不動産を所有したままでの同時廃止申立て

1 所有する不動産に住宅ローンを被担保債権とする抵当権が設定されている等の場合,不動産に設定されている担保権の被担保債権額が不動産の価値を一定程度上回るときには,不動産を所有したままであっても,同時廃止の申立てが認められる場合があります。

2 被担保債権額がどの程度,不動産の価値を上回れば,不動産が無価値とみなされて,同時廃止が認められるかは,それぞれの地方裁判所ごとに運用が異なります。

3 名古屋地方裁判所の運用

固定資産評価証明書を提出し,建物の担保する被担保債権額が固定資産税評価額の1.5倍以上である場合の建物,及び土地の担保する被担保債権額が固定資産税評価額の2倍以上である場合の土地は,無価値とみなすことができます。

固定資産評価証明書を用いた上記基準では,不動産が無価値とみなされないときには,次の①~③のいずれかの条件を満たす場合に無価値とみなすことができます。

① 近隣不動産業者2名の査定書の提出

当該不動産が担保する債権額が当該不動産の時価(査定額の平均額)の1.5倍以上である場合。

② 不動産執行手続中の売却基準価額を証する書面の場合

当該不動産が担保する債権額が当該不動産の売却基準価額の2倍以上である場合。

③ 不動産鑑定士作成の鑑定評価書の提出

当該不動産が担保する債権額が当該不動産の時価の1.2倍以上である場合。

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離婚慰謝料の支払いと破産

離婚慰謝料を支払っている場合は,その慰謝料支払債務は,破産することによって免責がなされるのでしょうか。

 

自己破産したとしても免責がなされない債権を非免責債権といい,どのような債権が非免責債権であるかは法律で定められています(破産法253条1項)。

そして,「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求」や「破産者が故意又は重過失により人の生命や身体を害する不法行為」は,非免責債権であると定められています(同項2号,3号)。

 

それでは,慰謝料請求権は,「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求」や「破産者が故意又は重過失により人の生命や身体を害する不法行為」に該当するのでしょうか。

 

まず,「悪意で加えた不法行為」の「悪意」とは,一般に「積極的な害意」をいうと考えられています。

どのような場合が「積極的な害意」に当たるかは,事案に応じて異なると言うべきであり,最終的には訴訟しないと分からない場合があります。

一般的には,浮気を原因とする離婚の慰謝料という事情のみでは,「積極的な害意」とは判断されないことが多いようです。

 

次に,「破産者が故意又は重過失により人の生命や身体を害する不法行為」ですが,これは,たとえば暴行等によって身体を傷付けた場合が該当する可能性があります。

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自己破産する場合の郵便物の取り扱い

1 郵便物の取り扱い

自己破産をすると,郵便物が届かなくなるということを聞いたことがある方もいらっしゃるかと思います。

自己破産する場合の郵便物については,同時廃止事件か破産管財事件かによって,異なった取り扱いがなされています。

同時廃止事件とは,破産手続開始決定と同時に手続の廃止が決定する手続きで,破産管財事件とは,破産管財人(申立代理人とは別の弁護士)が選任されて,破産者の財産や免責の可否についての調査がなされる手続きです。

2 破産管財事件の場合

⑴ 郵便物の転送嘱託

破産管財事件となった場合,裁判所は,破産管財人の職務の遂行に必要があると認めるときは,信書の送達の事業を行う者に対し,郵便物を破産管財人へと転送する旨の嘱託をすることができます(破産法81条1項)。

破産管財人は,破産者にあてた郵便物を受け取ったときは,これを開いて見ることができます(破産法82条1項)。

これらの定めは,破産者の憲法上の権利である通信の秘密(憲法21条2項)を制約するものですが,破産財団に属すべき財産の発見,破産者による財産の隠匿や散逸の監視のために必要かつ有益であることから認められています。

原則として全件の郵便物について,破産管財人への転送嘱託をするというケースが多いです。

破産管財人へと転送されるのは破産者の郵便物のみで,同居している家族宛ての郵便物は転送されません。

⑵ 破産者への返還

破産者は,破産管財人に対し,破産管財人が受け取った郵便物の閲覧や当該郵便物で破産財団に関係しないものの交付を求めることができます(破産法82条2項)。

破産財団に関係しないことが判明した郵便物は,通常,ただちに破産者に返還され,返還の方法としては,破産者本人が破産管財人の事務所に取りに行く,破産管財人から破産者に郵送で返還される,申立代理人を通じて返還されるなどがあります。

