないといけないことは広く知られています。

そこで、もう借金を払うことができず破産をしなければならないと認識した時点で、自分が所有している不動産や自動車を親族名義に変更しようという気持ちになる方がいらっしゃいます。

しかし、破産直前に無償で財産を譲り渡す行為は、破産手続上大きな問題となる可能性があります。

 

2⑴ 本来、自分が所有している財産について、いつ・いくらで処分するかは自由です。

しかし、破産しないといけないような経済状態の方についてまで自由な財産処分を認めると、破産手続の中で債権者に配当すべき財産がなくなってしまいます。

そこで、一定の時期以降の一定の行為については、破産手続の中で破産管財人が否認して、なかったことにすることが認められています。

⑵ 特に、無償行為については、「破産者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる」と規定されています(破産法160条3項)。

通常、弁護士に破産を依頼すると弁護士から債権者に対して受任通知を送付しますが、受任通知の送付は「支払の停止等」に当たります。

すなわち、基本的には、弁護士に破産の依頼をする前6か月以内に自分の財産を無償で他人名義に変更しても、後で否認されます。

3 破産申立てに係る名古屋地方裁判所の書式において、不動産については期間を問わず、保険や車、株式等については過去1年間程の間の財産処分の記載が求められているのも、上記行為があるかの確認の趣旨と思われます。

否認の対象となる行為があれば、他の事情が問題なくても破産管財事件となり、多額の予納金を裁判所に入金しなければ破産手続が開始しませんし、事情によっては免責が許可されないおそれもあります。

支払いが困難になりそうと感じた時点で、まずは弁護士に相談することをお勧めします。

預貯金と清算価値

1 個人再生における清算価値保障原則

個人再生について説明するウェブサイトをいくつか見ていますと、個人再生で返済すべき総額は債務額の5分の1との記載を見かけることが多いです。

たしかに、債務額が500万円から1500万円の間にある方であれば、これに該当することが多いでしょう。

しかし、所有する財産が多いと、個人再生で返済すべき総額も多くなる可能性があります。

個人再生では、所有する財産の評価額以上を返済しないといけないというルールが存在するためです(これを「清算価値保障原則」といいます)。

 

2 預貯金の扱い

清算価値として把握される財産とは、現金、預貯金、不動産、車、生命保険の解約返戻金等、一切のものが含まれます。

預貯金については、所有する全ての口座の残高を確認することになります。

この点に関して、名古屋地方裁判所では、個人再生の申立て前に債権者に弁済する原資とするため、弁護士の預り金口座に管理している場合には、「所持現金と合わせて99万円の範囲内」であれば、清算価値に含まれないものとして扱われています。

これは、破産手続において、現金99万円が自由財産として換価の対象から外れていることとのバランスを取ったものと思われます。

個人再生した後に支払が出来なくなったら

1 個人再生した後に支払が出来なくなった際の対処

個人再生した後、計画どおりの返済ができなくなってしまうこともあります。

そのような場合、自己破産を選択する方もいらっしゃいます。

しかし、自己破産をせずとも、次の方法を取ることができる場合があります。

2 再生計画の変更

個人再生においては、再生計画認可の決定があった後やむを得ない事由で再生計画を遂行することが著しく困難となったときは、再生計画で定められた債務の期限を延長することができます。

