生前の相続放棄
1 生前の相続放棄はできない
よくある質問として、「被相続人に借金があり、生前に相続放棄をしたいのですが、可能ですか」というものがあります。
結論から申し上げますと、生前の相続放棄はすることができません。
理由として、相続放棄はあくまでも相続が発生した後の制度であり、生前の相続放棄の制度がないためです。
そのため、仮に、被相続人の生前に「相続放棄をします」と念書や合意書を作成したとしても、相続放棄の効果は発生しませんので、注意が必要です。
2 生前に行えること
それでは、被相続人に借金がある場合でも生前のうちから相続放棄ができないとなると、何か別の対処法はあるのでしょうか。
考えられる方法として、被相続人に生前に自己破産や任意整理等をしていただき、借金を整理してもらう方法(債務整理といいます)があります。
自己破産とは、裁判所の手続きを通じ、借金を免除してもらう制度です。
任意整理とは、裁判所の手続きを介さず、債権者(金融機関等の借主)と交渉し、借金を減額してもらうか、支払いを猶予してもらうこと等を行う手続きのことを言います。
もっとも、債務整理については、被相続人が自発的に行う必要があるため、被相続人が病気等で自発的に行うことができない場合、相続人が取り得る方法はほとんどありません。
3 相続開始後の対応
このように、被相続人のご存命中に相続人が取り得る方法はほとんどないため、借金を引き継ぎたくない相続人としては、被相続人が亡くなった後に、確実に相続放棄を行う必要があります。
まず、相続放棄の手続きは、裁判所を通して行いますので、必ず、裁判所に相続放棄の申立てをしてください。
よくある失敗例として、「借金は相続人の一人がすべて引き継ぐ」や「財産を取得しない代わりに借金も負わない」旨の文言を遺産分割協議書に記載しただけで、裁判所での相続放棄の手続きを行わない方がいます。
しかし、遺産分割協議書にいくら「借金を負わない」と記載したとしても、債権者は、相続人に対し、借金を支払うよう請求することができます。
そのため、相続放棄をされる場合は、必ず裁判所に対し、相続放棄の申立てを行いましょう。
次に、相続放棄は、被相続人が亡くなったことを知ってから3か月以内に行わなければならず、この期限を過ぎてしまうと、原則、相続放棄ができなくなります。
また、相続放棄は、基本的に一回勝負であるため、一度失敗してしまうと、基本的に相続放棄ができなくなります。
このように、相続放棄は、3か月の期限内に、必ず裁判所を通して手続きを行ってください。
相続放棄を自分一人で行うことが心配な方は、弁護士に依頼して手続きを任せることもできますので、一人で悩まず、まず一度、弁護士にご相談されることをおすすめします。