郵送で返還する場合,再度の転送防止のために破産管財人発送である旨を封筒に朱筆して発送するのが通常であり,これによって同居の家族に自己破産手続中であることを知られるおそれがあります。

破産手続開始直後の破産管財人との面談の際に,返還方法について打ち合わせ,ご自身の要望を伝えるのがよいかと思われます。

⑶ 転送嘱託の期限

裁判所が転送嘱託をできるのは破産手続中のみですが,裁判所は,破産手続が終了する前でも,転送嘱託について,1回目の財産状況報告集会まで等一定の期限を定めることができます。

3 同時廃止事件の場合

同時廃止事件の場合は,破産手続開始決定後においても,郵便物は今までどおり破産者のもとに郵送されます。

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個人再生で計画どおり支払えないとき

1 個人再生で計画どおり支払えないとき

個人再生手続きにおいて,再生計画の認可決定が確定した後に,再生計画どおりに支払うことができなくなってしまうことがありえます。

再生計画は,原則として3年という長期にわたる支払の計画ですので,支払を続けていく中では,給料が減少する,突然大きな出費が必要となる等といった事情のために,やむを得ず計画どおりの支払をすることができないということも考えられます。

そのような場合,どうすればよいのでしょうか。

民事再生法は,以下のような制度を定めています。

2 再生計画の変更

個人再生においては,再生計画認可の決定があった後やむを得ない事由で再生計画を遂行することが著しく困難となったときは,再生計画で定められた債務の期限を延長することができ,この場合においては,変更後の債務の最終の期限は,再生計画で定められた債務の最終の期限から2年を超えない範囲で定める必要があります(民事再生法234条1項,244条)。

たとえば,3年かけて圧縮した債務額を支払うという再生計画の認可決定があり,それに従って支払を続けていたものの,病気で大きな支出が発生した等のやむを得ない事由によって,再生計画どおりの支払が到底出来なくなったときには,2年の期限の延長が可能となります。

3 ハードシップ免責

また,再生計画を遂行することが極めて困難である場合は,次の条件のもとで,裁判所は免責の決定をすることができ,これによって債務者は債務を支払う義務を免れます(民事再生法235条)。

⑴ 再生計画を遂行することが極めて困難となったのは,債務者の責めに帰することができない事由によること

⑵ 再生計画で定められた債務の4分の3以上の額の返済を終えていること

⑶ 再生計画の認可決定時に破産した場合の配当総額以上の返済をし終えていること

⑷ 再生計画の変更をすることが極めて困難であること

4 上述の制度を使えないとき

再生計画の変更もハードシップ免責も,一定の条件を充たさないと利用することができない制度です。

したがって,どちらの制度も利用することができないという事態が生じる可能性があります。

このような場合には,自己破産手続きへと移行するべきです。

もっとも,給与所得者等再生における再生計画が遂行されていた場合には,当該再生計画認可の決定が確定した日から7年以内の自己破産の申立ては,免責不許可事由に該当し(破産法252条1項10号ハ),当該期間内に破産申立てをすると免責が許可されない可能性が高いです。

 

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勾留に代わる観護措置

1 少年法の目的・理念

少年法1条では,「この法律は,少年の健全な育成を期し,非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに,少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。」と定められています。

このように,少年法は,目的として「少年の健全な育成」を明確化し,非行少年に対して,再非行を防止するため,教育的・福祉的処遇を行うことを原則としており,このような少年法の理念は保護主義と呼ばれています。

 

2 勾留に代わる観護措置

少年の被疑事件における制度も,少年法の理念に沿うよう設計されています。

少年に配慮した形で,成人と異なる制度設計がなされている例の一つとして,勾留に代わる観護措置があります。

成人の場合,逮捕されると,その後は勾留へと手続が進みます。

しかし,少年の被疑事件においては,検察官は,勾留の請求に代えて観護措置を請求することができますし(少年法43条1項本文,17条1項),やむを得ない場合でなければ,勾留を請求することができないと定められています(少年法43条3項)。

名古屋でも少年鑑別所があり,観護措置が取られれば,原則として少年鑑別所へと収容されます。

このように法律のたてつけとしては,少年に対する勾留は例外的な措置とされていますが,実際には少年鑑別所の収容能力の関係から収容できない等の理由で「やむを得ない場合」に当たるとして,成人同様の勾留がなされる例が圧倒的に多いです。

勾留に代わる観護措置では,期間は10日間であり,更新は認められておりません。

 