この場合、変更後の債務の最終の期限は、再生計画で定められた債務の最終の期限から2年を超えない範囲で定める必要があります。

3 ハードシップ免責

再生計画を遂行することが極めて困難である場合は、次の条件のもとで、裁判所は免責の決定をすることができ、これによって債務者は債務を支払う義務を免れます。

⑴ 再生計画を遂行することが極めて困難となったのは、債務者の責めに帰することができない事由によること

⑵ 再生計画で定められた債務の4分の3以上の額の返済を終えていること

⑶ 再生計画の認可決定時に破産した場合の配当総額以上の返済をし終えていること

⑷ 再生計画の変更をすることが極めて困難であること

4 新たな個人再生手続きの申立て

基本的には、再度の個人再生手続きの利用が法律上妨げられているわけではないため、新たに個人再生手続きの申立てをすることも考えられます。

ただ、給与所得者等再生では、1回目の給与所得者等再生の返済計画の認可決定が確定した日から7年間は手続きを利用することはできません。

また、2回目の個人再生であるという点が債権者の同意の有無に影響を及ぼす可能性もあります。

5 弁護士への相談

いずれの方法をとるにせよ、お早めに弁護士に相談することをお勧めします。

破産した際の郵便物等の回送

1 破産者宛ての郵便物等が破産管財人へ送付される

破産手続において破産管財人が選任された場合、裁判所は破産管財人の職務の遂行のため必要があると認めるときは、破産者にあてた郵便物等を破産管財人に送付するように信書の送達の事業を行う者に対して嘱託することができます(破産法81条1項)。

条文上は「できる」と規定されていますが、少なくとも名古屋地方裁判所では、破産管財事件の全件について嘱託をしていると思われます。

そして、破産管財人は、破産者にあてた郵便物等を受け取ったときは、これを開いて見ることができます(破産法82条1項)。

2 趣旨

破産者にあてた郵便物等からは様々なことが分かる可能性があります。

たとえば、固定資産税納付書が送付されていれば不動産を所有していることが分かりますし、株主総会招集通知が送付されれば当該会社の株式を所有していることが分かります。

また、友人からの手紙にお金の貸し借りについての記載がなされていれば、裁判所に知らせていない債権者が判明することもあります。

このように、郵便物等からは破産者の債務や財産等に関係する情報を得る可能性があり、破産管財人の職務の遂行を実効的なものとすることから、憲法で定められた通信の秘密が一定の限度で制限されています。

3 郵便物等の返却

裁判所の嘱託を受けて破産管財人に送付された郵便物等も、破産者にあてたものなので、破産者は、破産管財人に対し、破産管財人が受け取った郵便物等の閲覧又は当該郵便物等で破産財団に関しないものの交付を求めることができます(破産法82条2項)。

大多数のケースでは、ほとんど全ての郵便物等は、破産管財人が中身を確認した後は、月1回程度のペースで破産者に返却されていることが多いようです。

破産した場合の道路の補修代の扱い

1 名古屋の弁護士の松山です。

道路法58条は、「道路管理者は、他の工事又は他の行為により必要を生じた道路に関する工事又は道路の維持の費用については、その必要を生じた限度において、他の工事又は他の行為につき費用を負担する者にその全部又は一部を 負担させるものとする。」と規定しており、たとえば交通事故により道路を破損させた場合の工事費用を、交通事故の原因者に負担させています。

このような債務も破産によって免責を受けることができるでしょうか。

2 個人の方にとっては、破産する最大の目的は免責を受けることです。

免責によって、基本的に全ての債務について支払いをする責任が免れます。

しかし、破産手続について定めた破産法は、例外的に免責がなされない債権をいくつか定めています(このような債権を非免責債権といいます。)。

このうち租税等の請求権(破産法253条1項1号)とは、国税徴収法又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権です。

たとえば、滞納している住民税は、破産して免責決定が確定しても支払の責任は免除されません。

3 道路法73条1項は、「この法律、この法律に基づく命令若しくは条例又はこれらによつてした処分により納付すべき負担金、占用料、駐車料金、割増金、料金、連結料又は停留料金(以下これらを「負担金等」という。)を納付しない者がある場合においては、道路管理者は、督促状によつて納付すべき期限を指定して督促しなければならない。」と定め、同条3項前段は、「第一項の規定による督促を受けた者がその指定する期限までにその納付すべき金額を納付しない場合においては、道路管理者は、国税滞納処分の例により、前二項に規定する負担金等並びに手数料及び延滞金を徴収することができる」と定めています。

すなわち、道路法53条が規定する原因者負担金は、督促を受けた原因者によって期限までに納付されなければ、国税徴収の例により徴収することが可能な債権です。

したがって、基本的に、事故による道路の修理代は租税等の請求権にあたり、非免責債権となるため、免責を受けても支払わなければならない債務として残ってしまう可能性があります。

