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契約条項における「ものとする」について

  • 文責:弁護士 上田佳孝
  • 最終更新日:2019年4月26日

弁護士業務の中で,契約書のチェックをしていると,「…ものとする。」と記載している条項を見かけます。

契約書によっては,「…金10万円を支払う」との違いを意識せず,「…金10万円を支払うものとする」と記載していることもあります。

しかし,「ものとする」の意味について,意識して用いている場合は少ないのではないかと思います。

そこで,「ものとする」の意味について,調べてみました。

法令用語としての「ものとする」は,以下のとおりと解説されています(「する」「とする」「ものとする」「しなければならない」(衆議院法制局法制執務研究会 法学教室No.356 61ページ))

「ものとする」は,まず,①一定の義務付けを,後述する「しなければならない」よりも弱いニュアンスを持たせて規定しようとするとき,とりわけ行政機関に対して義務付けをしようとする場合に用いられます。

そのほか,②物事の原則を示そうとするとき,③解釈上の疑義を避けるために,当然のことを念のため規定するものであることを表そうとするとき,更には,④ある事項に関する規定を他の類似する事項につてい当てはめる,いわゆる準用規定における読み替え規定においても用いられます。

④を除くと,①弱いニュアンスを持たせたり,②物事の原則を示したり,③当然のことを念のため規定したりするときに用いられることがわかります。

上記は,法令用語としての解釈ですが,同じことは契約書においても当てはまります。

冒頭であげた,「…金10万円を支払う」と,「…金10万円を支払うものとする」について,「…金10万円を支払う」は,端的に義務を述べていますが,「…金10万円を支払うものとする」は,上記①のとおり,弱いニュアンスとなるか,②物事の原則を示すこととなります。

では,毎月10万円を支払う契約の場合,この二つのどちらが適切でしょうか。

契約の内容により,考え方は分かれますが,一般論としては,弱いニュアンスだったり,物事の原則を定める条項ではなく,「…金10万円を支払う」と端的に義務として定めたほうが良いといえます。

逆に,誠実協議条項ではどうでしょうか。

「誠実に協議の上,これを解決する。」

「誠実に協議の上,これを解決するものとする。」

上記の例では,絶対に誠実に協議をして解決しなければならないという趣旨ではなく,できるだけ話し合いで解決しましょうという趣旨で条項が設けられているといえます。

この場合は,上記②物事の原則を示す条項といえるため,「誠実に協議の上,これを解決するものとする」との定め方のほうが良いといえます。

このように考えていくと,契約書では,義務を明確にしたい場合には,「…ものとする」を用いず端的に規定し,条項が抽象的だったり,原則を定める場合には,「…ものとする」を用いるのが良いといえるでしょう。

きちんと契約書を作成するときは,弁護士は一つ一つの表現に非常にこだわりますが,そのなかでも「…ものとする」は,きわめて気になる部分です。

ここからは余談となりますが,現在,インターネット上に,契約書のひな形が数多く見つかります。

この記事をご覧いただいた方の中にも,インターネット上の契約書のひな形を利用したことがある方はいらっしゃると思います。

しかし,法律の専門家でなければ,そのひな形が「良い」ひな形であるかの判断はつきづらいと思います。

そのときは,この記事を思い出し,「…ものとする」の使い方に着目してみてください。

明確に義務を定めるべき条項で「…ものとする」が用いられているのであれば,その契約書は「良い」ひな形ではないかもしれません。

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