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クレジットカードのショッピング機能と過払い金返還請求

1 クレジットカードのショッピングでは過払い金は発生しません

過払い金返還請求については,よくテレビコマーシャル等でご存知かと思います。

そして,自分も長らくクレジットカードを利用していることから,過払い金が発生して業者から払い過ぎた分を取り戻せるかもしれないと考えている方もいらっしゃるかと思います。

クレジットカードのキャッシング機能を利用している方であれば,利率や取引期間によって過払い金が発生している可能性はあります。

しかしながら,クレジットカードでもショッピングの場合には,過払い金は発生いたしません。

2 ショッピングでは過払い金が発生しない理由

⑴ まず,過払い金は,利息制限法で定めた範囲内を超える利率での貸金契約に基づいて返済を行った場合に発生します。

たとえば,120万円の借入をした際には,利息制限法の上限では利率は18%ですので,これを超える利率を前提として返済をしたときには,払い過ぎとなります。

⑵ ところで,クレジットカードのショッピング機能は,法的には借入にあたりません。

ショッピングにおいては,クレジットカード会社と金銭消費貸借契約を結んでいるわけではなく,クレジットカード会社が商品の代金を一時的に立て替えているものです。

ショッピングは,立替払いですので,ショッピングの際に支払っている手数料は,利息にはあたらないと解されています。

したがって,ショッピングは借入にはあたらず,利息制限法の適用がないため,過払い金は発生しないのです。

 

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滞納税金の支払いと偏頗弁済

1 偏頗弁済

自己破産をする際に気をつけなければいけない点として,偏頗弁済(,特定の債権者に対して債務を弁済すること)が挙げられます。

すなわち,少なくとも破産の直前期以降は,特定の債権者に対して債務を弁済してはいけないのが原則となります。

たとえば,他の借入れについては返済することを止める一方で,親族からの借入れについては優先的に返済することは許されません。

このようなことをすると,破産手続開始決定後に破産管財人から否認されたり,場合によっては免責が認められなくなったりする可能性があります。

2 税金を滞納している場合

滞納している税金がある場合は,「租税等の請求権」として非免責債権にあたり(破産法253条),自己破産をしても免責されませんので,税金を支払う必要があります。

それでは,税金についても,自己破産の直前に支払ってはいけないのでしょうか。

この点について,破産法163条3項は,「(偏頗弁済の否認を定めた162条1項の規定は,)破産者が租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)又は罰金等の請求権につき,その徴収の権限を有する者に対してした担保の供与又は債務の消滅に関する行為には,適用しない。」と規定しており,租税等の請求権における偏頗弁済の規定の例外が定められています。

したがって,滞納している税金を支払っても,偏頗行為にはあたりません。

なお,破産法でいう「租税等の請求権」とは,国税,地方税,国民健康保険,国民年金,厚生年金,保育料,下水道使用料などをいいます。

3 税金を立て替えてもらっていた場合

他人(勤務している会社を含みます。)が税金を立て替えている場合,立て替えてもらった他人に対しては,自己破産の直前に支払ってはいけません。

本人としては,実質的に税金分のお金という感覚かもしれませんが,あくまで債権者は立替をした他人であり,立替金は租税等の請求権には当たらず,偏頗弁済の例外規定が適用されないからです。

 

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国民健康保険税の納税義務者

国民健康保険税とは,国民健康保険を行う市町村が,国民健康保険に要する費用に充てることを目的とした税金です。

国民健康保険税を納税するのは,被保険者の属する世帯の世帯主です(国民健康保険法76条1項但書,地方税法703条の4第1項)。

したがって,世帯主が夫の場合,妻や子が国民健康保険税を納付していないときには,世帯主である夫が国民健康保険税を納付する必要があります。

妻や子に自分の分の国民健康保険税の納付を任せていたところ,実際は納付されておらず,納税義務者である世帯主が多額の滞納となっていたというケースもありますので,注意が必要です。

住宅ローン債権が譲渡されたとき

1 住宅資金貸付債権

個人再生では,再生計画に住宅資金特別条項を定めることによって,住宅ローン以外の債権を圧縮しつつ,住宅を残すことが可能です。

住宅ローンは,法律上は「住宅資金貸付債権」という言葉で示されています。

住宅資金貸付債権は,住宅の建設若しくは購入に必要な資金(住宅の用に供する土地又は借地権の取得に必要な資金を含む。)又は住宅の改良に必要な資金の貸付けに係る分割払いの定めのある再生債権であって,当該債権又は当該債権に係る債務の保証人(保証を業とする者に限る。)の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものと定められています(民事再生法196条3号)。