ローンを組んでいる自動車を持っているときの破産

1 ローンを組んでいる自動車を持っている場合、破産ではどのように扱われるのでしょうか。

通常、ローンを組んで自動車を購入するとき、所有権留保が付された契約となります。

すなわち、売買代金が完済するまでは所有権(の一部)がローン会社に残ったままとなります。

破産や個人再生が関係しなければ、売買代金の支払いが滞れば、ローン会社が留保された所有権に基づいて自動車を返還するよう求めてくるのに対して拒否することはできません。

事実上、引き揚げに協力しなかったとしても、訴訟を提起されれば、ローン会社の言い分が認められることになります。

2 しかし、実際に破産手続が開始された、または、破産をする予定である場合は、ローン会社が要求する自動車の返還を拒否することができることもあります。

これは、破産では、自動車の売買の際にはいなかった第三者が登場することによります。

それは破産管財人と言われる、裁判所が選任する弁護士です。

第三者は契約の事情を知りませんので、所有権が移転する、所有権を留保する等を第三者に主張するためには、一定の形式が要求されます。

普通車においては、その形式は車検証の所有者としての登録です。

したがって、車検証の所有者がローン会社であれば、ローン会社からの引き揚げ要求を拒否することができませんが、車検証の所有者が破産者であれば、拒否できます。

3 車検証だけでは判断できないのが、車検証の所有者が自動車の販売店だった場合です。

この場合に自動車の引き揚げに応じないといけないかを判断するには、自動車の売買契約書の内容を確認する必要があります。

最高裁判所の判断がいくつか下されたことで、最近契約された自動車ローンは、車検証の所有者が販売店でも引き揚げを拒否できないものが多いですが、中には最高裁で問題となった事案とは異なる内容の契約書を作成している業者もあり、判断に悩むこともあります。

クレジットカードの現金化と免責不許可事由

弁護士の松山です。

クレジットカードのショッピング枠を現金化すると、破産において悪影響が出る可能性があります。

 

1 クレジットカードの現金化

手元に現金がないと、換金することを目的としてクレジットカードで商品を購入し、その商品を売却してお金を得ることを考える方がいます。

たとえば、新幹線の回数券等をクレジットカード等で購入し、購入額から数%割り引いた額で売却して現金を得ることが可能です。

しかし、このようなクレジットカードの現金化は、一時しのぎにはなっても、手に入れる現金よりも債務額の方が大きいため、全体としてみれば経済状態を悪化させることになります。

 

2 免責不許可事由

⑴ 破産手続では、原則として免責が許可されない免責不許可事由が定められています。

クレジットカードの現金化は、免責不許可事由に該当する可能性があります。

まず、破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したことは免責不許可事由です(破産法252条1項2号)。

クレジットカードの利用は「信用取引」に当たります。

なので、商品の購入額や売却額、回数等を考慮して「著しく不利益な条件」での処分と評価されると、クレジットカードの現金化は免責不許可事由に該当します。

⑵ また、浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したことは免責不許可事由です(破産法252条1項5号)。

現金化は、元から売却することを前提として商品を購入するので、「浪費」に該当する可能性があります。

なので、その額や回数等によって「著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担した」と評価されれば、免責不許可事由に該当します。

3 裁量免責

もっとも、クレジットカードの現金化が免責不許可事由に該当したとしても、直ちに免責が認められないことが確定しているわけではありません。

裁判所は、破産に至った経緯その他一切の事情を考慮して、免責を許可することがあります(破産法252条2項)。

裁判所に提出する資料や破産管財人からの質問に虚偽を述べず、クレジットカードの現金化の違法性を自覚し、自身の行為を反省していることを示せば、免責が許可される可能性があるので、これだけを理由に破産を諦める必要はないと考えます。

債務整理が預金口座に与える影響

銀行や銀行の保証会社を相手方として債務整理をしたとき、その銀行に預金口座があると、その預金口座が凍結される可能性が高いです。

 