もっとも,住宅資金貸付債権であっても住宅資金特別条項を利用できない例外が存在します。

すなわち,住宅資金貸付債権が法定代位により取得されたときは,再生計画に住宅資金特別条項を定めることはできません(民事再生法198条1項本文括弧書)。

法定代位とは,弁済をするについて正当な利益を有する者が,弁済によって当然に債権者に代位することをいいます(民法500条)。

弁済をするについて正当な利益を有する者としては,連帯債務者や保証人が代表的です。

 

2 住宅ローン債権が譲渡された場合

個人再生を弁護士に依頼して受任通知が発送された後に,住宅ローン債権が別の会社に譲渡されて,住宅ローン債権者が変わることがあります。

この場合は,住宅資金特別条項を利用することができるのでしょうか。

債権譲渡は,代位弁済による債権の取得には当たらないと解されています。

そのため,住宅資金貸付債権が譲渡されても上記の例外規定に該当せず,債権譲渡の場合には住宅資金特別条項を利用できると解されており,したがって,住宅ローン債権が証券化されているような場合でも,住宅資金特別条項を定めることができると解されています。(『条解民事再生法(第2版)』928頁)。

 

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勾留に代わる観護措置

1 少年法の目的・理念

少年法1条では,「この法律は,少年の健全な育成を期し,非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに,少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。」と定められています。

このように,少年法は,目的として「少年の健全な育成」を明確化し,非行少年に対して,再非行を防止するため,教育的・福祉的処遇を行うことを原則としており,このような少年法の理念は保護主義と呼ばれています。

 

2 勾留に代わる観護措置

少年の被疑事件における制度も,少年法の理念に沿うよう設計されています。

少年に配慮した形で,成人と異なる制度設計がなされている例の一つとして,勾留に代わる観護措置があります。

成人の場合,逮捕されると,その後は勾留へと手続が進みます。

しかし,少年の被疑事件においては,検察官は,勾留の請求に代えて観護措置を請求することができますし(少年法43条1項本文,17条1項),やむを得ない場合でなければ,勾留を請求することができないと定められています(少年法43条3項)。

このように法律のたてつけとしては,少年に対する勾留は例外的な措置とされていますが,実際には少年鑑別所の収容能力の関係から収容できない等の理由で「やむを得ない場合」に当たるとして,成人同様の勾留がなされる例が圧倒的に多いです。

勾留に代わる観護措置では,期間は10日間であり,更新は認められておりません。

 

3 家裁送致後

家裁送致とは,捜査書類が家庭裁判所に送られることをいいます。

勾留されている少年が家裁送致される場合は,家裁送致日に身柄ごと家庭裁判所に送致され,その後,場合により,少年鑑別所に収容されることになります。

一方で,勾留に代わる観護措置を受けている少年は,家裁送致前から少年鑑別所に収容されていますので,家裁送致日には記録のみが家庭裁判所に送致され,少年の身柄は少年鑑別所から離れることはありません。

 

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収入が不安定な人の個人再生の利用

1 個人再生の利用適格

小規模個人再生手続きを利用するには,申立人が「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある」必要があります(民事再生法221条1項)。

「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある」とはいえないことが明らかの場合には,個人再生手続開始申立ては棄却されてしまいます。

では,どのような人が「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある」人であり,どのような人がそうでないのでしょうか。

ここでは,派遣社員,アルバイト,主婦,無職の人を例に説明いたします。

2 派遣社員

派遣社員の場合は,派遣先の雇用期間が短期間に限定されている場合は,将来において継続的に収入を得ることができるかについて不安がありますが,契約延長や新たな派遣先の紹介を得る見込みを説明することで,個人再生を利用できる可能性があります。

3 アルバイト

これまで短期間のアルバイトを繰り返しているのみの場合であっても,現在働いており,一定額以上を返済できる余裕があれば,将来の雇用継続が見込めないことが明らかでない限りは,利用適格がないことが明らかであるとはいえないと解されています。

4 主婦

主婦の場合は,現在アルバイトやパートで収入を得ているかどうかで判断は異なってきます。

無職の場合は,利用適格がないことが明らかですので,個人再生手続きを利用することはできません。

一方で,アルバイトやパートに出ることで,一定額以上の収入を得ることができるようになれば,将来において継続的に収入を得ることができないことが明らかとはいえないとされる可能性があります。

5 無職

無職の場合は,基本的には利用適格がないことが明らかですので,個人再生手続きを利用することはできません。

しかし,現在たまたま失業中であり,既に内定を得ているなどの事情のため,近いうちに再就職することが確実である場合には,継続的な収入を得る見込みがないことが明らかでないとして,個人再生手続きを利用できる可能性があるという考え方があります。

 

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個人再生手続きが認可されない場合その2

前回の記事の続きです。

 

5 計画弁済総額が一定の額を下回っているとき(民事再生法231条2項3号,同項4号,241条2項5号)

6 再生債務者が債権者一覧表に住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出する意思がある旨の記載をした場合において,再生計画に住宅資金特別条項の定めがないとき(民事再生法231条2項5号)

7 再生計画が住宅資金特別条項を定めた場合で,債務者が住宅の所有権又は住宅の用に供されている土地を住宅の所有のために使用する権利を失うこととなると見込まれるとき(民事再生法231条1項,241条2項3号,202条1項3号)

第3 小規模個人再生特有の不認可事由

1 再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき(民事再生法231条1項,174条2項3号)

2 再生債務者が将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがないとき(民事再生法231条2項1号)

第4 給与所得者等再生特有の不認可事由

1 給与所得者等再生における再生計画が遂行された場合に,再生計画の認可決定確定の日から7年以内に給与所得者等再生を求める申述がなされたこと(民事再生法241条2項6号,239条5項2号イ)

2 個人再生において再生計画を遂行することが極めて困難となった場合の免責決定が確定した場合に,当該免責決定に係る再生計画の認可決定確定の日から7年以内に給与所得者等再生を求める申述がなされたこと(民事再生法241条2項6号,239条5項2号ロ)

3 自己破産手続における場合に,再生計画の認可決定確定の日から7年以内に給与所得者等再生を求める申述がなされたこと(民事再生法241条2項6号,239条5項2号ハ)

第5 さいごに

前回の記事から,個人再生手続きが認可されない場合について説明してきました。

弁護士としては,このような不認可事由が判明し次第,個人再生手続きがとれないことを依頼者の方に説明しなければなりません。

その場合には,自己破産など方針変更を検討せざるを得ないでしょう。

 

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個人再生手続が認可されない場合その1

第1 個人再生計画の不認可

個人再生手続において裁判所から再生計画の認可決定を得れば,債務を圧縮したうえで,原則3年での分割返済をすることが可能です。

しかし,再生手続開始決定が下されたからといって必ずしも再生計画が認可されるとは限りません。

民事再生法では個人再生手続における再生計画の不認可事由を定めており,不認可事由に該当する場合には再生計画不認可の決定がなされます。

個人再生手続には,小規模個人再生と給与所得者等再生という2つの手続があり,次のとおり2つの手続に共通する不認可事由と各手続に特有の不認可事由が存在します。

第2 個人再生に共通する不認可事由

1 再生手続又は再生計画が法律の規定に違反し,かつ,その不備を補正することができないものであるとき(民事再生法231条1項,241条2項1号,174条2項1号)

この場合には再生計画不認可決定がなされますが,例外として,再生手 続が法律の規程に違反する場合において,当該違反の程度が軽微であるときは,不認可事由には該当しません。

2 再生計画が遂行される見込みがないとき(民事再生法231条1項,241条2項1号,174条2項2号)

再生計画が遂行される見込みがないときも不認可事由にあたります。

具体的には,債務者の毎月の収入からすれば返済できる見込みがない再生計画では,不認可の決定がされます。

3 再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき(民事再生法231条1項,174条2項4号,241条2項2号)

再生債権者の一般の利益とは,破産手続がなされたならば得られたであろう利益のことをいいます。

破産手続では原則として債務者の全ての財産が換価されて配当に充てられるので,債務者の財産の合計額よりも低い額しか返済しないような再生計画については,不認可決定がなされます。

4 債権の総額が5000万を超えるとき(民事再生法231条2項2号, 241条2項5号)

再生債権の総額が5000万円を超えるときは,不認可事由となります。

ただし,ここでの再生債権の総額について,住宅資金貸付債権の額,別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権の額等が除かれています。

 