早いと弁護士に依頼して受任通知が送付された途端に預金口座が利用できなくなることもあります。

これは、債務整理をしなければならない程の経済状況であることが、銀行にとって債務者の信用に不安が生じたことによります。

このような状態に至れば、銀行は、普通預金規程等に基づいて口座残高から債権を回収します。

すなわち、銀行が持つ貸金等の債権と預金者が銀行に対する預金払戻請求権の相殺を行うのです。

銀行は、相殺する前に預金口座からお金を引き出されないよう、口座を凍結します。

 

銀行が口座を凍結するのは、基本的には上記の相殺のためなので、保証会社から代位弁済を受ければ凍結が解除されることが多いです(この場合、凍結期間は約2~3か月です)。

解除後は従前どおりに口座を利用することができます。

しかし、銀行によっては凍結後は、強制的に預金口座が解約されることもあります。

 

このような預金口座の凍結は、生活に多大な影響を及ぼす場合があります。

たとえば、給料口座として定めている口座の銀行から借入れしている場合、その銀行を対象に債務整理をすると、給料口座が凍結されるリスクがあります。

これを避けるには、その銀行を債務整理の対象から外すか、事前に給料口座を借入れのない銀行の口座に変更するのが適切です。

破産しても残せる財産

1 自己破産とは、破産者が所有する財産を現金に換えて、各債権者に配当する手続です。

しかし、破産者が所有する全ての財産を換価してしまうと、破産者の今後の生活に支障を来たし、経済的な再建を図ることが難しくなります。

そのため、一定の財産については、破産しても手元に残すことが認められています。

以下では、破産した場合の財産の取り扱いの原則を示した後、手元に残せる財産の範囲を説明します。

 

2 原則は破産財団に属する

自己破産の手続開始決定が下されると、原則として、破産者が所有するすべての財産は、破産管財人という弁護士の管理処分権のもとに置かれます。

破産管財人が管理処分権を有する財産を、破産財団に属する財産といいます。

破産財団に属する財産は、基本的に破産手続の中で換価されることになります。

 

3 自由財産

破産者が所有する財産でも、破産財団に属しない財産を自由財産といい、破産者は手元に残すことができます。

 

4 本来的自由財産

⑴ まず、破産手続開始決定後に新たに取得した財産は、自由財産です。

⑵ 次に、個別の法律で差押えが禁止されている財産も自由財産となります。

たとえば、破産者の生活に欠くことができない衣服や寝具、家具がこれにあたります。

⑶ 99万円以下の現金も自由財産です。

⑴~⑶は本来的自由財産と呼ばれています。

 

5 本来的自由財産以外の財産

本来的自由財産にあたらなくとも、裁判所が認めた財産については自由財産となります。

すなわち、破産者の生活の状況、破産者の財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して、裁判所が認めると、自由財産とされる財産の範囲が拡張されます。

たとえば、通勤や日常の生活を送るのに自動車が欠かせない場合で、所有している自動車1台の財産価値が小さければ、その自動車を残せる可能性があります。

破産における債権の優先関係(その2)

弁護士の松山です。

前回の記事の続きです。

破産債権の中での優先関係は、以下のとおりです。

大枠としては、1優先的破産債権、2一般の破産債権、3劣後的破産債権、4約定劣後破産債権の順です。

 

1 優先的破産債権

優先関係は⑴、⑵、⑶、⑷の順です(98条2項)。

⑴ 優先的破産債権のうち国税(国税徴収法8条)

ア 財団債権とならない破産手続開始前の原因に基づいて生じた国税のうち、破産手続開始当時、納期限から1年を経過したもの(148条1項3号、98条1項)

イ アの延滞税破産手続開始前に生じたもの

⑵ 優先的破産債権のうち地方税(地方税法14条)

⑴と同様

⑶ 優先的破産債権のうち公課

⑴と同様

⑷ 優先的破産債権のうち私債権

優先関係はア、イ、ウ、エの順です(民法329条1項)。

ア 共益の費用(民法306条1号)

イ 雇用関係(民法306条2号)