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信用情報機関

1 信用情報機関とは

信用情報機関とは,そこに加盟する会員に対し,加盟会員が加盟会員の顧客と与信取引をする際の判断のための資料として,個人の信用情報を提供する機関のことをいいます。

信用情報とは,年収や勤務先等の情報やクレジットカード・ローン等の申し込みや契約,支払いに関する情報のことをいいます

信用情報機関の加盟会員は,信用情報機関から信用情報を取得することで,ローンやクレジットカードといった与信取引の審査の判断に役立てることとなり,このような信用情報機関からの情報提供によって,加盟会員は消費者の返済能力に応じた信用供与をすることが可能となり,過剰な貸し付けを防ぐ可能性が高まるということが謳われています。

 

2 種類

代表的な信用情報機関は,株式会社シー・アイ・シー(通称「CIC」),株式会社日本信用情報機構(通称「JICC」),全国銀行個人情報信用センター(通称「KSC」)の3つであり,複数の信用情報機関に加盟する金融機関や貸金業者も多いです。

CICは,クレジット会社の共同出資によって設立された信用情報機関であり,主な会員は,クレジットカード会社,信販会社等です。

JICCは,国内で唯一全業態を網羅する国内最大の信用情報機関であり,主な会員は,消費者金融,信販会社等です。

KSCは,一般社団法人全国銀行協会が設置した信用情報機関であり,主な会員は,銀行,信用金庫,農協等です。

これらの信用情報機関は,提携して情報交流を実施しており,加盟会員は,各機関に登録されている信用情報のうち,延滞に関する情報等を利用することができます。

 

3 信用情報の開示方法

自分がどこかから借入れをしていたこと自体は記憶にあるものの,それが具体的にどこなのか,また,いくら借りていたか思い出せない場合,自分の信用情報を取寄せることで,それらの情報が判明することがあります。

自分の信用情報を取寄せる方法としては,パソコン・スマートフォン・郵送・窓口での開示等の方法があります。

詳細な手続きは,各信用情報機関のホームページを参照されるのがよいでしょう。

 

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共有名義人が自己破産した場合

自己破産をする方が他の人と共有する財産を持っている場合,手続きはどのようになるのでしょうか。

たとえば,兄弟の共有名義で住宅を2分の1ずつ持っている場合に,兄が自己破産したら,住宅はどうなるでしょうか。ここでは住宅ローンはない(既に完済している)場合を考えてみます。

まず,破産手続において換価の対象となるのは,あくまで破産者の財産ですから,競売にかけられるのは兄の共有持分の2分の1のみで,住宅の全部が競売にかけられるわけではありません。

しかしながら,競売によって兄の2分の1の共有持分が他人に落札されたときには,共有物分割請求がなされるおそれがあります。

住宅について共有物分割請求がなされた場合,物理的に分割することが困難であるため,住宅の全部について競売にかけられることになります。

それを避けるには,共有者である弟が兄の分の共有持分を買い取ることが必要となりますが,その際には,破産手続開始決定後に,破産管財人から相場価格で買い取るのが無難です。

債務整理における直接面談義務

1 概要

債務整理における直接面談義務とは,債務整理事件については,原則として,弁護士が,依頼者の方に対して直接面談して,重要事項の説明等をしなければならないという義務のことをいいます。

債務整理事件とは,簡単に言うと借金の整理に関する事件であり,そのうち直接面談義務があるのは,任意整理,個人再生,自己破産及び約定残債務のある過払い金返還請求です。

この義務は,日弁連が制定した「債務整理事件処理の規律を定める規程」第3条に規定されています。

2 経緯

以前は,大量の広告を打って,全国から多くの問い合わせを受けて,事務員などを使い,電話のみで債務整理事件を受任し,不適切な事案処理を繰り返すような弁護士が一定数いました。

このような不適切な事案処理は,違法すれすれと評価されるものではありましたが,違法とまではいえず,不適切な事案処理をする弁護士を処分することが容易ではなかったようです。

上述した「債務整理事件処理の規律を定める規程」の第1条にも,「この規程は,過払金返還請求事件を含む債務整理事件が多量に生じている状況において,債務整理事件について一部の弁護士(弁護士法人を含む。…)によって,不適切な勧誘,受任及び法律事務処理並びに不適正かつ不当な額の弁護士報酬の請求又は受領がなされているとの批判がある」と,制定の背景が述べられています。

そこで,平成23年に,債務整理事件において弁護士による直接面談義務が規定されることになりました。

3 直接面談しない弁護士に依頼したときは

しかし,未だに直接面談義務の規定を無視して,債務整理事件の処理を事務員任せにしたり,電話等のみで依頼を受けて依頼者と直接面談しなかったりして,不適切な事案処理を繰り返している弁護士等もいるようです。

そのため,債務整理を依頼する際には十分に注意する必要があります。

直接面談義務を果たさない弁護士は,事案処理が不適切であるなどの問題がある可能性が高いため,自己破産,個人再生,任意整理,残債務がある場合の過払い金返還請求などを,弁護士と直接面談せずに電話等のみで依頼してしまった方は,速やかに他の弁護士に相談するべきでしょう。

 

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自己破産で残すことができる財産

1 自己破産

自己破産がどういう制度か説明するに際して,めぼしい財産を手放す代わりに借金をゼロにする手続きであるとの説明が行われることがあります。

自己破産というと,財産を取られるというイメージをお持ちの方が多いかとは思いますが,法律上及び裁判所の運用上,ある程度の範囲の財産については換価配当の対象とはされていません。

上記の説明では,「ある程度の範囲」を超える財産を指して「めぼしい財産」という言葉を使っています。

 

2 自由財産

それでは,「ある程度の範囲の財産」や「めぼしい財産」とは,具体的にはどのような財産をいうのでしょうか。

破産手続上,換価配当の対象とならない財産のことを自由財産といい,その範囲は破産法で規定されています。

⑴ 現金

まず,99万円以下の現金が自由財産として認められています。

ここで留意すべきは,預貯金の形で持っているお金は,現金ではないという点です。

⑵ 差押禁止財産

つぎに,差押禁止財産も自由財産として認められています。

差押禁止財産は,民事執行法やその他の特別法で定められています。

具体的には,生活に欠くことができない衣服,寝具,家具,台所用品等や技術者等の業務上必要な器具類がこれにあたります。

また,生活保護受給権や失業等給付受給権等も差押禁止財産です。

⑶ 自由財産の拡張

以上が法律で定められている自由財産ですが,個々の破産者の状況によってはこれらに限らず,柔軟に自由財産の範囲を定めるのが相当な場合があります。

そこで,破産法では裁判所が自由財産の範囲を拡張することができると規定しています。

どの範囲まで拡張するかについては,破産者の状況ごとに異なりますが,各裁判所は自由財産の拡張についての原則的な運用の基準を定めていることが一般的です。

たとえば,名古屋地方裁判所では,①預貯金,②生命保険解約返戻金,③自動車,④居住用家屋の敷金債権,⑤電話加入権,⑥退職金債権については,その評価額が20万円以下であった場合には,原則として拡張相当として換価等を行わないとの運用です。

このうち,自動車の評価額については,メーカーが発表している車両本体価格が300万円以下の国産車のうち,初年度登録後7年を経過しているときは,原則として無価値とみなす運用がなされています。

外国産の自動車であったり,初年度登録から年数がそれほど経過していなかったりする場合には査定書等によって評価額を算定し,それが20万円を超えるときは,原則として換価等の対象となります。

 

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自己破産する前に一部の債権者にのみした返済

1 一部の債権者に対する返済

名古屋の弁護士の松山です。

自己破産をして免責許可決定が下りると借金の支払義務がなくなります。

そのため,親族や知人等から借入れしている場合,その債権者に迷惑をかけたくないとの思いから,一部の債権者にだけ返済をしてしまうことがあります。

しかし,全ての債務を十分に返済することのできない資力しかない状況で,一部の債権者のみに返済を行うこと(これを偏頗行為といいます。)は,返済を受けなかった債権者にとっては,返済しなかったならば破産手続で平等に分配されたであろう部分を得ることができなくなることを意味する行為です。

2 否認権

偏頗行為は,上述したような意味で債権者を害するため,破産法上,否認権行使の対象となっています。

否認権とは,破産手続開始前の一定の行為を破産手続開始後に破産財団のために失効させ,流出した財産を破産財団に回復し,また,債権者間の公平を図る制度です。

否認権の対象行為となる返済があった場合,破産手続開始決定後に,破産管財人から返済を受けた相手方に対して,返済を受けた分の返還請求がなされます。

3 偏頗行為の否認

偏頗行為の否認は,大きく二つの類型があります。

まず,破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした返済等の行為です(破産法162条1項1号)。

この場合,否認権行使の対象となるには,返済が支払不能後になされたときには,債権者が破産者の支払不能又は支払停止の事実を知っていたこと(同項1号イ),返済が破産手続開始の申立て後になされたときには,債権者が破産手続開始の申立ての事実を知っていたこと(同項1号ロ)が必要です。