① 給料のうち財団債権でない部分

② 退職金のうち財団債権でない部分

③ 解雇予告手当(一部の裁判所で財団債権とする扱いがある)

④ その他の労働債権

ウ 葬式の費用(民法306条3号)

エ 日用品の供給(民法306条4号)

個人の破産手続開始前6か月以内の上水道、電気、ガス料金

 

2 一般の破産債権

 

3 劣後的破産債権(破産法99条1項)

⑴ 破産手続開始後の利息の請求権(97条1号)

⑵ 破産手続開始後の不履行による損害賠償又は違約金の請求権(97条2号)

⑶ 破産手続開始後の延滞税、利子税若しくは延滞金の請求権又はこれらに類する共助対象外国租税の請求権(97条3号)

⑷ 租税等の請求権であって、破産財団に関して破産手続開始後の原因に基づいて生ずるもの(97条4号)

⑸ 国税通則法2条4号に規定する過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税及び重加算税若しくは地方税法1条1項14号に規定する過少申告加算金、不申告加算金及び重加算金の請求権又はこれらに類する共助対象外国租税の請求権(97条5号)

⑹ 罰金、科料、刑事訴訟費用、追徴金又は過料の請求権(97条6号)

⑺ 破産手続参加の費用の請求権(97条7号)

⑻ 54条1項に規定する相手方の損害賠償請求権(97条8号)

⑼ 57条に規定する債権(97条9号)

⑽ 59条1項の規定による請求権であって、相手方の有するもの(97条10号)

⑾ 60条1項に規定する債権(97条11号)

⑿ 168条2項2号又は3号に定める権利(97条12号)

 

4 約定劣後破産債権(破産法99条2項)

破産における債権の優先関係

弁護士の松山です。

破産においては、配当の場面で債権の優先関係が問題となります。

まず、全ての財団債権は、全ての破産債権に優先します(破産法151条)。

財団債権の中での優先関係は、条文及び解釈上、以下のとおりとされています(1、2、3、4の順で優先され、同順位の債権間では按分して配当されます)。

1 管財人報酬(立替事務費を含む)

2 債権者申立て又は第三者予納の場合の予納金補填分

3 破産法148条1項1号・2号の債権(⑴⑵以外)(破産法152条2項)

① 破産債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権(1号)

② 破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権(2号)

4 その他の財団債権

① 破産手続開始前の原因に基づいて生じた租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権及び97条5号に掲げる請求権を除く)であって、破産手続開始当時、まだ納期限の到来していないもの又は納期限から1年を経過していないもの(148条1項3号)

② 破産財団に関し破産管財人がした行為によって生じた請求権(148条1項4号)

③ 事務管理又は不当利得により破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権(148条1項5号)

④ 委任の終了又は代理権の消滅の後、急迫の事情があるためにした行為によって破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権(148条1項6号)

⑤ 53条1項の規定により破産管財人が債務の履行をする場合において相手方が有する請求権(148条1項7号)

⑥ 破産手続の開始によって双務契約の解約の申入れ(53条1項又は2項の規定による賃貸借契約の解除を含む。)があった場合において破産手続開始後その契約の終了に至るまでの間に生じた請求権(破産法148条1項8号)

⑦ 破産管財人が負担付遺贈の履行を受けたときは、その負担した義務の相手方が有する当該負担の利益を受けるべき請求権(遺贈の目的の価額を超えない限度において)(148条2項)

⑧ 保全管理人が債務者の財産に関し権限に基づいてした行為によって生じた請求権(148条4項)

⑨ 破産手続開始前3か月間の破産者の使用人の給料請求権(149条1項)

⑩ 破産手続の終了前に退職した破産者の使用人の退職手当の請求権(当該請求権の全額が破産債権であるとした場合に劣後的破産債権となるべき部分を除く。)のうち、退職前3か月間の給料の総額(その総額が破産手続開始前3か月間の給料の総額より少ない場合にあっては、破産手続開始前3か月間の給料の総額)に相当する額

 

破産債権の中での優先関係については、別の記事でまとめます。

社会福祉協議会の貸付けと自己破産

1 社会福祉協議会の貸付け

新型コロナ感染症の影響で、地方自治体の社会福祉協議会から緊急小口資金や総合支援資金の貸付けを受けている方もいらっしゃるかと思います。

これらの貸付けについて、「国からの借入れ」との認識から自己破産しても支払わなければならない債務として残ってしまうと思っていらっしゃる方も散見されます。

2 自己破産の対象となる

しかしながら、社会福祉協議会の貸付けも自己破産の対象となります。

裁判所から免責が認められれば、原則として全ての債務について法律上支払う必要がありません。

免責が認められても支払わなければならない債務については、法律で非免責債権として列挙されたものに限られます。

非免責債権の代表例としては、税金や罰金、養育費等です。

社会福祉協議会の貸付けは、法律で列挙された非免責債権のいずれにも該当しないため、自己破産をして免責されれば、支払う必要がなくなるのです。

3 注意点

社会福祉協議会の貸付けが自己破産の対象となることから、自己破産するに際して特に注意しなければならない点が2つあります。

一つ目は、自己破産を進めるに当たって、依頼した弁護士に対して社会福祉協議会からお金を借りていることを忘れずに伝えることです。

払う必要があるため破産とは関係ないと誤解していると、つい伝えるのを忘れてしまうかもしれません。

しかし、社会福祉協議会からの借入も銀行や消費者金融、カード会社に対する債務と同じように扱われるため、これが漏れた債権者名簿を裁判所に提出すると免責不許可事由に該当する可能性があります。

二つ目は、自己破産すると決めた以上は、社会福祉協議会からの貸付けを受けてはいけないという点です。

社会福祉協議会の貸付けは、据置期間の設定によって返済開始が数年後になっている場合があります。

すぐに返さなくてよいとの認識や、「公共団体からの恩恵・援助」との認識から借りてもよいと思う方もいらっしゃいます。

しかし、社会福祉協議会の貸付けも自己破産の対象になり、免責が認められれば返済する必要はありません。

自己破産して免責を受けると決めたのにお金を借りることは、当初から返すつもりがない行為と評価され、こちらも免責不許可事由となる可能性があります。

外食

報道によると、1日当たりのコロナ感染者数がかなり減ってきています。

それに合わせて久しぶりに外食しました。

事務所の周りの飲食店は1年半前と比べて相当程度様変わりしています。

最近の天候

暦の上では夏は終わったはずですが、日中はまだ暑い日も多く、サラリーマンと思しき人もワイシャツ姿で歩いている姿をよく見ます。

一方、日が沈めば、肌寒くなり秋を感じるようになりました。

あと1~2週間で一気に寒くなる予想もあり、体調には気を付けたいところです。

書籍購入

昨日、アマゾンから書籍数冊(法律書を含む。)が自宅に届きました。

HMVのオンラインショップで大型セールが行われた際、つい予約購入したものです。

段ボールを開き中身を確認しそれぞれの目次を眺めながら、現在積読となっている他の本に思いを馳せます。

非減免債権を有するときの返済計画

1 非減免債権とは

個人再生をしても減額がなされない債権が法律で定められています。

これを非減免債権といい、債務者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権や故意又は重過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権、扶養義務等に係る請求権(養育費等)がこれに該当します(民事再生法229条3項)。

非減免債権も再生債権なので、他の再生債権と同様、少なくとも弁護士に依頼した後に返済すると偏頗弁済に当たりますし、手続開始決定後は手続外での返済が禁止されます。

2 再生計画の内容

非減免債権のうち、無異議債権と評価済債権については、弁済期間中は再生計画で定められた一般的基準に従って弁済し、弁済期間満了時に弁済期間中の弁済額を控除した残額を一括して弁済します。

たとえば、非減免債権が300万円であり再生債権の80%が免除されるとの再生計画ですと、弁済期間中(3~5年)に60万円(=300万円×20%)を分割して弁済し、弁済期間満了時に残額の240万円を一括して弁済することになります。

上記以外の非減免債権については、弁済期間中は弁済せず、弁済期間満了時に全額を一括して弁済することになります。