次に,破産者の義務に属せず,又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって,支払不能になる前30日以内にされたものです(破産法162条1項2号)。

4 否認権の対象となる偏頗行為の具体例

破産者が自ら積極的に一部の債権者にだけ返済する場合の他,銀行口座からの自動引き落としを利用していたときや勤務先からの借入について給料から天引きされていたときで,債権者への受任通知到達後に自動引落としや天引きがあった場合にも,偏頗弁済となって否認権の対象となります。

 

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倒産手続におけるリース契約

倒産手続において,倒産した人が契約しているリース契約がどのように扱われるかについては,リース契約の種類によって異なってきます。

1 フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約

判例は,フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約について次のように述べています。

フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約は,リース期間満了時にリース物件に残存価値はないものとみて,リース業者がリース物件の取得費その他の投下資本の全額を回収できるようにリース料が算定されているものであって,その実質はユーザーに対して金融上の便宜を付与するものであるから,右リース契約においては,リース料債務は契約の成立と同時にその全額について発生し,リース料の支払いが毎月一定額によることと約定されていても,それはユーザーに対して期限の利益を与えるものにすぎず,各月のリース物件の使用と各月のリース料の支払とは対価関係に立つものではない(最高裁平成7年4月14日)。

上記判例は,会社更生事件に関するものであり,上記説示を理由として,未払のリース料債権は全額更生債権となるとしました。

また,同判例の趣旨からして残リース料は,リース目的財産を担保目的物とする更生担保権と解されています。

破産手続において,更生手続と別異に解すべき特段の事情がないため,破産手続では,リース会社は別除権を有すると解されています(伊藤眞他『条解破産法(第2版)』522頁)。

2 ノンフルペイアウト方式のファイナンス・リース契約

リース期間終了後に残存価値があるものがノンフルペイアウト方式のファイナンス・リース契約です。

リース物件の見積残存価値を控除し,その控除後の金額をリース期間に配分して全額回収できるように,リース料の総額が設定され,そのようなリース料総額がリース物件の使用の有無にかかわらずリース業者に支払われることが約定されているような場合には,リース契約時に,このような リース料債権が全額発生していると解されるため,リース料債権全額が倒産債権となります(伊藤眞他『担保・執行・倒産の現在』340頁)。

3 メンテナンス・リース契約

リース業者がリース物件の修繕・整備・保守の義務を負う形態のリース契約です。

修繕・整備・保守の義務は,リース契約締結後にリース業者が履行することで初めて代金債権が発生するものであり,当該代金債権と履行義務は対価関係に立つので,双方未履行双務契約としての性質を有します。

破産手続開始後の履行部分は,財団債権となると解されます。

 

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住宅の所有権が移転した場合の住宅資金特別条項

個人再生手続においては,住宅ローンが付されている住宅を残す方法として,住宅資金特別条項の利用があります。

住宅資金特別条項にいう「住宅」とは,「個人である再生債務者が所有し,自己の居住の用に供する建物であって,その床面積が2分の1以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されるもの」をいいます(民事再生法196条1号)。

ここでは,再生債務者が所有する建物であることが要求されているため,住宅ローンが付されている建物であっても,それが個人再生手続開始申立て時点において自己の所有でなければ,住宅資金特別条項を利用することはできません。

それでは,申立て前に建物の所有権が再生債務者に移転した場合は,住宅資金特別条項を利用することができるのでしょうか。

たとえば,建物を建てた時点では親が所有していたが,申立て前に子である再生債務者に建物の所有権が移転した場合には,住宅資金特別条項を利用することができるのかが問題となります。

条文の文言を重視し,原則として建設,購入又は改良の時点で再生債務者の所有であることが必要であるとする見解があります。

他方で,住宅ローンの債務者が住宅を手放さずに経済的再生を果たすことができるようにするという住宅資金貸付債権に関する特則の趣旨からして,対象建物が再生債務者の生活の本拠と認められる限り,広く住宅資金特別条項の利用を認めるべきであり,申立ての時点で建物が再生債務者の所有となっていれば,住宅資金特別条項の利用が可能であるとする見解もあります。

ただし,前者の見解においても①申立ての時点において,対象建物の所有権が再生債務者にあり,②当初から自己の居住の用に供する目的で建物の建築等をし,そのための資金の借入れを行っているという特段の事情がある場合においては,住宅資金特別条項の利用ができるとしており,当初から自分で住む目的で住宅ローンを組んでいる場合にはどちらの見解も住宅資金特別条項を利用できる点では一致しています。